• 2020.09.01
  • 訴訟・紛争解決

裁判手続による債権回収

債務名義の取得

任意の交渉で債務者からの弁済がなされない場合には、債権の差押えをして債権の回収を目指すことになります。財産の差押えをするためには、裁判所で強制執行の申立てをする必要がありますが、強制執行を行うためには、債務名義(債務の存在や額を証明するもの)を得ることが必要です。債務名義を取得する方法には、次のような方法があります。

民事調停

裁判所が任命した調停委員の仲介のもとで、債権者と債務者が債務について話し合いを行う手続を民事調停といいます。調停委員は弁護士などの専門家が務めることが多くあります。民事調停は、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申立てを行います。申立ての趣旨や紛争の原因などを記載した申立書、債権者と債務者の間の契約書や領収書など、債権者・債務者の登記や資格証明書などを提出します。

民事調停のメリット

民事調停を利用するメリットとしては、裁判所を利用する手続の中でも申立て費用が安いこと、調停委員が間に入ることで感情的にならずにすむなどのメリットがあります。また、民事調停の申立てだけでも時効の完成猶予の理由になりますが、調停が成立すると時効が10年更新されます。

調停調書による強制執行

調停が成立した場合には、調停条項に従って任意の支払いがなされるのがほとんどです。万一調停が成立したにも関わらず調停条項に従った支払いがなされない場合。調停調書を債務名義として、債務者の所有する不動産、動産、債権に対して差押えを行います。調停が成立しなかった場合には、通常訴訟に移行することになります。

支払督促

裁判所を利用した督促に、支払督促という手続があります。債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に支払督促の申立てを行い、書記官が申立書に不備がないがチェックして、請求に理由があると認められる場合には、債務者に支払督促が送達されます。支払督促が相手方に送達されてから2週間が経過しても異議が出なければ、債権者は簡易裁判所に仮執行宣言(判決確定前であっても、その債務名義により強制執行をすることを認める裁判所の決定)を申し立てることができます。簡易裁判所の書記官は、仮執行宣言付支払督促を相手方債務者と債権者に送達します。この仮執行宣言付支払督促が債務名義になります。支払督促に対して債務者から異議があった場合には、支払督促は無効になり、通常訴訟は移行することになります。支払督促の手続は、訴訟手続に比べ手続が簡単で費用が安く済むというメリットがありますが、相手方から異議が出されると通常訴訟に自動的に移行してしまいますので、手数料の負担が増えるリスクを伴うので注意が必要です。

少額訴訟

債権の額が60万円以下の場合には、簡易裁判所に少額訴訟を申し立てることができます。少額訴訟を提起する場合は、簡易裁判所に、訴状、契約書、請求書、見積書、領収書などの債権の存在や額を示す資料を提出します。通常は1回で審理が終了し、その日のうちに判決が出されます。少額訴訟に勝訴した場合には、仮執行宣言が付された判決がでることになります。少額訴訟は、債権の目的が60万円以下の現金に限られ、相手方が少額訴訟に反対した場合には利用できないといった問題点があります。また、1回の審理で判決になるため、期日当日までにすべての書類を準備して提出する必要があり、複雑な事案には不向きであるといえます。

仮差押え・仮処分

債務者の財産から強制的に自分の債権を回収するために、訴訟手続に勝訴して債務名義を得る必要がありますが、裁判が長引くとその間に債務者が破産したり、債務者が財産を第三者に譲渡すると回収できなくなる恐れがあります。そこで、訴訟に勝訴することを見据えて、財産を固定しておくことは非常に重要です。債務者の財産を固定する手続を民事保全といい、代表的なものとして仮差押と仮処分があります。いずれも訴訟をせず、緊急に財産を保全する手続です。

仮差押

仮差押は、金銭の支払を目的とする債権(売買代金支払請求権、貸金返還請求権)について強制執行することができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき、債務者の財産(不動産、動産、債権)を差押え、相手方が銀行預金を移動させたり、不動産を処分したりできなくする手続です。

仮処分

現状の変更により債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生じるおそれがあるときに、債務者が金銭債権以外の債権を処分するのを防ぐための手続です。債務者が自己の不動産の名義を第三者に移転する可能性があるときに移転させないようにするものです。

仮差押・仮処分の手順

民事保全の手続をするためには、被保全債権の存在(債権を持っていること)と保全の必要性があることが必要です。具体的には、被保全債権と保全の必要性を記載した申立書を裁判所に提出し、裁判所での審尋を経て、裁判所が仮差押命令や仮処分命令を出してよいと認めたときは担保決定が出されます。担保決定がなされたら、申立人は担保金を供託しなければなりません。担保金は仮差押さえを行う財産の価額の3分の1から4分の1程度になります。また、不動産に対する仮差押命令が出されると仮差押え登記によりその不動産は処分できなくなります。銀行預金に対する仮差押えがなされると、銀行預金の払い戻し請求ができなくなります。あくまでも訴訟提起の前の緊急の措置であり、その後訴訟提起して勝訴すれば、本執行することになります。

仮差押・仮処分のメリット

債務者に財産があるときには、財産を維持することができるというメリットがあります。また、債務者が取引先の場合には、銀行預金の差押えや在庫の移転ができなくなることは事業に大きな支障になるため、債務者の側から任意の支払いに応じてくることも多くあります。一方で、仮差押・仮処分は自分以外のほかの債権者もすることができるため、優先して回収できるわけでないことに注意が必要です。

通常訴訟

債権や売掛金の回収のために、通常の訴訟手続を利用することももちろん可能です。最初から通常訴訟の申立てをすることもできます。少額訴訟を申立てたが相手方が少額訴訟に反対した時や、支払督促の申し立てを行って異議が出された時にも、通常訴訟に移行します。通常訴訟では、裁判所に訴状を提出し、法廷での審理を経て、判決が下されます。通常訴訟で勝訴した場合、仮執行宣言が付されて、直ちに強制執行(差し押さえ)を行うことができます。なお、訴額(請求金額)が140万円以上の場合の通常訴訟は地方裁判所に、140万円未満の場合には簡易裁判所に申立てを行います。

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