アメリカで少額の不動産を相続した場合の手続き
- 1 Affidavit re Real Property of Small Valueとは
- 2 区分所有やタイムシェアの場合も使えますか
- 3 Affidavit re Real Property of Small Valueはなぜ必要ですか
- 4 Affidavit re Real Property of Small Valueが作成される場合
- 5 Affidavit re Real Property of Small Valueの記載内容
- 6 対象不動産の特定
- 7 財産の評価(inventory and appraisal)
- 8 Affidavit re Real Property of Small Valueの添付書類
- 9 Affidavit re Real Property of Small Valueを日本で作成できますか
- 10 Affidavit re Real Property of Small Valueをアメリカで作成する場合
- 11 公証人(Notary Public)の役割
- 12 Affidavit re Real Property of Small Valueの提出先
- 13 登記とDeed(権利証)の作成
- 14 所有権の放棄の可能性
- 15 アメリカにおける遺産税
- 16 日本における相続税
- 17 アメリカにおける不動産譲渡税
- 18 日本における不動産譲渡税
- 19 専門家によるアドバイスの必要性
- 20 栗林総合法律事務所におけるサポート
Affidavit re Real Property of Small Valueとは
Affidavit re Real Property of Small Valueは、アメリカ国内に所在する少額の不動産を相続した場合に相続人が作成する宣誓供述書です。日本語では、「少額の不動産に関する宣誓供述書」と訳されます。なお、reは、regarding(~に関する)の省略形です。Affidavit re Real Property of Small Valueは、Small Estate Affidavitと呼ばれることもあります。このコラムの中では、Affidavit re Real Property of Small Value のことを、Small Estate Affidavitと呼ぶこともあります。
区分所有やタイムシェアの場合も使えますか
アメリカに所在する土地や一戸建て建物を相続する場合だけでなく、区分所有のマンション、リゾートマンションのタイムシェア(共有持分の場合)、コンドミニアムの共同所有権等を相続する場合にも、持分登記がなされているなどして不動産登記が必要な場合には、Affidavit re Real Property of Small Value(少額の不動産に関する宣誓供述書)を利用して名義変更を行うことが可能です。
Affidavit re Real Property of Small Valueはなぜ必要ですか
アメリカに所在する財産の遺産相続については管理清算主義が取られていますので、被相続人が亡くなると、被相続人が有していた財産はEstateという財団を構成し、裁判所が選任した財産管理人(遺言書がある場合はexecutorで、遺言書がない場合はadministrator)が管理し、裁判所の許可を経て相続人に分配されることになります。このような手続きをプロベイト手続きと言います。プロベイト手続きについては、現地の裁判所の関与があることや厳格な債権調査がなされることなどから、通常1年以上の期間を要することになり、その間相続財産が拘束されてしまうことになります。また、プロベイト手続きを行うためには、現地の弁護士の関与が必要であり、弁護士費用や裁判所の費用として多額の費用を必要とします。一方で、遺産の額が少額の場合に、厳格なプロベイト手続きを要求するのは、経済合理性の観点から適切でないとも言えます。そこで、相続財産が少額の場合には、Affidavit(宣誓供述書)という書類を作成することで、プロベイト手続きを経ることなく、相続財産を相続人に引き継げるようにしています。
Affidavit re Real Property of Small Valueが作成される場合
Affidavit re Real Property of Small Valueが作成される場合は、アメリカにある少額の不動産を相続した場合となります。「少額」の判断基準は州によって異なります。カリフォルニア州の場合、2022年4月1日以前に相続が発生した場合には、5万5425ドルを超えない場合となっており、2022年4月1日以降に相続が発生した場合には、6万1500ドルを超えない場合とされています。この金額は、被相続人の死亡時において当該州(例えばカリフォルニア州)に所在する全ての不動産の合計額を基準とします。
Affidavit re Real Property of Small Valueの記載内容
Affidavit re Real Property of Small Valueには、①被相続人の氏名、死亡日、死亡場所、②不動産の価格が6万1500ドルを超えないこと(2022年4月1日以降に死亡した場合)、③不動産の所在場所、④検認審判官による鑑定書、⑤葬儀費用や病院の治療費が全て支払い済みであること等を記載することになります。宣誓供述書と言われますが、実際には、宣誓をしたり、何かを述べたりする必要があるわけではありません。定型のフォーマットがありますので(カリフォルニア州の場合DE-305)、各欄にチェックを入れるだけで書面が作成できるようになっています。
対象不動産の特定
