• 2025.02.05
  • 一般企業法務

第三者委員会ガイドラインによるフジテレビの調査

はじめに

フジテレビでは、中居正広さんのトラブルについての第三者委員会を設置することが決定しました。当初は、フジテレビの顧問弁護士などを中心とする委員会を考えていたようですが、社会的非難が大きかったことから、日弁連の第三者委員会ガイドラインに基づく委員会とすることが決定したようです。企業不祥事が生じた場合の企業調査については、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、人権侵害、内部統制違反など様々な概念が出てきます。本稿では、コーポレートガバナンスやコンプライアンスに関する各概念を整理し、第三者委員会の調査の進め方、取締役の責任、会社が再生するための改善策についてまとめてみたいと思います。

第三者委員会ガイドラインについて

企業不祥事などにおける第三者委員会ガイドラインは、日本弁護士連合会(「日弁連」)が策定したものです。今度は日弁連のガイドラインに沿った調査が行われることになります。

第三者委員会ガイドラインの目的

企業や組織の不祥事が発生した場合に、企業や組織が自らの顧問弁護士等で組織する第三者委員会を立ち上げ、原因を解明し、対処方法を検討することが多くありました。しかし、企業と関係がある弁護士などが調査した場合、経営陣との人間関係から経営陣に忖度した内容の報告書が提出されることになり、結局経営陣を含めた責任の所在があいまいとなってしまいます。これでは、不祥事に対する適切な対処を行ったとはいえず、同様の事案を再発させてしまうリスクを軽減することができないことになります。

不祥事を生じさせた会社が第三者委員会による調査を行い、原因と対策について検討することは多くありますが、いくつかの事例においては、第三者委員会が経営陣と独立した者であるのかどうかが疑われ、その報告書についても信頼性に疑問が投げかけられることがありました。また、第三者委員会による不祥事調査ということは、必ずしも多くの弁護士が日常行っている業務という事ではありませんので、経験の少ない弁護士が就任することで調査が適切に行われない場合は、事実の解明につながらず、調査の内容や報告書の内容について会社や社会から不信感を持たれることも多くありました。

そこで、日弁連では、2010年、「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を策定し、できるだけ日弁連のガイドラインに沿った独立した委員の人選や不祥事調査が行われるよう方針を定めることになりました。

第三者委員会の活動

日弁連のガイドラインでは、第三者委員会の活動として次のように記載されています。

第三者委員会は、企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事実認定を行い、これを評価して原因を分析する。

  1. 調査対象とする事実(調査スコープ)
    第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ。
  2. 事実認定
    調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う。
  3. 事実の評価、原因分析
    第三者委員会は、認定された事実の評価を行い、不祥事の原因を分析する。事実の評価と原因分析は、法的責任の観点に限定されず、自主規制機関の規則やガイドライン、企業の社会的責任(CSR)、企業倫理等の観点から行われる。

 

フジテレビの第三者委員会の組成

フジテレビでは、日弁連の第三者委員会ガイドラインにそって、独立の弁護士3名を委員とする第三者委員会を設置しました。委員は3名ですが、これをサポートする弁護士や公認会計士が30名程度参加することになると思われます。弁護士事務所や会計士事務所のスタッフを合わせると50名から100名程度が調査に参加するのではないかと推測されます。

第三者委員会の調査の範囲

フジテレビの第三者委員会は、日弁連の第三者委員会ガイドラインに基づいて設置された組織ですので、調査の範囲についても日弁連のガイドラインに沿って行われることになると思われます。前述のように日弁連のガイドラインでは、「第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ。」と規定されています。その結果、第三者委員会の調査対象は今回の特定の事案に限らず、類似の事案が他にあったかどうかについても調査を行うことになります。また、今回の事案を生じさせた原因の一つとして企業風土を問題とするため、ガバナンス体制や法令遵守の状況を全てチェックし、違反があれば改善を求めることになります。長時間労働など、労働法例の違反の有無だけでなく、セクハラやパワハラの有無についても調査されることになります。また、勤務時間後の飲み会などに、従業員の参加が実質上強制されていたのではないかということも調査されます。

