従業員の解雇・退職勧奨
従業員の解雇を行う際の注意点
会社としては、従業員のモチベーションを高め、職務に専念してもらうことで、会社の業績への貢献を期待していると思われます。しかしながら、実際には多くの問題があり、従業員の解雇を検討せざるを得ない場合もあります。
・従業員の能力が著しく劣る場合
・会社の現金を横領するなど不正行為を行った場合
・協調性が著しく欠ける場合
・ギャンブルなどで私生活に問題がある場合
・上司の指示命令に従わない場合
・秘密情報をライバル企業に開示するなど会社に損害を与えた場合
解雇を検討する場合は、まずその事実があったのかどうか、仮にその事実があったと思われる場合でも、それを立証する証拠があるのかどうかを確認する必要があります。当該従業員本人がその事実を認めている場合は、違法行為の存在を自白したということ自体が大きな証拠となります(自白した内容は客観的証拠とするために書面に記載し、本人に署名押印してもらう必要があります。)。また、かかる事実が存在するとして、それが普通解雇や懲戒解雇の事由に該当するのかどうかの検討も必要です。普通解雇や懲戒解雇に該当する事由については、就業規則に定めがなされていますので、就業規則のどの条文のどの事由に該当するかを確認することになります。就業規則に記載がない場合、解雇ができないわけではありませんが、会社としては、法令違反など解雇の客観性・相当性を立証しなければならないことになります。
解雇の種類
労働法における解雇にはいくつかの種類があります。解雇が認められる要件や手続きも解雇の種類に応じて異なります。
普通解雇
普通解雇については、労働契約法16条に規定があり、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合は、無効とするとされています。例えば、従業員が怪我により労働能力を喪失し、仕事を行うことができない状態になれば労務提供義務を果たせなくなったわけですので、解雇については客観的に合理的であり、社会通念上相当と判断される可能性が高いと思われます。もちろん従業員の傷病については労働基準法により様々な制約(解雇制限)がありますので、そちらも検討する必要はあります。仕事の能力が著しく劣る場合は、就業規則の定めによっては懲戒解雇に当たる場合がありますが、就業規則に定めがなければ普通解雇によることになると思われます。仕事の能力が著しく劣る場合はどの程度かは過去の判例をもとに判断されることになります。例えばタクシードライバーで平均的売り上げが長期にわたって一般の社員の5分の1程度しかない場合などに解雇が有効と認められた判例があります。会社の経営を行う上では、インターネットのセキュリティの技術者として採用したが、インターネットのセキュリティに関する知識や経験がほとんどなかったというような場合など、解雇を検討される場合は多いのではないかと思われます。
整理解雇
整理解雇は会社が経営上の困難に直面し、従業員の解雇を行わなければ会社の存続を図れないような場合に行われるものです。整理解雇については最高裁判所からいわゆる整理解雇の4要件が示されており、現在でもこの4要件が判断基準となっています。
① 人員削減の必要性
② 解雇回避努力義務
③ 人員選定の合理性
④ 手続きの相当性
①の人員削減の必要性は、会社が経済的苦境にあり、整理解雇を行わなければ会社の存続を図れないことを客観的数字で示す必要があります。②の解雇回避努力義務では、配転・出向・希望退職者の募集などを行い、解雇を回避する最大限の努力を行ってもなお解雇が必要であることが必要です。③の人員選定の合理性は、解雇する人の選定が恣意的でなく客観的に合理的であるかどうかが判断されます。④の手続きの相当性は、労働組合や労働者に対する丁寧な説明や協議交渉がなされたかどうかが判断基準とされます。最近では割増退職金を提示することで、退職希望者が殺到し、整理解雇を行わない場合もあります。しかし、これは割増退職金を支払える余裕のある企業であるとも言えます。
懲戒解雇
懲戒解雇は、従業員が就業規則に規定する懲戒解雇事由に当たるような行為を行い、会社に損害を与えた場合に認められます。懲戒解雇を行う場合、当該従業員に与える影響が極めて大きく訴訟に発展する可能性も高いですので、会社は、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、①客観的に合理的であるかどうか、②社会通念上相当であるかどうかを慎重に検討する必要があります(労働契約法15条)。すなわち、会社としては、懲戒解雇事由に該当する行為が行われたかどうかという事実認定を客観的証拠に基づき行う(事実認定)とともに、その行為が懲戒解雇に相当すると判断することが客観的に合理的で社会通念上相当であると言えるかどうかについての判断も求められます(法的評価)。また、懲戒解雇を行う場合は、就業規則に定められた手続きを履行する必要がありますので(適正手続き・デュープロセスの問題)、例えば賞罰委員会についての規定がある場合は賞罰委員会を開催して懲戒解雇の決定を行う必要があります(なお、賞罰委員会を開催する場合、当該委員会が諮問機関か決定機関かを確認しておく必要があります)。懲戒解雇を言い渡す場合、解雇通知を交付して行う必要があります。解雇通知には解雇事由を記載しておく必要があり、解雇通知に記載のない解雇理由を後日追加することはできません。但し、懲戒解雇は何度でも行うことができますので、当初行った解雇が無効とされる可能性がある場合は、別の事由による解雇を予備的に言い渡しておく(予備的解雇)ということも考えられます。懲戒解雇が無効とされる場合であっても、別の懲戒事由がある場合には、別の懲戒事由に基づき別途懲戒解雇を行うこともできます。
合意による退職
懲戒解雇の場合、退職金が支給されないことが多いと思われます。従業員にとっては懲戒解雇に当たるかどうかで退職金がもらえるかどうかの大きな違いが生じてきます。会社としては、懲戒解雇とすることで裁判などの紛争になる可能性があることを考慮すれば、退職金を支払う代わりに従業員の側が自発的に退職してくれることに同意してもらうのが好ましいとも考えられます。また、実際上も解雇の有効性が争われる労働審判や労働訴訟において
退職金を支給する代わりに、退職に応じるという内容の和解が成立することも多くあります。会社としては、懲戒事由がある場合にも、直ちに懲戒解雇を行うのではなく、当事者と話し合いを行う余地がある場合には、自発的退職の可能性について協議することもあり得ると思われます。なお、合意による退職の際に、退職合意書の中に競業避止義務や秘密保持義務を追加しておき、違反した場合の損害賠償の予約についても規定することもあります。
退職勧奨
退職勧奨は、会社から従業員に対して自発的退職について検討するよう勧奨を行うものです。強圧的な内容の場合、退職処分と同じになりますので、あくまで従業員の側からの自発的退職を勧めるものでなければなりません。従業員の側からも退職金の満額支給が受けられることを条件に退職勧奨に応じる可能性も高いと思われます。
企業法務の最新情報をお届けする無料メールマガジン