アメリカの裁判所における訴訟で訴訟上の和解を行った事例
国際紛争事案の概要
当事務所の顧問先である日本企業Yは、アメリカの会社Qに、アメリカの会社Qが工場で使用する自動カッターのモーター部品を販売していました。ところが、Qの工場で自動カッターを使用して作業をしていたQの従業員Xが手を切断する重大な事故に巻き込まれることになり、Yを含む多くの関係者がカリフォルニア州の裁判所に訴えられることになりました。Yの説明では、Yの製品は自動カッター機に組込まれるモーターの部品であり、自動カッター自体ではないとのことでした。Yからは、Yの製品自体は安全性に問題があるものではなく、Xの事故による損傷については、本来は自動カッターの製造会社やXを使用していたアメリカの会社Qが全ての責任を負うべきで、モーターの部品を供給したに過ぎないYを訴えるのは完全にお門違いであるとのことでした。しかしながら、Yに対しても訴訟が提起され、訴状の送達がなされた以上、裁判に対する対応について検討する必要がありました。そこで、Y会社の代表取締役が当事務所に相談に来られ、訴訟への対応方針や訴訟戦略について打ち合わせることになりました。
栗林総合法律事務所による紛争解決
栗林総合法律事務所で検討したところ、日本企業Yはいくつかの製品をアメリカの取引先に対して販売している事実はあるものの、アメリカ国内において支店や子会社を有しているわけではなく、積極的な営業活動を行っているわけでもないとのことでした。そこで、アメリカの裁判所はYに対して対人管轄権を有するのかどうかが問題となります。また、訴状(complaint)の内容に対しても多くの反論が予想されるところでした。そこで、当事務所はYの代表者と相談の上、栗林の知り合いであるカリフォルニア州の弁護士を選任し、現地において本件訴訟を担当してもらうことになりました。当事務所は、カリフォルニア州の弁護士に対して事案の概要やY社の訴訟方針を伝え、また様々な関係書類を翻訳してカリフォルニア州の弁護士に送付することにしました。その結果、裁判所の命令によって定められた期限内にカリフォルニア州の弁護士から裁判所に対して管轄違いによる訴訟却下の申立て(Motion of dismissal on the ground of lack of jurisdiction)とともに、答弁書(answerまたはreply)を提出してもらうことができました。その後、今後の訴訟の進め方について日本企業Yの代理人であるカリフォルニア州の弁護士と原告(Plaintiff)の代理人との間で繰り返し協議がなされました。原告の代理人からは、Yの代表取締役とモーターの部品の開発者に対するデポジッション(証言録取手続)(deposition)を行いたいとの主張がなされ、証言録取の日程や会場まで設定されることになりました。証言録取手続きはオンラインで開催される予定でしたので、日本企業の代表者や担当者がアメリカの裁判所に出向く必要はありませんでしたが、時差の関係で日本時間の午前6時から午前12時まで数日間拘束されるものであり、身体的負担はかなりのものであることが予想されました。また弁護士費用や法廷通訳人の費用などにおいても、かなりの出費が予想されました。そこで、カリフォルニア州の弁護士を通じてぎりぎりまで協議を継続してきたところ、原告の代理人からは、5万ドル(約550万円)の解決金を支払う場合には、個別和解により日本企業Yに対する訴訟を取り下げるとの提案がなされました。日本企業Yとしては、本来が言いがかり的な裁判であり、5万ドルの支払根拠も薄弱であると考えましたが、訴訟継続による多額の弁護士費用の負担や、証言録取(デポジッション)などによる身体的負担も考慮すると、5万ドルでの和解を受け入れるのが適切であるとの判断に至り、和解を行うことになりました。和解契約書(Settlement Agreement)については、双方の代理人が文案を協議・作成し、裁判所の許可を得て効力が発生することになりました。
国際紛争解決のポイント