Affidavit re Real Property of Small Valueの中で、相続の対象となった不動産(当該州において被相続人が所有していた全ての不動産)を記載し、不動産の特定を行う必要があります。不動産に関する記載はlegal descriptionといいます。Legal Descriptionは、不動産が所在する住所(property address)やlot numberによって特定します。Legal Descriptionの記載はかなり難解ですので、多くの場合、Legal Descriptionの記載には専門家のサポートを必要とすると思われます。
財産の評価(inventory and appraisal)
Small Estate Affidavitを提出しようとする州に所在する不動産については、一覧表を作成し(inventory)、鑑定評価(appraisal)を行う必要があります。鑑定評価は、被相続人の死亡した日を基準として、Probate Referee(プロベイト手続きにおける評価人)に行ってもらいます。価格は被相続人が死亡したときの市場価格(market value)によって定まります。Small Estate Affidavitを提出しようとする相続人は、各州で定めた定型のフォーマットにより、鑑定評価額を申述するとともに、申告した内容が、当該州に所在する全ての相続不動産であること、固定資産税の支払いが行われていることなどを記載し、日付の記載と署名を行った上で、Affidavit re Real Property of Small Value(少額の不動産に関する宣誓供述書)の添付書類として高等裁判所に提出します。
Affidavit re Real Property of Small Valueの添付書類
Affidavit re Real Property of Small Valueの添付書類として、日本での死亡届、死亡診断書、死亡届出の記載事項証明書を添付します。死亡届記載事項証明書は、死亡届出の記載事項を記載した書面を作成し、それに法務局の戸籍部長が押印する場合と、相続人から提出された死亡届出と死亡診断書の写しに割印をして、法務局の戸籍課長が押印する場合があります。戸籍課長の印鑑については、アポスティーユを付して、戸籍課長の印鑑が本物であることの証明を行います。日本語で作成された死亡届や死亡診断書については、資格のある通訳人(certified/registered court interpreter)による翻訳文と、翻訳証明書を添付する必要があります。どのような資格者が通訳(翻訳)を行うことができるのかは州によって違いがあるようですので、現地の裁判所に確認を取る必要があります。通訳人の翻訳証明書についても公証人(Notary Public)の認証が必要となります。
Affidavit re Real Property of Small Valueを日本で作成できますか
Affidavit re Real Property of Small Valueは日本で作成することもできます。相続人が日本に居住している場合は、日本での作成も検討ください。Affidavit re Real Property of Small Valueを日本で作成する場合は、公証役場に行き、公証人の面前において英語で署名し、公証人の認証文言とアポスティーユをつけてもらう必要があります。
Affidavit re Real Property of Small Valueをアメリカで作成する場合
Affidavit re Real Property of Small Valueをアメリカで作成する場合は、当該州で認可を得た公証人(notary public)の面前で署名する必要があります。日本の場合と異なり、アメリカの場合は、公証役場に行く必要はありません。あらかじめアポイントを取ることで、公証人(notary public)に来てもらうこともできます。依頼者が依頼している法律事務所の会議室に公証人(notary public)に来てもらい、法律事務所の会議室で作成されることが多いのではないかと思われます。
公証人(Notary Public)の役割
公証人(Notary Public)の役割は、宣誓供述書の書面にサインした人が本人に間違いないかどうか(identity)を確認するもので、書面の記載内容が正確であり、間違いないものであるかどうかを確認するものではありません。本人確認の方法としては、パスポートや運転免許証など写真入りの身分証明書により行います。
Affidavit re Real Property of Small Valueの提出先
Affidavit re Real Property of Small Valueは、州の高等裁判所(Superior Court)に提出されます。州の高等裁判所(Superior Court)の裁判所書記官(court clerk)は、Affidavit re Real Property of Small Valueの用紙の最後の部分に裁判所のスタンプを押し、書類を受領した日付を記入します。また、署名欄に裁判所書記官(court clerk)のサインをします。
登記とDeed(権利証)の作成
Affidavit re Real Property of Small Valueを州の高等裁判所(Superior Court)に提出し、受理されただけでは手続きは完了しません。その次のステップとして、Affidavit re Real Property of Small Valueをカウンティ(町)の登録事務所(Recorder’s Office)に提出して相続人名義への変更登記を行う必要があります。登記が完了した場合は、Deed(権利証)が発行されます。
所有権の放棄の可能性
