• 2023.09.05
  • 一般企業法務

保証契約

保証契約とは

保証契約を結んだ場合、債務者が債務を履行しない場合に保証人が債務者に代わって債権者に債務を履行することになります。保証人は利息や遅延損害金等も支払う必要がありますので、保証した額面よりも重い責任を負う可能性があることに注意が必要です。例えば、500万円の貸付金の返済を保証した場合には、貸し付けによって生じた利息や、返済が遅れた場合には損害金を支払う必要がありますので、500万円よりも多く支払わなくてはなりません。

保証契約を結ぶ場面は様々ですが、主債務者(お金を借りる人)に頼まれて保証人になることが多いと思われます。この場合でも保証契約は(銀行などの)債権者と保証人との間で結ぶ契約であることに注意する必要があります。

以下では、連帯保証契約と単純な保証契約の相違点、保証人が複数いる場合の法的な取扱い、保証契約の締結方法、保証契約の内容、保証債務が消滅する場合、連帯保証債務を免れるための方法、主債務を消滅させる方法、保証債務を履行した後に行使できる権利などについて詳細に解説を行っております。

連帯保証契約とは~単純保証契約との違い~

連帯保証契約とは

連帯保証契約は通常の保証契約に連帯特約が付された契約です。保証契約を締結するにあたっては契約書のタイトルが保証や身元保証などと書かれていても連帯特約がついていることが多いため、契約をするときは、保証契約の中に連帯特約が含まれているかどうかをしっかりと確認する必要があります。

催告の抗弁

保証人は、債権者から支払いの請求を受けた場合、まずは主債務者に請求してくださいと主張し、保証債務の支払いを拒むことができます。これを「催告の抗弁」(民法452条)といいます。一方で、連帯保証人には催告の抗弁が認められていません。債権者が主債務者ではなく連帯保証人に請求した場合、連帯保証人は催告の抗弁を主張することによって債権者からの支払いを拒むことはできません。

検索の抗弁

保証人は、債権者から支払いの請求を受けた場合、主債務者に簡単に差し押さえ可能な財産がある場合には、まずは主債務者の財産を差し押さえてくださいと主張し、請求を拒むことができます。これを「検索の抗弁」(民法453条)といいます。一方で、連帯保証人には検索の抗弁が認められていません。債権者が主債務者ではなく連帯保証人に請求した場合、主債務者に十分な財産があったとしても、連帯保証人は検索の抗弁を主張することによって債権者からの支払いを拒むことはできません。

まとめ

通常の保証人は、主たる債務者が債務を支払えなくなった場合に債務を支払う(肩代わりする)、二次的な立場にあります(民法446条)。これに対して、連帯保証人は、通常の保証人のような二次的な立場ではなく、主債務者と同じ立場にありますので、連帯保証人となる場合には、自ら借金をして債務者になるのと等しい状況になってしまうことになります。

保証人が複数いる場合の法的な取扱い

同一の主債務について複数の保証人がいる場合、各保証人は、原則として等しい割合で債務を負うことになります。これを「分別の利益」といいます。例えば、1000万円の主債務に保証人が2人いる場合、各保証人は500万円の保証債務を負います。このため、単純保証の場合は、保証人が多くいるほど、各保証人の負担額は小さくなることになります。

これに対して、連帯保証人には分別の利益が認められていません。連帯保証人は複数いる場合であっても、各連帯保証人それぞれが主債務の全額について責任を負うことになります。したがって、例えば、1000万円の主債務に連帯保証人が2人いる場合、各連帯保証人はそれぞれ1000万円の保証債務を負うことになります。

保証契約の締結方法

全ての保証契約に共通の方式

保証契約は、書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。そのため、口約束で「保証します」と言っただけでは、保証契約は成立しません。ただし、保証契約が、その内容を記録した電磁的記録によってなされたときは、書面によってなされたものとみなされます(民法446条3項)。したがって、保証契約が、書面ではなく電磁的記録によってなされた場合についても、保証契約は有効に成立することになります。

