• 2023.05.10
  • 国際相続

フィリピンにおける遺産相続

近久憲太

執筆者情報

近久憲太Kenta Chikahisa

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

はじめに

ご家族がフィリピンに銀行預金や不動産等の財産を残されたまま亡くなられた場合、残されたご家族としては、フィリピンにおける財産についてどのように相続手続を進めていけばよいのかお困りになられると思います。そこで、本稿では、フィリピンにおける相続手続の進め方や、フィリピンの法律に基づく相続分と相続人の範囲、フィリピンの財産を相続した場合の相続税などについて解説いたします。

フィリピンにおける相続手続

遺言書がある場合

プロベイト手続

ご家族が遺言を残して亡くなり、その遺言がフィリピンの法律上有効である場合には、被相続人の最後の住所地を管轄する地域裁判所(Regional Trial Courts)に対してプロベイト手続(遺言検認手続)を申し立てる必要があります。遺言書の中で遺言執行者が定められている場合には、原則として、その遺言執行者がプロベイト手続の申立てを行います。一方で、遺言書の中で遺言執行者が定められていない場合や遺言執行者が受任を拒否した場合には、相続人がプロベイト手続の申立てを行う必要があります。
日本に居住する相続人がプロベイト手続の申立て手続を行うことは困難ですので、通常は、フィリピンの弁護士を代理人に選任し、その弁護士にプロベイト手続の申立てを行ってもらうことになります。プロベイト手続の申立てが行われた場合、フィリピンの裁判所は、プロベイト手続の申立て手続きを行ったフィリピンの弁護士を単独でフィリピンに所在する財産の遺言執行者に選任するか、又はフィリピンの弁護士と日本の遺言執行者を共同でシンガポールに所在する財産の遺言執行者に選任することになります。
その後、裁判所の監督下において行われる清算手続を経て、残った財産のみが相続人や受遺者に分配されることになります。この裁判所の監督下で行われる清算手続をプロベイト手続といいます。

フィリピン民法に基づく遺言の方式

上記のプロベイト手続は、被相続人(亡くなられたご家族)の遺言がフィリピンの法律上有効であることが前提となります。フィリピンでは、自筆証書遺言(Holographic Will)と、公正証書遺言(Notarial Will)の2種類の遺言の作成方法があり、各遺言の方式要件については、以下のとおり定められています。

自筆証書遺言の要件は、以下のとおり定められています。
① 遺言の全体が遺言者の自筆によって作成されていること
② 遺言者本人の言語又は方言でなされていること
③ 書面によってなされていること
④ 遺言の日付が記載されていること
⑤ 遺言者による署名がなされていること

公正証書遺言の要件は、以下のとおり定められています(フィリビン民法804条~806条)。
① 遺言者本人の言語又は方言でなされていること
② 書面によってなされていること
③ 遺言者及び証人が公証人の面前で認証を受けていること
④ 証書の各頁に関係者が署名していること
⑤ Ⓐ・Ⓑのいずれかの要件を満たすこと
  Ⓐ 証書の最後に本人が署名していること
  Ⓑ 遺言者本人が表明した遺言内容に対して、本人以外の数名が署名を代筆し、三名以上の証人が本人の面前で署名していること

遺言書がない場合

被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合、又は、遺言書は存在するものの有効な遺言書ではない場合には、遺産分割協議手続(裁判所外での相続手続)、又は、裁判所による遺産管理手続によって相続手続を行うことになります。

遺産分割協議手続(裁判所外での相続手続)

有効な遺言書が存在しない場合には、以下の要件を満たす場合に限り、裁判所外において遺産分割手続を行うことができます。
① 有効な遺言書が存在しないこと
② 被相続人に債務が存在しないこと(債務全額が支払われている場合を含む。)
③ 相続人全員が成人であること(未成年の相続人が成人の法定代理人によって代理されている場合を含む。)
④ 相続財産の分け方について全ての相続人が合意したこと