金額の小さな不動産については、固定資産税の発生を避けるため、相続放棄をしたいとの依頼がなされることがありますが、アメリカでは相続放棄の制度はありませんので、相続を放棄することはできません。一方、不動産を近傍の土地所有者に購入してもらうという事は可能ですので、もし不動産の処分を検討している場合は、近傍の土地所有者に購入してもらえるかどうかを働きかけてみることも重要と言えます。栗林総合法律事務所では、相続人が現地の不動産を早期に処分したいと考えている場合、現地の法律事務所を通じて近隣の所有者に声がけし、購入希望者が現れた段階で売却処分するようにしています。不動産の売却時には、Quitclaim Deed(権利譲渡証書)と言われる証書を作成します。日本人は、Quitclaim Deedを日本の公証役場で作成し、公証人の認証文言にアポスティーユを付すことで、現地に行かなくてもDeed(証書)の作成を行うことができます。Deedを作成することで、権利移転の証明を行うことができることになります。
アメリカにおける遺産税
アメリカにある不動産を相続した場合に、日本とアメリカにおける相続に関する税金を検討する必要があります。アメリカに所在する不動産について相続が発生した場合、アメリカで遺産税が発生する可能性があります。日本と異なりアメリカでは、相続人に対してではなく相続財産に対して税金が課せられることから、相続税ではなく遺産税と呼ばれます。アメリカ人の遺産については、極めて高額(2024年度で約1400万ドル)の基礎控除が認められていますので、ほとんどのケースで相続税は発生しません。日本人が死亡した場合は、本来であれば6万ドル以上の相続財産がある限り、遺産税が課せられることになります。しかし、日本はアメリカとの間において条約がありますので、IRSに対して日米条約に基づくメリットを受ける旨の届け出を行うことで、アメリカ人と同等の基礎控除を受けることができます。少額の不動産を相続した場合は、もともと不動産の価格が6万ドル以下ですので、遺産税は考慮する必要がないことになります。
日本における相続税
アメリカにある財産を日本人が相続した場合、日本の税務署に提出する相続税申告書にはアメリカで相続した財産についても記載する必要があります。その結果、アメリカに所在する不動産の相続についても日本で相続税が課せられることになります。アメリカにある不動産については、被相続人の死亡時における時価をもとに計算されることになります。Affidavit re Real Property of Small Valueの作成時に、鑑定評価人による鑑定評価がなされている場合はその価格に基づき相続財産の価格を申告することになるのではないかと思います。
アメリカにおける不動産譲渡税
アメリカで相続した不動産を売却した場合、譲渡益に対して譲渡益課税がなされます。この場合の不動産の取得価格については、アメリカではステップ・アップが認められていますので、被相続人が取得した時の価格ではなく、被相続人が死亡した時における公正な市場価格(fair market value)が取得価格となります。アメリカに所在する不動産を相続により取得し、その後売却した場合、取得価格と譲渡価格の差が譲渡益となります。しかし、取得価格は相続時の時価によりますので、相続発生後、不動産の価格が急上昇した場合を除き、高額の譲渡益が生じる可能性は高くはないと思われます。日本に居住する日本人がアメリカで不動産を売却した場合には、アメリカの非居住者用の申告フォームであるForm1040NRを用いて申告を行う必要があります。譲渡益に対して分離課税がなされるのか、総合課税になるかは確認下さい。なお、譲渡人が外国人(日本人)の場合、不動産の買主は源泉徴収を行う義務があります。その結果、不動産の譲渡人(アメリカの不動産を相続した後譲渡しようとする日本人)に対しては、不動産の譲渡代金から最大15%の源泉徴収税を控除した金額が支払われることになります。不動産の買主は、源泉徴収した場合の調書としてForm1042-S(Foreign Person’s U.S. Source Income Subject to Withholding)と言われる書面を作成します。
日本における不動産譲渡税
日本の場合、アメリカのようなステップ・アップの制度はありませんので、不動産の取得価格については、被相続人が取得した時の取得価格を引き継ぐことになります。不動産の譲渡代金と、被相続人が不動産を取得した時の取得価格の差額が譲渡益となり、これに対して課税されることになります。不動産を譲渡した者(日本人の相続人)がアメリカで不動産譲渡税を支払っている場合(源泉徴収された場合を含む)、日本とアメリカで二重に譲渡税を支払わなければならない可能性が出てきます。この場合、不動産の譲渡人は不動産の買主から源泉徴収票(Form1042-S)の写しを取得し、日本の税務署に提出することで、外国税額控除(所得税法44条の2)を受けることができます。その結果、日本とアメリカにおける二重課税を回避することができることになります。
専門家によるアドバイスの必要性
アメリカにある少額(例えば6万1500ドル以下)の不動産を相続により取得した場合には、Affidavit re Real Property of Small Valueの届け出を行うことで、プロベイト手続きを回避することができます。但し、その場合であっても、上記に記載したように様々な考慮事項を検討しなければなりません。実際のプロセスにおいては専門家のアドバイスが不可欠となります。相続財産の金額が少ない場合は、相続に関してかかる費用(弁護士費用や税理士費用)も考慮しながら、専門家と十分協議をして手続きを進めていく必要があります。
栗林総合法律事務所におけるサポート
栗林総合法律事務所では、日本人の皆様がアメリカ合衆国で不動産や金融資産を相続したときの相続手続きをサポートしています。アメリカ国内の資産を相続した場合の相続手続きについてお知りになりたい方は栗林総合法律事務所までお問い合わせください。