• 2023.08.18
  • 一般企業法務

会社法における取締役の刑事責任


取締役の刑事責任

取締役、監査役、執行役員など会社の役員の刑事責任については、会社法に規定されているほか、刑法や金融商品取引法においても定めがあります。従って、取締役、監査役、執行役員など会社の役員に就任する者においては、どのような行為によって、どのような刑事責任が発生するのかを知っておくことは極めて重要です。特に金融商品取引法に定められているインサイダー取引防止規定(金融商品取引法166条、167条)や虚偽有価証券報告書提出罪(金融商品取引法197条)は多く問題となることがあります。

刑事責任を負う会社の役員とは

会社法や金融商品取引法において刑事責任が定められている会社の役員の定義については、会社法や金融商品取引法において個別に定められています(会社法329条など)。多くの事例において問題となるのは、取締役、監査役、執行役員、会計参与、会計監査人などではないかと思われます。このように刑事責任の対象となる役員は取締役だけに限られませんので、万一会社において刑事責任の対象となる行為が生じた場合には、取締役だけではなく、その他の役員においても自分が刑事責任の対象となる行為に関与していなかったかどうかを確認する必要があります。

会社法における刑事責任の種類

会社法においては取締役などの刑事責任に関して様々な規定が置かれています。これらを分類すると、①特別背任罪、②出資や株式などに関する犯罪行為、③贈収賄罪に分類されると思われます。そこで、以下、各刑事責任について個別にみていきたいと思います。

特別背任罪

特別背任罪の規定

会社法では、発起人、取締役、監査役、会計参与、執行役などが、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると規定しています(会社法960条)。

特別背任罪の法定刑

取締役等の特別背任罪は、刑法の背任罪の特別法となっています。刑法の背任罪の罰則が「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」となっているのに対し、会社法における特別背任罪では、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金ですので、法定刑が2倍になっており、罰金の金額も刑法の背任罪よりも著しく高く設定されています。これは会社法に違反して自己または第三者の利益を図り会社に損害を与える行為が多く生じたことから、法定刑を重くすることで、犯罪の抑止力を高めようとしたことにあります。また、会社法における特別背任では数十億や数百億円の金銭が社外に流出することも多く、被害の金額が大きいことから、通常の背任罪の法定刑では刑が軽すぎるという社会の被害感情にも配慮した立法政策によるものと考えられます。

特別背任罪の事例

拓殖銀行事件

北海道拓殖銀行の頭取だったAとBがそれぞれ在任中に北海道拓殖銀行の融資先である開発会社ソフィアグループに対して多額の融資を繰り返し実行したとして商法の特別背任罪に当たるとされました。最高裁判所まで争われた結果、AとBに対してそれぞれ懲役2年6月の実刑判決が確定しています。判決文では、銀行が融資を行う際には、債権保全のための各種調査を行い、その安全性を確認して貸し付けを決定し、原則として担保を取るなどの相当の措置を取るべきとされています。

イトマン事件

イトマンの代表取締役であった河村良彦社長が、伊藤寿永光氏の経営する協和綜合開発研究所に対し、ゴルフ場の開発資金名目で、十分な担保をとらないまま230億円の融資を行ったことについて、商法の特別背任罪として懲役7年の実刑判決を受けました。最高裁判所は、融資を行った河村良彦社長について、決算状況を良く見せかけて、社長の地位を確保するという自己の保身を図るために融資を実行したものであり、図利加害目的が認められるとして、特別背任罪の成立を認めています。

見せ金・預け合いに関する罪

見せ金とは

見せ金とは会社の設立段階や増資の段階において一旦払い込んだ資金(資本金)を直ちに引き出し、借入先などに返済する行為です。金銭がいったん会社の口座に振り込まれますので、資本の払い込みがなされたように見えますが、最初から金銭の引き出しを行うことを想定していますので、会社に資金が留保されることはありません。全体としては仮装の払い込みであり、実質的な意味において資本金の払い込みがなされたとは言えません。このような見せ金を許しておくと、実質的な資本の払い込みがないにもかかわらず、何度も金銭の払い込みを行っては引き出しを繰り返すことで、資本金の金額を著しく増加させることができます。

