• 2020.09.02
  • 訴訟・紛争解決

不動産への強制競売手続き

強制競売の申立て

不動産執行の申立ては、書面によって行います。競売手続については、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む。)が管轄裁判所となりますので、当該裁判所に対して申立を行うことになります。この裁判所のことを執行裁判所といいます。不動産執行の申立書には執行文が付与された債務名義を添付する必要があります。また、強制競売申立の際には、裁判所が定めた金額の予納金及び申立手数料を納付する必要があります。不動産の買受可能額から優先債権の額や執行費用を控除した金額がゼロないしマイナスとなる場合には、債権者は弁済を受けられないことになりますが、このような場合には、無剰余執行の禁止の規定により執行手続きは取り消されることになります。現在は、不動産価格の下落により、後順位債権者が配当を受けられないことは多くありますので、このような場合の後順位債権者による競売申立については取り消されることが多くあります。多くの事例においては、執行裁判所の書記官から、申立代理人に電話があり、保証金を積んで競売を続行するか、自発的に申し立てを取り下げるかを選択するよう求められるのが通常です。多くの場合、保証金を積んでまで競売を続行する意味はありませんので、自ら取下げを行うことになりますが、サービサーが多額の債権で担保権を取得し、自ら買受を行うことを希望しているような場合には、競売の続行を選択することもあり得ると思われます。いずれにしても、無剰余執行の禁止の規定は実務でよく問題となるところですので、注意が必要になります。

一括競売の手続き

土地の抵当権者が土地に設定された抵当権を実行する際に、土地と建物を一括して売却したほうが土地の価格を高く売却できるという場合があります。その場合、その土地上に存在する建物について抵当権が設定されていなくとも、土地と建物を一括して競売を申立てることを認めた制度が一括売却の申立の制度です(民法389条)。民法389条による一括売却の申立をする場合には次の各要件を満たす必要があります。
① 抵当権設定当時、土地上に建物が存在しないこと。なお、抵当権設定当時存在した建物が再築され、再築建物に抵当権の追加設定がなされなかったときも含まれます。
② 抵当権設定後に抵当地上に建物が築造されたこと。抵当地上の建物の所有者が誰であるかを問われません。建物所有者が抵当権者に対抗することが出来る権利を有する場合は、発令後に執行異議により争うことになります。

占有移転禁止仮処分

強制競売の申立後、執行官は債務者の財産の調査を行いますが、債務者が強制執行を免れる目的で意図的に財産を他人に譲渡したり、目的物の占有を移転することがあります(明渡執行であれば、債務者以外の者が賃借建物に住んでいたりすること)。債権者としては、このような事実が明らかになった場合、または占有や所有権が第三者に移転される恐れがある場合には、裁判所に対して占有移転禁止の仮処分を申請するなどして、債務者による執行妨害を防ぐ手立てを講じておく必要があります。賃借人以外の者が住んでいる場合には当然に不法占拠ということになりますが、債権者(賃貸人)としては、不法占拠者に対して直ちに強制執行できるわけではなく、再度訴訟を起こして勝訴判決を得る必要があるなど、債権者の負担は著しく大きくなり、かつ執行手続きが遅滞してしまうことになります。債務者が占有を移転したり、財産を隠匿する可能性があると思われる場合には、占有移転禁止の仮処分、処分禁止の仮処分の申し立ては不可欠となります。

開始決定

強制執行申立がなされ、申立書の記載に不備がない場合には、裁判所は強制競売開始決定を行い、裁判所書記官は、管轄法務局に嘱託して対象となる不動産の差押登記等を行います。また、債務者に対しては、開始決定正本が送達されます。競売手続きと滞納処分手続きが競合する場合には、原則として差押先着主義が働きますので、先に差押えがなされた手続きが進行することになります。執行裁判所は、執行官に現況調査を命じ、現況調査報告書を提出させるとともに評価人に目的不動産の評価を命じ、評価書を提出させます。現況調査報告書には、土地の現況地目、建物の種類・構造など、不動産の現在の状況のほか、不動産を占有している者やその者が占有する権原を有しているか否か、買受人が引き受けなければならない権利の有無などが記載され、不動産の写真などが添付されます。評価書には、競売物件の周辺の環境や評価額が記載され、不動産の図面などが添付されます。そのほか、裁判所書記官は、目的不動産の権利関係(担保権や用益権の設定があるかどうか、賃借権が設定されているかどうかなど)を調査し、物件明細書を作成します。裁判所書記官は、物件明細書・現況調査報告書・評価書(いわゆる3点セット)の写しを執行裁判所に備え置いて一般に公開します。

入札手続きと売却許可決定

上記3点セットがそろった後、執行裁判所は、不動産の売却の基準となる価格として売却基準価額を定めます。売却基準価格から2割を引いた額が買受可能価額となります。裁判所書記官は、売却の日時、場所、売却方法を定め、売却の日時・場所等を公告します。期間入札の場合、買受希望者は、売却基準価格の2割相当額の保証金を納付し、入札期間内に、入札金額を記載した入札書と保証金の振込証明書等を執行官に提出します。開札期日において執行官が開札を行い、最も高い金額を提示した買受希望者が最高価買受申出人となり、裁判所は売却決定期日において売却許可決定を行います。