裁判所による遺産管理手続

遺産分割協議手続によって相続手続を行うことができなかった場合、法定相続人(「4.相続分と相続人の範囲」参照)は、フィリピンの裁判所に対して、財産管理人の選任の申立てを行う必要があります。裁判所が財産管理人の選任決定を出すと、その財産管理人はフィリピンに所在する相続財産についての管理処分権限を有することになります。裁判所による選任決定後、財産管理人は、銀行預金を解約し、不動産を処分し、税金その他の債務を支払った上で、残りの財産を相続人に分配することができます。

フィリピンでの相続において必要となる書類

フィリピンでの相続手続においては、通常、下記の書類を用意する必要がありますが、場合によっては更に書類が必要となる可能性があります。
① 死亡証明書(Death Certificate)
② 婚姻証明書(Marriage Certificate)
③ 出生証明書(Birth Certificate)
④ 遺言書(Original Will of the deceased)
⑤ 被相続人の資産に関する書類(Bank Account Statement, Shares Statement, etc.)
⑥ 被相続人の債務についての書類
⑦ 宣誓供述書(相続人の範囲等に関する弁護士の法律意見書)(Affidavit)

日本の当局または機関が作成した書類については、アポスティーユを取得する必要があります。アポスティーユとは、外務省による証明のことをいい、当該公文書が日本の官公署や自治体等によって発行された書類であることを証明することができます。また、個人・民間団体が作成した書類については、日本の公証役場で認証を受け、外務省で証明書を取得し、駐日フィリピン大使館で認証を受ける必要があります。さらに、日本語で作成されている書類については、日本において宣誓の上で翻訳を行うか、又は、フィリピンの公認翻訳者によって翻訳を行う必要がある場合もあります。

相続分と相続人の範囲

遺言書がある場合

遺言書がある場合は、原則として、その内容に従って、相続分と相続人の範囲が定められることになります。また、仮に遺言書がフィリピンで作成され、日本の裁判所において遺言書の有効性が争われた場合であっても、次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関して有効な遺言であるとみされます(遺言の方式の準拠法に関する法律2条、遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約1条)。
① 行為地法(法律行為が行われる場所の法律)
② 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
③ 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
④ 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
⑤ 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

常居所地とは、被相続人の平常の居所を意味します。日本国籍を有する者については、国内に住所を有する場合、又は国外に転出後1年以内であれば、日本に常居所地があると認められます。日本国籍を有しない者については、在留資格に基づき継続して5年以上在留している場合や、永住者又は定住者としての在留資格に基づき継続して1年以上在留している場合には、日本に常居所地があると認められます。

一方で、日本の裁判所において、遺言書が上記①~⑤のいずれの法にも適合せず、全部または一部について無効と判断されてしまった場合には、どの国の法律を準拠法(適用される法律)として、相続分と相続人の範囲を決定すべきかが問題となります。

遺言書がない場合

相続統一主義と相続分割主義

国際的な相続の準拠法については、大きく分けて「相続分割主義」と「相続統一主義」という2つの考え方が存在しています。相続統一主義とは、相続財産の種類によって準拠法を区別せず、相続人の範囲や相続分については一つの国の法律に基づいて統一的に処理するという考え方をいいます。相続統一主義には、本国法主義(国籍を有する国の法律を相続の準拠法とする考え方)や、住所地法主義(住所を有する国の法律を相続の準拠法とする考え方)等が存在していますが、日本は本国法主義を採用しています。

一方で、相続分割主義とは、不動産についてはそれが所在する国の法律が適用され、不動産以外の財産については被相続人が居住の意思をもって永続的に住んでいる場所(ドミサイル)の法律が適用されるという考え方のことをいいます。

ドミサイルとは、居住の意思をもって永続的に住んでいる場所のことをいいます。ドミサイルは、被相続人の国籍だけではなく、生活の本拠地や永住の意思があった場所などを根拠に判断されることになります。国籍だけでドミサイルが判断されない理由は、相続分割主義を採用している国々においては、多重国籍が認められている国が多いことから、国籍だけを根拠に判断するとドミサイルを1つに絞ることが困難になる場合が多いことにあります。

