• 2020.09.01
  • 個人の法律相談

離婚の手続きと弁護士の活動

離婚の種類

離婚の種類には、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の4つがあります。どのような手続きを経て離婚を行うかによる分類です。

離婚協議

協議離婚は、夫婦の合意によって成立する離婚です。日本では、9割以上が協議離婚といわれています。金銭面などの条件についても、裁判所などの第三者の介入がなく、当事者間で自由に決めることができます。一方で、協議離婚を成立させるためには、離婚に附帯する様々の事項についても合意に至らなければならず、関係が悪化している当事者間での話合いは、困難を伴います。当事務所は、依頼者にとって最善の条件での協議離婚の成立を目指し、依頼者に代わって相手方との交渉を行ないます。

離婚協議書

協議が調った場合には、合意内容について「離婚協議書」を作成いたします。離婚時に夫婦間で約束した事柄について、口約束ではなく離婚協議書の形で残しておくと、離婚後に夫婦間で争いが生じたときに夫婦で約束した内容を確認できる資料となります。離婚時に協議離婚において取り決めるべき附帯事項として、(ア)財産分与の金額と支払期日、(イ)慰謝料の金額と支払期日、(ウ)養育費の金額と支払期日、(エ)子どもの親権者・監護者、(オ)面接交渉権等が挙げられます。離婚協議書を作成したら、市区町村に離婚届を提出して、離婚が成立します。一般に、離婚協議書は離婚届での前に作成することが多いですが、離婚の成立後になることもあります。

強制執行認諾文言付公正証書

財産分与、養育費、慰謝料等の財産的給付については、支払われない場合の履行確保のため強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することもお勧めしております。強制執行認諾文言とは、「甲は、本契約上の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨認諾した。」といったものです。強制執行認諾文言があることによって、養育費や慰謝料などの金銭の支払いが滞った場合に、裁判所で確定判決を得ることなく、強制執行手続に移ることができます。公正証書に基づいて、債務者の給与や預貯金を差し押さえる手続は、まず、離婚公正証書を作成した公証役場に出向き、離婚公正証書の正本と執行文の付与を申し立てます。次に債務者の住所地を管轄する裁判所に債権差押え命令の申立てを行います。裁判所から債務者や第三債務者(給与の場合には給与を支払う会社、預貯金の場合には銀行など)に対して差押え命令が送達され、送達から1週間で差押えをすることができるようになります。

夫婦関係調整調停

協議離婚が困難である場合、調停離婚に向け家庭裁判所に対する「夫婦関係調整調停」の申立てを行います。離婚の合意はできているが、上記(ア)から(オ)などの附帯事項について協議が調わない場合にも、家庭裁判所に対して調停の申立てを行います。離婚裁判とは異なり、調停委員という専門家を交えて、双方が話し合うことで問題を解決することができますし、調停委員が間に入ることで当事者同士が直接顔を合わせなくていいというメリットがあります。

調停手続の流れ

まず、家庭裁判所に夫婦関係調整調停申立書を提出します。裁判所との調整で期日が決まったら、調停期日に夫と妻の両方の立場の調停委員が話を聞き、双方の意見の調整を行います。調停期日は複数回開かれます。当事者双方が条件面に合意し調停が成立すると、調停調書が作成されます。調停調書が作成されたら、10日以内に、離婚届で調停調書の謄本を市区町村に提出する必要があります。調停調書には判決と同じ効力があり、履行がされない場合には強制執行を行うことができます。

調停が不成立になった場合

調停が不成立になった場合には調停離婚することはできません。この場合、もう一度協議離婚することもできますが、離婚訴訟を提起することが多くあります。調停が不成立になりそうな場合でも、夫婦が離婚に同意していて他の条件について大筋で同意している場合には、家庭裁判所の判断により職権で審判に移行し、裁判所の判断で離婚を成立させることがあります。