株式会社は資本金制度が取られており、会社の設立段階や増資の段階で、出資者(株主)から資本金の払い込みがなされるのが原則です。会社の債権者やその他のステークホルダーからすれば、少なくとも会社の設立や増資の段階で出資者(株主)から資本金に相当する金銭の払い込み(拠出)がなされており、会社の資本が増加しているものと考えます。会社の債権者からすれば会社に払い込まれた資本金は会社に留保され、債権者の債権回収の担保になると考えます。ところが、資本の払い込みが仮装される場合は、会社に資金が留保されず、事実と異なる資本金の金額が定款に記載され、会社の登記簿謄本にも記載されることになります。その結果、会社の登記簿謄本について社会の信頼を欠くことになってしまいますし、定款や登記簿謄本の記載内容を信頼したステークホルダーの利益を害することにもなります。

会社法においては、見せ金に関する罰則規定はありません。しかし、資本金の額については法務局において登記されることになりますので、見せ金を行う場合には、真実と異なる登記がなされることになります(実際には資本金の基となるお金がないにもかかわらず、高額の資本金が登記されることになる)。そこで、このような登記については、刑法における公正証書原本等不実記載罪(刑法157条)に該当するものとして処罰されます。

刑法157条には、公正証書原本不実記載罪として、「公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされています。

実際の事例においては、会社の設立や増資がなされた後に、当該資金が直ちに貸し付けや債務の返済に充当されることもありますし、デット・エクイティ・スワップとして、貸付金と払込資本が相殺される事例も存在します。そこで、どのような場合が見せ金にあたり、どのような場合が許される行為となるのかについては、当該取引の背景となる事実関係なども考慮しながら微妙な判断が必要となってきます。

預け合いとは

預け合いとは、発起人や増資の引受人が、金融機関と通謀して、仮想の払い込みを行うことです。実際には、発起人や増資の引受人が金融機関から金銭の借り入れを行い、当該金銭を金融機関に預けたまま金融機関から出資金の払込証明書を発行してもらう行為になります。会社としては、金融機関から発行された払込証明書を法務局に提出して、資本金の払い込みを証明し、会社の設立又は増資の登記を行うことができます。

しかし、預け合いの場合は、資金は金融機関の口座に残されたままであり、会社の口座への実際の払い込みはなされておりません。また、その資金は、出資者の借入金の返済の担保とされていますので、将来においても会社の資金として利用されることはありません。このように預け合いの場合は、出資者と金融機関が通謀して、実際の資金の払い込みがないにもかかわらず資本の払い込みがあったように仮装する行為と言えます。見せ金との違いは、金融機関との通謀があることと、金銭の移動を伴わないことと言われています。

会社法965条では、預け合いの罪として、発起人、取締役、会計参与、監査役、執行役などが、株式の発行にかかる払い込みを仮装するため預け合いを行った場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処するとしています。

最近は会社法の改正により、会社の設立や増資の段階で、金融機関による払込証明書の発行は必要ではなくなりました。会社は、会社の設立や増資の登記を行う際には、法務局に対して銀行預金通帳の写しなどを添付することで登記を行うことができるようになりました。その結果、金融機関と通謀して払い込み証明書を発行してもらうという意味がなくなりましたので、預け合いの罪が問題となる事例はあまり生じないと思われます。

会社財産を危うくする罪

会社財産を危うくする罪とは

会社財産を危うくする罪については、会社法963条に列挙されています。不実申述罪、自己株式取得罪、違法配当罪、目的範囲外投機取引罪などがあります。

不実申述罪

不実記載罪については、いくつかのパターンに分かれて規定されています(会社法963条1項ないし4項)。いずれの場合も5年以下の懲役または500万円以下の罰金を科し、またはこれらを併科するとされています。不実記載罪は、①会社の設立時において発起人などが裁判所や創立総会に対して虚偽の申述を行い、または事実を隠ぺいしたとき、②会社の取締役、監査役、執行役などが、現物出資の内容について、裁判所または株主総会に対し虚偽の申述を行い、または事実を隠ぺいしたとき、③検査役が、現物出資に関して、裁判所に対して虚偽の申述を行い、または事実を隠ぺいしたとき、④会社法94条1項の規定により選任された者が、創立総会に対して虚偽の申述を行い、または事実を隠ぺいしたときに成立するものとされています。会社の設立時や新株や新株予約権を発行する時において、現物出資の対象となる物の評価額などに関して嘘の報告をしたり、事実を隠蔽したりすることで犯罪が成立することになります。

