• 2020.09.01
  • 一般企業法務

新株発行手続き

新株発行とは

資金調達のために株式会社が株式を発行することです。株式会社による資金調達の方法としては、株式や新株予約権を発行する直接金融の方法と、社債の発行や銀行からの借入による間接金融の方法があります。社債や銀行借り入れについては借入金の返済義務があるのに対して、株式や新株予約権については、出資金の返還義務がないことが特徴です。

三種類の新株発行手続き

株式会社が新株を発行する方法として、第三者割当、株主割当、公募発行の3つの方法があります。これはだれに対して株式を発行するかの違いになります。株式の譲渡制限のある非公開会社の場合、ほとんどのケースが第三者割当になると思われます。

第三者割当による新株発行 

第三者割当とは、特定の第三者に対して株式の割り当てを行う場合をいいます。割り当てられる者が従前の株主である場合であっても、全ての株主に対して平等に割り当てられるのでない限り第三者割り当てになります。

株主割当による新株発行

株主割当とは、全ての株主に対してすでに株主になっている人全員に対して、各自の保有する株式の数に応じて株式を割り当てる方法です。

公募発行による新株発行

公募発行とは、一般の投資家に対して広く出資を募集し、応募してきた人に対して株式を割り当てる方法です。

非公開会社における第三者割当増資

非公開社会である株式会社(株式の譲渡制限のある株式会社)が第三話割当増資を行う場合は、株主総会の特別決議(過半数の株式を有する株主が出席し、その3分の2以上の株式を有する株主の賛成を得ること)を得る必要があります(会社法199条1項、309条2項5号)。非公開会社では、各株主は、配当などで経済的利益を受ける権利だけでなく、持株比率を維持することで会社に対する支配権を維持することにも関心を有していますので、株主総会の特別決議なしに持ち株比率を下げられないようにする必要があるためです。株主総会の特別決議を経ない第三者割当増資は無効となります。そこで、非公開社会である株式会社(株式の譲渡制限のある株式会社)における第三者割当増資の手続きは下記の通りとなります。

募集事項の決定と株主総会の招集

非公開会社の場合、取締役会で募集事項を決定し、株主総会で承認をしてもらうため、株主総会を招集します。募集事項には次のようなものがあります。
・発行する募集株式の種類及び数(会社法199条1項1号)
・募集株式の払込金額またはその算定方法(会社法199条1項2号)
・金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額(会社法199条1項3号)
・募集株式と引き換えにする払い込み、財産給付の期日又は期間(会社法199条1項4号)
・増加する資本金及び資本準備金に関する事項(会社法199条1項5号)

株主総会における特別決議

非公開会社において第三者割当増資を行う場合は、株主総会の特別決議が必要です。発行済株式総数の過半数の株式を有する株主が出席し、その3分の2以上の株式を有する株主が賛成する必要があります。有利発行の決議と第三者割当ての決議を兼ねることもできます。

取締役会への委任

株式発行決議を行う株主総会の特別決議により、募集事項の決定を取締役会に委任することもできます(会社法200条1項)。この場合、株主総会の特別決議により、募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定める必要があります。委任の期間は決議の日から1年以内に限ります(会社法200条3項)。この場合、株主総会から委任を受けた取締役会は、決議後1年以内であれば、株主総会で定められた条件の範囲内でいつでも自由に新株の発行を行うことができます。募集株式の数の上限と払込金額の下限を定めるとしたのは、過度の新株を安値で発行することにより既存株主の株式を過度に希釈化させることのないようにするためです。

募集株式の申込みと割当て

第三者割当や公募発行を行う場合には、会社は株式の引き受けの申し込みをしようとする者に対して、①株式会社の商号、②募集事項、③金銭の払い込み場所、④発行可能株式総数等会社法施行規則41条で定める事項を通知し、それに対し株式の引き受けを行おうとする者は氏名・名称・住所・引き受けようとする株式数などを記載した書面を会社に交付することになります(会社法203条1項、2項)。会社は、割り当て期日までに申し込みのあった者の中から、募集株式の割り当てを受ける者及び割り当てる募集株式の数を定め、払込期日の前日までに、応募をしてきた者に対して通知します(会社法204条1項、3項)。株式会社は割り当て自由の原則がありますので、その申込人に対してどれだけの割り当てを行うかを決定することができます。

総数引受契約

第三者割当株式の発行によって発行される株式の全部を引き受ける場合は、会社はこの者との間において総数引受契約書を締結することで、株式の募集株式の申し込みや割り当ての手続きを省略することができます(会社法205条1項)。非公開会社における第三者割当増資では、最初から誰が引き受けるかが決まっていることが多いと思われますので、ほとんどの場合において総数引受契約書が締結されることになると思われます。

