• 2022.12.28
  • 一般企業法務

特例有限会社

近久憲太

執筆者情報

近久憲太Kenta Chikahisa

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

特例有限会社とは

平成17年に会社法が施行される以前は、有限会社法に基づいて、多くの有限会社が存在していましたが、平成17年に会社法が施行され、有限会社法が廃止されたことに伴い、従来の有限会社は、有限会社の性質を一部残した株式会社(特例有限会社)として取り扱われることになりました(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」といいます。)2条1項)。

有限会社は、会社法の施行に伴って株式会社として扱われることになりましたので、原則として会社法に基づいて規律されることになります。しかし、廃止された有限会社法の規律のうち有限会社固有の概念に関するものについては、整備法によって、特例有限会社に対し、会社法とは異なる規律を及ぼすことが規定されています。

特例有限会社においては、通常の株式会社と異なる規律がなされている事項が多く存在しますので、株式会社への変更手続、株式譲渡手続、事業承継手続、取締役の選任及び解任手続等の特例有限会社に関する手続をお考えの際に、どのように手続を行っていけばよいのかお悩みの方も多いと思われます。

そこで、以下では、特例有限会社と通常の株式会社で異なる規律がなされている事項についてご説明するとともに、特例有限会社における株式会社への変更手続、株式譲渡手続、事業承継手続、取締役の選任及び解任手続等についてご説明していきます。

通常の株式会社と異なる特例有限会社の規律

旧有限会社における社員・持分・出資口数の扱い

旧有限会社における「社員」「持分」「出資1口」は、特例有限会社において、それぞれ「株主」「株式」「1株」とみなされます(整備法2条2項)。また、特例有限会社における発行済株式の総数は、旧有限会社の資本の総額を出資1口の金額で除した数となります(同条3項)。

特例有限会社の商号

株式会社として存続する特例有限会社は、会社法6条2項の規定にかかわらず、その商号中に、「有限会社」という文字を用いなければならず(整備法3条1項)、株式会社以外の株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはなりません(同条2項)。これらの規定に違反した場合、100万円以下の過料に処される可能性があります(同条3項)。

旧有限会社における社員名簿の扱い

旧有限会社の社員名簿は、会社法121条の株主名簿とみなされます(整備法8条1項)。そして、社員名簿における「社員」の氏名又は名称及び住所に関する記載は「株主」の氏名又は名称及び住所とみなされ、「社員の出資の口数」は「株主の有する株式の数」とみなされることになります(同条2項)。

特例有限会社の株式の譲渡制限

特例有限会社における株式の譲渡も、株式会社と同じく原則として定款の規定に基づいて行われます。ただし、特例有限会社においては、定款に株式の譲渡に関する規定がない場合であっても、「株式を譲り受けるときには会社の承認が必要である」、「株主間の株式譲渡は会社が承認したものとみなす」という2つの定款規定が存在するものとみなされます(整備法9条1項)。

この譲渡制限に関する2つのみなし規定については、平成17年の会社法施行に伴い、登記官が職権で登記を行っていますので、会社の商業登記簿における「株式の譲渡制限に関する規定」欄にも記載されています(整備法136条16項)。

特例有限会社において、上記2つのみなし規定と矛盾する定款の規定を定めることはできず、仮に定めても無効となります(整備法9条2項)。つまり、株主間以外の株式譲渡についても会社の承認を不要とする内容、株主間の株式譲渡に会社の承認を要求する内容の定款変更を行うことはできません。

特例有限会社の株主総会

特例有限会社の株主総会の招集手続

株式会社(非公開会社)では、株主による株主総会の招集請求について、「総株主の議決権の100分の3」以上の株主が行うことができると定められています(会社法297条1項)。

一方で、特例有限会社の株主による株主総会の招集請求については、定款に別段の定めがない限り、総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が行うことができると定められており、招集請求の要件が会社法上の要件よりも厳しく規定されています(整備法14条1項)。

なお、取締役が上記請求に応じず株主総会を招集しない場合の取扱いについては、会社法における規定と同内容の規律が定められています。すなわち、会社法297条4項と同様に、①上記請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は、②上記請求があった日から八週間以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合には、株主は裁判所に申立てを行い、許可を受けることで株主総会を開催することができることが定められています(整備法14条2項)。

