• 2023.10.05
  • 一般企業法務

会社法における取締役の責任免除 違反事例も交え解説

取締役の善管注意義務

取締役は、就任したその日から「善管注意義務」と「忠実義務」を負うことになります。善管注意義務の根拠条文は、会社法330条及び民法644条です。会社法330条では、会社と役員(取締役、会計参与、監査役)の関係は、委任に関する規定に従うと明記されており、会社は、取締役に業務執行を委任し、取締役は、会社から業務執行を受任する形です。委任は、民法上の契約にあたり、民法644条では、受任者は委任の本旨に従って善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負うことが定められています。

取締役の忠実義務

取締役の忠実義務の根拠条文は、会社法355条となり、取締役は法令、会社定款、株主総会の決議を守り、会社のために忠実にその職務を行わなければならないと定めています。

事例)取締役が従業員を引き抜き

システムエンジニアなどいわゆるIT人材を派遣するX社の取締役だったAが、同社から独立してY社を設立する際に、X社の社員に声をかけ、複数の従業員がY社への移籍を選択した結果、X社に損害が生じAを提訴した事件です。人材派遣を行うX社の特性上、資産に当たる従業員を自己の利益のために引き抜いたことは、会社への重大な忠実義務違反に当たるとして、その責任を認めています。

多くの取締役は人柄や能力、実績が取締役に相応しい、これまで善管注意義務や忠実義務を果たしてきた人物が選任されることがほとんどと考えますので、さほど神経質になる必要はないと思料します。

善管注意義務及び忠実義務 事例と責任

義務違反類型と事例

利益供与

会社法120条1項は「会社は何人に対しても株主の権利の行使について利益の供与をしてはならない」と定めています。ここでいう株主の権利とは、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権の3つです(会社法105条1項)。

株主の権利の行使に関する利益供与は、会社法120条違反と、同法970条に基づく刑事上の責任も問われることになります。結果的に不起訴となりましたが、少額でも事件化されてしまうこととなるのです。株主の権利行使に関する利益供与の罪は、利益を供与した会社関係者だけでなく、利益を受けた株主の側も処罰されることになっています。会社法では、「情を知って、利益の供与を受け、又は第三者にこれを供与させた者」や、「利益の供与を要求した者」についても3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処することが明記されています(970条2項、3項)。このように実際の金銭の授受がなくとも、犯罪が成立します。

株主総会の定足数を充足させるために議決権行使を促す目的など、正当な目的であり、相当な金額でなされた利益の供与は、「株主の権利行使について」なされたものとは評価されず、適法に行うことができる場合があります。株主総会に出席した株主に対して特典やお土産などを与える場合には適法性について顧問弁護士に確認することが望ましいと言えます。

出資に関する責任

会社法213条1項は「出資された財産等の価格が不足する場合の取締役等の責任」について規定しています。
また、会社法213条の3第1項は募集株式の引受人が「出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任」について規定しています。同項によれば募集株式の引受人が出資の履行を仮装することに関与した取締役株式会社に対して仮装した払い込み金額の全額を支払う義務を負います。

任務懈怠

取締役が善管注意義務、忠実義務を果たさず、その任務を怠った結果、会社に損害を与えた場合は、その賠償責任を負います(会社法423条1項)。これは取締役以外の会社役員(会計参与、監査役、執行役、会計監査人)にも適用されます。任務懈怠と言っても、その内容は多岐に渡りますので、いくつか具体例を挙げてみます。

事例)内部統制システム構築義務違反

事業部長だったAが、自己のために書類を偽造して架空の売り上げを計上し、隠ぺいを続けた事件です。4年間その不正を見抜けず、有価証券報告書に虚偽記載をする結果となったY社は不正発覚後ただちに公表したところ、東京証券取引所は上場廃止のおそれがあるとして同社銘柄を監理ポストに割り当てたのです。株価が急落して損切りのために売却を余儀なくされた株主Ⅹが、代表取締役Bの内部統制システム構築義務違反があったとし、実際に不法行為に基づく損害賠償請求で提訴しています。

事例)監視監督義務違反(積水ハウス地面師事件)

