• 2020.10.08
  • 海外進出支援

アメリカ法人の解散手続き

アメリカ法人の解散手続

海外進出を行うだけでなく、事情により海外拠点の撤退を検討せざるえ終えない場合があります。そのうち、アメリカ法人を解散し、清算するための手続きについては、下記の通りとなります。

デューデリジェンス(会社の状況確認)

清算手続きを行う前に会社の財政的状況や管理上の問題点などを確認しておく必要があります。デューデリジェンスの手続としては、最初に会社の基本的な書類を収集します。基本書類には次のようなものがあります。
1 定款
2 株券のコピー
3 取締役会議事録(minutes of board of directors meeting)
4 株主総会議事録(minutes of shareholders meeting)
5 取締役、監査役の名前
6 会社が得ている州政府からの事業許可
7 現在有効な契約書の写し(事務所の賃貸借契約書、リース契約書、供給契約)
8 従業員リスト、従業員の賃金台帳
9 顧客、債権者、リース業者、債務者のリスト
10 顧客との紛争の有無
11 銀行預金通帳の写し

会社の解散決議

会社の取締役会の同意書、株主の同意書などを作成します。役員や株主が複数いる場合は、必ず全員の了解を得るか、役員会や総会決議を行う必要があります。設立州へのファイリングのためにCertificate of DissolutionやCertificate of Termination of Existenceを作成します。

税務・会計上の手続

設立準拠法のある州政府に対してCertificate of Dissolutionをファイルするために、(税理士や会計士の協力で)決算書を作成し、annual reportを登録し、franchise taxを納税する必要があります。税金がきちんと納められている証明書として、tax clearance certificateを取得することも考えられます。IRSへのcorporation income tax return(連邦税の支払の止めの税務申告書)やemployment tax form(従業員の税金に関するもの)、会社の解散や清算に関する申告書(Form966)をファイルします。Form 966は、会社が解散決議を行った際に、IRSに提出する書類です。会社の住所、商号、設立年月日、設立の場所、解散年月日、解散決議の内容、親会社の名称などを届け出ることになります。

もし過年度においてIRSへの国税の申告書や各州の税務署に対する税務申告書の提出が漏れている場合は、その年度の申告書を新たに作成し提出する必要があります。州の均等税の支払いがなされていない場合は、その支払いを行う必要があります。

従業員との雇用契約の解除

従業員がいる場合、雇用契約の解除を行う必要があります。雇用契約解除の条件について協議し、合意内容をまとめたEmployment Termination Agreement(雇用契約終了契約書)やSeverance Agreement(解雇の条件に関する契約書)を作成します。401Kプランの終了通知、健康保険プロバイダーへのベネフィット終了通知、健康保険の続行についての通知などを行います。

清算業務

清算人は現務の結了として、債務(税金や未払給与を含む)の支払い、売掛金の回収、取引先への契約終了通知、リース物件の返還、建物の明け渡しなどを行います。残余の財産が有れば、株主等に返還することになります。

日本における代表者の退任

アメリカ法人が日本支店を設置している場合、日本支店についての登記がなされ、日本における代表者の名前が記載されます。日本支店の清算を行う場合は、日本の代表者の退任登記を行う場合と日本支店の閉鎖登記を行う場合があります。当事務所では、日本の代表者の退任登記や日本支店の閉鎖登記手続きを行います。

外国子会社の債務についての法的責任

外国の子会社を清算する場合に、残された子会社の債務について親会社が責任を負うかどうかを確認する必要があります。有限責任か無限責任かの問題です。Corporationの場合、株主(Shareholder)は有限責任です。Limited Liability Companyの場合、Memberは有限責任になります。Limited Partnershipの場合、General Partnerは無限責任ですが、Limited Partnerは有限責任となります。Branch Officeの場合、本社は無限責任となります。

子会社資産の処分に関する注意事項

子会社の資産の処分を行う際に、親会社について様々な責任が生じることがあります。次の法理について注意が必要です。

詐害的譲渡(Fraudulent Conveyances/Fraudulent Transfer)

一定の期間内(連邦破産法では資産の処分後2年以内)に破産手続きがなされ、(b)裁判所が適正な対価(reasonably equivalent value)の受領なしに資産の処分がなされたと判断し、かつ(c)売り手が資産の処分時に支払不能であったか、資産の処分により支払不能となった場合、資産の処分により不合理に過小資本となった場合、売り手が支払能力を超えて債務を負担することを意図していると考えられる場合、当該資産の処分は詐害的譲渡として取り消される可能性があります。

偏頗弁済(Unfair Preference)

債務者が債務超過の状態に陥った後、特定の債権者に対して、本来破産手続きで受けられる以上の債務の弁済(偏頗な弁済)を行った場合、破産法(US Bankruptcy Code)の適用により、将来破産管財人により弁済行為が否認され、破産財団に取り戻されることになります。

バルク・セール法(Uniform Commercial Code Article 6)

会社が所有在庫を一括売却する場合で、バルク・セール法の適用がある場合には、その法律に定めた手続に従う必要があります。売主は、債権者のリストを買主に提出し、買主は契約の内容をSecretary of Stateにファイルし、売主の債権者に通知し、売却代金を予め定めた方法により売主の債権者に分配することになります。この手続に従わなかった場合、買主は、売主の債権者に対して損害賠償責任を負います。

衡平法上の劣後(Equitable Subordination)

衡平法の原則に基づき、(a)債権者が他の債権者に対し信認義務(株主持分を所有していることまたは債務者の経営判断をコントロールしていることにより債務者に支配を及ぼすことにより生じえるもの)を負っている場合に、不公正な行為により他の債権者に対して損害を与えた場合、または(b)債権者が他の債権者を害するため、悪意でまたは詐害的な行為を行った場合、裁判所は、その債権者の債権を他の債権者に対して劣後させることができます。

資産の譲受人が責任を負う場合

製造物ライン理論(Product Line Theory)、事実上の合併理論(De Facto Merger Theory)、スーパーファンド法などにより、資産の譲受人が譲渡人の債権者に対して責任を負うことがあります。

法人格否認の法理(Piercing the Corporate Veil)

子会社が顧客に対して製品・サービスについての品質保証を行っている場合、子会社について品質保証責任(Representation and Warranty)が生じます。また、子会社が不法行為を行っている場合は不法行為責任が生じます。子会社が製造又は販売した製品に瑕疵があり、消費者に損害が生じた場合は、製造物責任が生じます。これらの場合、子会社が賠償金を支払わないまま閉鎖した場合、法人格否認の法理(Piercing the Corporate Veil)によって親会社に対して損害賠償請求がなされることがあります。

子会社の不適切な会社運営についての親会社の不法行為責任が認められた例

旧長銀が、経営の行き詰ったイ・アイ・イーインターナショナル社(イ社)を管理下におき、ホテルなどの資産を不当に安く処分したとして、イ社の管財人が、新生銀行を相手として、サイパンの裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した事件で新生銀行は裁判上の和解によりイ社の管財人に218億円の和解金を支払うことになりました。本件では、イ社の資産が処分された時点では、イ社の取締役の大部分は旧長銀から派遣された役員で占められていた点が考慮されています。

経営指導念書(Comfort Letter、Keep-Well Letter)

親会社が子会社の取引先や金融機関に対して保証書を差し入れている場合は、保証責任を負います。経営指導念書(Comfort Letter、Keep-Well Letter)については、責任を負う場合と負わない場合があります。

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