米国遺産税と相続税条約
米国連邦遺産税
日本に住所を有し日本国籍を有する日本人がアメリカに財産を残して死亡した場合、アメリカの連邦遺産税と州の遺産税が課せられる可能性があります。
米国連邦遺産税の基礎控除額
米国市民以外の者に対する米国連邦遺産税の基礎控除額は現在6万ドルとなります。従って6万ドルを超える財産(アパートメント、預金、株式、車などの合計額)を有する場合、遺産税の支払義務を負うのが原則です。アメリカの銀行に預けていた預金などの他、アメリカの会社の発行する株式、アメリカで組成されたファンドの持ち分などもアメリカ国内の財産とみなされます。銀行預金通帳や株券、証書類を日本国内で保管していた場合でも異なりません。
相続税条約の適用
現在アメリカ合衆国は、17か国との間において相続税条約(estate tax treaties)を締結しています。日本も締結国の一つですので、日本人についてはアメリカ市民が死亡した場合と同様に取り扱われることになります。その結果、日本国民については、アメリカ市民と同様に、連邦遺産税について1361万ドルの税金が控除されることになっています(2024年現在)。
日米相続税条約4条
但し、アメリカ市民については相続の対象となる全ての財産について1361万ドルの控除が認められるのに対し、アメリカに財産のある日本人に対しては、アメリカにある財産に対してのみ連邦遺産税が課せられることになります。そこで、日本人が所有するアメリカの財産に対する連邦遺産税から1140万ドル全部の控除を認めると、日本人に対する控除額がアメリカ市民よりも大きくなりすぎることになります。そこで、1361万ドルにアメリカ国内にある財産の全世界にある財産の割合を乗じた額をアメリカ連邦遺産税からの控除額としています。すなわち、1361万ドル×(アメリカ国内にある相続財産の価額)÷(世界全体にある相続財産の価額)により計算されることになります。例えば、アメリカにある財産が1億円で、(アメリカにある財産を含めた)全世界の財産が10億円の場合、控除される税金の額は、1361万ドル×1億円÷10億円=136.1万ドルということになります。アメリカにある財産は1億円ですので、遺産税が仮にアメリカにある財産の評価額に対する40%(4000万円)であったとしても税金の控除額である136.1万ドルより少ないことになりますので、アメリカで納める税金は0円となります。
連邦遺産税の申告の必要性
アメリカの連邦遺産税について、1361万ドルの控除を受ける場合、被相続人の死亡時から9か月以内に連邦遺産税の申告を行う必要があります。その際には、アメリカにある相続財産だけでなく、世界全体にある相続財産を申告しなければなりません。申告をしないでも自動的に1361万ドルの控除が認められるわけではありません。日本人の多くは、申告を行わないまま、この特別の控除が認められていない可能性があります。
州の遺産税の申告の必要性
連邦遺産税と同様に州の遺産税についても申告が必要となります。但し、州の遺産税については州ごとに基礎控除額が定められていますので、その金額を超える相続財産がその州にある場合に限り課税されることになります。従って、各州に存在する財産の評価額を確定させるとともに、各州の基礎控除額について確認することが必要となります。また、州の遺産税に関しては、預貯金、株式、出資持分(投資有価証券)などが州に所在するとみなされず、州の遺産税の対象とならないこともあります。
二重課税の可能性
日本に住所を有する日本人は、無制限納税義務者とされますので、日本に所在する財産の他、外国に所在する財産についても相続税の申告が必要になります。一方、アメリカにおいては、被相続人がアメリカ市民でもなく、アメリカ居住者でもない場合には、アメリカに所在する財産についてのみアメリカの遺産税の対象となるとされています。従って、日本に居住する日本人がアメリカに財産を残して亡くなった場合で、日本に相続人がいる場合には、アメリカ国内にある財産について日本とアメリカで二重課税が生じることになります。同様のことは他の国においても生じます。
相続税法20条の2
二重課税の回避については、日本の相続税法20条の2に規定があります。日本の相続税法20条の2は次のように規定しています。
「相続又は遺贈によりこの法律の施行地外にある財産を取得した場合において、当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたときは、当該財産を取得した者については、第15条から前条までの規定により算出した金額からその課せられた税額に相当する金額を控除した金額をもって、その納付すべき相続税額とする。」
アメリカで納付した遺産税の控除
従って、アメリカで納付した遺産税については、日本で納付する相続税額から控除されることになります。但し、相続税法20条の2は、アメリカで納付した遺産税の控除について規定しているだけで、二重課税を回避できるのであるからアメリカで申告を行わないでもいいとか、アメリカで遺産税を払わなくてもいいということではありません。いったんアメリカで遺産税を支払い、その分を日本の税金から控除できるというだけです。
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