東京都内の土地取引について積水ハウスの社員が、偽の所有者に扮した地面師グループの正体を見抜けないまま取引を進め、法務局より当該登記を却下されてはじめて55億円以上のお金を騙し取られたことがわかった巨額詐欺事件です。
株主らが、この取引に関わった当時の代表取締役社長らを相手取り、善管注意義務及び忠実義務に違反する任務懈怠、かかる土地の売買契約を誤決裁した経営判断、監視監督義務違反(土地権利者の本人確認等を従業員に徹底させなかった)を問い、訴訟を起こしています。

事例)虚偽記載是正義務違反(東芝不正会計事件)

世間を大きく騒がせた東芝の粉飾決算もまた、取締役の任務懈怠が問われた事件です。有価証券報告書等の重要事項の虚偽記載について、記載しないよう配慮すべき注意義務、過去の有価証券報告書等についても虚偽記載を発見・修正・公表する注意義務を怠った責任などについて争われました。2023年3月、裁判所は会計基準に反した違法な会計処理を中止し、是正する義務を怠ったなどと判断し、取締役5人に3億円の賠償を命じる判決を下しました。

次で説明する競業取引、利益相反取引については、会社に損害が生じた場合「実際に取引をした取締役」はもとより「その取引を決定した取締役」「取締役会で取引に賛成した取締役」は、任務を怠ったものと「推定」されることとなりますので、他の取締役の業務執行に関する議題や決定についても、自己の業務執行と同程度の注意が必要となります(会社法423条3項)。

競業取引

競業取引とは、取締役などが自社以外の別会社などで、同地域・同業種の取引を展開することです。別会社が営業を行うことで、会社は少なからず利益を得る機会を奪われることとなり、売上高、純利益に影響します。それだけではなく内情を知り得、機密も自由に取り扱える立場を悪用し、取締役自らが別会社に技術やノウハウなどの機密を流出させる可能性も拭えず、会社が被るであろう損失は計り知れません。
会社法356条1項1号では、競業取引を行う場合、取締役は重要な事実を開示したうえで株主総会の承認を受けるよう制限を課したほか、会社法423条2項を根拠に、取締役が株主総会の承認を経ずに競業取引を行い、得た利益があれば、会社は取締役にその額を請求できます。

事例)昭和56年3月26日判決

関東のパン製造業X社の代表取締役Yは、取締役会の承認を経ずにX社名義で借り入れた資金を用いて個人で同業A社株式の大部分を取得し、A社業績向上のためにX社傘下の販売店をA社に移管させたり、また関西進出のために自身が取締役でもあったB社にC社を設立させたものの、C社工場の土地取得代金はX社の資金を用いたりした事件です。この一連の行為が競業避止義務違反に当たると会社から提訴され、実際に認容されました。

利益相反取引

利益相反取引とは、取引行為によって取締役もしくは第三者が利益を得られる一方で、会社が損失を被るwin-loseの取引を指します。会社法356条1項2号及び3号では、利益相反取引を行う場合、競業取引と同様に重要な事実を開示し株主総会の承認を受けるよう、制限を課しています。また、会社法423条3項では会社に損害が生じた場合、会社は、取締役の任務を怠ったと「推定」し、その賠償責任を問えるようにしたのです。

事例)取締役の約束手形の振り出し(最判昭和46年10月13日) 

Aは、取締役を務めるY社から振り出された約束手形を、1枚は白地裏書によって、もう1枚は書替手形で、Y社がXの名義を書かずに振り出したものにXがAの名義を書いて譲渡した件で、いずれも取締役会の承認を経ていないことを理由にY社は支払いを拒んだものの、裁判所がXの善意を理由に、約束手形の支払いをY社に命じたものです。
同裁判の判旨には、「会社は、約束手形の振出により、原因関係上の債務とは別個の新たな、しかも、いつそう厳格な債務を負担することとなる」また「手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質を有するものであることにかんがみれば、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要がある」との記載があり、会社から取締役への約束手形の振り出しは、利益相反取引に当たります。

事例)取締役の間接取引

Y社の代表取締役Aは、X社に対し債務があり、Y社が代表してAの債務を引き受けたものです。そこでX社はY社に債務返済を求めました。1審はX社の請求が認められたものの、控訴審ではY社の取締役会の承認がなされていないことを認め無効とし、上告審では再びX社の主張が認められました。