反致

国際的な相続の準拠法については、法の適用に関する通則法36条において、被相続人の本国法(国籍を有する国の法律)を準拠法とすると定められています。したがって、被相続人の国籍が日本以外の国であった場合、被相続人が国籍を有する国が国際的な相続の準拠法についてどのような考え方を採用しているかが問題となります。被相続人が国籍を有する国が相続統一主義を採用していた場合、相続人の範囲や相続分は、一つの国の法律(被相続人の本国法又は住所地法)に基づいて、統一的に処理されることになります。

一方で、被相続人が国籍を有する国が相続分割主義を採用していた場合、不動産についてはそれが所在する国の法律が適用され、不動産以外の財産については、ドミサイルの法律が適用されることになります。したがって、その場合、ドミサイルがどの国にあるかということは非常に重要な意味を持つことになります。仮に、被相続人のドミサイルが日本にあった場合、不動産以外の財産に関する相続人の範囲や相続分については日本法に基づいて決定されることになります。このように、通則法36条に基づいて被相続人の本国法を適用した結果、被相続人の本国法によれば日本法が適用される結果になることを「反致」(はんち)といい、日本では通則法41条において反致が認められています。

ただし、相続人の範囲や相続分についての準拠法が日本法となる場合であっても、相続手続の進め方については、日本法ではなく、フィリピンの法律に基づいた相続手続を行う必要があります。

フィリピンでの相続手続における準拠法(適用される法律)

フィリピンの国際私法

有効な遺言書が存在しない場合、どの国の法律が準拠法になるかを考える必要があります。国際的な相続においては、被相続人の本国法が準拠法となります(通則法36条)。したがって、被相続人の国籍が日本であった場合、日本は本国法主義を採用していますので、相続人の範囲や相続分については、日本法に基づいて定められることになります。

一方で、被相続人の国籍がフィリピンである場合には、フィリピンが国際的な相続の準拠法についてどのような考え方を採用しているかが問題となります。この点について、フィリピン民法第10条第2文では、被相続人がフィリピン国籍の場合、相続財産の種類に関係なく、被相続人の本国法が適用されると規定されています。したがって、被相続人がフィリピン国籍の場合、相続人の範囲や相続分については、フィリピンの法律に基づいて定められることになります。

人的不統一国

フィリピンでは、相続の準拠法として「フィリピン民法」と「ムスリム身分法」という異なる法律が存在しています。このように人種や信仰する宗教の違いに応じて、適用される法律が区別される国のことを人的不統一国といいます。人的不統一国における本国法の決定に関しては、通則法40条1項において、「当事者が人的に法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある法)を当事者の本国法とする。」と定められています。したがって、被相続人がイスラム教徒である場合には、通常、当事者に最も密接な関係がある法としてムスリム身分法が適用され、イスラム教徒以外である場合にはフィリピン民法が適用されると考えられます。

被相続人の国籍 被相続人の宗教 準拠法
フィリピン イスラム教徒以外 フィリピン民法
フィリピン イスラム教徒 ムスリム身分法
日本 宗教・宗派を問わない 日本法

フィリピン民法に基づく相続分と相続人の範囲

フィリピン民法(以下「比民」といいます)の第3章以下では、遺言が存在しない場合における法定相続人および各相続人の法定相続分について次のように定められています。下記のまとめにおいて、○は生存、✕は不存在またはすでに亡くなられていることを意味しています。なお、嫡出子とは婚姻関係にある父母から生まれた者を意味し、非嫡出子とは婚姻関係にない父母から生まれた者を意味します。

被相続人が嫡出子である場合
  1. 子供(嫡出子)○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
    子供(嫡出子)が全部の財産を相続します(比民978条)。子供(嫡出子)が複数いる場合は、均等な割合で相続することになります。