審判離婚

離婚調停において、両当事者が条件面でほとんど合意している場合でも、当事者が遠方に住んでいる、病気である、感情的になって調停にでて来るのを嫌がっている、些細な条件でもめているなどの理由で、調停が進まないことがあります。このような場合に調停を不成立にすると、条件面では離婚を成立させることができるのに、訴訟手続などをしなければならなくなり、結局当事者の時間や金銭面での負担が増えてしまうことがあります。そこで、家庭裁判所は、相当と認めるときは当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができると定められています。調停に代わる審判に対し、異議が申し立てられた場合には審判は効力を失います。審判離婚が成立するケースは、裁判所の手続を利用した離婚の中では数が多くなく、通常は調停不成立になると離婚裁判の手続に移行することになります。

裁判離婚

離婚調停が不調に終わった場合、裁判所に対して離婚訴訟の申立てを行います。親権者を誰にするか、養育費、財産分与などの請求も同時に行うことができます。不貞の相手方に対する家庭破壊に基づく慰謝料請求訴訟等を離婚訴訟と同時に家庭裁判所に提起することも可能です。離婚を希望する一方当事者は、いきなり離婚裁判を提起することは原則として認められず、裁判を起こす前に離婚調停を申し立てなければならないと規定されています。裁判手続を利用する場合には、まず裁判所に訴訟を提起します。争点を整理し、期日で当事者が主張、立証します。争点が整理され証拠が出そろうと、当事者が法廷に出廷して尋問が行われます。裁判所が必要と認めるときは、裁判所から和解を提案されることもあります。和解に応じるかどうかは自由ですが、双方が和解に応じる場合には、和解調書が作成されて離婚が成立して裁判は終了します。和解が成立しない場合には、裁判所は離婚に関する判決を出すことになります。裁判所は、判決に合わせて子の親権者・監護者の指定、財産分与などの附帯処分についての判断もします。離婚を認める判決の場合、判決が出てから相手方が控訴せずに2週間の控訴期間が経過すると、判決が確定し離婚が成立します。裁判で成立した離婚は取り消すことができません。離婚成立後10日以内に、原告が、離婚届、判決謄本、判決確定証明書、戸籍謄本を役場に提出しなければなりません。

離婚原因

夫婦の同意がなくても強制的に離婚が成立するには、一定の離婚原因が必要になります。法律で定められた離婚原因は、①不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④回復の見込みがない強度の精神病、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由です。悪意の遺棄とは、同居しているのに生活費を渡さない、浮気相手のところに入り浸って家に帰らない、勝手に家を出て行ったなどがあります。その他婚姻を継続し難い重大な事由とは、婚姻関係が破綻していることで、長期間の別居、ドメスティックバイオレンス、多額の借金などから事情に応じて判断されます。

婚姻費用分担請求

夫婦が生活するためには食費、家賃、医療費、未成年の子の養育費などの生活費が必要で、これを婚姻費用といいます。夫婦に、相互に扶養義務があり、婚姻費用を分担する義務があります。夫婦が別居や離婚協議、調停や裁判手続中であっても、夫婦の扶養義務はなくならないのが原則です。たとえば、夫婦の別居中に一方が婚姻費用を支払わない場合には、婚姻費用分担請求することができます。婚姻費用分担請求は、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てます。婚姻費用分担調停は、離婚調停と同時に申し立てることもでき、離婚原因がどちらにあるかに関わらず、双方が請求することができます。調停委員は、資産、収入や支出、子の人数などから具体的な金額を提示して話し合いを進め、調停が成立したら、作成された調停調書に従って、婚姻費用の支払いがされることになります。なお、婚姻費用は、双方が婚姻費用は請求したときから離婚するときまでの分を受け取ることができるとされています。