自己株式取得罪

自己株式取得罪とは、会社の取締役、監査役、執行役などが、株式会社の計算により不正に自己株式を購入する行為を処罰するものです。自己株式取得罪に該当する場合、その取引を行った取締役、監査役、執行役などは、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられるとされています(会社法963条5項1号)。

会社法では自己株式の取得自体は合法なものとして認められています。例えば、株主総会の特別決議を経て一般の株主から自己株式を取得する場合については、会社法156条から159条にその手続きが定められています。また、特定の株主から自己株式を取得する場合については、会社法160条及び161条においてその手続きが定められています。また、自己株式取得については財源規制がありますので、配当可能額を超えて自己株式を取得することは禁じられていますが(会社法461条)、配当可能利益の範囲内で配当を行うことは通常は問題となりません。

自己株式取得については、これらの会社法の手続きや財源規制に抵触しない形で行う必要がありますが、これらの手続きを踏んでいる限り違法とならないのが原則です。しかし、自己株式取得が経営陣の支配権保持や株価操作を目的として行われる場合は、会社の財産を危うくし、株主の利益を害する場合があると考えられます。このような場合には自己株式の取得も「不正に」行われたものとされ、自己株式取得罪に該当することになる可能性があります。

違法配当罪

違法配当罪とは、会社の取締役、監査役、執行役などが、法令又は定款の規定に違反して剰余金の配当をする行為を処罰するものです。違法配当罪に当たる行為を行った取締役、監査役、執行役などは、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられるとされています(会社法963条5項2号)。

違法配当罪は、分配可能な剰余金がある場合でも、定時株主総会の承認決議を経ないなど、会社法の定める手続きに違反して配当がなされる場合に成立するほか、分配可能利益がないにもかかわらず剰余金の配当がなされた場合に成立します。すなわち、違法配当罪は、株主総会の承認決議を欠くなど配当に関する手続き違反が存在する場合と、会社法上の手続きは経ているが分配可能な剰余金がない場合のいずれの場合にも成立することになります。

山一証券事件では、多額の含み損を抱えた有価証券を、いわゆる「飛ばし」と言われる方法で簿外処理し、損失を圧縮した有価証券報告書を提出したことから、有価証券報告書虚偽記載罪(証券取引法違反)が成立するとともに、本来であれば株主に配当すべき利益がないにもかかわらず、配当可能な剰余金があるかのような虚偽の内容の有価証券報告書に基づいて利益配当を行ったことから、違法配当罪にも該当するとされています。

目的範囲外投機取引罪

目的範囲外投機取引罪とは、会社の取締役、監査役、執行役などが、株式会社の目的の範囲外において、投機取引のために株式会社の財産を処分する行為を処罰するものです。目的範囲外投機取引罪を行った取締役、監査役、執行役などは、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられるとされています(会社法963条5項3号)。

株式会社については、リスクを取って収益を上げるという性質がありますので、定款記載の目的の範囲内であるかどうかにかかわらず、デリバティブ取引や投機取引が一切禁止されているというわけではありません。従って、商品先物取引、有価証券の信用取引、デリバティブ取引などの投機的取引が行われたとしても直ちに目的範囲外投機取引罪が成立するわけではありません。

しかし、会社の資産状態や経営成績に比較してその資産運用の規模が著しく過大である場合や、投機的取引によって会社の財務基盤を害するような場合には、会社財産を危うくするものとして、会社法上の犯罪になるとされています。

ヤクルト財テク事件では、不動産投資の失敗により多額の損失を被った被告(ヤクルト本社の副社長)が、個人的に被った損失を取り戻す目的で、会社の資金を利用して米国ドル建て私募債(プリンストン債)や株価指数フォワード取引や株価指数店頭オプション取引を行い、最終的に会社に対して600億円以上の損失を生じさせたというものであり、業務上横領、特別背任罪の他、旧商法の会社財産危殆罪に当たるとされています。

