連邦遺産税の申告書(フォーム706-NA)
- 1 連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)とは
- 2 連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)の提出を必要としない場合
- 3 遺産の額が6万ドル以下の場合の宣誓供述書(Affidavit)
- 4 誰が連邦遺産税の申告書の提出を行うのか
- 5 委任状(フォーム2848)の様式
- 6 連邦遺産税申告書の提出期限
- 7 連邦遺産税申告書の提出期限の延期申請
- 8 連邦遺産税申告書の提出を遅延した場合
- 9 Death Tax Treaties
- 10 連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)のPart Iの記入方法
- 11 連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)のPart IIの記入方法
- 12 連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)のPart IIIの記入方法
- 13 連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)の添付書類
- 14 相続人についての報告書(フォーム8971)
- 15 クロージングレター(Estate Tax Closing Letter)とは
- 16 連邦移転証明書(フォーム5173)の申請
- 17 専門家によるアドバイスの必要性
- 18 栗林総合法律事務所におけるサポート
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)とは
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)(United States Estate Tax Return)は、アメリカ合衆国の市民ではなく、かつアメリカに居住していない人が亡くなった時にIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)に提出する遺産税の申告書です。アメリカに居住しておらず、アメリカの市民権を有していない人をNRNC(Nonresident not a citizen)といいます。連邦遺産税の申告書の様式であるフォーム706-NAは、世代スキップ譲渡税(Generation-Skipping Transfer Tax)の申告書と一緒になっていますので、フォーム706-NAは、連邦遺産税の申告と、世代スキップ譲渡税の申告のいずれの目的でも使用されることになります。アメリカ合衆国の市民権を有しておらず、アメリカに居住していない日本人(NRNCに該当する日本人)が亡くなった時は、原則としてフォーム706-NAの提出が必要となります。
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)の提出を必要としない場合
連邦遺産税申告書(フォーム706NA)は、アメリカ合衆国における遺産の額が6万ドル以上の場合、及び海外に居住するアメリカ市民が亡くなった場合(この場合は遺産の額にかかわりません)に提出が必要とされています。反対に言えば、遺産の額が6万ドル以下で、かつ海外に居住するアメリカ市民でない人が亡くなった場合にはフォーム706NAの提出は必要ないことになります。アメリカ市民権を有していない日本人が死亡した場合で、遺産の額が6万ドル以下の場合はフォーム706NAの提出は必要ありません。なお、日本人については、日米租税条約の適用により遺産の額が6万ドル以上の場合であっても連邦遺産税の納税義務を免除されるのがほとんどですが、このような場合であってもアメリカ国内にある遺産の額が6万ドル以上の場合は申告義務があります。
遺産の額が6万ドル以下の場合の宣誓供述書(Affidavit)
アメリカの市民でない人が亡くなった場合で、遺産の額が6万ドル以下の場合は、フォーム706-NAの提出は必要ありませんが、この場合であっても遺産をアメリカ国外に送金しようとする場合にアメリカ合衆国の金融機関から連邦移転証明書(Transfer Certificate)の提出を求められる場合があります。連邦移転証明書(フォーム5173)は、外国人の遺産相続に関し、遺産税の支払いがなされてり、未納の税金がないことをIRSが確認するものです。アメリカ合衆国の遺産の額が6万ドル以下の場合は、フォーム706-NAの提出は行いませんが、相続人は、遺言書の写し及びその翻訳文、日本における相続税申告書及びその翻訳文、死亡証明書及びその翻訳文、公証人役場で作成する宣誓供述書(Affidavit for Non-Resident Alien Estates)をIRSに提出することで連邦移転証明書を取得することができます。宣誓供述書(Affidavit for Non-Resident Alien Estates)には、被相続人の出生地及び生年月日、被相続人がアメリカ市民でないこと(アメリカ市民権を取得している場合は市民権の取得日)、死亡日において被相続人がアメリカ国内で有していた全ての財産及びその評価額、死亡日における被相続人の国籍及び住所、アメリカの預金がアメリカ国内での事業に使用されていたかどうかについての説明などが含まれます。
誰が連邦遺産税の申告書の提出を行うのか
アメリカ合衆国に遺産がある場合は、プロベイト手続きが取られるのが原則です。プロベイト手続きが行われる場合は、アメリカ合衆国の裁判所から相続財産管理人(ExecutorまたはAdministrator)が選任され、相続財産の管理及び分配を行うことになります。プロベイト手続きにより相続財産管理人が選任される場合は、相続財産管理人が納税手続きを行いますのでフォーム706-NAを作成して提出する必要はありません。アメリカにおける遺産の内容が株式や投資信託のみの場合や、遺産の額が少ない場合はプロベイト手続きが行われません。これらの場合は、相続財産管理人が選任されませんので、相続人が連邦遺産税の申告を行う必要があります。
