• 2020.09.01
  • 人事労務

従業員が会社の秘密情報を利用して副業を行っている場合の対応

副業の可否

従業員については職務専念義務がありますので、会社の就業時間中に副業を行うことは就業規則により禁止されていることが多いと思われます。しかしながら、従業員が会社の就業時間外に行う行為についてまで規制することができないのが原則です。

競業行為の問題

一方で、会社の従業員が副業として会社の業務と重複する行為を行う場合があります。例えば、宝石の販売会社で営業担当として勤務していた従業員がインターネットで宝石を販売するサイトを開設し、自分で事業として宝石を販売するような場合があります。また、より悪質な場合としては、不動産の仲介会社の営業担当が会社で得た情報をライバル会社に横流しし、リベートをもらったり、接待を受けたりすることも考えられます。このような行為は会社の利益を害することは明らかですので、通常就業規則の懲戒事由に該当し、その悪質性に応じて懲戒処分を行う必要があります。

懲戒処分を行うための情報収集(デジタルフォレンジック)

従業員が、会社の情報を利用して競業行為を行い、会社に損害を与えたとして就業規則違反を理由に懲戒処分を行う場合、当該従業員からのクレームや法的対応にも耐えられるだけの十分な資料を収集する必要があります。情報収集の方法としてはデジタルフォレンジックが重要となり、当該従業員のパソコンでどのようなやり取りがなされていたかをまず確認することになります。パソコンは会社からの貸与物ですので、会社はその内容をチェックすることができます。当該従業員が過去のメールなどを抹消している可能性がありますので、専門の業者に頼みデータの復元をしてもらうことが必要になります。パソコンの他にも、インターネットのホームページや、会社の私物などから副業の内容が分かる資料が出てくることもあります。当該従業員と親しい社員からのヒアリングにより情報収集の端緒が得られる可能性もあります。

本人からのヒアリング

情報収集を行うに際して、本人からのヒアリングは最も重要になります。しかしながら、本人からヒアリングを行うに際してはいくつかの重要な注意点があります。

事前に十分な情報収集を行っておくこと

本人からヒアリングを行う前に十分な情報収集をしておくことは重要です。プライバシーの侵害にならない範囲で本人のパソコンのメールを確認したり、関係者からヒアリングを行ったり、インターネットその他からの情報収集をするなどが必要になります。また、ヒアリングの前に質問事項書を書面で作成し、何度か検証をしながら、聞くべき事項が十分にカバーされているかどうか、不当な圧力を加えたと言われるような内容になっていないかを事前に確認しておく必要があります。ヒアリングの成否は事前準備にあると考えられます。

客観性の担保、パワハラの回避

会社の上司が直接にヒアリングを行う場合、後日になって、上司からの不当な圧力により、事実と異なることを強制的に認めさせられたとか、上司によるパワハラがあった等とクレームがなされる可能性があります。近時では、労働基準監督署やマスコミなどにリークされる恐れもあります。従業員が隠しテープにより録音をしている可能性が高いことは認識しておく必要があります。感情的な質問は避ける必要があります。また、1人で対応する場合、その時の状況が分からなくなりますので、できるだけ客観性を持たすため、複数で対応する必要があります。

書面による確認

ヒアリングの結果については、書面にまとめ、当該従業員にもサインしてもらうなどとして客観的な証拠化をしておく必要があります。事実については、5W1Hに注意しながら、できるだけ詳細に記載していきます。後日の裁判資料としての効力を考えた場合、弁護士の協力が得られるのであれば文書の内容については弁護士にチェックしてもらう方が好ましいと思われます。

脅迫や恐喝と言われないために

ヒアリング結果をまとめた書面の中で、就業規則や雇用契約に違反する事実があった事を確認し、その違反行為によって会社に生じた損害を賠償することを確認することがありますが、後日になって会社から恐喝されたとか、脅迫行為があったなどとして警察などに訴えられる可能性も考慮しておく必要があります。損害賠償義務について規定する場合には、任意の意思による賠償であることが必要ですし、その金額も違反行為に見合った内容であることが必要で、あまりに高額な賠償金を認めさせることは、会社にとってもリスクがあることを認識しておく必要があります。

第三者委員会

従業員からのヒアリングに際して第三者委員会を立ち上げ、第三者委員会にヒアリングと報告書の作成、事実の認定、法的問題点と対応策等についてレポートを出してもらうことも有効です。第三者委員会による客観性が担保されます。最近では第三者委員会の公平性・客観性が問題視されることもありますので、委員の選定及びヒアリングの手法については、公平性・客観性が保たれるよう工夫が必要になります。正式な第三者委員会にいたらない場合でも、外部の弁護士や公認会計士を調査委員に入れることで報告書の客観性を担保することができます。

競業を理由とする懲戒処分

会社の就労時間中または就業時間後において副業として行う場合であっても、上記のように会社の利益を害する内容の行為を行う場合には、就業規則に違反して懲戒処分の対象となります。懲戒処分を行う場合には、実体と手続きの両方について間違いがないようにする必要があります。まず、実体については、
(1)当該従業員が本当にそのような行為を行ったのかどうか
(2)その行為を行ったことを裏付ける証拠はあるか
(3)その行為が就業規則のどの条文に違反するのか
(4)違反行為と処罰の内容が不均衡でないかどうか
などを確認することになります。
手続きについては、多くのケースで就業規則に規定があると思われますので、その規定に従う必要があります。例えば、(1)懲罰委員会を開催し、(2)本人に対して弁明の機会を与え、(3)懲罰委員会の多数決により採決し、(4)その結果を参考に取締役会ないし代表取締役が処罰の内容を定めるなどの規定があると思いますので、かかる規定に従うことになります。懲戒手続きについての規定が十分に整っていない場合、かかる規定の整備も必要です。

懲戒処分通知書

懲戒処分通知書には、非違行為の具体的内容(懲戒理由)を記載することが必要です。懲戒理由の記載のない懲戒通知は無効と判断される可能性があります。また、懲戒通知書に記載のない事由を懲戒事由に追加することはできません。

栗林総合法律事務所のサポート内容

栗林総合法律事務所では、事実関係の調査や、処分の妥当性についてのアドバイス、適正手続きについてのアドバイスを行います。また、第三者委員会を開催して調査委員として活動することもあります。

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