• 2025.01.28
  • 一般企業法務

第三者委員会ガイドラインによるフジテレビの調査

はじめに

フジテレビでは、中居正広さんのトラブルについての第三者委員会を設置することが決定しました。当初は、フジテレビの顧問弁護士などを中心とする委員会を考えていたようですが、社会的非難が大きかったことから、日弁連の第三者委員会ガイドラインに基づく委員会とすることが決定したようです。今回のメールマガジンでは、日弁連のガイドラインに沿った第三者委員会を設置することで、今後どのようなことが起こるのかについての解説を行いたいと思います。

第三者委員会ガイドラインについて

企業や組織の不祥事が発生した場合に、企業や組織が自らの顧問弁護士等で組織する第三者委員会を立ち上げ、原因を解明し、対処方法を検討することが多くありました。しかし、企業と関係がある弁護士などが調査した場合、経営陣との人間関係から経営陣に忖度した内容の報告書が提出されることになり、結局経営陣を含めた責任の所在があいまいとなってしまいます。これでは、不祥事に対する適切な対処を行ったとはいえず、同様の事案を再発させてしまうリスクを軽減することができないことになります。

これまでは、いくつかの事例において、第三者委員会が経営陣と独立した者であるのかどうかが疑われ、その報告書についても信頼性に疑問が投げかけられることがありました。また、第三者委員会による不祥事調査ということは、必ずしも多くの弁護士が日常行っている業務という事ではありませんので、経験の少ない弁護士が就任することで調査が適切に行われない場合は、事実の解明につながらず、調査の内容や報告書の内容について会社や社会から不信感を持たれることも多くありました。

そこで、日本弁護士連合会(「日弁連」)では、2010年、「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を策定し、できるだけ日弁連のガイドラインに沿った独立した委員の人選や不祥事調査が行われるよう方針を定めることになりました。

日弁連のガイドラインでは、第三者委員会の活動として次のように記載されています。

第三者委員会は、企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事実認定を行い、これを評価して原因を分析する。

  1. 調査対象とする事実(調査スコープ)
    第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ。
  2. 事実認定
    調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う。
  3. 事実の評価、原因分析
    第三者委員会は、認定された事実の評価を行い、不祥事の原因を分析する。事実の評価と原因分析は、法的責任の観点に限定されず、自主規制機関の規則やガイドライン、企業の社会的責任(CSR)、企業倫理等の観点から行われる。

フジテレビの第三者委員会の組成

フジテレビでは、日弁連の第三者委員会ガイドラインにそって、独立の弁護士3名を委員とする第三者委員会を設置しました。委員は3名ですが、これをサポートする弁護士や公認会計士が30名から50名程度参加することになると思われます。弁護士事務所や会計士事務所のスタッフを合わせると100名程度が調査に参加するのではないかと思われます。

今後の調査の見通し

第三者委員会による調査は次のように行われると思われます。

・類似案件の調査
第三者委員会の調査対象は今回の特定の事案に限らず、類似の事案が他にあったかどうかについての調査を行うことになります。この点については、ほとんどすべての従業員からアンケートやヒアリングが行われ、類似案件のあぶり出しが行われるのではないかと思われます。フジテレビの社員だけでなく、フジテレビの番組に出演しているタレントやタレントを派遣する会社についても同様の調査が行われます。

・企業風土の調査
企業風土を問題とするため、今回の事案と類似した事案の有無だけでなく、ガバナンス体制や法令遵守の状況を全てチェックし、違反があれば改善を求めることになります。長時間労働など、労働法例の違反の有無だけでなく、セクハラやパワハラの有無についても調査されることになります。また、勤務時間後の飲み会などに、従業員の参加が実質上強制されていたのではないかということも調査されます。

・役員の処遇
多くの事例では、不祥事が生じた原因に企業風土の問題が挙げられます。その結果、そのような企業風土を作った役員の責任も問われることになります。企業風土の改善に積極的に対応することが求められますので、知らなかったというだけでは責任を免れることはできません。通常の場合、現経営陣がそのまま経営に関与することはできず、役員の総入れ替えとなると思われます。

・役員の責任追及
役員については、退職金が不支給となるだけでなく、会社に生じた損害について関与が認められる場合には、役員個人について損害賠償請求がなされることになります。役員の責任については、第三者委員会とは別の組織である責任追及委員会が設置され、役員の善管注意義務違反がなかったかどうかの調査が行われます。今回はスポンサーからの損害賠償や、調査費用の支出などもありますので、損害賠償請求額は数十億円に及ぶ可能性があります。役員について責任が認められる場合には、取締役及び監査役はそれぞれ連帯責任を負うことになりますので、特別の事情がない限り責任を免れることはできません。

・改善策
今後、フジテレビに出演する全ての俳優やタレントについては、コンプライアンスを遵守することや、女性関係や金銭関係で問題がないことの誓約書の提出が求められ、これに違反した場合は出演契約の解除だけでなく、損害賠償の対象となると思われます。また、番組自体についても、編集や撮影現場においてコンプライアンス上の問題がないかどうかが個別にチェックされることになります。

このように日弁連のガイドラインによる第三者委員会の権限は極めて強力ですので、ジャニーズが会社の存亡に発展するような大規模な風土改革を要求されたのと同様、フジテレビについても今後極めて大きな変革がなされるものと想定されます。

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