過日、規制すべき利益相反取引とは、会社と取締役が当事者となる直接取引を指していましたが、上記事件は(会社が取締役以外の第三者と行った)間接取引も規制すべき利益相反取引に含まれると言及した点で、現在も重要な判例として取り扱われています。この判旨を受けて当時の商法は改正され、会社法もまた、直接取引も間接取引も利益相反取引に該当するとしたのです。

分配可能額を超えた交付

会社法461条では、株主に対して株式の買取、取得、剰余金配当を行う際に、交付する金銭などは、その分配可能額を超えてはならないと定めています。

義務違反時の責任

詳細は4-4で後述しますが、善管注意義務、忠実義務を軽視し違反すると、会社法の規定に則り会社に与えた損害を賠償する責任を負うことになりますので、注意が必要です。

義務違反を指摘されないためには

取締役としてコンプライアンスを徹底し、正攻法で日々、職務を行い、悪事や不正に加担しない姿勢を貫くことが大切です。法令を理解し、会社定款を覚え、株主総会の決議を忘れずに職務を行えば義務違反を防げますし、解釈に不安があれば顧問弁護士に尋ね、事前に意見を聴取してから動けば、うっかりミスで意図せず義務違反を犯さずに済むでしょう。

義務違反を指摘されたときの対策

万が一、社内で不正や不祥事が発覚し、会社や株主から義務違反を指摘された場合、責任を追及されるだけではなく取締役解任の動議をかけられる可能性も否めません。日頃から自身の職務執行に関する書類、記録、経緯を記したメモなどを保管し、義務違反を犯していない証拠をいつでも出せるようにしておくことが肝要です。繰り返しとなりますが、そうならないためには法令、会社定款、株主総会の決議を守ることを基本とし、会社のために忠実にその職務を全うしていくことです。

役員の損害賠償責任

損害賠償請求ができる人

役員(取締役、会計参与、監査役)に損害賠償請求ができる人は、先述した会社だけではなく、株主などの第三者も請求権者となりえます。
会社法423条1項では、取締役がその任務を怠ったときは「会社に対し」生じた損害を賠償する責任を負う旨、明記されていますし、会社法429条1項では、役員等が職務を行うにあたり悪意や、重大な過失があったときは、「第三者」に生じた損害を賠償する責任を負うと定められています。さらに会社法847条では、6箇月前※から引き続き株式を有する「株主」は、会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、役員等の責任を追及する訴えの提起を請求できるとしていますし、60日以内に会社が提訴しなければ、株主が提訴できます。※これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間

第三者・株主に与える可能性のある損害の種類

ここで第三者、株主が被る損害の種類について述べておきます。会社法上の損害は、大きく「直接損害」と「間接損害」に分かれ、直接損害は、取締役などの職務が原因で、第三者が直接的に損害を受けたものを指します。一方の間接損害は、取締役などの職務が原因で、会社が一次的損害を受け、第三者が二次的損害を受けるようなものです。
会社法429条1項は、取締役は悪意、重大な過失によって損害を与えたときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う旨を、また、会社法429条2項では、取締役は「株式、新株予約権、社債、新株予約権付社債引き受け募集時の重要事項の通知、説明資料」「計算書類、事業報告、附属明細書、臨時計算書類」「登記」「公告」について虚偽の記載や申述を行い、第三者に損害を与えたときも、生じた損害を賠償する責任を負う旨を規定しています。

責任の種類

通常、取締役が負うべき責任には過失責任と、無過失責任の2種類があります。取締役らが任務を怠った結果、「損害が生じたとき」「過失があったとき」にはじめて、会社に与えた損害を賠償する責任を負うこととなるのですが、過失があったときに負うべき責任を、過失責任と呼びます。この場合、取締役に過失がなければ、その責任を免れることができます。
一方で過失がなかったとしても、その責任を免れることができないものが、無過失責任です。旧商法では、実に多くの規定で取締役の無過失責任が認められていましたが、無過失責任を原則とする旨の規定が、取締役就任・業務執行のハードルを高くしていたと言えます。無過失責任は、取締役に相応しい多くの優秀な人材の企業経営参画を阻み、取締役の積極的な経営、革新への足枷となっていたことから、会社法施行時に見直され、原則「過失責任」となりました。しかし、その中でも例外的に設けられたのが、会社法428条の規定となります。取締役が会社法356条1項2号に定めた利益相反取引を自己のために行った場合は、過失がなくても、その生じた損害の賠償責任を負わせるようにしたのです。