委任状(フォーム2848)の様式
日本人がIRSに対して連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)を提出する場合、アメリカ合衆国国内の弁護士または税理士に対して委任を行い、これらの代理人によって作成・提出するのが通常です。アメリカ国内の弁護士または税理士に対する委任状(Power of Attorney and Declaration of Representative)の様式及び書き方(Instructions for Form 2848)についてはIRSが定めており、その内容を公開していますので、その様式に従って作成する必要があります。委任状(フォーム2848)には、納税者の氏名・住所、代理人の氏名・住所などが記載されます。
連邦遺産税申告書の提出期限
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)は被相続人が死亡した日から9か月以内にIRSに提出する必要があります。日本における税務申告書の提出期限が、被相続人の死亡時から10か月以内ですので、日本における税務申告書の提出期限よりもアメリカ合衆国での連邦遺産税申告書の提出期限が早いことになります。
連邦遺産税申告書の提出期限の延期申請
被相続人が死亡してから9か月以内に連邦遺産税の申告書(フォーム706-NA)の提出ができない事情がある場合はIRSに対してForm4768(連邦遺産税申告書の提出期限延長申請書)(Application for Extension of Time To File a Return)を提出することで6か月間提出期限を延長することができます。また、海外に居住する人で、延長された申請期間内に申請ができない場合には、Form4768(連邦遺産税申告書の提出期限延長申請書)を再提出することで、さらなる提出期限の延長が可能です。この場合は、さらなる提出期限の延長が必要となる理由書を提出する必要があります。Form4768の書式及び説明書(Instructions for Form 4768)については、IRSのホームページから取得することが可能です。
連邦遺産税申告書の提出を遅延した場合
連邦遺産税申告書が提出期限内に提出できない場合は、科料の制裁が科せられる可能性があります。遺産の評価額を少なく見積もって遺産税の支払いを免れようとしたり、定められた遺産税の納税を行わない場合にも科料が課せられます。連邦遺産税申告書の提出後に、科料の制裁の通知を受け取った場合で、正当な理由がある場合は、科料を免れるための上申書を提出することができます。なお、この上申書は科料の通知がなされた後に行うものですので、連邦遺産税申告書の提出が遅れた場合であっても、連邦遺産税申告書の提出と同時に遅延の理由を記載した上申書を提出する必要はありません。
Death Tax Treaties
オーストラリア、オーストリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、日本、オランダ、南アフリカ、スイス、イギリスの各国は、アメリカ合衆国との間において遺産税に関する条約(Death Tax Treaty)が締結されています。日本もこれらの国に含まれていますので、アメリカ人と同様の基礎控除を受けることができます。日本人が連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)を提出する際には、条約の適用があることについての説明書を添付する必要があります。日米租税条約の適用があることを申請する様式をフォーム8833(Treaty-Based Return Position Disclosure)と言います。フォーム8833では、1955年4月1日に発効したUnited States-Japan Transfer Tax Agreementの適用により、日本人についてはアメリカ合衆国の市民と同額の控除を受けることができること、及び控除の額については、遺産の一部がアメリカ合衆国以外にある場合は、アメリカ合衆国に所在する遺産の割合を乗じた額に限られることなどを記載した説明書を添付することになります。例えば、被相続人の死亡時におけるアメリカ合衆国の連邦遺産税の基礎控除額が15億円で、アメリカ合衆国に所在する遺産の割合が世界全体のうち10%に相当する額に限られる場合は、アメリカ合衆国における基礎控除額は、15億円×10%=1億5000万円となります。
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)のPart Iの記入方法
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)を作成する際には、IRSから出されている説明書(Instructions for Form 706-NA)の内容を確認し、その説明書に従って作成する必要があります。連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)は、Part I、Part II、Part IIIによって構成されています。Part Iには、被相続人の氏名、死亡場所、死亡時のドミサイル、国籍、死亡日、生年月日、出生場所、職業、遺言執行者の氏名、住所、電話番号、Fax番号、eメールアドレス、代理人の氏名、住所、電話番号、Fax番号、eメールアドレスなどが記載されます。被相続人がソーシャルセキュリティ番号(SSN)を有していた場合は、ソーシャルセキュリティ番号(SSN)を記入します。被相続人が納税者番号(individual taxpayer identification number)(ITIN)を有している場合で、これまでに納税者番号(ITIN)を用いて納税申告書を提出したことがある場合は納税者番号(ITIN)を記載することになります。被相続人ンがソーシャルセキュリティ番号(SSN)を有しておらず、これまでに納税者番号(ITIN)を用いた納税申告書の提出もしていない場合には、IRSに対して申請を行うことで、IRSは新たにIRS番号(Internal Revenue Service Number)を割り当てることになります。もし、申請者がSSNも、ITINも、IRS番号も有していない場合には、アメリカ合衆国における納税者ID番号(U.S. taxpayer ID number)の欄は空欄としておきます。