出資金の払い込み

株式の引受人は払込期日までに、出資の払い込みを行います。払込期日までに出資の履行がない場合、株主となる権利を失います。

登記申請

新株発行を行った場合、払込期日から2週間以内に、株式会社の本店所在地を管轄する法務局に対し、発行済株式総数や資本金についての変更登記を行う必要があります(会社法915条1項)。

公開会社において支配株主の異動を伴う場合

公開会社においては、授権株式の範囲内において、取締役会決議により新株の発行ができるのが原則ですが、支配株主の異動を伴うような募集株式の発行を行う場合は、払込期日の2週間前までに株主に対して、当該引受人の氏名、名称、住所、当該引受人が引受けた後に有することになる議決権数、総株主の議決権数などを通知または公告しなければならないとされています(会社法206条の2第1項、2項)。この場合において、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が2週間以内に反対の意思を表示したときは、原則として、金銭の払込期日の前日までに株主総会の普通決議による承認を受けなければならないとされています(会社法206条の2第4項)。

株主割当増資の場合

会社が、従前の株主に対して、持株比率に応じて、株式の割り当てを受ける権利を与える場合、株主の持ち株比率は維持されます。そこで、株主割当増資を行うことの決定について取締役会で決定できる旨の定款の定めがある場合には、株主総会の特別決議なしで、取締役会の決議のみで新株の発行を行うことができます(会社法202条3項)。但し、割り当てを受ける権利を与えられた株主は、払い込みを行うことで持株比率を維持することができますが、新株の払い込みを行うことで持株比率を維持するか、株式の払い込みを行わないで持株比率の低下を受け入れるかの判断を強制されてしまうことになります。そこで、全株主からの同意がある場合は問題ありませんが、反対株主がいる中で、株主割当増資を行うことは、反対株主からのクレームを招いてしまうことになり好ましいとは言えません。

有利発行

会社が著しく安い価格で新株を発行した場合、既存の株式は希釈化され、既存株主の株式の価格が低下してしまうことになります。そこで、新株の払込金額が、募集株式を引き受ける者にとって特に有利な金額である場合は、取締役は株主総会において有利発行を行う理由を説明する必要があるとされています(会社法199条3項)。非公開会社の場合、一株当たりの純資産価格、過去の募集価格、取引事例による過去の取引価格を参考に、時価を10%程度下回る場合が「特に有利な金額」に該当するとされています。公開会社においては取締役会決議のみで新株の発行を行うことができるのが原則ですが、有利発行に関する規定は株式の譲渡制限のない会社(公開会社)においても適用になりますので(会社法201条1項)、公開会社が有利発行決議を行う場合は、株主総会の特別決議を要することになります。上場会社において有利発行に該当するかどうかは、公正な払い込み金額(その株式の直近の市場価格)と比較して特に有利な価格かどうかで判断されます。通常株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価格に0.9を乗じた額以上であれば有利発行に該当しないとされています。但し、直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)を遡った日から当該決議の直前日までの平均の価額に0.9を乗じた額以上とすることもできるとされています(日本証券業協会「第三者割当増資の取り扱いに関する指針」)。

公開会社における新株発行

公開会社においては、株主の持株比率を維持する利益よりも、柔軟な資金調達を図る必要性のほうが大きいことから、取締役会決議のみによって新株の発行を行うことができるとされています(会社法201条1項)。但し、既存株主に新株発行差止請求の機会を与えるために、取締役会が募集事項を定めたときは、払込期日の2週間前までに既存株主に対して当該募集事項を通知しなければならないとされています。但し、金融商品取引法に基づき、払込期日の2週間前までに有価証券届出書などの開示書類の提出をしている場合は、株主に対する通知公告は省略されます(会社法201条5項、金融商品取引法4条1項等)。なお、有利発行を行う場合は、既存の株主の権利を害する可能性がありますので、有利発行を必要とする理由を説明して、株主総会の特別決議を経る必要があります(会社法199条3項)。

ブックビルディング方式

株式の募集を行う場合、募集事項の一つとして、「募集株式の払込金額又はその算定方法」を定める必要がありますが(会社法199条1項2号)、公開会社において市場価格のある株式を引き受ける者の募集をするときは、「募集株式の払込金額又はその算定方法」に代えて、「公正な価額による払い込みを実現するために適当な払込金額の決定の方法」を定めることができます(会社法201条2項)。この「適正な払込金額の決定の方法」として、ブックビルディング方式が想定されています(有価証券の引き受け等に関する規則2条16号)。ブックビルディング方式とは、引受証券会社が投資家の需要状況を調査し、把握した需要状況に基づき相場の変動などを加味して市場動向にあった払込金額を決定する方法です。