養育費 

離婚する夫婦に子がいる場合には、妻か夫のどちらかが子の親権や監護権をもつことになります。子の監護権を持たない親が監護する親に支払う監護費用の分担金を「養育費」といいます。養育費には、衣食住の費用、医療費、学費、自立するまでに発生する費用すべてをいいます。養育費は、一括で支払われるものではなく、定期的に支払われることが多いです。   協議離婚の場合には、当事者の話し合いで養育費の額が決まりますが、家庭裁判所の算定表を利用することもあります。養育費を決めずに離婚した場合や、離婚後に生活状況の変化で養育費の増額や減額をしてほしいと思った場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることもできます。養育費の支払いは、長期間にわたることが多いですが、途中で支払いが滞ることがあり得ます。このような場合にそなえて協議離婚書を公正証書にしておくと、支払い義務者に対して給与の差押えなどの強制執行手段をとることができます。

養育費の算定

養育費をいくらにするかを決める際には、裁判所が出している養育費算定表を参考にすることが多くあります。養育費算定表は、養育費の支払い義務者(親権者ではない方の親)と親権者の収入、子供の人数や年齢などから養育費を算定できる表です。調停や審判、裁判で養育費を決定する場合にも使用されますし、協議離婚する場合でも公平な額を算出するために利用されています。2019年12月23日に裁判所から養育費算定表の改訂版が発表されましたので、今後はこの表を基に養育費の算定を行っていくことになります。養育費算定表は、子供の数と年齢別に9枚の表に分かれていて、それぞれ縦軸が支払う側の年収、横軸が養育費を受け取る側の年収で構成されており、年収は会社員の場合と自営業の場合の両方が記載されています。該当する表の該当箇所から目安となる養育費の額を確認することができます。たとえば、8歳の子が一人で夫が妻に養育費を支払う場合、会社員の夫の収入が500万円で妻が専業主婦の場合には、月々6万円から8万円となり、会社員の夫の収入が500万円で会社員の妻の収入が400万円の場合には、2万円から4万円となります。離婚後の生活状況の変化に応じ養育費の支払いが困難となった場合、裁判所に対して養育費の変更(減額)の申し立てを行うこともできます。

財産分与 

婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産を分配することを財産分与といいます。財産をどのように分けるかは協議により決めることができますが、原則公平に2分の1ずつ分配されます。夫婦間の話し合いで決まらない場合には、調停の中で具体的な金額や支払方法について決めていくことになります。離婚時に財産分与についての取り決めをしていない場合であっても、離婚後2年以内であれば、財産分与を請求することができます。財産分与には、「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の3つの意味合いがあります。清算的財産分与は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産の清算です。対象となる財産には、預貯金、現金、不動産、自動車などがあります。名義が夫婦のどちらかになっていても婚姻期間中に得たものであれば対象になります。一方で、結婚前にためた預貯金などは対象にはなりません。扶養的財産分与は、離婚により生活費などに困窮する配偶者がいる場合に、その配偶者が経済的に自立した生活ができるまでの間、一定の財産を扶養的な目的で支払うというものがあります。慰謝料は財産分与とは性質が異なるものですが、財産分与の時に慰謝料の意味合いを含めた財産分与をすることもあり、慰謝料的財産分与といわれることがあります。

住宅ローンが残っている状態で離婚する場合の問題点

婚姻中に夫婦が購入した自宅は、離婚時の財産分与の中心になります。住宅ローンは、個人が居住する不動産を対象に、銀行などの金融機関(債権者・抵当権者)が、住宅ローンの申込人(債務者)に対してする融資ですが、住宅ローンを利用して自宅を購入したものの、まだ住宅ローンの返済が完了していない状態で離婚することになった場合には、様々な問題が生じます。住宅ローンをどうするかが決まらず、離婚協議が滞ることがありますので注意が必要です。また、住宅ローンと自宅について夫婦で合意した内容を公正証書にすることが有益です。住宅ローンが残っている場合には、まず住宅ローンの残額を確認し、次に自宅の現在の不動産価値を不動産鑑定士などに査定してもらい、売却する場合の価格を調査することが必要です。また、住宅ローンの名義人(ローン契約をした債務者)と不動産の名義人(所有者として登記簿に記載されている人)を確認する必要があります。ローン契約の名義人は、夫のみの場合もありますし、夫婦でローン名義人(連帯債務者)になっていることもあります。夫婦が連帯債務を負っている場合には、夫と妻が全く同じ内容の支払い義務を負うことになります。一方で、妻が夫の連帯保証人になっている場合、ローン名義人がローンの支払いを滞納した時には、住宅ローンを貸した金融機関から返済を求められることになります。