虚偽文書行使の罪

虚偽文書行使罪は、株式会社の取締役、監査役、執行役らが、株式、新株予約権、社債、新株予約権付社債を引き受ける者の募集時において、虚偽の記載がある資料や広告、文書(目論見書)などを用いた場合や、虚偽の記載のある電磁的記録を募集の事務の用に用いた場合に成立する犯罪です。虚偽文書行使罪を犯した役員については、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられます(会社法964条)。

虚偽文書行使罪は、株式や新株予約権の募集時において問題となるものですが、上場会社などが有価証券の募集を行う場合には、会社の財産の状況や発行する新株の内容についての重要な事項は有価証券報告書に記載されることになります。このような場合には、金融商品取引法の有価証券虚偽報告書作成罪(金融商品取引法197条)が問題とされることが多いと思われます。

株式の超過発行の罪

株式会社においては、発行する株式の数が定款で定められており、登記がなされています。これは、取締役会(株式の譲渡制限のない会社の場合)や株主総会(株式の譲渡制限のある会社の場合)の決議により無制限に株式の発行ができるとすると、少数株主の持ち株比率が著しく減少することになり、利益を害される可能性があることから、株式を発行できる数(授権株式数)の上限を定款で定めようとすることものです。

このように授権株式数の制度を無視して、無制限に新株の発行がなされる場合には、既存の株主の利益が害される可能性があります。そこで、会社法では、取締役などが、株式会社が発行することができる株式の総数を超えて株式を発行したときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する(会社法966条)として、授権株式数を超えた新株の発行が犯罪行為になるとして、授権株式数を超えた新株の発行を抑止しています。

会社としては、もし授権株式数以上の新株発行を予定している場合は、株主総会の特別決議により定款を変更し、授権株式数を増加させておけば問題ないことになりますので、多くの事例においては授権株式数を超えた新株の発行はうっかりミスにより生じるものではないかと思われます。しかし、授権株式数を超えた新株発行であるかどうかは、数字上一義的に明確であり、言い訳が聞かないものですので、いったん違反を犯してしまうと重大な結果を招いてしまう可能性もあります。新株発行を行う場合は授権株式数を超過することがないよう常に注意しておく必要があります。

株主の権利行使に関する利益供与の罪

株主の権利行使に関する利益供与の禁止

会社法では、株主の権利の行使に関して、財産上の利益の供与をしてはならないと規定しています(会社法120条1項)。この規定は、総会屋などが株主総会における議決権の行使に関して会社を脅迫し、金銭の授受を得ていたことから、そのような行為を禁止するために、会社に対して株主に対する利益の供与(金銭の交付など)をしてはならないと定めたものです。例えば、株主総会において現経営陣に有利に議決権行使をしてもらうために、金銭やその他の特別の利益を供与する場合は、会社法の規定に違反することになります。

株主の権利行使に関する利益供与の罪

会社の取締役、監査役、執行役員、その他会社の従業員が、株主の権利の行使に関して利益の供与を行った場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処するとされています(会社法970条1項)。会社法120条1項で利益供与自体が禁止されており、違法であることが明らかにされていますが、これに違反した会社関係者に対して刑事罰を科するのが本条の意味です。

株主の権利行使に関する利益供与の罪は、利益を供与した会社関係者だけでなく、利益を受けた株主の側も処罰されることになっています。会社法では、「情を知って、前項の利益の供与を受け、又は第三者にこれを供与させた者」や、金銭の交付を要求した者についても3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処することが明確にされています(970条2項、3項)。このように、必ずしも金銭の授受がなくとも、金銭の交付を要求しただけで犯罪が成立することになります。