第三者委員会による調査の仕方

第三者委員会による調査は、関係者からのヒアリングと関係する資料の確認によって行われます。関係者からのヒアリングについては、フジテレビの役員(全ての取締役、監査役、監査法人などを含む)や従業員だけでなく、フジテレビの番組に出演しているタレントやタレントを派遣する会社についても同様の調査が行われるものと思われます。また、個別のヒアリングが行われない従業員や取引先についても、アンケート調査などにより、コンプライアンス体制の不備がなかったかどうかの聞き取りがなされるものと思われます。また、関係資料の調査としては、社内規則やガイドラインなど、内部統制の整備と実効性の確保に関連する全ての資料が調査対象となります。第三者委員会は、役員・従業員からのヒアリングや関係資料の精査を行ったうえで、問題となった事実の有無についての認定を行います。

第三者委員会調査報告書

第三者委員会は、調査が完了した時点で調査結果報告書を作成し会社に提出することになります。調査途中における中間報告がなされることもあります。また、調査結果の報告書は本年3月末までに提出されることを予定しているようですが、調査の進捗具合により提出期限が延期される可能性もあります。調査報告書には、調査の目的、調査の方法、調査結果、問題点の指摘、改善方法などが含まれることになります。

コンプライアンス違反の判断

第三者委員会では、具体的な事実の有無についての判断(認定)を行った後、認定された事実をもとに、会社として、コンプライアンス違反があったかどうかが検討されることになります。コンプライアンスとは、法令遵守という意味ですが、現在では、社会規範や道徳規範を含め、ステークホルダーの要請に従った経営を行うことをコンプライアンスと言っています。従って、コンプライアンス違反の有無については、民法や会社法などの制定法の規定だけでなく、上場会社に求められる社会規範、道徳規範の有無も含めて判断されることになります。

コンプライアンスの実現のための会社法の規定

コンプライアンスの実現のためには、それぞれの会社が、会社の基本的な運営方針を定め、組織全体が会社の定めた方針に従って適切に運営される仕組みを作る必要があります。そこで、会社法では、会社に対して、内部統制と言われる仕組みを作り、その実効性を確保することを求めています(会社法362条4項6号、362条5項)。

内部統制を実施する主体

会社法362条4項6号では、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適性を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」について取締役会で定めることとし、内部統制システムの整備が取締役個人の責任ではなく、取締役会の責任であることが明確化しています。また、大会社である取締役会設置会社においては、内部統制システムの整備が義務付けられています(会社法362条5項)。このように大会社においては、内部統制の整備を行い、それを実効性あらしめることは取締役会の義務であり、それに違反した場合には、取締役会を構成する全ての取締役について責任が問われることになります。

内部統制違反の有無の調査

会社法における内部統制の規定は、会社の業務の適正性を確保し、会社や利害関係者に損失が生じることを未然に防ぐことを目的としています。そのため、会社の経営方針を定め、事業上で生じるリスクを未然に防ぐ体制を整備し、問題が生じた場合の管理規定を整備することで、リスクの管理を行う必要があります。また、内部統制は規定を整備するだけではなく、それらの規定が実効的に運用されているかどうかも問題とされます。内部統制の規定の整備が不十分な場合や、実効的な運用がなされていない場合は、コンプライアンス(法令遵守)に違反しているものと評価されることになります。そこで、第三者委員会では、このような内部統制システムが整備されていたかどうか、またその内部統制システムが実効性あるものとして運用されていたかどうかを調査することになります。

ESG及びCSRとの関係

最近、イギリスにおける現代奴隷法や、ドイツにおけるサプライチェーンデューデリジェンス法などが問題とされています。日本では、人権侵害が生じない体制を作ることが法律で直接的に規制されているわけではありませんが、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮したESG経営が求められたり、持続可能な社会の形成についての企業の社会的責任(CSR)が問われることがあります。これらのESGやCSRの考え方に反することで企業が多額の損失を被った場合には、会社としての適正なリスク管理がなされていなかったということになります。このようにESGやCSRの考え方は、企業のリスク管理という観点から内部統制に組み込まれており、これに違反した場合は内部統制違反と評価される可能性があります。

フジテレビコンプライアンスガイドラインとの関係

フジテレビでは、全ての役員及び従業員が遵守すべき内部規範として、「フジテレビコンプライアンスガイドライン」を策定し、公表するとともに、「当社の企業理念及び番組基準などに掲げられた社会的責任、社会貢献、明るい職場の実現のために本ガイドラインを遵守することを宣言します。」としています。フジテレビコンプライアンスガイドラインの行動指針として、人権を尊重することが掲げられています。人権尊重に関するフジテレビコンプライアンスガイドラインの内容は次の通りです。