アンダーローンの場合

現在の不動産の査定価格から住宅ローンの残額を引いた金額がプラスになる場合を、アンダーローンといいます。例えば、ローン残額が1000万円で、住宅の査定価格が2000万円の場合には、1000万円プラスになります。自宅を売却する場合には、手元に残る1000万円を夫と妻で2分の1ずつ、つまり500万円ずつ分けることになります。夫が住宅に住み続けるときには、夫が妻に500万円を支払うことになります。

オーバーローンの場合

現在の不動産の査定価格から住宅ローンの残額を引いた金額がマイナスになる場合(住宅ローンが多い場合)を、オーバーローンといいます。借金については、財産分与の対象にはならないので、オーバーローンになる場合には自宅は財産分与の対象から外れることになります。このとき、夫婦の一方が自宅に住み続けてローンを支払い続けることが一般的です。夫名義の家に夫が住み続ける場合、妻が連帯保証人や連帯債務者になっている可能性がありますので、離婚時にこれを外してもらう必要があります。具体的には、担保を差し替えてもらうか、夫に住宅ローンの借り換えをしてもらい、現在のローンを完済してもらうなどの方法があります。夫名義の家に妻が住み続けるときには、様々な問題が生じます。妻が自宅に住み続ける場合でも、住宅ローンは夫が払い続けることもあり得ますが、夫がローンの支払いを怠ると自宅を差押えられたりして妻が追い出されるリスクがあります。これを回避するために、ローンの名義を妻に替えておくという方法が考えられますが、住宅ローンはローン完済までの間、不動産の名義人をローン債務者にしておくという取り決めになっていることが多く、金融機関はローンの名義変更に応じてくれないことがほとんどです。妻に継続的な収入がある場合には、住宅ローンを借り換えたり、別の担保を差し入れて、金融機関に審査しなおしてもらった上でローンの名義を変更することも可能です。妻が元夫の連帯保証人になっている場合には、夫が支払いを約束したのにローンの返済を滞納した場合には連帯保証人である妻に支払い義務が発生します。連帯保証人には催告の抗弁がないので、元夫に先に請求してほしいということはできず、妻は、一時的に立て替え払いをしなければいけなくなります。このような事態に対応するため、公正証書の中に返済用の口座を妻が管理することを記載したり、妻が立て替え払いした分を事後的に夫に請求できることを記載しておくことが考えられます。さらに、住宅ローンの完済後すみやかに妻への名義変更の手続きを行うことに協力することなどについても、公正証書にしておくと安全です。
   

慰謝料と相場

一方の配偶者が暴力をふるった、不貞行為をした、借金問題や正当な理由がないのに生活費を入れてくれない(悪意の遺棄と言われます。)などの理由で離婚せざるを得なくなった場合には、離婚原因を作った配偶者に対し、精神的な損害に対する損害賠償の意味合いで支払いを求めることができ、慰謝料と呼ばれます。性格の不一致などどちらかに原因がない離婚の場合には、認められません。協議離婚では、慰謝料の金額は当事者の話し合いで自由に決めることができます。調停や裁判では、離婚の原因、婚姻期間、資力などを考慮して決められることになります。一般的に婚姻期間が長ければ長いほど、離婚原因になる行為の回数や程度が大きければ大きいほど、金額が大きくなる傾向があります。慰謝料の金額はケースバイケースであり、養育費のように算定表はありませんが、浮気や不倫などの不貞行為による離婚の場合やドメスティックバイオレンスの場合には50万から300万円くらい、悪意の遺棄の場合には数十万円くらいといわれています。