株主の権利行使に関する利益供与の事例

モリテックス事件

モリテックス事件では、株主の側から取締役及び監査役の選任議案が提出され、会社の提案との間において議決権争奪戦(プロキシ―・ファイト)が繰り広げられている状況において、会社が株主に対する株主総会招集通知を送付する際に、議決権行使書とともに「議決権行使のお願い」と題する書面を同封し、議決権行使を行った株主に対して500円のクオカードを贈呈することを約束した事件です。裁判所は、「株主の権利の行使に関して行われる財産上の利益の供与は、原則としてすべて禁止されるのであるが、当該利益が、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与される場合であって、かつ、個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり、株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときは、例外的に違法性を有しないものとして許容される場合があると解すべきである。」と判示しました。そのうえで、今回のクオカードの贈呈は、会社の提案に賛成する議決権行使の獲得をも目的とするものであり、正当な目的によるものとは言えず、会社法120条1項の禁止する株主の権利行使に関する利益供与にあたるとして、当該決議を取り消すと判断しています。

株主総会の開催に際して、議決権を行使してくれた株主に対してお土産を渡す慣行はよく見受けられますが、議決権争奪戦(プロキシー・ファイト)がなされているような状況で、現経営陣に有利な投票がなされることを期待してお土産を交付することは違法となる可能性があることが明らかにされた事件であると言えます。

蛇の目ミシン事件

蛇の目ミシン事件では、株式の大量買い占めを行った大株主が暴力団に譲渡した株式を買い戻すための資金が必要として蛇の目ミシンに金銭の要求をし、蛇の目ミシンがこれに応じて仕手集団に対して300億円の迂回融資を行ったという事件です。また蛇の目ミシンは仕手集団の債務900億円以上についての肩代わりもしています。裁判所はこれらの行為について、株主による権利行使を回避する目的で迂回融資や債務の肩代わりを行ったものであり、会社法が禁止する株主への利益供与にあたるとしています。

取締役などの贈収賄罪

取締役などの収賄罪

会社法967条では、取締役などが、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処すると規定されています(会社法967条1項)。

本来収賄罪は、公務員がその職務に関して賄賂を収受した場合に成立する罪(身分犯)であり、民間企業の間で金銭の授受があったとしても、刑法上の犯罪行為には該当しないとされていました(刑法197条)。これは収賄罪の罪がもともと公務員による公的職務の公正さを維持するために作られた刑事罰だからです。しかし、会社の取締役などの役員については、株主の資産を受託してその運営に当たっているわけですし、多くのステークホルダーとの関係が構築されています。従って、会社の取締役は民間人ではありながらその職務の公正さについては公の利害関係があるとも言えます。そこで、会社の取締役などの役員が果たす公的使命に鑑み、民間企業の人間であっても、その職務の公正さについての信頼は尊重されなければならず、これを害することがないよう刑事罰により不正行為を抑止しようとするのが取締役などの収賄罪の根拠と考えられます。

取締役などに対する贈賄罪

会社法967条2項では、「前項の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する」として、取締役などに対して賄賂を贈った側の人間も処罰されることになっています。贈賄罪は現実に賄賂を贈った場合だけでなく、賄賂の提供の申し出を行い、または賄賂を提供することを約束しただけでも犯罪が成立します。

株主などの権利の行使に関する贈収賄罪

会社法968条1項では、株主総会などにおいて、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、またはその要求若しくは約束したものは、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処するとされています。また、968条2項では、利益の供与をし、その申し込みや約束をした者(贈賄側)についても犯罪が成立するとしています。

すなわち、取締役など会社の役員ではなく、一般の株主が、株主総会などの議決権行使に関し、不正の請託を受けて(議決権行使について不正な依頼を受けて)、金銭の受領を行うことは犯罪行為(収賄罪)に該当し、これに対して金銭を交付した者は贈賄罪に該当することになります。一般の株主が、株主総会における議決権行使に関して金銭の収受を行うことは違法となります。例えば、取締役選任議案において、株主間で争いが生じているときに、一方の取締役候補者から依頼を受けて、その取締役候補者に賛成する旨の議決権を行使することを約束し、その見返りとして金銭を受領する行為が犯罪とされています。

取締役や執行役員などが逮捕された場合のリスク

取締役の欠格事由

会社法では、会社法や金融商品取引法などで定められた法律に違反して、刑に処せられた場合、その執行を終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から2年を経過するまでは、取締役となることはできないとされています(会社法331条1項)。

