香港のプロベイト手続
- 1 プロベイト手続とは
- 2 少額財産の除外
- 3 香港におけるプロベイト手続きの概要
- 4 プロベイト手続きの申立人
- 5 裁判所
- 6 Grant of Letter of Administration(遺産管理状の発行)
- 7 申立書における注意事項
- 8 簡易手続きの適用の有無
- 9 香港の財産が15万香港ドルを超える場合
- 10 申立ての添付書類
- 11 日本の弁護士による宣誓供述書(Affidavit)
- 12 香港の弁護士への委任
- 13 保証人による保証
- 14 保証人の免除
- 15 財産管理人への権限授与
- 16 法律意見書
- 17 法律意見書を作成する者の資格(非争訟的プロベイト規則第18条(Rule of Non Contentious Probate Rules))
- 18 未成年者の利益保護
- 19 財産管理人の業務
- 20 香港法に基づく相続分と相続人の範囲
- 21 日本法に基づく相続分と相続人の範囲
- 22 香港の遺産税
- 23 香港の財産を相続した場合の日本における相続税
- 24 香港における財産管理手続
- 25 香港のコモンローによる準拠法の決定方法
- 26 香港法による相続分割主義
- 27 日本の国際私法
- 28 香港に財産を有する日本人(日本在住)が死亡した場合
- 29 香港に財産を有する日本人(香港在住)が死亡した場合
- 30 プロベイト又は財産管理人の申し立てに要する弁護士報酬
- 31 当事務所が提供できるサービス
プロベイト手続とは
香港では、日本の場合と異なり、相続人だけで自由に遺産の分割を行うことはできません。これは、香港に所在する財産について適用されますので、相続人や被相続人が日本人で、日本に居住している場合であっても、香港に相続財産が有る限り異なりません。従って、ご親族が日本、香港、その他の国でお亡くなりになり、その方の遺産相続をする過程で、お亡くなりになられた方が香港に銀行預金やその他の財産を有していたことが分かった場合には、裁判所の監督下において行われる清算手続を経て、残った財産のみを相続人や受遺者に分配する必要があります。この裁判所の監督下で行われる清算手続をプロベイト手続きといいます。
少額財産の除外
香港に所在する相続財産の額が5万香港ドル(約75万円)以下の場合には、プロベイトの手続きは要求されず、Confirmation Noticeと言われる書類により預金の払い戻しができます。Confirmation Noticeを取得するには、The Estate Beneficiaries Support Unit of the Home Affairs Departmentに対する申し立てを行う必要があります。
香港におけるプロベイト手続きの概要
日本に住所を有する日本人が香港に財産(銀行預金等)を残して死亡した場合のプロベイト手続は、香港の法律である非争訟的プロベイト規則NCPR(Non Contentious Probate Rules (Cap.10A))において定められています。プロベイトの手続きは被相続人に遺言がある場合と遺言がない場合で異なります。被相続人に遺言がある場合は、Probate(遺言検認手続き)という手続きにより、申立人が裁判所に対して遺言執行者の選任申立てを行い、これに対して裁判所が遺言執行者(executor)を選任する決定を行います。遺言執行者を選任する決定をGrant of Probateと言います。被相続人に遺言がない場合は、財産管理手続きにより、申立人が裁判所に対して財産管理人を選任するよう申し立て、これに対して裁判所が財産管理人(administrator)を選任する決定を行います。財産管理人を選任する決定をGrant of Letters of administrationと言います。裁判所の決定であるGrant of ProbateとLetters of administrationの両方を合わせて、代理人選任決定(Grant of Representation)と呼ぶことがあります。この決定が出されることで、executor(遺言執行者)やadministrator(財産管理人)は相続財産の管理・処分についての正式の権限を有することになります。
プロベイト手続きの申立人
上記の通り、被相続人(亡くなられた方)の遺言により遺言執行者が定められている場合には、遺言執行者がプロベイトの申立を行います。被相続人の遺言書がなく、遺言執行者の定めがない場合には、法定相続人が申し立てを行うことになります。通常の場合、奥様やお子様が法定相続人として申立を行うことになります。実際には、香港の弁護士に委任状を出し、香港の弁護士が日本における遺言執行者や法定相続人の代理人として申立手続きを行ってくれることになります。
裁判所
プロベイト手続きを申し立てる裁判所は、香港の高等法院遺産承弁署(Probate Registry of the High Court)となります。香港の弁護士を代理人にしている場合は、申立人や相続人が自ら香港の裁判所に行く必要はありません。
Grant of Letter of Administration(遺産管理状の発行)