  2. 子供(嫡出子)✕・直系卑属(嫡出子)○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
    被相続人の子供(嫡出子)が被相続人よりも先に亡くなっており、被相続人の子供(嫡出子)に直系卑属(嫡出子)がいる場合には、被相続人の子供(嫡出子)の直系卑属(嫡出子)が全部の財産を相続します。ただし、被相続人の子供(嫡出子)に、嫡出子と非嫡出子の子供がいる場合、子供(嫡出子)が全部の財産を相続し、子供(非嫡出子)は相続権を有しません(比民992条)。なお、直系卑属とは、子・孫など自分より下の世代で、直系の親族のことをいいます。直系の親族ですので、兄弟・姉妹、甥・姪などは含まれません。
    被相続人の子供(嫡出子)の直系卑属(嫡出子)が複数いる場合は、被相続人の子供(嫡出子)の相続分を均等な割合で相続することになります。すなわち、被相続人の子供(嫡出子)が3名(A・B・C)存在していて、そのうちCが被相続人よりも先に亡くなっており、Cの子供(嫡出子)が2名(D・E)存在している場合の各相続分は、以下のとおりとなります(比民980条~982条、979条)。

    相続人 法定相続分 計算方法
    A・B 1/3ずつ A・B・Cの3等分
    D・E 1/6ずつ C持分(1/3)の2等分
  3. 子供(嫡出子)○・配偶者○・子供(非嫡出子)✕
    配偶者の相続分は、子供(嫡出子)の各相続分と同じ割合になります。したがって、配偶者の相続分は、子供(嫡出子)の人数によって変化することになります。すなわち、子供(嫡出子)が2名いる場合、配偶者の相続分は1/3となり、子供(嫡出子)が3名いる場合、配偶者の相続分は1/4となります(比民983条、895条)。

  4. 子供(嫡出子)○・配偶者✕・子供(非嫡出子)○
    子供(非嫡出子)の相続分は、子供(嫡出子)の1/2となります。したがって、嫡出子と非嫡出子が1名ずつ存在する場合、子供(嫡出子)の相続分は2/3、子供(非嫡出子)の相続分は1/3となります(比民983条、895条)。

  5. 子供(嫡出子)○・配偶者○・子供(非嫡出子)○
    上記③④のとおり、子供(非嫡出子)の相続分は子供(嫡出子)の1/2となり、配偶者の相続分は子供(嫡出子)の各相続分と同じ割合になります。したがって、配偶者のほかに、嫡出子と非嫡出子が2人ずつ存在する場合の各相続分は、以下のとおりとなります。

    相続人 法定相続分
    配偶者 1/4
    子供(嫡出子)2名 各1/4
    子供(非嫡出子)2名 各1/8
  6. 直系卑属(嫡出子)✕・親○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
    両親ともに生存している場合は1/2ずつ相続し、両親の一方のみが生存している場合には生存する親が全部の財産を相続することになります(比民986条、987条)。

  7. 直系卑属(嫡出子)✕・親✕・直系尊属○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
    被相続人の両親が被相続人よりも先に亡くなっており、被相続人の直系尊属が生存している場合には、被相続人の直系尊属が全部の財産を相続します。直系尊属が複数いる場合は、均等な割合で相続することになります。なお、直系尊属とは、父母・祖父母など自分より上の世代で、血のつながった直系の親族のことをいいます。

  8. 直系卑属(嫡出子)✕・親○・配偶者○・子供(非嫡出子)✕
    配偶者の相続分は、他の相続人の人数に関係なく、常に被相続人の財産の1/2になります(比民997条)。したがって、両親ともに生存している場合、配偶者の相続分は1/2、両親の相続分は各1/4となります。

  9. 直系卑属(嫡出子)✕・親○・配偶者○・子供(非嫡出子)○
    親の相続分は1/2、配偶者の相続分は1/4、子供(非嫡出子)の相続分は1/4となります(比民1000条)。

  10.  直系卑属(嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者✕・子供(非嫡出子)○
    被相続人の子供(嫡出子)、子供(嫡出子)の直系卑属(嫡出子)、両親、直系尊属、配偶者がいずれも生存していない場合、被相続人の子供(非嫡出子)が全部の財産を相続します(比民988条)。子供(非嫡出子)が複数いる場合は、均等な割合で相続することになります(比民980条、982条)。被相続人の子供(非嫡出子)が被相続人よりも先に亡くなっており、被相続人の子供(非嫡出子)の直系卑属(非嫡出子)が生存している場合には、被相続人の子供(非嫡出子)の直系尊属(非嫡出子)が全部の財産を相続します。