金融商品取引法

50名以上の者を相手方として株式の取得の申し込みの勧誘をする場合は、「有価証券の募集」に該当し(金融商品取引法2条3項)、財務局に対して有価証券届出書を提出する必要があります(金融商品取引法4条1項、5条1項)。株式の発行総額が1000万円以上1億円未満の場合、有価証券通知書を財務局に提出する必要があります(金融商品取引法4条6項、企業内容等の開示に関する内閣府令4条5項)。また、有価証券届出書の提出を必要とする募集又は売り出しを行う場合(募集する株式の発行総額が1億円以上の場合)、目論見書を作成し、募集の際に交付して勧誘する必要があります(金融商品取引法13条1項、15条1項)。上場会社の場合、第三者割当増資を行う場合には、金融商品取引法に基づく届け出を行って行うことになると思われますが、非公開会社の場合、一旦有価証券届出書を提出すると継続開示義務に該当することになりますので、会社にとって大きな負担になってしまいます。そこで、非公開会社の場合、勧誘をする相手先を50名以下にするなど、「有価証券の募集」に該当しないようにするのが通常です。

会社法と金融商品取引法の関係

会社法では、払込期日の2週間前までに募集事項を株主に対して通知しなければならないとされていますが(会社法201条3項)、金融商品取引法では、有価証券の届け出は、内閣総理大臣が受理してから15日経過後でないと効力が生じないとされており(金融商品取引法8条1項)、届け出の効力が生じてからでないと株式を取得させてはならないとされています(金融商品取引法15条1項)。その結果、有価証券届出書は、払込期間又は払込期日の初日の(2週間前までではなく)15日前までに提出しなければならないことになります。

外国為替及び外国貿易法

外国為替及び外国貿易法26条では、外国の個人や法人が、日本の会社の株式や持分を取得する場合を対内直接投資等と規定し、政令で定める一定の場合には、あらかじめ当該対内直接投資について、事業目的、金額、実行の時期などを財務大臣及び事業所管大臣に届け出なければならないとしています(外国為替及び外国貿易法27条1項)。また、対内直接投資をした投資家は、財務大臣及び事業所管大臣が届け出を受理した日から30日を経過するまでは当該対内直接投資をしてはならないとされています(同法27条2項)。但し、審査を要しないと判断される場合は、30日の期間は短縮されます。

募集株式の発行差止請求

募集株式の発行が、①法令又は定款に違反する場合、②著しく不公正な方法による場合において、株主が不利益を受ける恐れがあるときは、株主は会社に対して募集株式の発行を止めるよう請求することができます(会社法210条)。法令又は定款に違反する場合とは、発行可能株式総数を超えて発行する場合や、有利発行に該当するにも関わらず株主総会の特別決議を経ないで発行される場合があります。また、著しく不公正な方法による株式の発行とは、不当な目的を達成する手段として株式の発行が行われる場合で、取締役が会社の支配権を維持することのみを目的に新株の発行が行われる場合を指します。不当な目的によるかどうかは、判例上主要目的ルールに従って判断されるとされています(いなげや・忠実屋事件、ベルシステム24事件)。

新株発行無効の訴え

新株発行無効については、新株発行無効の訴えによってのみ行うことができます。新株発行は多数の利害関係者に影響があることから、法的安定性を重視し、新株発行の無効については、新株発行無効の訴えによってのみ主張することができるとされています。新株発行の無効の訴えを提起できるのは、株主、取締役、監査役、清算人などに限られます。また、提訴期間の定めがあり、新株発行の効力が生じた日から、公開会社の場合は6か月以内、非公開会社の場合は1年以内に訴えの提起を行う必要があります(会社法828条1項2号)。新株発行無効の訴えにおける無効事由については、法律上の定めはありません。非公開会社において株主総会の特別決議に瑕疵がある場合や、公開会社において株主への通知・公告を行わずに新株を発行する場合(株主による差止請求の機会を奪う場合)などが無効事由に当たると考えられます。

新株発行不存在の訴え

新株の発行に該当する事実が全く存在しない場合や、新株発行手続きの瑕疵が著しい場合は、新株発行不存在の訴えを起こすことができます(会社法829条)。新株発行不存在の訴えは確認訴訟であり、利害関係者はだれでも、いつでも訴訟提起することができます。新株発行無効の場合と異なり、提訴期間の制限はありません。

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