• 2020.09.01
  • 訴訟・紛争解決

強制執行と債務名義

強制執行とは

強制執行とは、債権者の債務者に対する私法上の請求権を、国家権力をもって強制的に実現する手続です。強制執行には、金銭執行と非金銭執行があります。不動産執行、動産執行、債権執行などは金銭執行に分類されます。債務者が裁判所の命令に従わない場合には、直接強制により、直接債権を取り立てたり、不動産を強制的に明け渡したりすることが出来ます。非金銭執行には、意思表示の擬制、作為不作為の執行(代替執行)、物の引渡請求権の執行などがあります。債務者に意思表示を強制しても、意思表示をしないこともありますから、この場合は意思表示を行ったものと擬制することになります。また、作為義務の履行を怠った場合には、間接強制として不履行を継続している期間中一定の金銭の支払いを命じたりすることができます。

債権執行

債権執行は、債務者が有する預貯金債権、売掛金、貸付金など、個人の場合には給与と預金などに債務者が有する債権を差し押さえる手続です。この場合、債務者の債務者は第三債務者といい、債務者の銀行預金の有する債権が預貯金の場合には銀行、売掛金債権の場合には取引先、給与の場合には給与支払者が第三債務者になります。まず、債権差押命令の申立てを裁判所に行います。具体的には、申立書、当事者目録、請求債権目録、差押え債権目録、執行文が付与された債務名義、送達証明書を提出します。申立てが受理されると、第三債務者は債務者への支払が禁止されます。債権者は、債務者に代わり第三債務者への取引ができるため、迅速な回収が可能というメリットがあります。登記により債務者が所有していることが確認できる不動産とは違い、債務者が誰にどういう債権を持っているか特定が困難であること、預貯金に対する差押えは、差押命令送達時に口座に残っていた額だけであることから、債権が十分に回収できない可能性が考えられます。給与については、一度差し押さえればそれ以降も差押えすることが可能ですが、差押えできるのは4分の1までと決められています。

不動産執行

債務者名義の土地や建物に対する強制執行です。債権を回収しやすいというメリットがありますが、不動産の価格調査や競売手続に時間がかかるという問題や、取引先(債務者)が有する不動産には銀行などが抵当権を設定していることも多く、抵当権者が優先的に配当を受けてしまい、自己の債権を回収することができないという問題点があります。不動産執行申立ては、申立書、執行文の付した債務名義、送達証明書、競売目的不動産の登記、資格証明書や住所証明書、評価証明書、目的不動産の図面などを添付して不動産を管轄している裁判所に行います。収入印紙代(4000円)、登録免許税(請求債権額の1000分の4)、民事執行予納金(90万円)が必要です。不動産について裁判所が調査を行い、競売にかけられます。債権者は売却代金の中から配当金を受け取ることになります。

動産執行

債務者の所有する商品や機械、家財道具、現金などを差押える手続です。不動産より早く手続きができること、実際に執行官が自宅や会社店舗に来て差押えするため債務者に対するプレッシャーになるなどのメリットがあります。一方で、リース物件は差し押さえることができないため、会社の高価な機械がリースである場合には、差し押さえることは難しくなります、また、現金は60万円までしか差し押さえることができないといったデメリットもあります。動産執行は、裁判所に動産執行申立書、資格証明書、債務名義、当事者目録などを提出して申立てを行います。その後執行官と面談して差押えの手配を行い、現地で執行が調査した結果見つかったものから指定して差押えを行います。差し押さえられた財産は売却され、売却代金の中から債権に充当されます。

債務名義

強制執行は、執行力のある債務名義の正本に基づいて実施するとされています。債務名義とは、法22条各号に記載された文書のことで、執行機関に対し執行行為を開始する根拠を与える文書のことです。強制執行手続を行う場合には事前に訴訟その他の手続きによって債権者の給付請求権の存在を公証する書面(判決文、公正証書等)を作成する必要がありますが、これらの文書を債務名義と呼んでいます。もし執行機関(執行裁判所や執行官)が自ら事件ごとにその請求権の存否・内容を調査することとすると、執行の迅速は著しく害されることになります。そこで、執行法では、強制執行に際し他の機関(裁判所や公証人)によって作成された債務名義を必要とし、また債務名義のみに基づいて強制執行を行うことができるものとしています。例えば債務者は債権者に1000万円の支払をしなさいという判決がなされた後に、債務者が任意に300万円の支払い(一部弁済)をしたとすると、債務名義(判決文)に記載された権利に変更が生じていることになります。この場合、もし債権者が1000万円の支払を求めて強制執行をしてきたとすると、債務者は執行手続について異議申し立てを行うことができます。債務名義には、次のようなものがあります。
① 確定判決
② 仮執行の宣言を付した判決
③ 抗告によらなければ不服を申し立てることが出来ない裁判
④ 仮執行の宣言を付した支払督促
⑤ 訴訟費用の負担等の額を定める裁判所書記官の処分
⑥ 金銭の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述(執行受諾文言)が記載されているもの
⑦ 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
⑧ 確定した執行決定のある仲裁判断
⑨ 確定判決と同一の効果を有するもの