日本企業が海外の裁判所に対して訴訟提起された場合、日本の弁護士が現地の裁判所で被告である日本企業を代理することはできません。世界中のどの国であっても、弁護士の資格は、資格を付与された国での活動に限定されるためです。従って、外国の裁判所に提起された訴訟については、その裁判所の管轄区域で弁護士資格を有する弁護士を選任しなければなりません。アメリカの場合は、州ごとに弁護士資格が異なりますので、訴訟が提起された州の弁護士資格を有する弁護士を選任する必要があります。栗林総合法律事務所では、ユーロリーガルやIBAなどを通じて広く海外の法律事務所とのネットワークを有していますので、当該訴訟において最も適切な弁護士を選定し紹介することができます。また、日本企業が海外で提起された訴訟について、答弁書などを提出することなく、何の反論もしないで放置しておくと、欠席判決(default judgment)が下され、敗訴してしまうことになります。外国判決であっても、上訴期間が渡過することで判決が確定した場合は、原告は、日本の裁判所に申し立てを行うことで、日本の裁判所による外国判決の承認をしてもらうことができます(民事訴訟法118条)。日本企業としてはこの段階で外国の裁判手続きを争うこともできますが、日本企業が主張できる防御方法は、管轄や送達手続きなど法律上定められたものに限定されますので、勝訴の見込みは著しく小さくなってしまいます。この点からすれば、外国の裁判所に提起された訴訟についても放置しておくのは適切ではなく、少なくとも答弁書(Answer又はReply)を提出しておくべきと考えられます。また、日本企業が外国の裁判所に訴訟提起された場合は、管轄違いの抗弁(motion of dismissal on the ground of lack of jurisdiction)を提出しておくのが通常です。この抗弁は、訴訟の最初に提出する必要があり、管轄違いの抗弁を提出することなく、請求の内容に反論した場合は、後日管轄違いの抗弁を提出できなくなってしまいますので、注意が必要です。
栗林総合法律事務所のサービス
日本の弁護士の役割
弁護士の資格は自分の国だけで認められるものですので、外国の裁判所に弁護士として出頭し弁論することはできません。外国での訴訟手続きについては、現地の弁護士事務所が対応することになります。しかしながら、多くの事例において、外国の法律事務所に丸投げしていただけでは、必ずしもいい解決が図れるとは限りません。貴社の考えを現地の弁護士にしっかり伝え、正確な意思疎通を図るコミュニケーションが重要になってきます。また、外国の法律事務所はタイムチャージで請求をしてきますので、日本の弁護士が間に入って高額の請求を抑制するようにしていかないと弁護士費用が極めて高額となってしまうことがあります。外国の法律事務所からしても、日本の会社自体はどのような企業なのかが分かりませんので、日本の弁護士に間に入ってもらうことに安心感を持つことも多くあります。
国際訴訟関係資料の翻訳
外国裁判所の判決や決定文を含め、国際訴訟に関する資料は非常に難解で膨大となります。当事務所では、外国判決や外国裁判所の決定文、外国の裁判所に提出された証拠資料など、国際訴訟に関する資料の翻訳を行います。専門家による翻訳を行うことで、複雑な内容や手続き、進行状況について正確に理解をすることが可能となります。また、必要により裁判例(過去の判決文)の分析を行い、依頼者の法的立場についての説明をさせていただきます。
現地法律事務所の選定
現地の法律事務所の選定は訴訟の勝敗に対して多大な影響を与えることがあります。当事務所では、法律事務所の選定・推薦を行うとともに、当事務所の弁護士が依頼者とともに現地の法律事務所で面談を行い、当該事案を任せるに足りる弁護士かどうかを判断します(海外の法律事務所の選定をBeauty Contestと呼ぶことがあります)。また、不当な報酬の請求がなされるなどのトラブルがないよう現地の法律事務所を監督し、全体的なコントロールを行います。
訴訟戦略の立案