会社法規定の損害賠償責任の範囲

利益供与

剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権の3つの株主の権利について、取締役が特定の株主に利益を供与した場合、返還すべきは利益を受けた者ですが、取締役もまた、利益供与相当額の連帯責任を負うこととなります(会社法120条4項)。
株主等の権利の行使に関する利益供与については、刑事責任も問われることとなり、取締役が株主の権利の行使に関して特定の株主に利益を供与したときは、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処すると定めていますので、絶対に行うべきではありません(会社法970条1項)。

出資不履行

取締役が募集株式を引き受け、出資していない場合、また、給付した(金銭以外の)現物出資財産の価額が、著しく不足した場合は、原則その額を補填しなければなりません。
ただし現物出資財産の価額について検査役の調査を受けた場合や、注意を怠らなかったことを証明できた場合は、その限りではありません。

任務懈怠

取締役は、善管注意義務や忠実義務に反して、任務を怠った結果、会社に損害を与えた場合、生じた損害を賠償しなければなりません(会社法423条1項)。

競業取引

取締役が競業避止義務に違反して、他社名義や第三者のために競業取引をした場合は、会社は通常、当該他社の競業による売上や利益を正確に把握することは難しいため、取締役や第三者が得た利益を会社の損害と推定され、競業取引を行った取締役は、その額を賠償しなければなりません。

利益相反取引

利益相反取引によって、会社に損害が生じたときは、取引を行った取締役、取引をすることを決定した取締役、取締役会承認決議に賛成した取締役は、その任務を怠ったものと推定され、会社に与えた損害を賠償しなければなりません。ただし取締役がその取引について監査等委員会の承認を受けていたときは、適用しない決まりとなっています。

分配可能額を超えた交付

会社法461条1項に違反し、分配可能額を超えた買取、取得、剰余金配当を行った場合、交付を受けた者、取締役は、会社に対し連帯して、帳簿価額相当の金銭を支払うことになります(会社法462条1項)。

経営判断の原則

経営判断の原則とは19世紀以降のアメリカで生まれたもので、企業経営者が下した判断について裁判所が事後的にその是非を判断しないとしたものですが、日本では少し異なる解釈を採用しています。わが国では取締役に広い裁量を認めながらも、裁判所は事案ごとに事実を調べ、その経営判断に至った過程はもとより内容も踏まえ取締役の善管注意義務違反の有無を審査し、取締役の責任は過程・内容に著しく不合理な点があった場合に限り認定するとしているものです。

事例)アパマンショップ株主代表訴訟(最判平成22年7月15日)

アパマンショップホールディングスの事業再編の一環で子会社を合併させる際に行った子会社株の買取額が、不当に高く設定されていたとし代表取締役らが善管注意義務に違反したとして、同社株主が損害賠償を請求した事件です。
高等裁判所は控訴審で取締役の責任を認めたものの、最高裁判所は上告審で一転、取締役の責任を否定しました。
同社取締役らは経営会議において買取額の検討を行い、その際、弁護士に意見を求め許容範囲内という回答を得ており、その過程や内容に著しく不合理な点がない以上、善管注意義務違反には当たらないとしたのです。

このように事前に弁護士に相談をしておくことで、判断が不合理とされるリスクを下げることができます。
取締役は常に、善管注意義務、忠実義務を意識し、過程や内容に不合理な点はないかを熟考し、業務を執行していくことで、違反の疑いや責任追及を回避でき、免除も勝ち取れるはずです。