執行文

執行文(しっこうぶん)とは、債務名義の執行力の存在、執行当事者適格、条件付請求権についての条件成就について、裁判所書記官・公証人が審査し、債務名義の正本の末尾に付記する公証文言のことを言います。裁判所書記官や公証人が事前に執行可能かどうかを審査し、執行可能であることについてのお墨付きを与えてくれるわけですので、執行機関である執行裁判所や執行官としては、債権の有無や執行可能性について実質的な調査を必要としないで、簡易に執行に着手することができることになります。勝訴判決を取得した債権者は、債務名義を取得した裁判所の書記官に対して執行文付与の申立てを行うことになります。裁判所書記官は、債務名義の末尾に強制執行を認める文書である執行文をつけることになります。また、債務名義を債務者に郵送し、送達したことを証明する文書である送達証明書を作成してもらいます。執行文には、以下の3つの種類があります。   

① 単純執行文:債務名義の執行力を単純に公証するものです。
② 条件成就執行文:停止条件の成就・不確定期限の到来(特定の人が死亡することを権利行使の条件とする場合において当該条件の成就(特定の人の死亡))を確認した上で作成されます。
③ 承継執行文:債務名義に表示された者でない者を債権者または債務者として執行を行う場合の執行文です。例えば、判決の言い渡しがなされた場合において、事実審の口頭弁論終結時以降に、一般承継(相続、合併等)や特定承継(売買・債権譲渡)がなされた場合には、承継執行文が必要となります。

執行機関

執行機関(しっこうきかん)とは、執行手続を担当する国家機関をいいます。日本の民事執行法では、執行機関として、執行裁判所と執行官があります。通常裁判所という時には、裁判を行い、判決を言い渡す裁判所が想定されますが、裁判所の中には、執行を行うことを専門としている部門があります(東京地裁であれば民事21部)。また、執行官は裁判所から独立した人ですが、執行手続きにおいては公的な役割を行うことから、執行機関の一部と言えます。このように債権の存否について判断し、債務名義を出す裁判機関と、債務名義に基づいて執行手続を行う執行機関とが分離されているのは、執行手続において迅速かつ効率的に権利の実現を行うためです。

執行関係訴訟

執行手続に対する不服申立ては、訴訟手続によって行われることになります。これらの訴訟は執行関係訴訟と言われています。執行関係訴訟には次のような類型があります。

請求異議の訴え

請求異議の訴えは、債務名義上は債権が存在するものとして表示されているものの、その後の弁済などによって債権が不存在となった場合に、判決により債務名義の執行力を排除し、強制執行を防止することを目的とする手続きです。また、裁判以外の債務名義については、その成立の有効性を争う場合には、請求異議の訴えが利用されることになります。請求異議の訴えは、債務名義自体の執行力の排除を目的とするものですので、債務名義の成立後であれば、強制執行の開始前であっても提起することができます。また、強制執行手続が終了した後であっても、請求異議の訴えを起こすことは可能です。

執行文付与の訴え

執行文のうち、条件成就執行文や承継執行文については、条件成就や承継関係の存在を示す書面を提出することができず、裁判所書記官や公証人だけで条件成就の証明や承継関係の存在を証明することが出来ない場合があります。このような場合に、執行文付与の特別要件の存在を訴訟手続によって確認するのが執行文付与の訴えです。執行分付与の訴えは、条件成就等の確認を行うことを目的とするものですので、債務名義上の請求権の存否について判断されるわけではありません。

執行文付与に対する異議の訴え

条件成就執行文や承継執行文が付与された場合において、債務者の側で条件が成就していないこと、自分が義務の承継人でないことを主張して自分に対する執行を止めるための訴えです。

第三者異議の訴え

第三者異議の訴えは、債務名義の執行力の及ばない第三者の財産や、債務名義に表示された責任財産以外の債務者の財産に対して強制執行がなされた場合に、これらの者が、執行対象財産が責任財産に属さないことを主張して、訴訟手続によって執行を排除する手続きです。債務名義上は、責任財産の範囲について記載されているわけではありませんので、どの財産に対して執行することができるかについては、外形的事実を基準として判断せざるを得ないことになります。第三者の側で、当該財産は債務者の財産ではなく自分の財産であると主張する場合には、当該第三者の側から第三者異議の訴えを提起し、強制執行の対象財産でないことを裁判所に確認してもらう必要があります。

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