  1. 私たちは、放送する番組及び事業活動を通じて、多様な価値観を重んじ、人権を尊重します。
  2. 私たちは、人権侵害行為や不当な差別を許さず、フジテレビの事業活動により影響を受けるすべてのステークホルダー(取引先をはじめとする関係者、取引対象者等を含む。以下同じ。)の人権が侵害されることがないよう、最善を尽くします。
  3. 私たちは、従業員やその他のステークホルダーから、人権侵害に関する情報提供や相談を受けた場合には、真摯に耳を傾け、適切に調査し、必要な対策を速やかに講じます。
  4. 私たちは、自らの事業活動において、何らかの人権侵害行為が行われた可能性のあることが判明した場合には、速やかに誠実に対応し、必要な検証と対策を行います。
  5. 私たちは、働く者ひとりひとりの人権を尊重し、不当な差別やハラスメントのない、安全で自由闊達な職場環境を大切にします。また、ひとりひとりが生き生きと働くことができる企業であることで、個人やチームが最大限のパーフォーマンスを上げられる状態を目指します。

また、ステークホルダーとの健全な関係のところでは、社会通念上不適切な接待、贈答、利益供与をしないことを宣言しています。
フジテレビコンプライアンスガイドラインは、コンプライアンスに従った企業運営を行うための内部規範として内部統制に組み込まれていますので、これに違反した場合は内部統制に違反したと評価されることになります。

フジ・メディア・ホールディングス・グループ人権方針との関係

フジ・メディア・ホールディングスでは、全てのグループ企業に適用される人権方針を策定し、「放送の公共的使命と社会的責任を常に認識し、メディア・コンテンツ、および、都市開発・観光を中心とした幅広い事業活動を通じて、国民の皆様の豊かな生活に貢献することを経営の基本方針としております。この基本理念に基づき、人権が尊重される社会の実現に力を尽くしてまいります。」と宣言しています(以下「フジテレビ人権方針」といいます)。フジテレビ人権方針では、人権尊重へのコミットメントとして、次の内容が規定されています。
(1)差別・ハラスメントの禁止
多様性を尊重し、いかなる差別も行いません。また、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント等、あらゆる形態のハラスメント、いじめ、不当な扱いを認めません。
(2)適正な労働環境
強制労働、児童労働を認めません。また適正な労働時間、安全で健康的な職場の形成など、安心して働くことができる労働環境の整備に努めます。
(3)メディアグループとしての人権尊重
メディアが与える社会的な影響力の大きさを認識し、提供するコンテンツやサービスを通じて、基本的人権の尊重につながるよう努めます。出演者や取材対象者の権利を尊重し、これを侵害しないよう最大限に努めます。
フジ・メディア・ホールディングス・グループ人権方針は、フジテレビコンプライアンスガイドラインと同様、フジメディアグループに属する全ての企業に対して適用される内部規範として内部統制に組み込まれていますので、これに違反した場合は内部統制に違反したと評価されることになります。

内部統制違反の場合の取締役の責任

会社法では、内部統制の策定及び実効性の確保について取締役会の責任であることを明確にしています(会社法348条3項4号)。また、大会社である取締役会設置会社においては、内部統制の体制整備が義務付けられています(会社法348条5項)。従って、取締役が内部統制の整備を怠ったり、内部統制の実効性の確保ができていない場合には、取締役会を構成する取締役は、会社に対して損害賠償責任を負うことになります(会社法423条1項)。会社の取締役の責任は連帯責任とされています(会社法430条)。フジテレビの場合、内部統制の規定自体は整備されていると思われますので、その実効性の確保がなされていたかどうかが、取締役の会社に対する損害賠償責任を判断する基準になると思われます。

金融商品取引法の内部統制報告書との関係

上場会社は、金融商品取引法に定められた内部統制報告書の提出義務がありますので、金融商品取引法における内部統制報告書の制度についても検討する必要があります。

金融商品取引法における内部統制報告書

金融商品取引法24条の4の4第1項では、上場会社に対して、「事業年度ごとに、当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した報告書(内部統制報告書)を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない。」と定めています。これは、J-SOX法と呼ばれるもので、アメリカのSOX法を参考に導入されたものです。上場企業の財務報告の信頼性の確保を目的としていますので、会社法における内部統制報告書とは内容が異なることになります。フジテレビも上場会社ということですので、代表取締役が内部統制の整備及び評価を行い、内部統制が適正に機能していることを誓約する内容の内部統制報告書を提出しているものと思われます。内部統制報告書は有価証券報告書の記載内容が適切であることを担保するものであると言えます。

