ポーランドの取引先との協議により和解金を支払って解決した事例
国際紛争事案の概要
当事務所の顧問先のK社の担当者は、ポーランドの取引先(A社)とのメールのやり取りにより、ポーランドの会社から化粧品を購入することを協議してきました。K社の担当者としては、商品売買基本契約書が締結されている場合であっても、個別契約の締結に至るには、両当事者の代表者が了解し、注文書(Purchase Order)を発行してから初めて商品の売買に関する法的義務が生じるものと理解していました。ところが、ある日ポーランドの会社(A社)からのメールの中で、突然、貴社(当事務所の顧問先K社)が注文した商品を準備しているので、商品の引き取りを行い、商品代金2000万円を支払うよう要求してきました。K社の担当者としては、Purchase Orderの発行もないのに突然お金を払えと要求して来ても、そのような要求には応えられないと考えていましたが、ポーランドの取引先は、商品代金の支払いがない場合には、商品売買基本契約書(Basic Sale and Purchase Agreement)に基づき、ヨーロッパの裁判所に訴訟を提起すると脅しをかけてきています。K社の代表は、多額の請求にどのように対応していいかどうか分からず当事務所に相談に来られました。
栗林総合法律事務所による紛争解決
当事務所の弁護士がポーランドの会社と日本の会社の担当者との間でやり取りされていたeメールを確認したところ、ポーランドの会社から送られてきたeメールに対し担当の社員が上司の了解もなしに勝手に返信を書いていることが分かりました。栗林総合法律事務所では、今回のように紛争事案になっている場合には、メールのやり取り自体が重要な証拠として扱われるものであることから、今後行うポーランド企業とのメールのやり取りについては、全て栗林総合法律事務所で内容をチェックし、当事務所の弁護士がドラフト(英文)を作成し、担当者は栗林総合法律事務所で作成した文案を自分のメールとして相手方に送付するようにルーティーンの変更を行うよう指示しました。また、今回の紛争における主な争点が、当該商品について有効な売買契約が成立しているかどうかであることを明確にして議論を進めることにしました。当事務所で、ご担当者からのお話の聞き取りを行ったところ、今回の取引については契約が成立しておらず、売買代金の支払いも必要ないのではないかと判断しました。一方で、これまでのメールのやり取りを拝見すると、ポーランドの会社は言葉巧みに、契約の成立を認めさせ、その上で和解金の支払いについて協議しようとしていました。当事務所が関与し出した段階では、日本の担当者は、ほとんど先方の主張を認めて、「いくら支払えば了解してくれるのですか。」と言うようなメールを出したりしています。このようなメールは売買契約の存在自体を自白した上で、和解金の交渉をしようとしているものと判断される可能性があるもので極めて危険であると言えます。結局、当事務所が関与するようになってから契約の成立の有無が主張な争点であることが明確化され、先方も自分たちの立場が必ずしも有利でないことを認識したためか、少額での和解の協議にのってくるようになりました。その結果、150万円を3回分割で支払うことで合意することになりました。当方としてはあくまで売買契約は成立していないという立場ですので、和解条項も売買代金の一部の支払いではなく、示談による解決金の支払いとしています。栗林総合法律事務所で和解契約書(Settlement Agreement)を作成し、両当事者で調印の上、和解金の支払いを行うことで事案の解決を図ることができました。
国際紛争解決のポイント
今回の紛争解決においては、日本企業が陥りがちないくつかのポイントが含まれています。第1に、当初の段階で交渉の戦略を明確にし、どのような方向で協議を持っていくのかを明確にしておくことが重要と言えます。本件では、契約の成立の有無が重要な争点であり、特定の商品について、「買う」という意思表示と、「売る」という意思表示の合致があったと言えるのかどうかが重要なポイントになります。そこで交渉の中では、商品の売買に関する意思の合致があったと言えるのかどうか、また意思の合致があったと言えるためには、商品の種類、数量、品質、価格、その他の取引条件についてきちんとした合意がなされている必要があるがそのような合意はあったのかどうかを確認する作業を行っていくことが重要となってきます。