オランダ企業による日本の会社の株式譲渡をサポートした事例
事案の概要
オランダの友人(弁護士)から、オランダの企業が有する日本子会社の株式をスイスの企業に譲渡する際の手続きについて協力して欲しいとの依頼がありました。売主はオランダの企業であり、買主もスイスの企業であることから、外外(そとそと)案件になります。このようなクロスボーダー取引であっても、対象となる会社が日本企業である以上、株式の譲渡手続きについては日本の法令に従って行う必要があります。そこで、オランダの弁護士は、当事務所に対して、株式譲渡契約書(Share Purchase Agreement)のレビューを行うとともに、日本の会社の株式を譲渡する際に必要となる日本法についてのアドバイスをして欲しいと言われました。なお、株式譲渡契約書については、Share Purchase Agreementの頭文字を取ってSPAと言われます。なお、本件取引では、オランダ企業は、世界の各国に対して子会社を所有していたところ、オランダ企業としては日本の会社の株式だけではなく、オランダの企業が所有しているグループ会社全部をスイス企業に譲渡し、本社機能をスイスに移転することが背景的な事情でもあるようでした。
クロスボーダーM&Aのポイント
外国の個人や法人が対内直接投資を行う場合で、上場会社の発行済み株式総数の1%以上の株式を取得する場合や、非上場会社の株式を取得する場合には、外為法による事前又は事後の届出が必要となっています。2019年8月の法律改正により、サイバーセキュリティーの確保の必要性や安全保障上重要な技術の流出防止の観点から、情報通信分野やソフトウェアの開発に関する分野に従事する会社が対象業務に追加されました。そのため、外為法上の届出が必要となる範囲は格段に広くなっています。外為法による事前届出、事後報告については、外国法人や外国企業が日本への投資を行う場合に必要となりますので、外国会社の子会社を設立する場合や、外国企業や外国の個人が日本法人の株式を取得する場合には、常に外為法の規制について検討する必要が出てきます。
栗林総合法律事務所における作業の結果
栗林総合法律事務所では、これまで多くの国際的M&A案件を取り扱ってきました。本件は、スイス企業とオランダ企業に対してそれぞれ本国の法律事務所が関与しており、当事務所はこれらの法律事務所のサポートを行う立場になります。また、グループ企業全部を一括して譲渡することを検討されていますので、株式譲渡契約書(SPA)の内容についても、既に多くの弁護士から意見が出されており、当事務所が関与できる範囲は限られていました。しかしながら、取引の概要を把握する必要はありますので、株式譲渡契約書(SPA)の内容については、全部読ませていただきました。その上で、当事務所に期待されているのは、日本の会社の株式譲渡についての法的手続きについてアドバイスを行い、この手続きが確実に実行されことを担保することにあります。また、本件のようなM&A案件においては、会社の役員・従業員に対する士気を低下させたくないということで、M&A案件がクローズする段階まで、M&Aの対象となる日本の会社の役員・従業員に対しては一切連絡をとらないようにと指示されることがあります。そこで、当事務所としては、会社の商業登記簿謄本や定款などを確認し、本件会社の株式が譲渡制限のある会社の株式であることや、また日本の子会社が取締役会のない会社であり、株式譲渡承認については取締役会の承認決議ではなく、株主総会の承認決議を要することなどを確認しました。そこで、当事務所において、オランダの弁護士宛に日本子会社の株式譲渡手続きについてeメールで報告をするとともに、株式譲渡を承認する内容の株主総会議事録、株主名簿書換請求書、株式移転後の株主名簿などを作成し、関係当事者から押印をいただき、手続きを完了させました。なお、これらの書類については、依頼者や関係者がその内容を把握し、チェックすることができるようにするために全て英語と日本語の併記で作成しています。ヨーロッパの企業では、内容の分からない日本語のみの契約書に調印することについては懸念があると思いますので、各種関係書類を日本語と英語の併記で作成することや、日本の会社法の内容を英語で説明できることは、最低限必要となってきます。
栗林総合法律事務所のサービス内容