香港では、被相続人の財産については裁判所の承認(Grant of ProbateまたはLetters of Administration)がなければ処分することができません。これに違反すれば、プロベイト及び遺産管理条例第10章(Probate and Administration Ordinance (Cap10))第13条及び第60条J条に違反する犯罪となります。
申立書における注意事項
また、香港におけるプロベイトでは、下記の事項が重要となります。下記の全ての事項について、書式・形式を整えて証拠とともに提出し、確認してもらう必要があります。
① 被相続人が誰であるか
② 被相続人の住所
③ 遺言の有無
④ 遺言執行者/遺産管理人が誰であるか
⑤ 相続人が誰であるか
⑥ 被相続人の香港における財産が何であるか
⑦ 保証人による保証の要否、放棄の有無
⑧ 関係書類が適切に準備されているか(認証されているか)
簡易手続きの適用の有無
日本はプロベイト及び遺産管理条例第10章別表2(Probate and Administration Ordinance (Cap.10) Schedule 2)により指定されていないため、簡易な手続きは適用されません。
香港の財産が15万香港ドルを超える場合
被相続人の香港における財産が15万香港ドル以上の場合、略式の手続の対象ではなく、非争訟的プロベイト規則第29条(Rule 29 of NCPR)の対象になります。
申立ての添付書類
申立は全ての添付書類を揃えて行わなければなりません。添付書類として通常想定されるのは下記の書類ですが、場合によっては更に書類が必要となる可能性があります。日本の当局または機関が作成した書類はアポスティーユを取得する必要があります。個人・民間団体が作成した書類については、日本の公証役場で認証を受け、外務省で証明書を取得し、駐日中国大使館で認証を受ける必要があります。日本語で記載されているものは、翻訳者が宣誓の上、翻訳しなければなりません。
・死亡証明書(Death Certificate of the deceased)
・婚姻証明書(marriage certificate for spouse)
・出生証明書(birth certificate for parents/children)
・被相続人の本人確認書類(Copy of Identity Card/Passport of the deceased)
・申立人の本人確認書類(Copy of Identity Card/Passport of the applicant)
・遺言書(Original Will of the deceased)
・被相続人の最後の住所地及び職業に関する書類
・香港における銀行預金の情報(Bank Passbooks, Statement and Time Deposit Receipt)
・香港における不動産の調査記録
・銀行の貸金庫に関する情報(銀行の支店名、ロッカー番号など)
日本の弁護士による宣誓供述書(Affidavit)
日本の弁護士による法律についての宣誓供述書・宣誓書(Affidavit)が必要となります。
香港の弁護士への委任
被相続人の財産の遺産管理人が日本に居住する日本人である場合、香港の弁護士(solicitor)に対し、申し立てをすること及び遺産管理人の代理人となることを依頼することが考えられます。この場合は、遺産承弁署から保証人を求められません。
保証人による保証
外国人の遺産管理人が申し立てをする場合、遺産承弁署から、遺産管理人以外に2名の保証人を求められます。保証人は、それぞれが香港における被相続人の財産の合計又はそれ以上の資産を有していなければなりません。保証人は、裁判所が決定する保証人の責任に関する制限の範囲内において、遺産管理人がその義務に違反することにより、被相続人の財産の遺産管理の利害関係者が被る損害を賠償することを保証しなければなりません。
保証人の免除
2名の保証人を確保することは大変困難です。そこで、申請人が下記の二つの事項を示した場合、遺産承弁署に対する申立により、保証人による保証は免除されます。
①その財産について、現在のものであると潜在的であるとを問わず、知れたる債権者若しくは知れたる債務者がいないこと、又は、全ての債権者が保証の免除について同意しており、同意書を提出すること
②保証されるべき相続人がいないこと、又は当該相続人が保証の免除について同意していること(可能であれば同意書を提出しなければならない)
財産管理人への権限授与
香港高等法院遺産承弁署(Probate Registry of the High Court)は、申し立てを審理する手続き全体において、適宜問合せをする場合があり、申立人はこれに回答する必要があります。これらの問合せを経て、遺産承弁署が心象を得られた段階で、プロベイトの授与書(grant of probate)または財産管理人の選任決定(Letter of Administration)が発付されます。遺産管理人は、プロベイトの授与書または財産管理人の選任決定書に基づき、授与書に記載された被相続人の財産のみを処分します。授与書に記載のない被相続人の財産が発見された場合、遺産管理人は、遺産承弁署に対し、当該遺産を授与書に追加するよう申し立てることができます。
