未払残業代支払請求訴訟で実質的勝訴和解をした事例
事案の概要
小規模の運送会社のトラック運転手が会社を退職した後に、ある法律事務所の弁護士を通じて、内容証明郵便により2000万円を超える未払残業代の支払請求をしてきました。トラック運転手は、運転報告書の記載を基に、車庫の出発時間と入庫時間を計算し、さらには自宅から会社の車庫までの往復の勤務場所を含めて労働時間として計算し、残業代計算ソフトに基づいて未払残業代の計算を行ってきました。さらに労働基準法114条に基づく付加金として未払残業代と同額の請求を行ったことから、請求金額が2000万円を超える金額となりました。会社の側では到底支払える金額ではなく、また残業代の計算方法についても問題があるとして支払いを拒否したところ、当該労働者の側から裁判所に訴訟が提起されることになりました。
未払残業代支払請求訴訟のポイント
未払残業代支払請求訴訟は、本来は会社の本店所在地で行われることになります。しかし、会社を辞めた従業員の側から訴訟提起がなされる場合は、従業員の現住所の近くの裁判所に訴訟が提起されることも多くあります。この場合、本案についての意見を述べる前に、管轄違いの抗弁を提出しておかないと、合意管轄が認められ、後に管轄違背を主張することができなくなります。未払残業代の支払請求がなされた場合は、本当にそのような未払残業代があったのかどうかを確認するところが重要となります。特に労働時間については、勤務開始時や勤務終了時についての理解において当事者間の認識に相違が生じ、争いとなることも多くあります。タイムカードの記載や、賃金台帳などで労働時間の管理がなされている場合は問題ありませんが、もしきちんとした労働時間の把握がなされていない場合は、労働時間についての調査を行うとともに、代表取締役による陳述書などで、会社の主張をサポートする証拠を作成していく必要があります。
栗林総合法律事務所による業務の結果
栗林総合法律事務所は、裁判所への訴訟提起がなされた段階で会社から相談を受け、被告である会社の訴訟代理を行うことになりました。当事務所では、過去2年分の運転報告書と当該運転手が担当していた配送ルートを精査し、移動時間を含めた勤務時間(残業時間)に関する一覧表を作成しました。その結果、自宅から車庫までの移動時間や休憩時間を含め、原告の主張するかなりの部分が残業代の対象外であることが明らかになりました。また、当事務所において、当該運転手の勤務形態や雇用形態を確認したところ、もともと雇用契約ではなく、業務委託契約として契約が締結されていたこと、一定の業務を行うことで定められた報酬の支払いが行われていることから、出来高払制(労働基準法27条)の報酬体系であることが分かりました。そこで、これらの事情を裁判所に詳細に説明したところ、裁判官も当事務所の主張に理解を頂き、原告側に対してかなりの説得を行っていただきました。その結果、最終的に比較的少額の和解金を支払うことで裁判上の和解が成立しました。
栗林総合法律事務所のサービス内容
2020年の民法改正により未払い残業代の時効期間が2年から3年に変更になりました。その結果、これまで未払残業代の支払請求は最大でも過去2年分に限られていたものが、今後は過去3年分の請求ができることになりましたので、一層高額の支払請求がなされることになります。栗林総合法律事務所では、多くの労務問題を扱った経験をもとに、労働者との交渉、ユニオンとの交渉、労働審判、訴訟などを通じて依頼者の立場を主張し、紛争の解決に導いてきています。また、従業員からの残業代支払い請求が増えている現在の状況下においては、会社の側としても、就業規則の整備、固定残業時間を含めた給与体系の確立、みなし残業制や出来高払い制の採用、日々の業務における労働時間管理等を一層きちんと励行していく必要があります。当事務所では、依頼者の会社の就労実態を把握したうえで、就業規則の見直しや、労務時間管理の方法についてのアドバイスを行うなど、未払残業代を発生させない取り組みを支援してきます。