外国企業が日本企業の株式を譲渡したり取得したりする場合は、国境をまたいだ取引となるため、クロスボーダーM&Aと言われます。クロスボーダーM&Aにおいても、対象となる会社(ターゲット会社)が日本企業の場合と外国企業の場合があります。対象となる会社(ターゲット会社)が外国企業の場合は、日本企業が売主または買主として関与する場合になりますので、日本企業による海外進出支援の中で説明をさせていただいています。一方、対象となる会社(ターゲット会社)が日本企業の場合、売主または買主のいずれか一方または双方が外国企業の場合をクロスボーダーM&Aと呼びます。当事務所では、このようなクロスボーダーM&A案件においても、売主または買主を代理してM&A案件のサポートをさせていただいております。当事務所では、日本企業が所有する日本の会社の株式をヨーロッパの会社に譲渡する際に、売主である日本企業をサポートした案件や、ヨーロッパの企業が所有する日本の会社の株式を日本の会社に譲渡する際に、買主である日本企業をサポートした案件など、様々なクロスボーダーM&Aをサポートしてきた実績を有しております。上記の案件は、対象となる会社が日本企業ですが、売主も買主も外国企業となりますので、一般的に外々案件と言われるものです。これらのクロスボーダーM&A案件における当事務所のサービスは大きく分けて3つのフェーズに分けられます。第1のフェーズが、契約締結前の入札やDDの段階であり、当事務所では、秘密保持契約書、レターオブインテントの作成支援、入札手続きが行われる場合のNon-Binding OfferやBinding Offerの作成支援を行います。当事務所では、コンサルタントとして活動する外国人の弁護士(アメリカでの弁護士資格を有する弁護士)を有していますので、ネイティブの弁護士がドキュメントの内容を確認しますので、クオリティの高い各種書類の作成が可能となります。また、日本企業が対象となる場合は、日本人弁護士による法務監査(デューデリジェンス)が必要となることが多くあります。当事務所では、買主の会社を代理して、対象となる日本企業の法務監査(デューデリジェンス)を行うことが多くあります。法務監査報告書(デューデリレポート)については、日本語だけでなく、英語で作成することも多くあります。第2のフェーズはM&Aの契約交渉の場面です。当事務所では、株式譲渡契約書(SPA)の作成や修正だけでなく、相手方となる外国企業(またはその代理人である弁護士)との協議交渉も代理して行ったり、依頼者をサポートして行ったりします。最近では、Zoomによる契約交渉が主流ですので、依頼者とともにZoom会議に参加し、事前に依頼者との打ち合わせの中で確認した事項を英語で説明したり、契約条項の修正を英語で提案したりすることになります。第3のフェーズは、クロージングの段階で、SPAが合意された後、コンディション・プレシーデント(Condition Precedent)の内容を確認し、取引の前提条件が満たされるように依頼者をサポートしておきます。また、クロージングの際には、クロージング・サーティフィケイト(Closing Certificate)やディスクロージャーレター(Disclosure Letter)の作成提出支援や、取引内容を承認する対象会社や当事者会社の取締役会議事録、株主総会議事録を英語と日本語で作成し、必要に応じて公証役場での認証を得たり、アポスティーユ(Apostille)の取得を行ったりします。また、M&Aが行われる場合には、増資が行われたり、役員変更が行われることも多くありますので、役員の変更登記や発行済株式総数の変更登記手続きを代理して行います。なお、最近では、独占禁止法や外為法に関する手続きの要否についても注意が必要となります。当事務所では、これらの手続きの要否についても検討し、その結果を依頼者に報告し、必要に応じて各種届け出書を作成・提出します。外国企業を代理して日本子会社の株式譲渡をサポートするサービスについては、通常タイムチャージで行っております。M&A案件のサポートをご依頼いただいた段階で、事前に日本語または英語により委任契約書(Engagement Agreement)を締結し、当事務所の弁護士報酬について明確化させていただいております。パートナー弁護士の1時間当たりの弁護士費用は5万5000円となります。アソシエイト弁護士の1時間当たりの弁護士費用は3万3000円となります。毎月、弁護士が使用した時間に、各弁護士のビラブルレート(時間当たりの単価)を乗じた金額を明細書とともに請求させていただくことになります。毎月請求書とともに、請求明細書を日本語または英語で作成し、依頼者に対して提出いたしますので、依頼者は当事務所で行った業務内容や支払うべき弁護士費用の概算額について把握することが可能です。万一報酬について意見の相違がある場合には、依頼者からの意見をうかがい報酬金額について調整させていただくこともあります。なお、本件のようなクロスボーダーM&A案件(当事者の一方又は双方が外国企業であるため、国境をまたぐM&A案件)については、ほとんどの法律事務所がタイムチャージ制を提案されていると思いますが、万一固定報酬をご希望される場合は、ご相談させていただきますので、お問合せください。当事務所でも、グループ企業間の経営権の移転に関する案件において、費用を節約したいとの依頼者のご希望を配慮し、固定報酬の御提案をさせていただいたこともあります。