会社に対する損害賠償責任の免除

責任免除規定

取締役が任務を怠るのは問題ですが、会社に損害を与えようと動く取締役はいないはずです。多くは会社のために良かれと思い動いた結果、損害が生じたケースと考えます。「失敗したら即責任追及」は、取締役に慎重な行動を促す効果がある一方で、消極的経営を選択させかねません。
株主は専ら企業価値向上を望み、リスクをとって動けるような取締役を選定しているわけで、積極的経営の中で判断を誤り多少の損失が出る可能性があることも織り込み済みのはずです。失敗する度に解任、責任追及に費用と時間をかけていると、取締役の汚名返上の機会を奪うだけでなく、取締役の就き手がいなくなり、企業経営体制の弱体化を招き、業績挽回のチャンスをも逃します。そこで会社法424条などで、その責任の全部もしくは一部を免除できる含みを持たせているのです。
取締役に故意・過失があるケースや、モノ言う株主や機関投資家など多数の株主がいる公開会社だと現実的ではないのですが、完全子会社や非公開会社など株主が少数で限られる会社などでは、企業経営には失敗する場面もあり得ると理解したうえで責任を免除し、今後の業務執行で失敗を取り戻させる形で責任を果たしてもらおうとする会社も少なくありません。

責任の全部免除(総株主の同意)

会社法424条では、取締役が任務を怠り会社に損害を与えた場合、総株主の同意があれば、責任の全部を免除することができます。先述したように完全子会社で親会社だけが株主、限られた関係性の株主だけなら、責任の全部免除という寛大な処分に止まり、取締役続行で名誉挽回の機会を得られる可能性もあるでしょう。

責任の一部免除

株主総会決議

取締役の任務懈怠、善管注意義務違反などについて、業務執行の過程や内容を調査した結果、その責任について一部免除が相当だと考えるときは、会社法425条1項を適用できます。
同条では取締役らが職務執行時に善意かつ重大な過失がなかったときは、負うべき賠償責任額からイ~ハの額を控除して得た額を限度に、株主総会の決議で免除することが可能と規定しています。

イ 代表取締役又は代表執行役 役員報酬年間相当額×6
ロ 代表取締役以外の取締役(業務執行取締役等であるものに限る。)又は代表執行役以外の執行役 役員報酬年間相当額×4
ハ 取締役(イ及びロに掲げるものを除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人 役員報酬年間相当額×2

取締役会決議・定款の定め

取締役が2人以上の監査役設置会社や、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は、取締役らの職務執行時、善意かつ重大な過失がなかった場合で事情等を勘案して特に必要と認めるときは、上記イ~ハを限度額とし、他の取締役の過半数の同意若しくは取締役会設置会社においては取締役会の決議によって免除することができる旨を定款で定めることも可能です(会社法426条1項)。

責任限定契約

会社は、業務を執行しない取締役、会計参与、監査役又は会計監査人(非業務執行取締役等)が職務を行う際、善意かつ重大な過失がなかったときは、定款で定めた額の範囲内で予め会社が定めた額か、最低責任限度額のいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができます(会社法427条1項)。

会社補償契約

取締役就任には現状、資産要件なるものが存在しませんので極論、貯金ゼロの方が就任することも可能です。万が一、資金力のない取締役が業務執行中に悪意又は重大な過失で第三者に損害を与えた場合、訴訟にかかる(防御)費用や、和解金又は賠償金を個人で背負いきれないのは明白です。その種のリスクの存在が優秀な人材の企業経営参画、積極的経営、革新を阻害しているのも否めず、会社が上記理由で人選に躓き、経営がストップしないよう、取締役らと第三者に対する責任の全部又は一部について会社が肩代わりする補償契約を結ぶことも可能としています。
補償契約については、会社法430条の2で定められており、その内容については株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議により、決定することとなっています。
訴訟等にかかる(防御)費用は「通常要する費用」を超える部分は補償できません。また、取締役らが、会社に与えた賠償すべき損害額や、職務執行時に悪意又は重大な過失によって第三者に与えた責任の和解金や賠償金も補償できない決まりです。

役員等賠償責任保険(D&O保険)

会社には補償契約のほか、取締役らのために役員等賠償責任保険(D&O保険)に加入する選択肢も用意されています。D&OはDirectors&Officersを略したもので、Directors=取締役、Officers=執行役及び監査役の意です。
会社法430条の3では、会社が役員等賠償責任保険の契約内容を決定するには、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議によらなければならない旨を定めています。

お気づきのとおり会社補償契約もD&O保険も、厳密に言えば利益相反取引に該当します。
そこで令和元年に法改正を行い、会社法430条の2及び3を追加し、会社法に基づく制度として手続きを明確にし、合法であるという立ち位置を確立させたのです。

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