個人根保証契約の締結に必要なこと

個人根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務として保証する契 約のうち、保証人が法人ではないものをいいます(民法465条の2第1項)。一定期間の取引によって生じる債務を保証する場合や身元保証などがこれに当たります。個人根保証契約では、極度額(保証人が負う保証債務の額の上限)を書面で定める必要があり、これがない場合、当該保証契約は無効となります。

事業用融資の保証の締結に必要なこと

事業のために負担した借入金等の債務について保証契約を締結する場合、契約締結日前1か月以内に「保証意思宣明公正証書」を作成する必要があります。保証意思宣明公正証書の作成においては、公証人により、保証人が締結予定の保証契約に関するリスク等について明確に認識しているかという点などについて確認が行われることになります。

事業用融資に関する保証契約の締結日前1か月以内に保証意思宣明公正証書が作成されなかった場合、当該事業用融資に係る保証契約は無効となります(民法465条の6第1項)。ただし、本規定は、保証人になろうとする者が、主債務者が法人である場合の法人の代表や、議決権の過半数を有する株主などに該当する場合には適用されません(民法465条の9)。これらの者の場合、主たる債務の事業と関係が深く、保証のリスクを十分に認識することなく保証契約を締結してしまうおそれが類型的に低いと考えられるからです。

連帯保証契約の内容

連帯保証契約の内容は、契約の当事者である債権者と保証人との間で、法律に違反しない限り自由に決めることができます。例えば、一定の条件を満たした場合にのみ保証債務が発生するという特約や、元本のみを保証する、主債務者が一定の条件に違反した場合には保証債務は減額または消滅する、といった特約をつけることも可能です。

保証債務が消滅するには

主債務の消滅

主債務者が主債務を弁済した場合は、当然保証債務も消滅します。また、主債務が消滅時効によって消滅する場合にも、保証債務はあわせて消滅します。このように、主債務が消滅した場合には、保証債務も消滅することになります。これを「保証債務の付従性」といいます。

保証債務の消滅

保証債務を弁済した場合、当該保証債務は消滅することになります。また、保証債務は、主債務とは別に、保証債務自体の時効によって消滅する場合があります。したがって、保証債務自体の時効期間が経過した場合には、当事者等が保証債務の消滅時効を援用することによって、たとえ主債務が残存している場合であっても、保証債務を消滅させることができます。

消滅時効の期間は、「債権者が権利を行使できることを知ったときから5年」、または「権利を行使できるときから10年」と定められています(民法166条)。債権者(貸主)は、保証契約の締結時に書面または電磁的記録において返済期限の設定をしていますので、返済期限が経過すれば、契約に基づいて権利を行使できることを知っているのが通常といえます。したがって、保証債務の消滅時効の期間は、通常、保証契約で定めた返済期限から5年ということになります。

連帯保証債務を免れるには

債権者との合意により連帯保証人を免れる方法

代わりの保証人を立てる

自身の代わりとなる連帯保証人を立てることで、自身の連帯保証について免除を受けることができる可能性があります。例えば、日本政策金融公庫を債権者とし、会社を債務者とする金銭消費貸借契約について当該会社の代表者が連帯保証人となっている場合、当該会社の代表者が交代する際に、新代表者が、日本政策金融公庫に対し、「連帯保証免除願」を提出し、新代表者が、旧代表者の代わりに保証人となることを申請することにより、旧代表者は、連帯保証人の立場を免れることができる場合があります。

新たに物的担保を提供する

主債務を担保するのに十分な額の不動産などを主たる債務者または連帯保証人が保有している場合、主債務者または連帯保証人の有する財産を新たに担保に供することで債権者から保証契約を免除してもらうことができる場合があります。