不貞行為と離婚 

配偶者の不貞行為は離婚原因として民法で認められていますが、法律的な「不貞行為」とは、配偶者以外の者と肉体関係があったことをいい、不貞行為を理由に慰謝料を請求する場合には、不貞行為があったと主張する側が、不貞行為があったことを立証しなければありません。具体的な証拠としては、配偶者と不貞行為の相手方がホテルに出入りしている場面を映した動画や写真、メールの履歴やSNSでのやり取りの履歴、音声データなどが有効です。自分でこれらを収集することは難しいですので、探偵会社や調査会社、興信所に頼んで証拠を収集してもらい、調査報告書を裁判の証拠として提出することもあります。なお、不貞行為を基づく離婚は、不貞行為によって夫婦仲が悪くなり婚姻関係が破綻した場合に認められるものですから、別居中の不貞行為は離婚理由にはなりません。不貞行為をした配偶者(有責配偶者といいます)からの離婚請求について、従来裁判所は、原則的には認めないという取り扱いをしていましたが、昭和62年の判決で、別居期間の長さ、未成熟の子がいるかどうか、離婚される側の配偶者が離婚により精神的、社会的、経済的に過酷な状況にならないことなどの要素を考慮したうえで、有責配偶者からの離婚も認められることがありうるとの判断をしました。現在では、別居期間が短くても離婚が認められることがあり、有責配偶者からの離婚は緩和されているといえます。慰謝料は、不貞行為をした配偶者と不倫相手の両方に請求することが可能です。一般的に相手方に慰謝料の支払いを求める場合には、内容証明郵便を送ったうえで相手方と協議を行い示談することが多くあります。協議がまとまらなければ、裁判所に慰謝料の支払いを求める訴えを起こすことになります。離婚裁判中であれば、関連請求事件として、家庭裁判所に慰謝料請求を申し立てることができます。

年金分割

離婚した場合に、一定の条件を満たせば、婚姻期間中の厚生年金の分割を受けることができる制度があります。年金分割の対象となるのは、厚生年金と共済年金であり、国民年金や企業年金は対象外であること、婚姻期間に該当するする分だけであり全期間ではないことに注意が必要です。年金分割には、合意分割と3号分割制度の2種類があります。合意分割は、離婚時に夫または妻の請求により、婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割することができる制度です。分割の割合については、当事者で同意するか調停や裁判手続の中で決めることもできます。3号分割は、第3号被保険者(国民年金の加入者のうち、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の主婦や主夫)からの請求のみで、厚生年金・共済年金の保険料納付記録について自動的に2分の1に分割できる制度です。もう一方の当事者の同意者は必要ありません。請求期限は、離婚が成立した日から2年以内となっています。

公的支援

離婚後に利用することができる公的支援の制度には次のようなものがあります。経済的な支援としては、児童扶養手当、母子/父子福祉資金貸付け、ひとり親家庭等医療費助成制度などがあります。住居の面では、母子生活支援施設、公営住宅への入居の優遇、水道料や公共交通機関の利用料金の減免などがあります。自立支援としては、母子家庭自立支援教育訓練給付金などがあります。

