• 2020.09.01
  • 人事労務

会社の社員が逮捕されたことを理由に休職命令を行った事例

休職とは

休職とは、ある従業員について労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものを維持させながら労務への従事を免除することまたは禁止することと解されています。休職は、労働協約や就業規則の定めに基づく使用者の一方的意思表示によってなされるのが一般的です。なお、休職の内容等について法律上の規定はなく、休職に関する法律関係を判断するにはそれぞれの会社の休職規定の内容を個別的に検討することになります。

起訴休職の判断基準

会社の従業員が逮捕・起訴され会社に出てこれなくなった場合、就業規則に規定がなくても起訴休職を命じることはできます。起訴されたことにより会社の業務に支障を生じさせるかどうか、業務に従事させることが会社の対外的信用を失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生じるおそれがあるか否かを慎重に判断する必要があります。

就業規則に起訴休職の明文がない場合

就業規則に明文の規定がない場合でも、起訴されたことを理由とする起訴休職を命じることは可能です。起訴休職の可能性について、東京地判平成15年5月23日は、「被告(会社)の就業規則には、特別の事由があって休職させることを適当と認めたときには、被告が必要と認める期間、休職を命じることができ、その休職期間中は無給とする旨の定めがある。…原告は、起訴休職についての明文がない以上、抽象的な定めをもって、起訴を理由とする休職を命じることは罪刑法定主義に反し許されないと主張するが、労働者の責に帰すべき事由による瑕疵ある労務提供について、あらゆる事態を想定して具体的に記載することはむしろ不可能であって、前記記載の程度で足りるというべきであり、原告の主張は、採用できない。」としています。

起訴休職はどのような場合に認められるか

起訴された従業員が引き続き就労することにより、被告の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあるか、あるいは当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあることが必要です。起訴休職が認められるためには、就業規則に明文の規定がある必要はありませんが、次の要件を満たすことが必要です(福岡高判平成14年12月13日判決)。① 起訴された従業員が引き続き就労することにより、被告の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあること、または② 当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあること、③ 休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲役処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないこと。起訴休職の要件に当たるかどうかを間違えると後日損害賠償請求訴訟や処分の無効確認訴訟等を起こされる可能性があります。起訴休職を行う場合には、事前に弁護士に相談ください。

起訴休職の期間

起訴休職の期間について何か月までと言うような制限はありません。但し、起訴休職の制度は、起訴されたことで業務への支障が生じることから認められた制度ですので、刑事事件の判決が確定するまでとすることが必要です。刑事事件では、推定無罪の原則が働きますので、起訴されただけでは犯罪者として処罰することはできません。起訴休職の制度は、従業員が起訴されても、判決が確定するまでは有罪かどうかがはっきりしませんので、その間に懲戒処分をすることが難しいことを前提として、暫定的に従業員が起訴されたために業務に支障が生じることを理由に休職を命じるというものです。従って、刑事事件の判決が確定すれば、推定無罪の原則も適用にならず、以後は当該判決の確定をもとにしてふさわしい懲戒処分を行うかどうかということになります。従って、起訴休職が認められるのは、刑事事件の判決確定までということになります。

起訴休職期間中の給与

起訴休職は従業員の側の事由により業務に支障を生じることから休職を認める制度ですので、休職期間中の給与は無給とすることができます。但し、将来紛争を巻き起こさないためにも休職期間中の給与が無給であることについて就業規則などに規定しておくのが好ましいと思われます。

有罪判決確定による懲戒処分

起訴休職と懲戒処分は異なる手続ですので、二重処罰にはあたりません。起訴休職を命じた社員について、その後当該犯罪行為について有罪判決が確定した場合、会社は当該有罪判決を理由に懲戒処分(解雇等)を行うことができます。起訴休職は起訴されたことを理由に一時的に休職を命じる制度であり、刑事事件の犯罪行為を行ったことに対する社内の懲戒手続きとは異なります。従って、起訴休職を命じた後に、懲戒処分(解雇等)を行うことは問題ありません。