• 2020.09.01
  • 個人の法律相談

遺産分割協議の仕方

遺産分割協議

遺産分割は、被相続人の遺言がある場合には、遺言に基づく分割によることになります。遺言書がない場合には、相続人全員で遺産をどのように分割するかを話し合う遺産分割協議を行い決定します。遺産分割協議の方法については特に決まりがあるわけではありませんので、裁判所への申し立てなどを行わずに、相続人の間における自由な協議により決めることができます。遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があり、相続人が1人でも欠けている場合には無効となります。また、遺産分割協議は一度成立するとやり直すことができませんが、相続人が他の相続人に騙されていたなど相続人の意思表示に強迫や錯誤があった場合、分割協議の成立後に新たな財産が見つかった場合には、やり直すことができます。一般的に未成年が法律行為をする場合には、親が法定代理人になりますが、遺産分割協議では、親も相続人になっている場合が多くあります。親も未成年者である子もともに相続人として遺産分割協議が行われる場合などは、親と未成年者である子は利益相反の関係となるため、親が未成年の代理人になることができません。このような場合には、家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらい、特別代理人が未成年の代わりに遺産分割協議などを行うことになります。なお、特別代理人は遺産分割協議のために必要であるにとどまり、遺産分割協議が成立すれば、親が未成年の財産を管理することができるようになります。

遺産分割協議書の作成

相続人の間における協議の結果は、遺産分割協議書にまとめます。遺産分割協議書は、①タイトルを明確にする、②協議の結果各相続人が相続することになった財産を正確に記載する、③協議を行った日を明確にする、④相続人全員が署名し、実印を押す、⑤金融機関に提出する際には印鑑証明書を添付するなどのルールがあります。最近の最高裁判所の判例によれば、被相続人が死亡した後、一部の相続人が勝手に被相続人の有していた銀行預金を解約することはできないことになります。被相続人全員の了解なしに、一部の相続人だけで銀行預金を解約した場合は、不当に両得したことになり、他の相続人から損害賠償請求訴訟を起こされることになります。銀行の側も、相続が発生したことを知ったときには、遺産分割協議書と、相続人全員の印鑑証明書がない限り預金の解約には応じてくれなくなっています。地裁や高裁レベルでも、この扱いは明確になっていますので、被相続人の死亡による預金の解約については注意が必要です。また、この実務の運用があることから、被相続人が亡くなる直前に被相続人の預金を解約することが多くみられます。このような解約についても後日他の相続人から不法行為や不当利得を理由に訴訟が起こされる原因になりますので、注意が必要です。

遺産分割調停

相続人全員での遺産分割協議がまとまらない場合や連絡がとれない相続人がある場合には、家庭裁判所での遺産分割調停の手続きを利用することができます。調停は話し合いの場であり、裁判所の調停員が間に入り話し合いを進め、最終的には相続人自身がどのように分割するかを決めることになります。申立人と相手方が順番に調停委員と話をすることになりますので、相続人同士直接話をしなくてすみます。遺産分割調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。申し立ての際は、調停申立書、遺産目録、相続人関係図、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、相続人の住民票、遺産の疎明資料などを準備して添付します。家庭裁判所では、相続財産を隠した相続人が得をするという状況を避けるため、相続財産の開示を積極的に求めてくる傾向があります。遺産分割調停を継続する限り、相続財産を隠し続けるのはかなり困難と考える必要があります。

家庭裁判所の審判

調停が成立しなかった場合、遺産分割調停は自動的に遺産分割審判に移行することになります。審判では、裁判官の指揮のもと、それぞれの相続人が書面で主張や立証を行うことになります。途中で話し合いがまとまった場合には、その時点で調停が成立したものとして審判は終了しますが、まとまらなかった場合には、各相続人の主張と立証に基づいて裁判所が遺産をどう分割するかについて決定(審判)を行います。基本的には法定相続分に応じて分割されることになります。

寄与分

相続人の中には、被相続人の財産形成に貢献したり、被相続人の療養看護に努めたりするなど被相続人に対して貢献をしてきた相続人がいる場合があります。遺産分割協議や遺留分の算定などの場面で、被相続人に貢献してきた相続人に上乗せされる相続分のことを寄与分といいます。生前被相続人の財産形成や看護などを行ってきた相続人と他の相続人との公平さを図るため、相続分を修正する目的で寄与分が定められています。寄与行為には、被相続人の事業に関する労務の提供をした場合の家事従事型、被相続人の事業に関して財産上の給付をした場合の金銭等出資型、病気療養中の被相続人の療養看護に従事した場合の療養看護型、被相続人の生活費を出すなどして被相続人を扶養した場合の扶養型、被相続人の賃貸不動産の管理など被相続人の財産を管理した場合の財産管理型があります。寄与分がある場合の相続分の計算は、相続財産からあらかじめ寄与分額を控除し、控除した相続財産を法定相続分で計算します。遺産分割調停・審判において、寄与分を主張する場合には、別途、寄与分を定める調停・審判を申し立てる必要があります。

特別受益

相続の場面で、特別受益が問題になるケースがあります。特別受益とは、特定の相続人が、被相続人から利益を得た際の利益をいい、婚姻・養子縁組・生計の資本として生前贈与「生前贈与」に限定されず、「死因贈与」や「遺贈」も含まれます。被相続人から遺贈や生前贈与を受けた相続人と他の相続人との間の公平を図る目的で定められています。特別受益がある場合には、遺産の金額に特別受益の金額を加算し、その合計金額を法定相続分かまたは遺言で定められた相続分に基づいて分割していくことになります。相続財産に特別受益の金額を加算することを「特別受益の持ち戻し」と呼びます。「特別受益」を受けた相続人は、上記で得られる金額から特別受益の額を控除した額を受け取ることになります。

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