親権・監護権

親権とは、未成年の子供に対する親の義務や権利を言い、離婚時には、離婚後の親権を父と母のどちらかに決めなければなりません。協議離婚の場合には、通常は親権者を決めなければ離婚することはできず、夫婦間の話し合いで親権者が決まらない場合には、調停や裁判手続の中で親権者を決めていくことになります。親権には、財産管理権と身上監護権に大別されます。財産管理権は、子供の財産を包括的に管理し、財産に関する法律行為についてその子を代表するというものです。身上管理権として、子の身分行為に対する同意権、子の居所を指定する居所指定権、子のしつけをする懲戒権、子どもが職業を営むにあたって親がその職業を許可する職業許可権が民法で規定されています。親権のうち身上監護権に関する部分のみを監護権ということがあります。非常に例外的ですが、裁判所は、「両親が離婚したとしても、未成年者の健全な人格形成のために父母の協力が十分可能であれば、監護権と親権とを父母に分属させることもそれはそれとして適切な解決方法である場合もある」としており、親権者と監護権者が別になることもあり得ます。親権をどちらにするかは離婚に際して重要な条件ですので、協議で折り合いがつかない場合には、離婚調停の中で話し合っていくことになります。調停も結論が出ない場合には、親権者指定の審判に移行して裁判所に判断してもらうこともできます。また、離婚訴訟の提起の際に親権者についても判断してもらうよう申立てを行えば、判決の中で親権者を決めてもらうこともできます。裁判所が判断する場合には、家庭裁判所の調査官により、子の監護状況、子の意向、親の適格性が調査されることがあります。実際の裁判所の判断においても、これまで夫または妻のうちどちらが監護を主に担っていたか、今後どのように監護をしていくか、生活環境や親の収入の面で子の生活に支障がないかどうか、子の意思などを基準にしていると考えられます。

離婚後の親権者の変更

離婚後に親権者を変更するためには、家庭裁判所の審判を経る必要があります。親権者が病気になって監護が難しくなった場合、親権者が子を虐待している場合などやむを得ない場合には、変更が認められます。

面会交流

親権者に指定されなかった親は、子との面会交流を求めることができます。面会交流には、子に直接会うこと、手紙やメール、電話などでやり取りすることなどがあります。協議離婚の場合には、面会交流の頻度や方法について当事者で話し合いを行います。調停や裁判手続の中で話し合うこともあります。また、親権者とならなかった親から、面会交流を求める調停や審判を家庭裁判所に申し立てることも可能です。面会交流を認めることが子の福祉の観点から適切ではないと判断された場合には、認められないこともあります。面会交流に関する取り決めをしたのにも関わらず面会交流を拒否すると、家庭裁判所から履行の勧告を受けたり、決定事項に従わないたびに制裁金の支払いを強制されることがあります。また、正当な理由なく面会交流を拒否すると、親権者の変更の申立てがされるリスクもありますので、注意が必要です。

子の引渡しに関する問題

子が別居中または離婚後の相手方に連れ去られた場合、家庭裁判所に対して、子の監護に関する処分(子の引渡し)を求める調停(調停不調の場合は自動的に審判手続に移行します。)を申し立てることができます。また、子に対する虐待や育児放棄が進行しているなど、子の引き渡してもらう緊急性と必要性が高い場合には、審判前の保全処分の申立てを行います。さらに、地方裁判所に対して人身保護法に基づき子の引渡しを求めたり、裁判離婚の際に附帯処分として子の引渡しを求めることも可能です。相手方が任意の引渡しをしない場合は、強制執行の申立てを行います。

離婚後の氏

結婚したときに氏を変えた場合には、離婚したときに婚姻前の氏に戻ります。これを復氏といいます。ただし、離婚した日から3カ月以内に婚氏続称の届出を本人の本籍地または住所地の市区町村に提出すると、結婚していた間の氏を継続して名乗ることができます。離婚する相手から婚氏続称について同意を得る必要はありません。

離婚後の戸籍

結婚して氏を変えた場合で、離婚後に婚姻前の旧姓に復氏した場合には、離婚前に入っていた戸籍に戻るか、旧姓で自らが筆頭者となる新しい戸籍を作るかのどちらかになります。   結婚して氏を変えた場合で、離婚後に婚氏続称の届け出をした場合には、新しい戸籍が編製されます。結婚して氏を変えなかったときは、結婚中も離婚後も同じ戸籍にとどまることになりますので、特段手続は必要ありません。
 

