相続による株式の共有

相続財産の中に株式が含まれる場合で、遺言書による定めのない場合、当該株式は相続開始と同時に相続人間での共有状態となります。各相続人の持ち分割合は法定相続分によって決まります。

権利行使者の指定

遺産分割未了の株式について権利行使を行う場合、「共有者である相続人は、当該株式について権利を行使する者一人を定め、株式会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。」とされています（会社法106条）。すなわち、共有状態にある株式については、権利行使者を指名しなければ、議決権行使を含め、株主としての権利を行使できないのが原則です。但し、会社の側で権利行使に同意した場合は、権利行使者の指定がない場合であっても共有者による権利行使を認めることができることになります（会社法106条但書）。

遺産分割未了の株式

遺産共有の状態にある株式について権利行使者の指定がない場合、その株式についての権利行使については、民法の共有物に対する管理行為の規定が適用されることになります。すなわち、「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」ことになります（民法252条）。

遺産分割未了株式の権利行使の例

例えば、被相続人Xが亡くなり、Xが有していた株式900株をXの子供であるA、B、Cの3名が相続した場合、900株の全部が遺産共有の状態になります。遺産分割がなされていない状態では、A、B、Cが300株ずつ権利行使できるのではなく、900株全部の議決権を権利行使者がまとめて権利行使することになります。権利行使者が指定されていない場合は会社に対する権利行使をすることができないことになりますが、会社が権利行使を認めた場合は、権利行使が可能となります。その場合、過半するの権利を持つものが全部についての権利行使をすることができます。例えば、AとBがグループを結成した場合は、AとBは66％の共有持分を有するわけですので、900株全部についての権利行使を行うことができることになります。但し、配当金については、分割可能ですので、A、B、Cが3分の1ずつに分ける必要があります。

遺産分割が行われた場合

遺産分割協議が成立した場合、その分割は相続の開始の特に遡って効力を生じることになります（民法909条）。株式の譲渡制限のある会社の株式については、株式の譲渡による取得については取締役会（取締役会費設置会社の場合は株主総会）の承認を得なければならないのが原則ですが、相続によって株式を取得した場合は、譲渡による取得ではなく包括承継による取得ですので、取締役会（又は株主総会）の承認決議は必要ありません（会社法134条1項4号）。

遺贈による株式取得と取締役会の承認決議

包括遺贈により株式を取得した場合は、「相続その他の一般承継により」株式を取得したと考えられますので、取締役会による株式譲渡承認決議は必要ないことになります。特定遺贈の場合は、一般承継にはあたりませんので、取締役会の譲渡承認決議を要することになります（会社法137条）。

株主名簿の名義書換え

遺産分割によって株式を取得することになった相続人は会社に対して株主名簿の名義書換請求をすることになります（会社法130条）。株主名簿の名簿書換請求を行うためには、①故人の除籍謄本、②相続人全員の戸籍謄本、③相続人関係図、④遺産分割協議書、⑤相続人全員の印鑑証明書を添付する必要があります。会社としては、全ての法定相続人が参加して遺産分割協議がなされたことを確認できないと、将来他の相続人が遺産分割協議は無効であるとして株主としての権利行使をしてくる可能性を排除できません。

相続による株式取得と株券の交付

相続による株式取得は包括承継であり、株式の「譲渡」にはあたりませんので、その移転について株券の交付は必要ありません（会社法128条1項参照）。株主名簿の名義書き換え請求を行う際にも、株券を占有していることを示す必要はないと考えられます。

相続人に対する売渡請求

株式会社は定款の定めがある場合は、相続があったことを知ったときから1年以内に限り、株主総会の決議により、相続人に対して相続した株式を会社に対して売り渡すよう請求することができます（会社法174条から176条）。売買価格については会社と相続人との協議によって決められますが、協議が整わない場合は裁判所に申し立て、裁判所が決定により売買価格を定めることになります（会社法177条）。相続人に対する売り渡し請求についても財源規制の適用がありますので、分配可能利益の範囲内でしか買取ができません。