• 2021.03.11
  • 国際相続

イギリスにおける遺産相続~日本人がイギリスに有する財産の承継

外国で作成された遺言はイギリス国内でも有効ですか?

有効です。 1963年の遺言法の規定に従い、外国で作成された遺言は、遺言が作成された国の国内法の要件に従って作成されている場合、または遺言の作成時または被相続人の死亡時における被相続人の国籍または住所地である法律の要件に従って作成されている場合には、イングランドおよびウェールズにおいて有効なものとしてみなされる場合があります。

原則として、遺言の有効性を確認するためには、遺言についてイギリスの遺言検認の手続(English Grant of Probate)を申請する必要があります。この記事では、遺言のプロベイト手続について説明します。

イギリスの資産に対する相続税

日本人でイギリスに居住している場合は、世界中に有する資産に相続税を支払う必要があります。

イギリス以外の居住者である場合、イギリスの資産にのみ相続税を支払うことになりますが、居住する国からも財産に課税される場合があります。

イギリスの標準的な相続税率は40%です。

イングランドとウェールズでは強制的な相続分はなく、イギリスで遺言を作成することにより、自身の財産を任意の人に残すことができます。

被相続人がイギリスの居住者で遺言を残さずに死亡した場合に、被相続人の財産がどのように分配され、イギリスの相続税がどのように支払われるべきかについては、遺言法により定められています。

イングランドとウェールズの遺言規則

● 配偶者、法的に承認されたパートナー、子供がいる場合:配偶者またはパートナーは、遺産と被相続人の個人の所有物の中から法定遺産と呼ばれる最初の270,000ポンドを、その価値に関係なく受け取ります。残りの半分も配偶者またはパートナーが承継し、残りは子供の間で均等に分けられます。 未税年の子供が承継する財産については18歳に達するまでは預けられます。子供が亡くなっている場合、その相続分は孫に承継されます。夫婦やカップルが別居していて、死亡時に法律的には離婚していなかったという場合でも、配偶者または法的に承認されたパートナーが相続することになります。
● 生存配偶者がいるが、子供がいない場合:この場合、配偶者またはパートナーは、最初の270,000ポンドを受け取り、残りは配偶者・パートナーと生存している親との間で半分ずつ分割されます。生存している親がいない場合、相続分は被相続人の兄弟(または姪・甥)に承継されます。これらの相続人がいない場合には、配偶者・パートナーは遺産全体を相続します。
● 生存配偶者、法的に承継されたパートナーがいない場合:遺産全体が子供または孫に分配されます。子供または孫がいない場合には、遺産は、親、兄弟(死亡している場合には甥・姪)、異父母兄弟(死亡している場合には子供)、祖父母、叔父・叔母(死亡している場合にはいとこ)、両親の異父母兄弟および異父母姉妹(死亡している場合は子供)の順番に承継されます。

イギリスの相続税

イギリスでは、相続税は、イギリスの居住者の財産と海外の居住者がイギリスに有する財産に課税されます。遺産には、不動産、現金、投資金、その他の所有物が含まれます(ただし、これらに限定されません)。 イギリスの相続税は、不動産の正味価格に加え、被相続人が死亡する前の7年間の間になされた遺贈に対して課されます。

遺言がない場合は財産管理人、遺言がある場合は遺言執行者が相続税を納めます。したがって、相続人は自らイギリスの相続税を支払うことはありません。ただし、相続した財産の売却から利益を得た場合には、所得税や譲渡所得税などその他の税を課されることがあります。

相続税率

イギリスの標準的な相続税率は40%です。イギリス国民と外国人居住者、およびイギリスに資産を持つ非居住者の場合、相続税率と優遇措置(免除)は同様の制度になっています。イギリスでは、相続税の課税対象となる不動産は4〜5%ほどです。これは、相続税の減税や、不動産が非課税となる場合があるためです。

●遺産の価格が325,000ポンド未満の場合、通常税金はかかりません。この非課税基準はすべての規模の財産に適用されるため、40%の税率はこの金額を超える分にのみ適用されます。
●配偶者、慈善団体、アマチュアスポーツクラブは相続税が免除されます。
●被相続人が死亡する7年前までの間に生前贈与を受けた場合、イギリスの相続税は免除されます。
●一部の事業資産には50〜100%の税額控除があります。
●遺産のうち少なくとも10%を慈善団体に寄付すると、遺産にかかる税率を36%に減じることができます。
●メインの家が子供または孫に相続される場合、この遺産の非課税基準額は最大200万ポンドになります。

遺産の規模や価値に関係なく、イギリスの税務当局であるHMRCに報告する必要があります。

非居住者の場合、相続税の申告の際には、相続税フォームIHT 401を使用する必要があります。遺産の額が325,000ポンドの閾値を下回るなどして相続税の支払いがない場合には、フォームIHT 205を使用する必要があります。