このケースでは、そのような詳細な協議は全然行われていませんでしたので、しっかりとしたメールのやり取りを行えば、ポーランドの会社も自分たちの立場が不利であることが十分に認識し得たと思われます。ところが、本件担当者は、相手方の勢いに押されて、契約成立の有無について確認しないまま、「いくら払えば許してくれるのですか」というようなメールを送ったりしています。このようなメールは裁判上も自白の証拠として扱われることになりますので、極めて危険なメールになります。日本の会社としては、今回のような紛争については、国際紛争に習熟した弁護士に相談し、早期の段階から戦略を立てた協議交渉を行っていく必要があります。第2に、ポーランドの会社はヨーロッパの裁判所に訴訟提起することを繰り返し主張し、日本企業に圧力を加えてきておりました。日本企業としては、仮に相手方の主張が荒唐無稽なものであっても、ヨーロッパの裁判所に訴訟提起された場合は、弁護士費用の負担など、裁判対応だけでも多額の支出(数千万円)を甘受しなければならないことになります。そこで、相手方の主張は事実に反するもので全く認められないとつっぱねるかどうかについては、訴訟リスクについても十分に検討したうえで判断する必要があります。今回のケースでは、依頼者の代表者としては、ポーランドの会社から、ヨーロッパの裁判所に対して訴訟提起される可能性について大変心配していましたが、当職からは、訴訟提起を恐れて弱気の交渉を行うことはかえってリスクが高いことを説明し、訴訟リスクの有無にかかわらず、事実関係に基づきしっかりとした主張を行い、相手方も和解による解決を希望している場合には一定額(少額)の支払いを行うことで和解契約書の調印を目指すことを方針とすることを確認しました。また、和解交渉の中では、当方にお金がないことを主張し、仮に訴訟をしても、訴訟費用に見合った回収を行うことはできませんよというニュアンスを出すようにしました。その後、訴訟費用を考慮した場合、協議を続けていくことは無駄であることをポーランドの会社にも認識してもらい、ポーランドの会社も敗訴のリスクや訴訟費用に応じた金額の回収可能性について検討するようになり、一定の解決の方向に歩み寄ってくることになりました。協議についての戦略決定が重要であることを示すケースと言えます。
栗林総合法律事務所のサービス
栗林総合法律事務所では、国際取引を行う当事者間の意思疎通の齟齬や商慣習の違いによって生じる様々な問題について、日本企業の代理人として依頼者の立場を相手先企業に対して明確に伝え、取引条件の改善や明確化を求めていきます。また、取引の過程における紛争について双方の意見の対立がある場合には、双方の意見を聞きながら、当該環境下における好ましい妥協点はどこであるかを探っていき、当事者を説得しながら双方のビジネス上のメリットを最大化できる合意を導いていきます。単に、依頼者側の利益の立場からの一方的な意見の主張を行うのではなく、ビジネス上の観点から当事者双方に最も好ましい解決策を導き出し、それを両当事者に納得してもらうことが重要なポイントであると考えています。また、このような交渉を経て合意された内容については、法律上の権利義務であることを明確にするために、取引基本契約書の契約条項の改定や、メモランダム(Memorandum)やサイドレター(Side Letter)の形で書面化し、当事者双方の署名押印を取得していきます。これらの書面は全て英語で作成されます。また、場合によっては和解合意書(Settlement Agreement)として、双方の意見の相違がある中で、紛争解決がなされたことを明確にしておくこともあります。栗林総合法律事務所では、国際間の紛争における条件交渉の他、合意された内容を反映する各種書面のドラフトも行い、日本企業が巻き込まれる国際紛争について解決のためのサポートを提供しています。なお、国際紛争の解決に関する業務については、原則としてタイムチャージによる請求となりますが、顧問先企業については、国際紛争に関する法律相談料の他、和解交渉や書面作成に関する弁護士報酬についても通常の場合よりも2割のディスカウントを受けることができます。詳細については、栗林総合法律事務所のお問い合わせフォームからお問合せください。