• 2020.09.01
  • 外資系企業の法務

日本における労働規制

現地採用(日本における従業員の確保)について

日本において、従業員を雇用するためには、雇用契約を締結する必要があります。雇用契約の締結に際しては、賃金や労働時間などの労働条件について書面で交付しなければなりません(労働基準法第15条、同法施行規則第5条)。また、従業員とはなりませんが、業務委託という形で労働力を確保する方法もあります。この場合、雇用契約ではなく、業務委託契約を締結します。雇用関係にはないため、雇用主としての責任を負うことはありません。

雇用主について

日本に日本法人や日本支店がある場合、雇用主は当該日本法人や日本支店となるのが通常です。但し、外国法人が雇用主となり雇用契約を締結したうえで、日本法人や日本支店で働かせることもあります。この場合、日本で就労する労働者と外国法人との間に直接の雇用関係が締結されることになります。

駐在員事務所の場合

日本に、日本法人も日本支店もなく、駐在員事務所のみ場合には、駐在員事務所が雇用主 となることはできないため、外国の親会社が雇用主となります(外国の親会社と直接雇用契約を締結します)。また、駐在員事務所の代表者が雇用主となり、雇用契約を締結することもできますが、駐在員事務所の代表者が個人として雇用主の責任を負うことになりますので、一般的には採用されないと考えます。

雇用期間について

雇用契約には、大きく期間の定めのない雇用契約(無期雇用)と期間の定めのある雇用契約(有期雇用)の2種類があります。有期雇用の場合は、医師等の専門的な職業など一定の場合を除き、3年を超えた期間の契約は締結することはできません(労働基準法第14条)。また、有期雇用の契約期間が通算5年を超えた場合、当該従業員は、無期雇用の申込みをすることができ、雇用主は、無期雇用として雇用しなければなりません(無期転換。労働契約法第18条)。さらに、有期雇用の場合、契約期間が満了するまでの間、「やむを得ない事由」がある場合でなければ従業員を解雇することはできず、無期雇用に比べて解雇の適法性がより厳格に判断されます(労働契約法第17条)。

就業規則について

常時10人以上の労働者を雇用する雇用主は、就業規則(会社のルール)を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第89条)。また、就業規則の作成、変更には、事業所(事務所)の労働組合、又は(労働組合がない場合には)労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。作成した就業規則は、各事業所(事務所)の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければなりません(労働基準法第106条)。なお、雇用する労働者が10人以下の場合には、就業規則を定める必要はありませんが、紛争防止のために、就業規則を作成することが望ましいと考えます。

労働者の過半数を代表する者

労働者の過半数を代表する者は、投票、挙手などにより民主的に選出される必要があります。また、一般的には部長、工場長など、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある人は対象外となります。多くの企業で、代表者が自分の好ましい社員を指定するなどして、労働者の過半数を代表する者の選出が適切に行われていないことがあります。

就業規則に定めるべき事項

就業規則に必ず定めなければならない事項は以下の通りです。 ①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項 ②賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 ③退職に関する事項(解雇の事由を含む。) 以下の事項を事業所(事務所)にて定める場合には、以下の事項も就業規則に定めなければなりません。 ①退職手当に関する事項 ②臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項 ③食費、作業用品などの負担に関する事項 ④安全衛生に関する事項 ⑤職業訓練に関する事項 ⑥災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項 ⑦表彰、制裁に関する事項 ⑧その他全労働者に適用される事項

労働時間・休憩について

雇用主は、原則として、労働者に対して、一日に8時間、一週間に40時間を超えて労働をさせることはできません(労働基準法第32条)。また、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を与えなければなりません(労働基準法第34条)。

休日について

雇用主は、原則として、毎週少なくとも1日もしくは4週間で4日以上の休日を与えなければなりません(労働基準法第35条)。

時間外労働・休日労働について

雇用主が、時間外労働・休日労働をさせる場合は、労働組合又は(労働組合がない場合には)労働者の過半数を代表する者との書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に提出しなければなりません(労働基準法第36条)。もっとも、36協定を締結した場合でも、原則として、時間外労働は月45時間、年360時間までしかさせることはできません。

時間外・休日・深夜労働の割増賃金について

雇用主が、労働者に対して法定時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合には、それぞれ以下に定める割合で割増賃金を支給しなければなりません。