イギリスの贈与税

被相続人の死亡前7年の間に行われた贈与にはイギリスの相続税が課されますが、贈与が死亡の3〜7年前に行われた場合で、325,000ポンド以上の場合は課税税率が減じられることがあります。

贈与は、どの遺産でもすることができ、また財産が譲渡されることにより財産の価値が失われる場合にも贈与となります。たとえば、被相続人が子供に財産を実際の価値よりも低い金額で売却した場合、価値の差は贈与となります。

イギリスの相続税率は、死亡から3年以内の贈与に対しては、財産の全価額の40%になります。被相続人の死亡から4〜7年以内に行われた贈与には贈与税がかかります。贈与税率の概要は以下のとおりです。

●3年未満:40%
●3〜4年:32%
●4〜5年:24%
●5〜6年:16%
●6〜7年:8%
●7年以上:0%

片務的税額控除

日本はイギリスと二重課税協定を結んでいません。財産の譲渡に相続税のほか、イギリスが協定を結んでいない他の国でも同様の税が課せられる場合、イギリス国外の財産に関して、片務的税額控除条項(Unilateral Relief provisions)に基づいて、減税を受けることができる場合があります。
HMRCは、相続税に対して、ある国で相続された財産にその国が課した税金を控除します。
国際法上の一般的な見解としては、不動産およびその他の動産資産は、所有者の死亡時にそれらが所在する国の相続税制度の対象となります。

イギリスの贈与税および相続税の支払い

HMRCの規則では、相続税は被相続人の死亡後6か月以内に遺言執行者が支払う必要があります。この期限が過ぎると、HMRCから利息が請求されます。
相続税を支払うには、納付整理番号が必要です。納税整理番号があれば、自分自身の銀行口座、または被相続人と共同で保持していた共同銀行口座から税金を支払うことができます。

イギリスにおける遺産を評価する手続:検認(プロベイト)

イギリスの居住者が死亡した場合、相続人は遺産を扱う法的権利を申請しなければなりません。このプロセスは、検認(プロベイト)の申請と呼ばれます。被相続人が遺言を残した場合、検認証書(Grant of probate)が与えられます。遺言がない場合、相続人は遺産管理状(Letter of administration)を受け取ります。ほとんどの場合、オンラインで申請できます。必要に応じて、遺言書、任意の遺言補足書、出生証明書、死亡証明書、結婚証明書、パートナーシップ証明書などの書類を提出する必要があります。

プロベイトが必要ない場合:
●被相続人が共同所有の土地、財産、株、または現金を持っていた場合:生存している所有者に自動的に譲渡されます。
●被相続人が貯蓄または割増金付き債券しか有していない場合

銀行や住宅ローン会社などの各資産の所有者に連絡して、財産を相続するためにプロベイトが必要かどうかを確認することが重要です。組織体ごとにルールが異なる場合があるためです。

プロベイトの申請時に、不動産の評価額の提出を求められます。これには2つの側面があります。
1.被相続人が口座を持っていた銀行、公益事業者およびその他の機関に連絡し、財産に関する公式見解を出してもらいます。
2.被相続人が死亡前に所有していた家、宝石、未払金など、他の所持品を評価することも重要です。債務も計算しなければなりません。これにより、遺産に適用されるイギリスの相続税を計算することができます。

財産を評価するために会計士を雇う必要はありませんが(これらについては自分たちで直接HMRCに提出できるからです)、さまざまな種類の財産が関係する場合、特に一部が海外にある場合には、専門家を雇うことをお勧めします。したがって、被相続人が日本に居住している日本人またはイギリスに居住している日本人である場合には、プロベイト申請を円滑なものにするために専門家に確認してもらう必要があります。

不動産の評価には6〜9か月かかる場合があり、大規模な不動産の場合はさらに期間が長くなる場合があります。したがって、海外またはイギリスに居住し、イギリスに資産を保有する日本人は、遺言書の作成時点で財産を整理して、相続人への遺産の円滑な承継を確実にすることができます。

栗林総合法律事務所は、国境を越えた法律を専門とする法律事務所であり、国際相続の問題でお困りの皆様に対して総合的な法律相談を行っております。詳しくは当事務所までお問い合わせください。

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当事務所が提供できるサービス

当事務所では、相続人の範囲等に関する弁護士の法律意見書(Affidavit)の作成や、戸籍謄本等の必要書類の収集および英訳、大使館や外務省における認証手続など、現地の弁護士と連携を取りながら国際相続に関する手続全般のサポートを行うことができます。

国際相続でお困りの際は、TEL:03-5357-1750(受付時間9:00~18:00)にお電話いただくか、メールフォーム(「https://kslaw.jp/contact/」)にて、お気軽にお問い合わせ下さい。

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