財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

金融商品取引法における内部統制報告書に関し、金融庁では、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」として次の6つの基本的要素を提示しています。金融商品取引法の内部統制報告書は、財務報告の信頼性を確保することを目的とするものですが、金融庁の基準による限り、計算書類の作成以外の分野を含む広範な規定の整備が求められることになります。

  1. 統制環境(誠実性・倫理観、経営者の姿勢、経営方針等、全ての統制要素の基盤)
  2. リスクの評価と対応(リスクが適切に評価され、リスクに適切に対応していること)
  3. 統制活動(経営者の命令・指示が適切に実行される体制が整っていること)
  4. 情報の伝達(組織内外の関係者に必要な情報が正しく伝えられていること)
  5. モニタリング(内部統制が有効に機能していることを継続的に評価していること)
  6. ITへの対応(ITへの対応が適切になされていること)

 

J-SOX法(内部統制報告書制度)に違反した場合

金融商品取引法に定める内部統制報告書に関し、「重要な事項についての虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているとき」は、当該書類(内部統制報告書)が公衆の縦覧に供せられている間に株式の売買を行った者に対して虚偽報告などによって生じた損害の賠償をする責任を負うことになります(金融商品取引法21条の2第1項)。前述のように、金融商品取引法による内部統制報告書は、財務報告の信頼性の確保を目的とするものですが、統制環境やリスク要因についての評価も含まれます。フジテレビの企業風土が原因で、今回のような不祥事を生じさせたと言える場合には、フジテレビが提出していた内部統制報告書については、統制環境やリスク要因について重要な事項についての虚偽の記載があり、または重要な事実の記載が欠けていたと評価される可能性があります。その結果、株価の下落により投資家が損失を被ったと言える場合には、会社は株価の下落により損失を被った投資家に対して損害賠償責任を負うことになります。

コーポレートガバナンスコードとの関係

東京証券取引所では、内部統制を含むコーポレートガバナンス全般が適切に運営されていることを確認するため、コーポレートガバナンスコードを策定し、東京証券取引所に上場する企業に対してコーポレートガバナンス報告書の提出を義務付けています。コーポレートガバナンスコード原則2-2では、「上場会社は、ステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重、健全な事業活動倫理などについて、会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則を定め、実践すべきである。取締役会は、行動準則の策定・改定の責務を担い、これが国内外の事業活動の第一線まで広く浸透し、遵守されるようにすべきである」と定めています。また、コーポレートガバナンスコード補充原則2-3①では、「取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適切な取引、自然災害への危機管理など、サステナビリティをめぐる課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである」と定めています。今回の第三者委員会の調査においては、これらのコーポレートガバナンスコード違反の有無についても調査されることになると思われます。

コーポレートガバナンスコードに違反した場合

上場会社がコーポレートガバナンスコードに違反した場合でも、上場会社の役員について直ちに損害賠償の責任が生じたり、上場会社に対してペナルティが科せられたりするわけではありません。しかし、コーポレートガバナンスコードに違反した上場会社は証券取引所に対して違反の理由を説明する必要があり、場合によっては企業名の公表などの措置が取られる可能性もあります。

取締役のフジテレビに対する損害賠償責任

フジテレビの取締役が会社(フジテレビ)に対して損害賠償責任を負うのかどうかが問題となります。

フジテレビの債務不履行

フジテレビとスポンサー会社は、スポンサー契約を締結しており、スポンサーはフジテレビに対してスポンサー料を支払うことになっています。今回の不祥事により、多くのスポンサーがスポンサー料の支払いを拒否しており、フジテレビもこれを請求しないとしているようです。今回の不祥事は、物理的にコマーシャルの放映ができない状態になったわけではありませんので、民法上の不可抗力(民法415条1項但書き)を構成するものではありません。一方でスポンサー各社は、それぞれ人権方針を掲げており、これに違反する形での取引はできないことになっています。フジテレビもスポンサー各社の人権方針を理解した上で、スポンサー契約を締結しているわけですので、スポンサーの人権方針に違反しないような形での放映を行う環境を整備するということはフジテレビの側の義務として、スポンサー契約に組み込まれているということができます。その結果、フジテレビの側に債務不履行があったということになり、スポンサー会社は反対給付であるスポンサー料金の支払いを拒否することができるということになります。