裁判制度が違う海外において、訴訟・紛争において、戦略の見極めはひときわ重要なファクターとなります。裁判の目的ひとつとっても、相手方が本気で裁判を争うつもりであるのか、和解金が目的なのか、質問事項書(interrogatory)や証人尋問(witness examination)を通じて情報を取得することが目的なのかなど様々な場合があり、こちらが取るべき対応も変わってきます。
ディスカバリー対応
アメリカを始め、英米法の国では、ディスカバリーの制度(証拠開示手続)があります。会社に所在する文書やその記載内容は相手方にも開示されるものとして、早期から対応を検討することが必要です。重要な証拠となりうる書類を判別し、不要な書類の作成をしないなど、制度に則した証拠の管理を履行します。リティゲーションホールド(litigation hold)の手続きをとることで会社が証拠となるデータを不注意に廃棄することのないよう注意する必要があります。
スケジュール管理
海外での訴訟の場合、裁判所が主張書面や証拠の提出期限を定め、その起源に遅れた主張や証拠については受け付けないことが多くあります。訴訟期日管理は国際訴訟において極めて重要です。当事務所は、訴訟手続き全体を通じて期日の管理を行い、証拠や主張書面の提出が遅れないように注意していきます。また、宣誓供述書などの証拠の作成についても期限に注意しながら十分な余裕をもって作成します。
現地法令の調査・報告
国際訴訟・紛争においては、現地の法制度と今後の手続を理解し、訴訟におけるリスクの大小を知ることが必要です。当事務所では現地における民法や会社法などの実体法と、訴訟手続法の両方についての調査を行い、現地の法令についての理解をしたうえで、依頼者に対してアドバイスを行います。
現地弁護士とのコミュニケーション
国際訴訟・紛争においては、齟齬なく現地の法律事務所に依頼者の意向を伝えることが基本です。戦略、和解、手続きといった全ての局面を有利にコントロールするために、当事務所の弁護士が現地の弁護士と直接に電話やeメールで法律用語を適切に使用したコミュニケーションを図ります。現地の弁護士とのコミュニケーションの内容は全て日本語に翻訳し、依頼者に伝えます。
証拠の作成・デポジションへの対応
現地の裁判所に提出する証拠や宣誓供述書を英文で作成します。日本語の証拠については英文に翻訳し、翻訳証明書を作成します。必要により公証人の認証を得ることになります。また、英米法における法廷外での証人尋問(デポジション)について、準備から立会まで一連の流れに対応します。会社の代表者や担当者による宣誓供述書の作成など証拠の作成は、国際訴訟において極めて重要なものであるにもかかわらず、日本で対応できる弁護士が極めて限られています。当事務所では事件が係属する裁判所のフォーマットに対応する宣誓供述書の作成を行うなど、裁判所に提出する証拠の作成を行います。
訴訟・仲裁手続きにおける専門家証人
知財侵害の有無や損害額の算定には、専門家証人の意見書が重要です。当事務所から法律、会計、医療、製品についての各種の専門家に依頼し、依頼者の主張をサポートする意見書を作成します。
外国判決の承認執行
外国で勝訴判決が得られた場合、被告の財産がその裁判所の管轄内にあれば、当該判決により直ちに差押えやその他の執行手続きを行うことになります。被告の財産が判決言渡しの国とは別の国に所在する場合は、被告の財産が所在する国の裁判所に対して外国判決の承認申し立てを行い、承認決定を得た上で、資産の差押を行うことになります。外国判決の承認決定の取得や執行手続きについては、専門家の意見が不可欠です。当事務所では、外国判決の承認決定の取得や日本国内での執行手続(資産の差し押さえ)なども行います。
弁護士費用の割引制度
国際紛争の解決に関する業務については、原則としてタイムチャージによる請求となりますが、顧問先企業については、国際紛争に関する法律相談料の他、訴訟支援、和解交渉や書面作成に関する弁護士報酬についても通常の場合よりも2割のディスカウントを受けることができます。詳細については、栗林総合法律事務所のお問い合わせフォームからお問合せください。