法律意見書
法律意見書には次の事項を記載する必要があります。
①当該事件にかかわる事実、及び適用される日本法を記載する(関連条文を引用する)。
②日本法の下では、だれが優先的に財産の管理又は授与書の申立をする権利を有するのかを記載する。
③日本の裁判所が検認した場合を除き、遺言の有効性について記載する。但し、被相続人が無遺言で死亡した場合は不要である。
④日本における財産を管理するために授与書が必要であるかどうか、仮に必要である場合、本件で授与書の申立がない理由を記載する。但し、日本法において、被相続人の財産を管理するために授与書を得る必要はない(民法896条)。
⑤未成年者(相続人が8歳以下である場合)の利益及び生涯権(信託など)について記載する。弁護士は、結論及び結論に至るまでの過程について詳細かつ明確に記載しなければならない。
法律意見書を作成する者の資格(非争訟的プロベイト規則第18条(Rule of Non Contentious Probate Rules))
法律意見書を作成する者は、弁護士として5年以上の実務経験を有している必要があり、法律意見書にはそれに関する証拠を添付する必要があります。
未成年者の利益保護
未成年者の利益が問題となる場合、遺産管理人が2名以上必要となります。この点については、日本では遺産管理人が2名必要とされることはありませんが、プロベイト及び遺産管理条例第10章第25条(Section 25 of Probate and Administration Ordinance (Cap10))に基づき香港では必要となります。
財産管理人の業務
裁判所から選任されたexecutor(遺言執行者)は遺言に従って財産を処分する全ての権限を有しています。同様に裁判所から選任されたadministrator(財産管理人)は、法律に従って財産を処分する全ての権限を有しています。遺言執行者や財産管理人は、香港国内の不動産を売却処分し、銀行預金の解約を行い、税金その他の債務の支払いを行い、残った財産を遺言書又は法律の定めに従って相続人に分配します。
香港法に基づく相続分と相続人の範囲
香港の無遺言遺産条例(The Intestates’ Estates Ordinance)の第4条には、遺言が存在しない場合における法定相続人および各相続人の法定相続分について次のように定められています。下記のまとめにおいて、○は生存、✕は不存在またはすでに亡くなられていることを意味しています。
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配偶者○・子供✕・両親✕の場合
配偶者が全部の財産を相続します。一方で、日本法では、配偶者がいて子供がいない場合は、配偶者と直系尊属又は配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。なお、直系尊属とは、父母・祖父母など自分より前の世代で、血のつながった直系の親族のことをいいます。両親が既に亡くなっていても、親の親(祖父母)が生存している場合は祖父母が直系尊属として相続人になります。 -
配偶者○・子供○の場合
配偶者は、全ての動産と50万香港ドルを相続したうえで、全財産からそれらの財産を控除した財産のうち更に半分を相続します。そして、子供らは、残った財産を均等に相続することになります。つまり、被相続人の全財産が100万香港ドルのみであった場合、配偶者は75万香港ドルを相続し、子供らは25万香港ドルを均等に相続することになります。 -
配偶者○・子供✕・両親○の場合
配偶者は、全ての動産と100万香港ドルを相続したうえで、全財産からそれらの財産を控除した財産のうち更に半分を相続します。そして、両親は、残った財産を均等に相続することになります。つまり、被相続人の全財産が200万香港ドルのみであった場合、配偶者は150万香港ドルを相続し、両親は50万香港ドルを均等に相続することになります。一方で、日本法では、配偶者と被相続人の親が相続人の場合、配偶者が3分の2を取得し、直系尊属が3分の1を取得します。 -
配偶者○・子供✕・両親✕・兄弟姉妹○の場合
配偶者は、全ての動産と100万香港ドルを相続したうえで、全財産からそれらの財産を控除した財産のうち更に半分を相続します。そして、兄弟姉妹は、残った財産を均等に相続することになります。つまり、被相続人の全財産が200万香港ドルのみであった場合、配偶者は150万香港ドルを相続し、兄弟姉妹は50万香港ドルを均等に相続することになります。 -
配偶者✕・子供○の場合
子供が、被相続人の財産を相続します。子供が複数いる場合は均等に相続します。 -
配偶者✕・子供✕・両親○の場合
両親が、被相続人の財産を相続します。両親ともに健在の場合、両親は均等に相続します。 -
配偶者✕・子供✕・両親✕・兄弟姉妹○の場合
兄弟姉妹が、被相続人の財産を相続します。兄弟姉妹が複数いる場合、兄弟姉妹は均等に相続します。 -
配偶者✕・子供✕・両親✕・兄弟姉妹✕・祖父母○の場合
祖父母が、被相続人の財産を相続します。兄弟姉妹が複数いる場合、兄弟姉妹は均等に相続します。 -
配偶者✕・子供✕・両親✕・兄弟姉妹✕・祖父母✕・叔父叔母○の場合