法定時間外労働

時間外労働時間 月60時間まで
1時間当たりの平均賃金の1.25倍×時間外労働時間数

時間外労働時間 月60時間を超えた場合
1時間当たりの平均賃金の1.5倍×時間外労働時間数

休日労働

法定休日に勤務した場合
1時間当たりの平均賃金の1.35倍×休日労働時間数

深夜労働

22時から5時までに勤務した場合
1時間当たりの平均賃金の1.25倍×深夜労働時間数

有給休暇について

雇用主は、雇用の日から起算して6ヶ月間継続して勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して最低以下に定める日数の有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。以下の基準を超える日数の有給休暇を与えることは可能です(実際に、日本の大手企業では、以下の基準を超える日数の有給休暇を与える場合があります。)。また、時間単位での有給休暇を与えることも可能です。なお、有給休暇5日については、取得義務があるため、雇用主は、労働者に必ず取得させなければなりません。なお、日本の法律上、有給休暇の買取制度は存在しないため、有給休暇を買い取って、従業員に有給休暇を取得させないということはできません。

勤続期間 6か月 1年6か月 2年6か月 3年6か月 4年6か月 5年6か月 6年6か月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

給与・賞与について

日本では一般的に、給与は、基本給+各種手当(役職による手当、勤続年数による手当、家族手当、住居手当等)で構成されていますが、各種手当の支給については義務ではなく、基本給以外の手当を支給するか、また、支給するとしてどのような手当を支給するのかは、雇用主の判断となります。また、賞与(ボーナス)の支給も義務ではなく、支給するか否かは、雇用主の判断となります。もっとも、各種手当、賞与について、雇用契約や就業規則で支給する旨を定めている場合には、雇用契約や就業規則に従って、支給する義務があります。なお、最低賃金法によって都道府県ごとの最低賃金が定められているため、当該最低賃金以上の給与を支払わなければなりません。令和元年10月1日における東京都の最低賃金は時給1,013円です。

退職金について

雇用主は、原則として退職金を支払う義務はありません。退職金を支給するか否かは、雇用主の判断となります。但し、退職金規定等、退職金の支給に関する会社の規則がある場合や、長年の慣習上退職金の支給を行うのが通常とみられる場合は、退職金の支給は会社の義務となりますので、会社は退職金の支給を拒むことはできません。

傷病手当金について

従業員が連続する3日間を含む4日以上仕事に就けなかった場合、従業員は、自身が加入する健康保険から傷病手当金の支給を受けることができます。もっとも、有給休暇を利用するなどして、就業していない間の給与を受け取った場合には、傷病手当金の支給は受けられません。また、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)や病気と見なされないもの(美容整形など)は傷病手当金の支給の対象外となります。駐在員事務所の場合、従業員が健康保険に加入できない場合があります。

休業手当について

雇用主側の事情(雇用主の責めに帰すべき事由)により従業員を休業させる場合は、休業期間中、従業員に対して、平均賃金の60%以上の手当て(休業手当)を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。他方、不可抗力により休業せざるを得ない場合には、雇用主は従業員に対して、休業手当は支払う必要ありません。不可抗力とは、例えば、大震災などが当てはまりますが、(1)その原因が事業の外部より発生した事故であること、(2)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。

解雇について

雇用主は、解雇について客観的合理的な理由があり、かつ、解雇が社会通念上相当であると認められる場合に限り、従業員を解雇することができます(労働契約法第16条)。また、原則として、解雇する場合には、少なくとも解雇の30日前に解雇の予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。30日前の予告をしない場合、会社側は30日に不足する平均賃金を労働者に支払わなければなりません(例えば、15日前に予告した場合は、15日分以上の平均賃金を支払う必要があります。)。

雇用契約書(Employment Agreement)

当事務所では、日本の会社が外国人を雇用する場合の雇用契約書(EmploymentAgreement)、就業規則(Work Rules)、賃金規定(Payment Regulations)、秘密保持契約書(NDA)、従業員の誓約書などを日本語及び英語で作成します。また、外国人労働者の解雇など雇用問題全般について外国法人やその子会社、海外の国の駐日大使館・駐日領事館などへのアドバイスも行っています。

労務分野における弁護士報酬

当事務所では、顧問契約を締結いただいた外国企業又はその子会社に対して、労務に関するコンサル業務及び雇用契約書・就業規則などの作成業務を行っています。コンサル業務は日本語及び英語で行います。雇用契約書、就業規則、その他会社関係規則については日本語と英語で作成します。標準的顧問弁護士報酬(消費税込)は、次の通りです。

労務分野に限定したコンサル業務 月額11万円
労務分野でのコンサル+株主総会・取締役会のコンサル 月額22万円
契約書、コーポレート、労務を含む会社全般についてのアドバイス 月額33万円

各種規則作成に関する弁護士報酬(消費税込)

当事務所では、就業規則、雇用契約書、賃金規定等の各種書類を固定報酬で作成いたします。報酬の金額については会社の規模や業種によって異なる可能性がありますので、その都度お問合せいただきますようお願いします。

英文就業規則作成 44万円から66万円
英文雇用契約書作成 11万円から22万円
英文給与規定の作成 11万円から22万円
英文会社関係規則の作成 個別にお問合せください

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