取締役の善管注意義務

会社の取締役は、会社との委任契約に基づき、会社に損害が生じないように善良な管理者の注意義務(「善管注意義務」)をもって会社を経営する責任を負っています(会社法330条、民法644条)。フジテレビは、公共放送を扱うメディアとして、スポンサーの人権方針に従った体制を整備し、スポンサー契約を履行する環境を整備する義務を負っていたと言えます。このような体制の整備が行われておらず、その結果債務不履行を生じさせたと言える場合には、取締役は善管注意義務に違反して会社に損害を与えたことになりますので、会社に対する損害賠償責任を負うことになります。

企業風土に関する調査

冒頭に述べた通り、第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係とされていますが、それに止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶとされています。第三者委員会では、スポンサー契約に基づくコマーシャル放映の提供が不能となった事情のみならず、フジテレビの企業風土自体が今回の不祥事の原因となっているのではないかと言う点についての調査も行われることになると思われます。

会社法における内部統制違反の可能性

上記の通り、フジテレビの取締役は、会社に対して、内部統制を整備し、内部統制を実効性有らしめる義務を負っています。また、内部統制については、単なる法令遵守のみならず、人権尊重などの社会規範も含まれることになります。もし、フジテレビの企業風土に問題があり、人権違反ガイドラインに定められた基準に反することを理由にスポンサー契約が解除されたものとすると、そのような企業風土を放置してきたこと自体が、内部統制の構築及び運用が適切に行われていなかったということになります。そこで、今回の第三者委員会においては、会社法に定める内部統制違反があったのかどうかについての判断も行われるものと思われます。

内部統制違反による取締役の責任の範囲

上述の通り、取締役は、会社法に基づき内部統制の規定を整備し、実効的に運用していく義務を負っています。内部統制の規定に不備があり、又はそれが実効的に機能していない場合には、取締役は会社に対して責任を負うことになります。上記5-2は、スポンサー契約で定めた義務を履行できなかったことについての取締役の責任の問題ですので、調査の対象もスポンサー契約の履行義務に関連する範囲に絞られることになりますが、会社法の内部統制義務違反については、より広範な観点から違反の有無が判断されることになります。損害賠償責任の範囲については、内部統制の構築及び実効性の確保と相当因果関係のある全ての損害に及びますので、スポンサーの離脱などにより会社に生じた損害の他、第三者委員会の設置、運営に要する費用なども会社の損害とみなされることになります。

責任追及委員会

会社法に基づく取締役の善管注意義務違反の有無や内部統制義務違反の有無については第三者委員会の調査対象となると思われますが、個々の取締役・監査役の責任については、第三者委員会とは別の組織である責任追及委員会が設置され、個々の役員について責任があったかどうかの調査が行われます。役員について責任が認められる場合には、取締役及び監査役はそれぞれ連帯責任を負うことになりますので、特別の事情がない限り責任を免れることはできません。

改善策

調査結果を踏まえた改善策の提案も第三者委員会の調査報告の対象となります。第三者委員会から提案される改善策については、組織の在り方や運営方法など企業統治全般に及ぶものと思われます。

役員の処遇

多くの事例では、不祥事が生じた原因に企業風土の問題が挙げられます。その結果、そのような企業風土を作った役員の責任も問われることになります。企業風土の改善に積極的に対応することが求められますので、知らなかったというだけでは責任を免れることはできません。通常の場合、現経営陣がそのまま経営に関与することはできず、役員の総入れ替えとなると思われます。

外部の取引先との契約の見直し

今後、フジテレビに出演する全ての俳優やタレントについては、コンプライアンスを遵守することや、女性関係や金銭関係で問題がないことの誓約書の提出が求められ、これに違反した場合は出演契約の解除だけでなく、損害賠償の対象となると思われます。また、番組自体についても、編集や撮影現場においてコンプライアンス上の問題がないかどうかが個別にチェックされることになるのではないかと思われます。

企業法務の最新情報をお届けする無料メールマガジン

栗林総合法律事務所 ~企業法務レポート~

メルマガ登録する