会社法違反により罰金刑を科せられた人や、執行猶予中の有罪判決を受けた人も欠格事由の対象となりますので、取締役になることができません。執行猶予の期間が満了した場合は欠格事由でなくなりますので、取締役に就任することができるようになります。罰金刑を受けた人が罰金の納付をした場合も欠格事由でなくなりますので、取締役に就任することができるようになります。

なお、会社法以外の罪により、禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者についても取締役の欠格事由とされています(会社法331条1項4号)。但し、会社法以外の罪の場合は、「刑の執行猶予中の者を除く」と明示されていますので、会社法以外の罪で執行猶予期間中の者は取締役の欠格事由には該当しないことになります。

取締役が欠格事由に該当する場合、当然取締役としての地位を失うことになります。従って、当該取締役による退任手続き(辞任届出の提出)や株主総会による解任決議などは必要ありません。但し、取締役は会社の登記事項ですので、欠格事由が生じた日から2週間以内に、資格喪失を理由とする取締役の退任の登記を行う必要があります。

取締役解任

会社と取締役との関係は委任関係に該当しますので、会社は、株主総会決議により、いつでも取締役の解任を決定することができます(会社法339条1項)。

取締役が刑事事件において有罪判決を受け取締役としての資格を喪失した場合は、当然に取締役を退任するわけですので、取締役の解任決議を行う必要はありません。しかし、取締役が刑事事件において有罪判決を受けた場合であっても、一定の場合には、取締役の欠格事由に当たらない場合もあります(例えば会社法違反の法律により罰金刑を受けた場合)。そのような場合であっても、刑事事件によって有罪の判決を受けるということ自体が会社の信頼を失い、会社の評価を低下させるものと言えます。そこで、取締役が有罪判決を受けた場合には、交通事犯など軽微な犯罪行為でない限り、取締役の解任が問題となることが多いと言えます。

会社への損害の発生

会社の取締役が、会社法の規定に違反して有罪判決を受けた場合、取引先や社会からの信用を著しく害することとなり、取引先の喪失や従業員の退社などによって、会社自体が大きな損害を被ってしまう可能性があります。

また、刑事罰を受けた取締役が職務の執行を行うことができない状態になると、そのこと自体が会社にとっての大きな損害であるとも言えます。取締役が刑事事件で有罪判決を受けることは会社においても損害の発生を避けられないことを認識しておく必要があります。

会社の社会的評価の低下

会社の取締役が、会社法違反の罪で有罪判決を受けた場合、会社の信用性を著しく棄損し、会社のブランド価値を低下させることになります。また、新聞・テレビ・週刊誌などによる報道やSNS(ライン、ツイッター、フェイスブックなど)による情報伝達によって、よくない評判が社会全体に浸透していく可能性もあります。

これらの報道によって、消費者や取引先企業などが悪い印象を受けることになり、状況によっては不買運動、サービス離れ、契約解除などの事態が生じる可能性もあります。証券取引所に上場している企業においては、個人株主や機関投資家からの売り注文が殺到し、株価が下落するリスクもあります。このように取締役が刑事責任を負うことは、会社の社会的評価の低下をもたらすリスクがあります。

役員の行為が犯罪となる場合の対応策

逮捕を回避し、早期釈放活動を行う

会社の役員が会社法違反の行為を行った場合であっても、直ちに逮捕されるわけではありません。通常は警察からの事情聴取や捜索活動などが行われ、犯罪行為を行ったと認められる十分な証拠がそろって初めて逮捕されることになります。

会社の取締役が刑事事件によって逮捕された場合、身柄の拘束によって日常生活に著しい支障が生じるだけでなく、会社の業務を行えなくなるなど、会社の運営においても大きな支障が生じることになります。会社の役員が逮捕されたことでニュースバリューがあり、新聞などで報道される可能性も高くなります。このように逮捕される場合の不利益は著しく大きいですので、会社法違反の行為を行い、刑事事件の対象となる可能性があると判断される場合は、逮捕されないようにすることを第一の目標として活動していく必要があります。

