• 2020.09.01
  • 外資系企業の法務

駐在員事務所の開設

駐在員事務所

駐在員事務所は、外国法人が日本で営業活動を行う前に、市場調査や情報収集、宣伝活動などの拠点として設置されるものです。日本法人の設立や支店の設置とは異なり、駐在員事務所の場合には、登記などの法的な手続は必要ありません。手続が簡単な一方で、売上が発生する営業活動を行うことはできず、駐在員事務所の名義で銀行口座の開設や賃貸借契約の締結をすることなどはできません。銀行口座の開設や賃貸借契約の締結は日本の代表者個人の名前で行うことになります。また、契約に伴う法的責任も日本における代表者個人に帰属することになります。

駐在員事務所の設置手続き

日本において駐在員事務所を設置する場合、法人格を取得するわけではありませんので、法務省での登記手続きは必要ありません。但し、駐在員事務所の場合、市場調査、情報収集、物品の購入、宣伝広告などの活動はできますが、日本での直接的な営業活動はできません。日本で営業活動を行う場合には支店又は子会社としての登記を行う必要があります。

外部の者との契約

駐在員事務所は法人格を有しませんので、駐在員事務所の名前で法律行為(不動産の賃貸借契約、物品の購入契約、外部のコンサルタントとの契約等)を行うことはできません。契約の当事者は、外国会社自身の名前で行うか、日本の代表者個人の名前で行うことになります。不動産の賃貸借契約、物品の購入契約、外部のコンサルタントとの契約などについて、外国会社が直接の当事者として契約を行うことを日本の会社が嫌がる可能性はあります。この場合、駐在員事務所の代表者個人の名前で契約を行う必要が出てきます。

日本の代表者

駐在員事務所の代表者については、外国会社で雇用され、企業内転勤により日本に派遣される場合と、外国会社との業務委託契約を行い、業務委託契約に基づき代表者としての業務を行う場合があります。駐在員事務所の代表者が法律行為を行う場合は、その効果は代表者個人に帰属することになります(代表者個人が責任を負うことになります)。

銀行口座

駐在員事務所の名義で、銀行口座を開設することはできませんので、外国会社の本社名義での口座を開設するか、駐在員事務所の代表者の名前で口座を開設する必要があります。

ビザ

駐在員事務所の場合でも、外国会社から派遣される従業員について、企業内転勤のビザの発行を受けることは可能です。駐在員事務所の場合、日本で受け入れる法人格がないことになりますので、日本で雇用される従業員については、技術・人文知識・国際業務のビザの発行を受けることはかなり困難になる可能性が高いと思われます。日本にいる駐在員事務所の代表が個人事業主として当該従業員を雇い、ビザの発給を受けることも考えられますが、駐在員事務所の代表が外国人を雇う資格があることの証明をどうするかについて問題となる可能性があります。日本で支店登記がなされている場合は、外国会社から派遣されてくる外国人に対する企業内転勤のビザや、日本で雇用する外国人に対する技術・人文知識・国際業務のビザの発行についてもより認められやすくなります。

雇用契約

駐在員事務所で働く人については、外国会社の本国から派遣される場合と、日本で採用される場合があります。いずれの場合も、外国会社と雇用契約を締結する場合は、雇用主は外国会社となります。日本の代表者と契約する場合は、日本の代表者個人が雇用主になります。

健康保険、年金

駐在員事務所で働く人のうち、外国会社の本国で雇用され、本国から日本に派遣される人については、外国会社の本国で健康保険、年金に加入することになります。日本国籍を有し、日本で採用される社員については、雇用契約が外国会社との契約となっている場合であっても、日本の健康保険、年金に加入することになると考えられます。駐在員事務所の代表者との間で雇用契約を締結する場合、駐在員事務所の代表者が雇用主となります。この場合、従業員は、日本の国民健康保険、国民年金に加入することになります。日本で働く従業員については、国籍に関係なく、労災保険、失業保険への加入が強制されます。

労基署への届け出

駐在員事務所の場合も、日本で就労する労働者がいる場合は、外国会社が雇用主となる場合であっても、日本の代表者が雇用主となる場合であっても、労働基準監督署に事業所開設届を行う必要があります。残業を行う場合は三六協定書の提出も必要となります。従業員が10人以上いる場合は、労働基準監督署に対する就業規則の届け出も必要です。

税務申告

駐在員事務所の場合も税務署への事業所開設届を行い、消費税等の申告書を作成提出する必要があります。

駐在員事務所のPE認定リスク

PEとはPermanent Establishmentの略で国内における恒久的施設のことを言います。駐在員事務所は市場調査や情報収集、宣伝活動などのみを行い、直接事業活動を行うことを予定していませんので、一般的にはPEとは認定されません。しかし、駐在員事務所であってもその活動が、市場調査や情報収集の範囲を超えていると判断される場合はPEとして認定され、日本で課税の対象となる可能性があります。

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