離婚後の子の氏と戸籍

夫婦が離婚しても、子の戸籍や氏については原則変更はありません。したがって、たとえば、結婚中は夫の氏を名乗っていた夫婦が離婚して妻が親権者となった場合で、妻が離婚後も婚氏続称の届け出をした場合、母親と子の氏は同じ(父親の氏)です。一方戸籍に関しては、母親は新しい戸籍が作成されるのに対し、子の戸籍は父親の戸籍のままという状態になっています。この場合、子の戸籍を母親の戸籍に入れるためには、家庭裁判所に子の氏の変更許可を申し立てる必要があります。子の戸籍を親権者である母親の戸籍に変更する場合には問題なく申立てが受理されますので、審判書を持って本籍地か住所地の役所に行き入籍届を提出します。同じ例で妻が離婚後旧姓に戻った場合で、母親が新しい戸籍を作成した場合には、母親と子の氏と戸籍の両方が異なる状態になります。この場合、子を母親と同じ性にするためには、母親の戸籍に子を入れる必要があり、家庭裁判所に子の氏の変更を申し立てる必要があります。一方で、戸籍には基本的に3世代が入ることはできないとされているため、離婚後に母親が親の戸籍に戻った場合には、子は母親の戸籍に入ることができなくなってしまいます。そのため、母親と子が同じ戸籍に入るためには、母親が旧姓に戻った時点で新しく戸籍を作成しておく必要があります。

配偶者からの暴力に対抗する手段

配偶者等からの暴力(ドメスティックバイオレンス(DV))に対抗する手段として、地方裁判所に対してDV防止法で制定された保護命令の申立てを致します。DV防止法の改正によって、肉体的暴力のみならず、精神的暴力も対象となるようになりました。裁判所は、配偶者の申立人本人に対する6ヶ月間の接見禁止、住居からの2ヶ月間の退去、電話等禁止、子への接見禁止、親族への接見禁止等の命令を発します。

国際離婚

夫婦の両方または一方が外国人の場合の離婚や、両方が日本国籍であっても外国に住んでいる場合や財産が外国にある場合の離婚をいいます。国際離婚する場合の準拠法については、法の適用に関する通則法に規定されています。これによれば、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人の場合は日本法、夫婦の本国法が同一であるときは本国法(韓国人夫婦の場合は韓国法)、夫婦の本国法が同一ではなく、夫婦の常居所地法が同一であるときは当該常居所地法(日本在住の韓国人夫と日本在住の中国人妻の場合は日本法)、夫婦の本国法と常居所地法がどちらも異なるときは夫婦に最も密接な関係がある地の法律(韓国人夫と中国人妻の婚姻が日本での届出により成立し、夫婦が日本において同居し、婚姻の成立から協議離婚の届出に至るまでの間、夫婦の双方が日本に居住していたが、妻が中国に戻って離婚を求めた場合は日本)が、準拠法となります。日本法を準拠法として離婚できる場合であっても、配偶者の本国での婚姻は継続しているため、相手国での手続きが必要です。日本では協議離婚が認められていますが、協議離婚は認められておらず、裁判での離婚しか認めていない国もありますので、このような場合には、日本で最初から裁判離婚する方がいいといえます。フィリピンのように、離婚そのものが認められていない国もあります。フィリピン国籍の配偶者と日本人が離婚する場合には、日本の裁判手続で離婚に関する審判か判決を出してもらい、日本での離婚成立後に、フィリピンの家庭裁判所で日本での離婚の成立に関する承認をしてもらう必要があります。日本以外で離婚が成立した場合には、在日大使館か、帰国後に日本の市町村で日本の離婚手続を行います。離婚裁判の判決文または離婚証明書、それらの日本語訳文と、日本の離婚届出書を提出します。

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