叔父・叔母が、被相続人の財産を相続します。 -
配偶者✕・子供✕・両親✕・兄弟姉妹✕・祖父母✕の場合
被相続人の財産は、香港政府に帰属します。
日本法に基づく相続分と相続人の範囲
日本の民法においては、相続分と相続人の範囲について次のように定められています。
- 被相続人の配偶者は、常に相続人となります(890条)。
- 被相続人の子は、相続人となります(887条1項)。
- 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となります(889条1項)。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者が先になる。
二 被相続人の兄弟姉妹 - 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによります(900条柱書)。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とされます。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とされます。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とされます。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとされます。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とされます。 - 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます(902条1項本文)。
- 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができます(907条1項)
香港の遺産税
香港の遺産税は廃止されましたので、2006年2月11日以降に死亡した人の相続財産に対しては、遺産税は課せられません。香港居住者も香港の非居住者も同じです。
香港の財産を相続した場合の日本における相続税
被相続人と相続人のどちらかが日本に居住している場合
被相続人と相続人のどちらかが日本に居住している場合、つまり、亡くなった親が香港に居住していて子供は日本に居住している場合や、亡くなった親が日本に居住していて子供は香港に居住している場合などには、香港に所在する財産についても日本において相続税が発生します。なお、日本国内の財産だけに課税される人のことを制限納税義務者、海外にある財産も含めて課税される人のことを無制限納税義務者といいます。
被相続人と相続人のどちらも日本に居住していない場合
被相続人と相続人のどちらも日本に居住していない場合、つまり、亡くなった親とその子供がともに香港に居住している場合などには、①被相続人が日本を離れて10年以上経過していて、かつ、②相続人の国籍が日本国籍ではないか、もしくは相続人も日本を離れて10年以上経過していれば、日本における相続税を免れることができます。
日本において相続税が課されるか否かの判定フローチャート
Q1:被相続人は日本に居住していますか
↓ No Yes → 課税
Q2:相続人は日本に居住していますか
↓ No Yes → 課税
Q3:被相続人が日本を離れて10年以上経過していますか
↓ Yes No → 課税
Q4:相続人の国籍は日本ですか
↓ Yes No → 非課税
Q5:相続人が日本を離れて10年以上経過していますか
↓ Yes No → 課税
非課税
香港における財産管理手続
香港と日本は、プロベイトについて異なる法概念と手続きを有しています。香港ではある人が亡くなった場合、プロベイトの申立をする権利を有する人は高等法院に対してプロベイト(遺言がある場合)または遺産管理状(遺言がない場合)の付与を申し立てなければなりません。これに対して日本では、プロベイトのような制度はありません(但し、日本における相続の場合であっても「検認」という制度が適用される可能性があります)。
香港のコモンローによる準拠法の決定方法
香港のコモンロー制度は、被相続人の住所(ドミサイル)に着目し、住所の存する国の法律が被相続人の財産の管理及び承継についての準拠法であり、かつ管轄権を有すると考えています。ドミサイル(domicile)とは居住の意思をもって定住している場所をいいます。香港国籍の人でも日本に居住する意思で日本に居住している場合は日本にドミサイルがあることになります。また、香港に居住している日本人は、日本国籍であっても香港にドミサイルがあるとされ、香港法が適用になる可能性があります。
香港法による相続分割主義