  11.  直系卑属(嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者○・子供(非嫡出子)○
    配偶者が1/2を相続し、被相続人の子供(非嫡出子)が残りの1/2を均等な割合で相続することになります(比民1001条)。

  12.  直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者○・兄弟姉妹甥姪×
    配偶者が全部の財産を相続します(比民995条)。

  13.  直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者○・兄弟姉妹甥姪○
    配偶者が1/2を相続し、残りの1/2を兄弟姉妹・甥姪が相続することになります(比民1001条)。

  14.  直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者✕・5親等内の傍系親族○
    生存している5親等内の傍系親族が、被相続人の財産を相続します。傍系親族とは、血のつながりはある一方で直系ではない親族のことをいいます。具体的には、兄弟姉妹、叔父・叔母、甥・姪、従兄弟姉妹などが傍系親族に当たります。

  15.  直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者✕・5親等内の傍系親族✕
    5親等内の傍系親族も生存していない場合、被相続人の財産は国に帰属することになります。

被相続人が非嫡出子である場合

第1順位の相続人は、被相続人の子供(嫡出子)及びその直系卑属(嫡出子)になります。したがって、上記①~⑤の場合における相続人および相続分については、被相続人が非嫡出子の場合も同様となります(比民979条)。
被相続人が非嫡出子の場合、被相続人と嫡出関係にある両親又は直系尊属は存在しませんので、第2順位の相続人は、被相続人の両親ではなく、被相続人の子供(非嫡出子)及びその直系卑属となります(比民980条以下)。
第3順位の相続人は、被相続人と嫡出関係にない両親になります(比民993条)。
第4順位の相続人は、配偶者になります。ただし、兄弟姉妹、甥、姪(非嫡出子に限る)も生存している場合には、配偶者が1/2を相続し、残りの1/2を兄弟姉妹、甥、姪が相続することになります(比民994条)。
第5順位の相続人は、兄弟姉妹、甥、姪となると解されています。
第1~5順位の相続人が存在しない場合、被相続人の財産は国に帰属することになります(比民1011条)。

ムスリム身分法に基づく相続分と相続人の範囲

被相続人の国籍がフィリピンであり、かつ、被相続人がイスラム教徒である場合には、通常、ムスリム身分法に基づいて相続人の範囲と相続分が定められることになります。イスラム教徒については、ムスリム身分法の中からさらに、被相続人や被相続人の親族が信仰してきた学派ごとの慣習法が適用されることになります。
イスラム教には、スンニ派とシーア派が存在しており、スンニ派にはさらに4大学派(ハナフィー学派、シャーフィー学派、マーリク学派、ハンバル学派)が存在しています。スンニ派のハナフィー学派では、相続分と相続人の範囲について次のように定められています。
第1順位の相続人(主たる相続人)としては、①割当相続人、②アサバ、③非アバサが定められています。

①割当相続人とは、コーラン(イスラム教の聖典)において一定の相続分が規定されている相続人のことをいいます。具体的には、以下のとおり規定されています。

相続人 相続分
夫(常に相続権を有する) 1/4
妻(常に相続権を有する) 1/8
娘(常に相続権を有する) 1/2(2人以上のときは2/3)
父・母(常に相続権を有する) 1/6
息子の娘 1/2(2人以上のときは2/3)
祖父・祖母 1/6
全血姉妹 1/2(2人以上のときは2/3)
父方の半血姉妹 1/2(2人以上のときは2/3)
母方の半血姉妹・半血兄弟 1/6(2人以上のときは1/3)

割当相続人(上記の相続人)に含まれていない「息子」・「息子の息子」については、②アサバに分類されています。また、同じく割当相続人含まれていない「娘の娘」・「娘の息子」については、③非アバサに分類されています。
②アサバとは、コーランに相続分が規定されていない父方からなる相続人のことをいいます。アサバは、割当相続人が遺産を受け取った後の残余財産に対して権利を有するとされています。③非アバサとは、上記の①・②に属さない親族からなる相続人のことをいいます。
第2順位の相続人(次順位の相続人)は、第1順位の相続人(主たる相続人)がいない場合に、相続権を有することになります。次順位の相続人としては、④契約による相続人(奴隷を解放した者は奴隷だった者の遺産の相続権を取得します)、⑤承認された血族男子(被相続人によって承認されて親族とされた男子)、⑥国(国庫)が定められています。

