• 2020.09.01
  • 一般企業法務

株主総会の権限と招集手続き

株主総会の権限(決議事項)

株主総会でどのようなことを討議し決議することができるかは、取締役会のある会社と取締役会のない会社で異なります。取締役会の設置されていない会社については、会社の組織、運営、管理、その他会社に関する一切の事項を決議することができるとされています(会社法295条1項)。取締役会が設置されているかどうかは、実際に取締役会が開催されているかどうかではなく、定款の定めにより取締役会を設置しない会社とされているかどうかで判断されます。取締役の設置されていない会社は、昔の有限会社などで、取締役が一人しか選任されていないような会社になります。

取締役会の設置されている会社(ほとんどの会社が取締役会設置会社にあたります)については、会社法に定めた事項と法律に定めのある事項についてのみ決議することができるとされています(会社法295条2項)。決算の承認、取締役の選任、監査役の選任、配当の決議、役員の報酬の決定などがこれに当たります。また、定款変更、会社の合併、解散等会社の行方に重大な影響を与える事項についても株主総会の決議を要するとされています。株式の譲渡制限のある閉鎖会社における第三者割当増資についても総会の決議事項です。

株主総会の招集日程

株主総会には定時株主総会と臨時株主総会があります。

定時株主総会の招集日程

定時株主総会は毎年事業年度終了後3か月以内に招集されなければならないとされています(会社法296条1項)。例えば12月末決算の会社については、3月末までに定時株主総会を開催する必要があります。3月末決算の会社については、6月末までに定時株主総会を開催する必要があります。日本では3月末決算の会社が多いために、6月末に定時株主総会が集中して行われる傾向にあります。定時株主総会の開催が一番集中する日を集中日と呼ぶこともあります。どこの会社も同じ日に総会を開催する場合、複数の株式を有する株主は限られた数の総会しか出席することはできなくなります。そこで最近では、できるだけ集中日を避けて、別の日に総会を開催しようとする傾向があります。但し、上場会社においては、決算日以降、決算書の作成、監査等多くの手続きがありますので、前倒しを行うとしても日程的にはかなり限られてしまうことになります。

臨時株主総会の招集日程

定時株主総会の場合と異なり、臨時株主総会についてはいつでも開催することはできます。株主総会を開催する場合は株主への招集通知の送付などいろいろな手続きを要しますので、臨時で総会を開催する場合手続き的負担が大きくなります。そこで、臨時株主総会については、年度の途中で新しい取締役の選任がどうしても必要になった場合や、会社の合併などの組織再編手続きを行う場合などの限られた場合になります。

株主総会の招集権限

「株主総会は・・・取締役が招集する」(会社法296条3項)とされています。どの取締役でも勝手に招集手続きを行うことができるわけではなく、代表権のある取締役がしなければならないとされています。代表取締役が誰であるかは商業登記簿謄本にも記載がなされており通常の場合においては明確ですが、代表取締役の解任決議がなされたような場合に、その決議の有効性をめぐって争いが生じたりしますので、誰が総会開催を行うことができる取締役であるかが争われることもあります。総会招集権限を有しない取締役(代表取締役)の開催した総会は無効となりますので、取締役の選任議案を含め、株主総会で決議した事項の全部がその効力を否定されてしまうことになります。

少数株主による株主総会の招集

過去6か月以上の期間にわたり発行済株式総数の3%以上の株式を有する株主は、総会の目的である事項(取締役の選任議案など)を示して、総会の開催を行うよう代表取締役に対して請求することができ、会社が遅滞なく総会の招集を行わない場合、または総会の招集請求の日から8週間以内の日を総会の日とする株主総会の招集通知が発生られない場合は、裁判所の許可を得て自ら総会を開催することができるとされています(会社法297条1項、4項)。会社法上、「裁判所の許可を得て」とされていますので、総会の開催請求をした株主は裁判所に対して総会招集許可決定の申立を行うことになります。支配権をめぐる紛争がある場合、総会招集許可決定の申し立てはよくなされるところで、当事務所も多くの事件を取り扱っています。

