• 2022.12.29
  • 訴訟・紛争解決

少数株主から株式総会決議不存在の訴えが提起された事例

事案の概要

X会社は創業者である先代が亡くなり、長男A、次男B、三男Cの3つの家系(グループ)がそれぞれ株式の3分の1ずつを相続しています。X会社は先代が亡くなった後はずっと長男Aが代表取締役として会社を経営していましたが、これまで株主総会を開催したこともなく、役員の選任を含め、会社に関する事項は全て長男が独断で決定していました。これに対してBから株主総会決議不存在の訴えが提起されました。BはこれまでX会社で株主総会が開催されたことがないこと、Aは取締役の地位を有していないので、これまでもらった報酬をすべて会社に返還すべきことを求めています。

支配権をめぐる争い

この事案は同族会社における支配権紛争の典型的場面であると言えます。A、B、Cのいずれも自分の家系に経営権を残していきたいと考えますので、同族間の争いは非常にシビアになっていきます。

株主総会の不存在

会社は決算期から3か月以内に株主総会を開催し、定款の規定に従って取締役の選任を行わなければなりません。ところが、多くの中小企業においては、実際には株主総会を開催したことがないにもかかわらず、役員選任登記に必要なことから、株主総会議事録のみを作成し、これを法務局に提出していることがあります。株主総会不存在確認を求められた会社の側からは、①株主総会議事録があるから株主総会の存在を推定すべきである、②会社の慣行としてこのような取り扱いがなされていたのであるから、株主は全員承認していた、③各株主から代表取締役が委任を受けて承認決議を行っていたのであるから、全員出席総会として有効である、などと反論がなされることになります。しかしながら、裁判の場では、実際に株主総会が開催されていなかった以上、会社によるこれらの主張は認められないことがほとんどだと思われます。株主総会の招集通知がなされていないが、みんなが集まったときに議論したはずであるというような主張も認められません。上記のような場合、裁判上、株主総会の不存在が認定されることが多いと思われます。

取締役の地位にないことの確認請求

取締役を選任する株主総会決議がない場合に、株主の側から、株主総会決議不存在の確認を求める訴えがなされることが多いと思われますが、より直接に、「取締役○○が取締役の地位にないことの確認を求める」という形で訴訟が提起されることもあります。裁判所の判決を得たのち、取締役の選任登記の抹消を行うためです。当該取締役を選任した株主総会決議が不存在の場合、その取締役は取締役の地位にないことになりますので、この場合も結局は、株主総会決議が存在したかどうかが争点となります。

取締役選任決議がない場合の問題

取締役選任決議が存在しないと判断された場合、その取締役に関する登記も無効ですので、抹消されることになります。また、その取締役に支払われた報酬は不当利得となって会社に返還しなければなりません。また、その取締役が出席してなされた取締役会決議も、取締役以外の者が参加した決議として無効となる可能性があります。また、取締役会の定足数に欠けることもあります。

権利義務取締役

取締役の任期は会社の定款において定められています。多くの場合、取締役の任期は1年か2年とされています。定款において取締役の任期の定めがない場合は、監査等委員会設置会社等を除き、取締役の任期は2年とされます(会社法332条1項)。株式会社では、取締役の任期が満了するごとに株主総会で取締役の選任を行わなければなりません。同じ取締役を再任することもできますが、その場合でも株主総会決議は必要であり、株主総会決議がない場合は再任となりません。そこで、取締役の任期が満了したにも関わらず取締役選任の株主総会が開催されていない場合、取締役を欠いた状態(取締役のいない状態)となってしまいます。役員に欠員が生じた場合の措置として、会社法では、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有するとされています(会社法346条1項)。このような地位にある取締役を権利義務取締役と言います。従って、一番最近の取締役選任が無効となることで、定款に定められた取締役の人数を欠くことになった場合、その前の取締役選任決議により選任された取締役(一番最近に選任された取締役と同じ人の場合もあります)が権利義務取締役となります。その前の選任決議も無効の場合、さらにその前の選任決議で選任された取締役が権利義務取締役となります。

一時役員の選任申し立て

役員選任の株主総会決議が取り消された場合において、権利義務取締役が新たに株主総会を開催して取締役を選任できる場合は、その手続きによって取締役の選任を行います。一方、取締役の人数を欠いた場合で、株主総会も開催できない場合は、裁判所に対して一時役員(仮取締役)の選任を申し立て、裁判所が一時役員を選任することになります(会社法346条2項)。同様に代表取締役を欠いた場合は、一時代表取締役の選任を申し立てることもできます(会社法351条2項)。一時役員は原則として裁判所が選任する弁護士など、立場的に中立の者がなりますので、会社からすれば知らない人が役員になるということになります。また、一時役員選任の申し立てを行う場合は、一時役員の報酬を担保するため、予納金の納付が命じられます。従って、会社の側からは一時役員の選任は避けて、できるだけ株主総会で取締役を選任しようとする方向になるのではないかと思われます。

職務代行者選任の申し立て

会社の取締役が違法な行為をしようとする場合は、民事保全法56条の規定に基づき、取締役の職務執行停止や職務代行者の選任申し立てを行うことができます(民事保全法56条)。株主総会決議取り消しの訴えによって、取締役選任決議の効力を争う場合は、現在登記簿に記載のある取締役に対して不満を持っている場合が多いと思われますので、職務代行者選任の申し立てにより、裁判所の選任する職務代行者(弁護士)に経営を委任し、状況の打開を図るということも考えられます。

株主総会による選任

株主総会決議不存在の確認により、取締役選任決議が無効とされても、最終的にはだれが取締役として会社を経営していくのかを定めなければなりません。従って、会社としては株主総会を開催し、取締役の選任を決議せざるを得ないことになると考えられます。現在の取締役が株主総会を招集しない場合は、株主の側から株主総会招集許可申し立てがなされることになります。