再度の入札と特別売却

期間入札によっても、買受可能価額以上の入札がない場合には、再度の入札を行い、それでも買受希望者が現れない場合には、特別売却を行います。特別売却では、特別売却期間内に裁判所の定めた金額以上での買受希望者が現れた場合に、最初に買受の申し出をした人が買受をすることが出来ることになります。入札手続及び特別売却手続を行っても買受希望者が現れない場合には、裁判所は競売手続きを取消すことができます。

代金の納付と所有権移転登記

売却許可決定が確定した時は、買受人は、裁判所書記官の定めた期限までに代金を執行裁判所に納付しなければなりません。買受人が買受申出の際に提供した保証金は、代金に充当することができますので、買受人は買受価格から保証金の金額を差し引いた金額を納付することになります。買受人は代金の納付を完了した時に不動産の所有権を取得することになります。買受人が代金を納付しないときは、売却許可決定は無効となり、買受人は保証金の返還を請求することができなくなります。買受人が代金を納付した時は、裁判所書記官は、法務局に嘱託し、買受人への所有権移転登記を行うとともに、売却により消滅する抵当権等の抹消登記を行うことになります。

配当の実施

不動産の代金など代金の納付があった場合には、執行裁判所は、配当期日において配当表を作成し、配当表にもとづいて配当を行います。配当を受けることができる債権者の範囲は、①差押債権者、②配当要求の終期までに配当要求をした債権者、③差押えの登記前に登記された仮差押えの債権者、④差押えの登記前に登記された先取特権者、質権者、抵当権者で、競売により担保権の消滅する債権者、になります。なお、①の差押債権者については、配当要求の終期までに強制競売又は一般の先取特権の実行としての競売の申立をした差押え債権者に限るとされていますので、自ら競売の申立を行う必要があります。配当は実体法に規定された優先順位に基づいて行われますので、上記の順位にある債権者がいる場合には、その債権者が100%弁済を受けるまで、後順位の債権者は配当を受けることはできません。例えば、不動産の売却代金が1億円で、第1順位の抵当権者の債権額が8000万円の場合、第2順位の抵当権者は第1順位の抵当権者に対する8000万円全額の配当がなされた後に初めて配当にあずかれることになります。同順位の債権者の間においては平等に案分して配当がなされます。なお、租税債権については、租税債権優先の原則が働きますので、担保権を有しない一般の債権者と租税債権者がいる場合には、租税債権者に対して全額の弁済を行った後、残高があって初めて一般の債権者に対して配当がなされることになります。担保権を有する債権者や仮差押えを行った債権者と、租税債権の優劣については、交付要求の時期にも関わり複雑ですので、案件ごとに詳細に検討する必要があります。

引渡命令

競売手続きの買受人としては、競売が完了した後に債務者がきちんと不動産の引渡しをしてくれるかどうかについて、もっとも不安となります。そこで、買受人は代金を納付した時から6か月以内に限り、裁判所に引渡し命令の申し立てを行うことができます。買受人からの申立に対し、執行裁判所は、債務者又は不動産の占有者に対して、不動産を買受人に引き渡す旨の命令(引渡命令)を発することになります。引渡命令は実際上かなり強力な命令ですので、不動産の買受人としては競落した不動産を占有する債務者がいる場合には、6か月の期間ないに申し立てを行うことを忘れないようにする必要があります。この意味で、この6か月の期間というのは極めて重要な意味を有することになります。通常引渡し命令が発令された場合には、債務者が任意に引越しを行うなどして不動産の引渡しを行うものと思われます。しかしながら、中には裁判所の引渡命令が出されたにもかかわらず、不動産の占有を継続して引渡しに応じない債務者や占有者もいます。この場合、買受人としては不動産の引渡しの強制執行の申立をすることになります。

不動産引き渡しの強制執行

不動産の引渡しの強制執行の申立があった場合には、執行官はあらかじめ引き渡し期限(引渡しの催告があった日から1か月を経過する日)を定めて、債務者に対して引渡しの催告を行うことになります。引渡しの催告期限までに債務者が当該不動産の引渡しをしない場合には、執行官により不動産引渡しの強制執行が取られることになります。不動産引渡しの強制執行においては、執行官は、鍵屋を使って鍵を開錠したり、建物の中にある動産類を運びだし、運送業者を使って倉庫などに移動させることができます。また、建物の中にある動産類(家具や書類など)については、売却期日を定めて買受希望者に売却することができます。犬、猫などのペットも動産として扱われますので、債務者が引き取らない場合には、売却手続きにより売却されてしまうことになります。債務者が大量の動産類を保有しているとみられる場合には、強制執行を申し立てる債権者は、事前に執行官と十分に打ち合わせを行い、運送業者の予約、鍵開錠業者の予約、ペット引き取り業者の予約、ピアノの搬出方法、搬出した動産の保管場所などを決定しておく必要があります。これらの費用は後日債務者に請求することが出来るとしても、実際上債務者からの任意に弁済を受けられることは少なく、最終的に債権者の負担となることが多いと思われます(執行官費用を含め、一軒家の場合で100万円から200万円程度)。通常運送業者などについては、執行裁判所が作成した一覧表の中から選ばれることになりますが、経験のある運送業者であれば、間取りなどを説明するだけで、あらかたの費用の見積を出してくれますので、いくつかの業者を比較し、運送賃の安い業者を選ぶということも可能です。

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