株主総会招集決議

株主総会を開催する場合には、①株主総会の日時、場所、②株主総会の目的である事項(株主総会に提出する議題)、③書面で議決権行使ができる場合はその旨、④電磁的方法(インターネット)で議決権行使ができる場合はその旨、などを定めなければならないとされています(会社法298条1項)。また、取締役会設置会社(ほとんどの会社がこれに当たります)については、これらの決定は取締役会がしなければならないとされています。従って、実際の招集手続きは代表取締役が行うことになりますが、株主総会の議題などについては取締役会決議が必要であり、取締役会が同数の取締役のグループに分かれて対立している場合など取締役会決議ができない場合は、株主総会の招集もできないことになります。

株主総会招集通知の発送

株主総会を招集する場合は、代表取締役は株主総会の2週間前までに株主に対して株主総会の招集通知を発送しなければならないとされています。但し、株式の譲渡制限のある会社(非公開会社)は総会の開催日の1週間前までに招集通知を送付すれば足りるとされています。招集通知には、株主総会の開催日時、場所、議題を記載する必要があります。

株主総会招集手続きの省略

株主全員の同意がある場合は総会招集手続(総会招集についての取締役会決議や招集通知の発送)を省略することができます。株主の人数が限られている会社については、全株主の同意により株主総会招集手続を省略することも多くあります。株主総会招集手続を省略した場合は総会議事録にその旨を記載することが必要になります。

株主総会参考書類及び議決権行使書面の交付

会社が書面による議決権行使を認めた場合には、会社は議決権行使について参考となるべき事項を記載した書類(株主総会参考書類)及び議決権行使書を送付しなければならないとされています。上場会社の場合、議決権行使書による議決権行使が認められている場合が多いと思われますので、ほとんどの会社が株主総会参考書類と議決権行使書を招集通知に同封しています。これに対し、多くの中小企業の場合は、議決権行使書面が送付されている場合であっても、参考書類が添付されていない場合もありますので、ご確認ください。なお、議決権行使書の参考書類は、議案の内容について詳細に説明するものです。取締役選任議案であれば、取締役の略歴やその取締役を選任する理由などがこれに当たります。

株主による議題提案権

発行済株式総数の100分の1以上(1%以上)または300個以上の議決権を6か月以上有していた株主は、一定の事由を株主総会の目的とすることを請求することができるとされています。株式に譲渡制限のある会社(公開会社でない会社)については、6か月以上有していたという要件はありません。会社法303条は議題の提案に関するもので、「議案の提案」とは異なります。議題とは、「取締役選任の件」や「定款変更の件」といった事項になります。

株主による議案提案権

株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項について議案を提出することができるとされています(会社法304条)。議案提案権と言われる権利で、株主総会の場で修正動議として提出されます。議案提案権は、議題提案権と異なり、1%以上の株式を有していなければならないなどの要件はなく、どの株主でも行使することができます。但し、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合や実質的に同一の議案について株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合は行使できないとされています。実際上一番多いのは、会社提案として役員の選任議案がなされている場合に、少数株主の側から別の役員の選任議案が提出される場面であると思われます。株主による提案権が適法に行使されている場合、議長は株主総会で当該議案を総会に諮る必要があり、総会に諮らなかった場合、株主総会取消事由に該当します。但し、議長が会社側提案と株主提案の両方を議案として上程し、会社側提案が先に可決された場合、それと矛盾する株主提案は否決されたとすることは可能です。

株主総会の議案通知請求権

株主は、取締役に対して、株主総会の8週間前までに、株主総会の目的である事項について当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができるとされています。自己の提案する議案を株主に通知するよう請求する権利(議案の通知請求権)については、株式の譲渡制限のない会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有していることが必要です。株式の譲渡制限のある会社については、6か月の期間制限は必要ありません。また、取締役会の設置されていない会社については、持ち株要件も必要ありません。

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