• 2021.09.30
  • 訴訟・紛争解決

民法改正による時効の中断と停止

旧民法における時効の中断と停止

2020年に民法が大幅に改正され、消滅時効についても変更がありました。本コラムでは、消滅時効についての変更点のうち、時効の中断・停止概念の見直しという点をみていきたいと思います。

旧民法には、消滅時効に関して「時効の中断」と「時効の停止」が規定されていました。

時効の中断

「時効の中断」とは、一定の事由により進んでいた時効の期間がリセットされまたゼロからスタートするという仕組みのことでした。時効の中断を生じさせる事由としては、請求、(債務の)承認、差押え、仮差押えまたは仮処分がありました。「請求」とは、訴訟の提起や支払督促など裁判上の請求をいい、裁判外での催告(内容証明郵便などを送って債務者に支払いを求めるなど)については、6カ月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立てなどをしなければ、時効の中断の効力を生じないと規定されていました。

時効の停止

「時効の停止」とは、時効の完成間際に時効の中断が行えない事由が生じた(時効の完成間際に自然災害が起きて裁判所の業務が止まってしまって申立てできなかったなど)ときに、時効の進行が一時的にストップする仕組みのことでした。

新民法における時効の完成猶予と時効の更新

新民法では、この時効の中断と時効の停止の内容や効果を明確にするため、「時効の完成猶予」と「時効の更新」という概念に再構成する形で規定されました。

「時効の完成猶予」と「時効の更新」という概念

「時効の完成の猶予」とは、時効の進行を一時的にストップすることをいい、「時効の更新」とは、一定の事由により進んでいた時効の期間がリセットされまたゼロからスタートすることをいいます。

上記定義の説明からは、一見すると、新民法は旧民法の「時効の中断」を「時効の更新」に、旧民法の「時効の停止」を「時効の完成の猶予」にただ言い換えただけのような印象を受けるかもしれません。たしかに、旧民法において「時効の停止」を生じさせる事由とされていたものは、全て「時効の完成の猶予」という効果のみを有するもののため、旧民法で「時効の停止」として規定されていたものは、新民法では全て「時効の完成の猶予」として規定されております。しかし、旧民法において「時効の中断」を生じさせる事由とされていたものについては、「時効の更新」という効果のみならず、「時効の完成の猶予」という効果も有するもの(又は「時効の完成の猶予」という効果しかないもの)も含まれておりましたので、単なる言い換えというわけではありません。

代表的な時効の更新事由と完成猶予事由

代表的な時効の更新事由と完成猶予事由には、次のものがあります。

①債務者の承認

→承認があったときから時効が更新される。

②裁判上の請求

→訴えの提起により時効の完成が猶予される。確定判決により権利が確定すると時効期間が更新され、その後10年間、時効は完成しない。訴えの却下や取下げにより、確定判決による権利の確定がなかった場合、訴えの却下や取下げの時から6か月間は時効の完成が猶予される。

③支払督促

→申立てによって時効の完成が猶予され、支払督促の確定により時効が更新される。

④強制執行、担保権の実行など

→強制執行等の事由が生じた場合、強制執行の申立ての手続によって時効の完成が猶予され、手続きが終了したときに時効が更新される。

⑤仮差押え、仮処分

→手続きが終了したときから6か月間時効の完成が猶予される。

⑥裁判外の催告

→6か月間時効の完成が猶予される。時効の更新をめざすには、裁判上の請求や支払督促の申立てをしなければならない。また、催告を繰り返しても意味がない。

⑦協議を行う旨の書面による合意(新民法で新たに規定されました。)

→権利について協議を行う旨の合意を書面でした場合、時効の完成が猶予される。猶予される期間は、基本的には1年だが、当事者の合意により短くすることもでき、当事者の一方が相手方に対して協議拒絶を書面で通知をした時から6か月を経過した時がそれより短い場合はこの時まで猶予の効果がある。

協議を行う旨の合意を繰り返し、時効の完成の猶予を延長することは可能であるが、時効の完成の猶予期間は、トータルで最大5年を超えることができない。

協議による時効の完成の猶予と催告による時効の完成の猶予を併用して時効の完成を延長することはできない。

⑧天災等(新民法で時効の完成の猶予期間が延長されました。)

→天災等により、時効の完成の猶予および更新の効果をもたらす裁判上の請求や強制執行等の手続きを行うことができないときは、手続きの妨げとなる天災等が消滅したときから3か月を経過するまでは時効の完成が猶予される。

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