また、香港では相続分割主義をとっていますので、不動産(土地、建物、アパート、マンション)については、財産の所在地の法律が適用になります。例えば、日本人が香港に不動産を所有していた場合、香港の相続法が適用になります。反対に香港人が日本で不動産を所有していた場合、日本の相続法が適用になります。これに対し、動産や流動資産(現金、株式、個人的所有物)については、個人が死亡したときに有していたドミサイル(domicile)(居住の意思を持って住んでいる場所)の相続法が適用になります。日本に居住していた日本人が被相続人の場合、ドミサイルは日本にありますので、日本の相続法が適用になります。その結果、日本に居住する日本人が香港にマンションと銀行預金を残して死亡した場合、マンションについては、相続人の範囲や相続分については香港の法律が適用になるのに対し、銀行預金については、相続人の範囲や相続分については日本法が適用になることになります。
日本の国際私法
日本の法の適用に関する通則法36条では、「相続は被相続人の本国法による」とされています。日本では相続統一主義をとっていますので、日本の国際私法が適用される場合は、世界のどこにある財産についても被相続人の本国法が適用になることになります。従って、日本の国際私法によれば、被相続人が香港人の場合、財産がどこの国にあっても相続については香港の法律が適用になることになります。反対に被相続人が日本人の場合、財産がどこの国にあっても相続については日本の法律が適用になることになります。
香港に財産を有する日本人(日本在住)が死亡した場合
日本に居住する日本人が日本と香港に財産を残して死亡した場合、日本の通則法によれば被相続人の本国法である日本の法律が全ての相続について適用されることになります。しかし香港に所在する財産の管理については、香港の裁判所への申し立てを行うことになり、その場合、準拠法の決定は香港の裁判所が香港の国際私法に基づいて判断することになります。香港の国際私法では、香港に所在する不動産については香港の法律が準拠法となるのに対し、動産や流動資産については被相続人のドミサイルがある地の法律が適用になります。その結果、日本に所在する動産と不動産については、日本の家庭裁判所が判断することになりますので、日本の国際私法が適用になり、日本法が準拠法となります。香港に所在する動産と不動産については、香港の裁判所にプロベイトの申し立てを行うことになりますので、香港の国際私法が適用になります。その結果、相続分割主義により、香港に所在する不動産については財産の所在地である香港法が準拠法となり、香港に所在する動産や流動資産については、被相続人のドミサイルが日本にありますので、日本法が準拠法となります。なお、香港所在の動産や流動資産について日本法が準拠法となり、日本法に従って相続人や相続分が決定される場合であっても、財産の管理については香港の手続きによることになりますので、香港所在の動産や流動資産について香港のプロベイト手続きを行うことは問題ありません。
香港に財産を有する日本人(香港在住)が死亡した場合
香港に居住する日本人が日本と香港に財産を残して死亡した場合、日本に所在する財産については、当該手続きが日本と香港のいずれに申し立てられているかにより適用する国際私法が決定されることになります。日本の裁判所に提起されている場合、日本の通則法により準拠法が決定されますので、被相続人の本国法である日本の法律が全ての相続について適用されることになります。しかし香港に所在する財産の管理については、香港の裁判所への申し立てを行うことになり、その場合、準拠法の決定は香港の裁判所が香港の国際私法に基づいて判断することになります。香港の国際私法では、香港に所在する不動産については香港の法律が準拠法となるのに対し、動産や流動資産については被相続人のドミサイルがある地の法律が適用になります。この事例では、被相続人は香港にドミサイルを有していると考えられますので、香港法が準拠法となることになります。
プロベイト又は財産管理人の申し立てに要する弁護士報酬
プロベイトや財産管理手続きにおける香港の弁護士の報酬については、香港に存在する財産が銀行預金のみか、不動産その他の財産も含まれるかによって異なってきます。銀行預金のみの場合でも、複数の銀行に預金があるのか、口座の数は1つか2つ以上かなどによっても異なってきます。未成年者の保護手続きなどを要しない簡易な手続きの場合で、香港の弁護士の報酬の一般的な金額は、40万円から60万円程度になります。また、日本人が香港での財産管理手続きを行う場合は、関係書類を日本において収集し、日本で英語訳をつけて香港に送る必要がありますので、日本の弁護士の報酬も別途要することになります。日本の弁護士の報酬(着手金)の一般的な金額は香港の相続財産の価額によって異なりますが、当事務所の場合は通常40万円から80万円となっています。また、当事務所への弁護士報酬は分割払いにてお支払いいただくことも可能ですのでお気軽にご相談ください。
当事務所が提供できるサービス
当事務所では、相続人の範囲等に関する弁護士の法律意見書(Affidavit)の作成や、戸籍謄本等の必要書類の収集および英訳、大使館や外務省における認証手続など、現地の弁護士と連携を取りながら国際相続に関する手続全般のサポートを行うことができます。
国際相続でお困りの際は、TEL:03-5357-1750(受付時間9:00~18:00)にお電話いただくか、メールフォーム(「https://kslaw.jp/contact/」)にて、お気軽にお問い合わせ下さい。
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