連帯保証契約の無効・取り消しを主張する方法

保証契約が形式に違反している場合

保証契約が書面または電磁的記録によって作成されていない場合などには、「4 保証契約の締結方法」で説明したとおり、当該保証契約は無効となります(民法446条2項、3項)。債権者が銀行などの事業者である場合、通常このよう契約形式は守られていますが、債権者が個人である場合にはこのような形式が守られていない可能性があります。自身の保証契約が書面または電磁的記録によって作成されていない場合には、当該保証契約の無効を主張できることになります。

無断で保証契約を締結されていた場合

主債務者が、自分(連帯保証人)の知らないところで本人確認書類や印鑑を用いて連帯保証契約を結んだ場合、連帯保証人には連帯保証契約を結ぶ意思はないですので、連帯保証契約の無効を主張することができます。このような事例は、本人確認書類や印鑑を無断で持ち出すことが容易な身内によって行われることが多い事例になります。日ごろから印鑑の使用を認めていたり、黙認していたりする場合などは、無効の主張ができない場合がありますので、身内であっても安易に印鑑(実印)の使用を認めないようにし、日ごろから本人確認書類や印鑑の管理をしっかりと行っておくことが必要となります。

騙されて保証人になってしまった場合

100万円を借りるから連帯保証してほしいと言われ連帯保証を引き受けたが、実は1000万円だった場合など、騙されて契約を結んでしまった場合には詐欺であることを主張して連帯保証契約を取り消すことができる場合があります。ただし、連帯保証契約は債権者と保証人との間の契約ですので、主債務者から騙された場合は、債権者がそのことを知っていた場合等でない限り、詐欺を理由とした契約の取り消しはできなくなってしまうおそれがあることに注意する必要があります。

保証契約の内容について勘違いをしていた場合

保証契約の重要な内容について勘違いや誤解をしたまま保証契約を締結してしまった場合、保証契約を取り消すことができる場合があります。ただし、保証人の不注意で勘違いをしていた場合や、勘違いの内容が社会通念上重要とはいえない場合には、契約を取り消すことができなくなってしまうおそれがあることに注意する必要があります。

例えば、実際には1億円の債務であるにもかかわらず、100万円の債務に対する保証であると勘違いして保証契約を締結した場合、社会通念上、買主は、1億円の債務に対する保証であることを知っていたら、保証契約の締結を行わなかったであろうといえますので、通常、錯誤により契約を取り消す権利を有することになります。一方で、買主が、主債務者や債権者から1億円の債務に対する保証であることを事前に十分説明されていた場合や、実際の債務額が110万円程度であった場合(勘違いしていた金額と大差がない場合)には、錯誤により契約を取り消す権利が認められない可能性が高くなることになります。

主債務者が情報提供義務に違反していた場合

債務者から委託を受けて事業に関する債務を保証する場合、主債務者は保証人に対し、主債務者の財務状況等について情報を提供する義務があります。保証人が契約締結時にこれらの情報提供を受けていない場合や虚偽の情報提供を受けていた場合、保証人は、当該保証契約を取り消すことができます(民法465条の10第1項、同3項)。

主債務を消滅させる方法

債務の借り換え

債務の借り換えとは、主債務者が、現在負っている金融機関Aからの債務と同額の金銭を、金融機関Bから借入れ、当該借入金を金融機関Aに対する債務の返済に充てて、主債務を消滅させることで、保証債務の付従性により、金融機関Aに対する保証債務も消滅させるという方法になります。ただし、借り換えを行う場合には、金融機関Bからの借入れに際して、金融機関Bにおける審査に通過する必要があります。

不動産の売却

住宅ローンの連帯保証人となっている場合、主債務者が家を売却することによって、残債額を売却額が上回れば、主債務は消滅し、保証債務の付従性により、保証債務も消滅することになります。

保証債務を履行した後にできること~求償権の行使~

保証債務を履行した場合、保証人は主債務者に対し、自身が主債務者に代わって債権者に支払った金額の返還を求めることができます。このことを「求償権」といいます。主債務者に財産が残っているにもかかわらず、債権者から保証債務を支払うように請求されて支払った場合、求償権を行使することで、保証人は自身が債権者に支払った金銭を回収することができることになります。

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