日本法に基づく相続分と相続人の範囲

被相続人の国籍が日本であった場合、日本法に基づいて相続人の範囲と相続分が定められることになります。日本法においては、相続分と相続人の範囲について次のように定められています。

  1. 被相続人の配偶者は、常に相続人となります(890条)。
  2. 被相続人の子は、相続人となります(887条1項)。
  3. 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となります(889条1項)。
    一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者が先になる。
    二 被相続人の兄弟姉妹
  4. 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによります(900条柱書)。
    一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とされます。
    二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とされます。
    三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とされます。
    四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとされます。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とされます。
  5. 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます(902条1項本文)。
  6. 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができます(907条1項)。

フィリピンの相続税

フィリピンには、相続税(Inheritance Tax)はありませんが、被相続人の財産には6%の遺産税(Estate Tax)が課せられます。日本では、遺産取得税方式(各相続人に対し、相続した財産の額に応じて課税する方法)が採用されていますが、フィリピンでは、遺産税方式(相続人の数や相続割合などに関係なく、被相続人の財産に一括して課税する方法)が採用されています。遺産税方式の場合、納税義務者は被相続人となりますので、相続人は、被相続人の財産から遺産税等を差し引いた残りの財産を相続することになります。
また、フィリピンには相続税はありませんが、後述(「フィリピンの財産を相続した場合の日本における相続税」)のとおり、日本においては一定の場合に相続税の申告を行う必要があります。

フィリピンの財産を相続した場合の日本における相続税

被相続人と相続人のどちらかが日本に居住している場合

被相続人と相続人のどちらかが日本に居住している場合、つまり、亡くなった親がフィリピンに居住していて子供は日本に居住している場合や、亡くなった親が日本に居住していて子供はフィリピンに居住している場合などには、フィリピンに所在する財産についても日本において相続税が発生します。なお、日本国内の財産だけに課税される人のことを制限納税義務者、海外にある財産も含めて課税される人のことを無制限納税義務者といいます。

被相続人と相続人のどちらも日本に居住していない場合

被相続人と相続人のどちらも日本に居住していない場合、つまり、亡くなった親とその子供がともにフィリピンに居住している場合などには、①被相続人が日本を離れて10年以上経過していて、かつ、②相続人の国籍が日本国籍ではないか、もしくは相続人も日本を離れて10年以上経過していれば、日本における相続税を免れることができます。

日本において相続税が課されるか否かの判定フローチャート

Q1:被相続人は日本に居住していますか
↓ No  Yes → 課税
Q2:相続人は日本に居住していますか
↓ No  Yes → 課税
Q3:被相続人が日本を離れて10年以上経過していますか
↓ Yes  No → 課税
Q4:相続人の国籍は日本ですか
↓ Yes  No → 非課税
Q5:相続人が日本を離れて10年以上経過していますか
↓ Yes  No → 課税
非課税

外国税額控除

相続または遺贈によって日本国外の財産を取得した場合において、当該財産に日本の相続税と外国の相続税に相当する税が課されている場合には、外国で課された相続税に相当する金額を日本の相続税から差し引くことができる場合があります。このように、国際的な二重課税を調整するために外国で納付した税金額を一定の範囲で日本の相続税から控除する制度のことを「外国税額控除」といいます。

世界各国の遺産相続手続

当事務所が提供できるサービス

当事務所では、戸籍謄本等の必要書類の収集・英訳、相続人の範囲等に関する弁護士の法律意見書の作成、各証明書の収集・英訳、公証役場・外務省・大使館における認証手続など、現地の弁護士と連携を取りながら国際相続に関する手続全般のサポートを行うことができます。
国際相続でお困りの際は、TEL:03-5357-1750(受付時間9:00~18:00)にお電話いただくか、メールフォーム(「https://kslaw.jp/contact/」)にて、お気軽にお問い合わせ下さい。

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