賃料を滞納する賃借人に対し建物明渡請求訴訟を提起し、明渡の実行を行った事例
事案の概要
事務所や家屋を賃貸している場合に、賃料の支払を受けられない場合があります。未払賃料額が膨れ上がって賃料の回収不能となる前に法的手続をとることが重要です。賃料不払を続ける賃借人との契約を早期に解除し、速やかに建物を明け渡させた上で、新しい賃貸借契約を締結し賃料収入を確保していかなければなりません。当事務所では、賃借人に対する未払賃料請求、賃貸借契約の解除、未払賃料請求訴訟などを通じて賃料の回収を図っていきます。
内容証明郵便による催告書の送付
当事務所では、賃料を滞納している賃借人に対して内容証明郵便による催告を行います。催告書の送付は、賃借人に対するプレッシャーを与え自発的支払いを促す効果がありますし、賃借人とのコミュニケーションの端緒とすることもできます。また、内容証明郵便を発送することで、賃借人がその住所に住んでいるかどうか(郵便物を受け取る意思があるかどうか)を判断する材料ともなります。また、内容証明郵便による催告は、裁判上の証拠となり、未払い賃料の存在を裁判官に簡単に理解してもらうことができる効果や、時効中断の効果もあります。また、賃貸借契約については、賃料未払いを理由に解除しておく必要があります。内容証明郵便は、未払い賃料の支払を催告するとともに、賃貸借契約の解除通知としての役割も有することになります。
賃借人の住所調査
当事務所では、戸籍謄本や住民票により賃借人や保証人の戸籍や住民票の調査を行います。訴訟を提起する場合に、賃借人の住所を特定する必要があるためです。訴状の送達を確実にする必要があることから、場合によっては、戸籍や住民票に記載された住所に行き、表札や郵便受けの名前を確認することもあります。外国人が相手の場合、従前は外国人登録簿で住所を確認していましたが、法律の改正により外国人の住所についても住民票で確認することができるようになりました。訴訟の相手方についての戸籍や住民票の取得は、弁護士が使用する職務上請求用紙という特別の用紙に基づいて行うもので、有資格者以外の方が自分で行うことはできません。
公示送達
賃借人が賃借建物に荷物を残したまま行方不明となっていることも多くあります。また、賃借人が刑事事件で逮捕され、勾留中であったり、実刑判決を受けて刑務所に服役していることもあります。実刑判決を受けて服役している被告については、弁護士照会制度により現在被告が服役している刑務所を法務省に照会することで送達場所を確認する必要があります。送達は刑務所長に対して行うことになります。賃料の滞納を継続している賃借人と全く連絡がとれない場合は、公示送達による送達を行う必要があります。公示送達の申し立てを行うためには、住民票などで調査をしたが住所の確認ができなかったことの上申書が必要になります。
占有移転禁止の仮処分
賃借人に対して訴訟を提起した場合に、賃借人が別の人に転貸借して、その建物に別の人が居住していることがあります。明け渡し訴訟は、現にそこに居住している人に対して行わなければなりませんので、別の不法占拠者が占拠した場合は、改めてその人に対して訴訟をし直さなければなりません。上記のような転貸借や別の人を居住させるのは明らかに訴訟を妨害する目的と考えられます。このような訴訟の妨害を防ぐために、訴訟提起の前に占有移転禁止の仮処分を申し立てることが重要です。裁判所が占有移転禁止の仮処分決定を出してくれると、その後は現在の賃借人のみを相手に訴訟を追行することが可能となります。
建物明け渡し請求訴訟の提起
未払賃料の支払請求訴訟とともに、建物明け渡し請求訴訟を行います。契約解除時までが未払い賃料になり、契約解除以降は不法占拠による損害賠償請求として賃料相当額の支払いを求めることになります。未払い賃料の支払請求訴訟と建物明け渡し請求訴訟は併合して行われますので、裁判所は一つの判決で両方の請求を認めてくれます。賃借人が自発的に建物を明け渡してくれたほうが強制執行の手間と費用を省くことができますので、賃貸人にとって有利です。そこで裁判所は、当事者に対して和解を勧告することが多くあります。和解の内容としては、一定期日までに建物を明け渡すことと、未払い賃料を分割で支払うことが定められます。
自力執行の禁止
建物明け渡しについての判決がなされ、または和解が成立した場合であっても、被告が合意した期日までに明け渡さないことがあります。このような場合、建物の明け渡しは、裁判所の命令に基づいて行う必要があります(明け渡しを命じる判決分だけでは不十分です)。例えば賃貸人がマスターキーを預かっている場合でも、マスターキーを使って賃借人の住居に勝手に入ることはできません。また、和解や判決が出たのちであっても、明け渡し手続きを賃貸人が勝手に行うことはできず、賃借人が自発的に明け渡しを行わない場合には、強制執行手続きを取り、裁判所の指名した執行官に明け渡し手続きを行ってもらう必要があります。自力執行を行った場合、賃借人から住居侵入で刑事告訴されることもありますので、注意が必要です。
建物明け渡しの強制執行
裁判所から建物を明け渡すよう命じる判決の言い渡しがなされたにもかかわらず、賃借人が建物を明け渡さない場合には、建物明け渡しの強制執行を行う必要があります。和解が成立したにもかかわらず、和解で定められた期日までに明け渡しがなされない場合も同じです。当事務所では、賃貸人からのご依頼により、裁判所に対して明け渡し執行の申し立てを行い、執行官との面談及び交渉、運送業者や解錠業者の手配を行います。また当事務所の弁護士が執行手続きに立会います。賃借人の家財道具などの荷物は一旦倉庫などで保管しますが、賃借人が引き取らない場合は競売手続きにより売却されます。建物明け渡しの申し立てを行う場合、申立人である賃貸人の側で執行官の報酬を保管金として裁判所に納付する必要があります。また、運送業者、倉庫業者、解錠業者の報酬なども一旦賃貸人の側で支払う必要がありますので、建物明け渡しの強制執行を行う場合には、賃貸人の側で最低でも100万円から200万円の金額の負担が必要になります。
強制執行費用確定処分の申立て
建物明け渡しを行う場合は、賃貸人の側で多額の費用の支出を行わなければなりません。そこで賃貸人は、強制執行が終了した後、裁判所書記官に対して強制執行費用確定処分の申立てを行うことで、賃貸人が立替払した強制執行費用について債務名義を得ることができます。未払賃料や強制執行費用について、任意の支払がない場合は、賃料支払の確定判決と強制執行費用に関する書記官の処分を債務名義として、賃借人の財産(銀行預金など)を差し押さえたり、賃借人の給料を差し押さえることができます。
家財道具の競売手続き
建物明け渡しの際に運び出された家財道具は、賃貸人が準備した運送会社によって、賃貸人が準備した倉庫まで移送され、一旦その倉庫で保管されます。その後執行官は競売期日を定め、競売期日に倉庫に出向いてきた業者の中で最も高い価格を付けた業者に引き渡すことになります。債務者である賃借人も競売手続きに参加することができますので、賃借人が自ら購入することも可能です。
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