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)のPart IIの記入方法
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)Part IIでは、遺産税の額を記入します。遺産税の対象となる遺産の金額、生前に贈与された財産の額、税金の額、控除額、控除後の税金の額などを計算して記入することになります。なお、米国内の不動産については鑑定人(Appraisal)により評価額を算出してもらうことが必要となります。
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)のPart IIIの記入方法
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)Part IIIでは、一般的な情報についての質問事項に回答を行い、代理人がサインして、サインした日付を記入します。Part IIIの質問事項としては、遺言書の有無、遺産の対象となる不動産・株式・債務・その他の資産の有無、被相続人が死亡時にアメリカ合衆国で事業を行っていたか否か、貸金庫を有していたかどうか、ジョイントテナントとなっている資産を有していたかどうか、被相続人がアメリカの市民権や住所を有していたことがあるかどうか、海外に移送した資産があるかどうか、被相続人が創設したトラストがあるかどうか、アメリカ合衆国内の資産について代理人を指名しているかどうか、アメリカ合衆国内において贈与税の申告を行ったことがあるかどうか、などがあります。
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)の添付書類
連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)の添付書類(Attachment)については、日本語で作成されている書面はすべて英語に翻訳する必要があります。遺言書がある場合は、遺言書を添付する必要がありますが、写しが原本と相違ないことの証明を求められます。被相続人の死亡証明書も添付する必要があります。また、遺産の中に非上場会社の株式がある場合は、被相続人の死亡前5年間のバランスシート(貸借対照表)、損益計算書、配当金計算書などを添付する必要があります。
相続人についての報告書(フォーム8971)
IRSに対して連邦遺産税申告書(フォーム706-NA)を提出する際には、相続人に関する情報も提供する必要があります。相続人に関する情報については、IRSの定めているフォーム8971(Information Regarding Beneficiaries Acquiring Property From a Decedent)に記入して提出する必要があります。
クロージングレター(Estate Tax Closing Letter)とは
IRSはフォーム706NAにより提出された書類を審査し、必要に応じて質問や調査を行います。IRSは、提出された情報が正確であり、アメリカ国内での未納税金がないことを確認した後、代理人の弁護士(税理士)に対してクロージングレター(closing letter)を交付します。クロージングレターのタイトルはEstate Tax Closing Documentsとなっています。IRSに対してクロージングレターの交付申請を行う場合には67ドルの手数料を納付する必要があります。IRSから交付されるクロージングレターにおいてNet Estate Taxの数字がゼロとなっていれば、未納税金がないことを意味することになります。反対にNet Estate Taxの欄に数字の記載がある場合は、納税義務があるか、IRSが間違っている可能性がありますので、その原因を確認する必要があります。日本人の場合、日米租税条約の適用により、ほとんどのケースで遺産税の支払いは必要ないと思われます。日本人がアメリカ人と同様の控除を受けられる点についてはIRSの審査官も気が付かないことがありますので、被相続人が日本人の場合には日米租税条約の適用があり、アメリカ人と同額の控除が受けられることを説明する必要があります。
連邦移転証明書(フォーム5173)の申請
IRSからクロージングレターが交付されたらフォーム5173により連邦移転証明書(Transfer Certificate)の交付申請を行います。提出先はInternal Revenue Service Centerとなります。IRSにフォーム706NAを提出してから連邦移転証明書を取得するまでには、通常6か月から9か月の期間を要します。
専門家によるアドバイスの必要性
フォーム706-NAの作成手続きについては、IRSからガイドラインが公開されていますので、だれでもインターネットでその内容を確認することができます。しかし実際に連邦遺産税の申告書(フォーム706-NA)を提出しようとする場合には、多くの提出書類を必要とし、複雑なプロセスを経る必要があります。専門的な税務アドバイスを受け、正確で適切な手続きを行うことが重要です。
栗林総合法律事務所におけるサポート
栗林総合法律事務所では、日本人の皆様がアメリカ合衆国で遺産税の申告を行う際の手続きをサポートしています。また、アメリカ国内の資産を日本に移転する際に必要となる移転証明書(Transfer Certificate)の取得手続きをサポートしています。アメリカ合衆国における遺産税の申告についてお知りになりたい方は栗林総合法律事務所までお問い合わせください。
企業法務の最新情報をお届けする無料メールマガジン