検察官からすれば、被疑者の逮捕は捜査のために必要性がある場合に行い、任意の聴取によって十分に証拠を収集できると判断される場合には、あえて逮捕の措置をとる必要はないことになります。そこで、警察や検察官による捜査活動に協力することで、逮捕を免れる可能性を高めることができます。

万一警察に逮捕された場合、警察は72時間以内に検察官に身柄を送致し、検察官は裁判所に対する拘留状の請求を行うか被疑者を釈放するかの判断をしなければなりません。検察官の勾留請求により、裁判所が勾留を認めた場合、最大20日間(最初の10日間と延長された10日間)勾留がなされることになります。このことは逮捕以上に長期にわたって身柄拘束による制約を課せられることになりますので、被疑者にとっては著しい不利益が生じることになります。

裁判所が勾留状を発行する場合は、被疑者について逃亡の恐れがあるか、罪証隠滅の恐れがあることが必要とされています。そこで、被疑者の弁護人としては、検察官に働きかけて勾留状の請求を行わないよう依頼したり、万一仮に検察官が勾留状を請求する場合であっても、裁判所による勾留質問において、勾留理由がないことを主張して、勾留状の発行を行わないよう働きかけていく必要があります。そのためには、弁護人である弁護士とよく相談し、会社の上司による身元引受や、家族からの監督の可能性などをよく説明できるようにしておく必要があります。会社の取締役は社会的地位がしっかりしているところもありますので、逃亡の恐れも少なく、会社における職務の重要性などをしっかりと説明することで、裁判官を説得できる可能性も大きいと考えられます。

なお、万一勾留が認められた場合でも、勾留期間満了までずっと身柄を勾留しておくことは、無罪推定の働く被疑者の人権への重大な制約であると言えます。そこで、被疑者の側としては、弁護人を通じて裁判所への保釈請求を行い、一定の保釈保証金を納付することで、保釈してもらうことも考えなければなりません。

不起訴となるよう活動する

会社法違反による罪に当たる場合であっても、被疑者である取締役が逮捕・勾留される場合もあれば、任意の捜査によって犯罪事実についての証拠が集められると判断される場合には、逮捕状の請求もなされないこともあります。

警察が犯罪事実について捜査した場合、全件送致主義が採用されていますので、捜査記録は必ず検察官に送付されることになります。その上で検察官は起訴をするかどうかの判断を行うことになります。起訴される場合は、略式による罰金刑の場合を除き、公判手続きが行われることになり、99%以上の確率で有罪となってしまいます。反対に、検察官が不起訴の判断(処分保留または嫌疑なし)を行う場合は、捜査はそこで終了し、刑事罰に問われることもなくなります。このように起訴されるかどうかで、有罪となるかどうかがはっきりと分かれることになりますし、その結果、前科がつくかどうかの分かれ目ともなります。

そこで、逮捕されたかどうかにかかわらず、不起訴処分の判断を下してもらえるよう検察官に働きかけをしていくことは重要となります。これらの活動には被害者との示談交渉を行うこと、被害者のない犯罪において贖罪寄付を行うこと、被疑者の生活環境の整備を行い、再犯の可能性がないことを示すこと、上司や親族などから再犯を犯さないよう監督を行っていく旨の上申書を提出してもらうことなどが含まれます。被疑者が自らこのような活動を行うことは通常難しいですので、弁護人を選任し、弁護人(弁護士)にこれらの活動を行ってもらうことが重要となります。

実名報道を避けるなどマスコミなどへの対応を行う

会社の取締役は社会的地位も高いことが多いですので、マスコミにおいてもニュースバリューが高く、逮捕された事実や有罪判決を受けた事実がテレビなどで放映される可能性も否定できません。マスコミにより実名報道がなされた場合は、犯罪事実が周囲の人に広く知れ渡ることになり、その後の社会生活においても大きな支障を生じることになりかねません。会社法違反で刑事罰の対象となる可能性がある場合は、実名報道などがなされることがないようマスコミ対策なども慎重に検討しておく必要があります。弁護人がついている場合は、弁護人を通じて検察や警察、記者クラブ宛に実名報道を行わないよう要請する内容の意見書を提出するということも考えられます。

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