特例有限会社における株主総会の特別決議の要件

株式会社における特別決議要件は、「前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。」と定められています(会社法309条2項)。

整備法14条3項では、「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二」とあるのは、「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の四分の三」とすると定められており、特別決議の要件が会社法上の要件よりも厳しく規定されています。

したがって、特例有限会社における特別決議要件は、「前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の四分の三(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。」ということになります(整備法14条3項)。

また、会社法上の特別決議の定足数に関する規定(会社法309条2項)においては、議決権を行使することができる株主に限定されていますが、特例有限会社の特別決議の定足数においては、「総株主」に議決権行使を制限された株主も算入されます。

定款による議決権行使の制限

特例有限会社においては、少数株主権(総株主の議決権の10分の1以上を有する株主の権利)の行使要件の判断に際して、議決権制限株式(会社法108条1項3号)の数を算定の基礎に含めない旨を定款で定めることができるとされています(整備法14条4項)。

特例有限会社の株主総会以外の機関設置に関する特則

株式会社においては、会社の実情に応じて、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等の機関を設置することができます(会社法326条2項)。

一方で、特例有限会社においては、設置義務のある株主総会及び取締役(1名以上)以外に設置することができる機関は、監査役のみとされています(整備法17条1項)。また、特例有限会社においては、非公開会社かつ大会社について会計監査人の設置義務を定めた会社法328条2項の適用も除外されています(同条2項)。

特例有限会社の取締役の任期等に関する適用除外

株式会社においては、原則として、取締役の任期は2年、監査役は4年とされており、非公開会社の場合は、最長10年まで伸長することができるとされています(会社法332条1項・2項、同法336条1項・2項)。

一方で、特例有限会社においては、会社法332条及び同法336条の適用が除外されていますので(整備法18条)、取締役及び監査役については、定款において任期に関する規定を設けない限り、任期の制限がないということになります。したがって、取締役又は監査役については、辞任又は解任されない限り、取締役又は監査役として会社に在任し続けることができます。

また、監査役の選任に関する監査役の同意要件を定めた会社法343条についても、特例有限会社においては適用が除外されています(整備法18条)。

取締役への委任禁止事項・取締役の報告義務に関する適用除外

特例有限会社においては、各取締役に対して委任することができない事項(株主総会の招集決定に関する事項等)を定めた会社法348条3項・4項、及び、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実に関する取締役の報告義務を定めた会社法357条について、その適用が除外されています(整備法21条)。

特例有限会社の検査役の選任に関する特則

株式会社においては、①総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は②発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上の数の株式を有する株主が、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができるとされています(会社法358条)。

一方で、特例有限会社においては、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができるとされており、要件が厳しくなっています(整備法23条)。

特例有限会社の監査役の監査範囲に関する特則

特例有限会社の定款においては、定款に特段の定めがない場合であっても、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなされます(会社法389条1項、整備法24条)。

会計帳簿の閲覧等の請求等に関する特則

株式会社において会計帳簿の閲覧等の請求が行えるのは、①総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は、②発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上の数の株式を有する株主とされています(会社法433条1項)。

一方で、特例有限会社において会計帳簿の閲覧等の請求が行えるのは、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主とされており、要件が厳しくなっています(整備法26条)。

計算書類の公告等に関する規定の適用除外

特例有限会社においては、計算書類の公告義務等を定めた会社法440条、及び計算書類等の備え置き義務を定めた第442条2項について、その適用が除外されています(整備法28条)。したがって、特例有限会社においては、通常の株式会社と異なり、計算書類の公告や据え置きを行う義務はありません。

特例有限会社の解散に関する特則

特例有限会社においては、取締役について任期の制限がなく、解任や重任等の手続が不要であることを踏まえて、休眠会社のみなし解散規定、すなわち、登記が最後にあった日から12年間、登記簿に変更がないままになっている会社について強制的に解散したものとみなすことを定めた会社法472条について、その適用が除外されています(整備法32条)。

したがって、特例有限会社については、登記変更せずに12年以上放置したとしても強制的に解散登記がなされることはありません。ただし、特例有限会社においても、登記が必要な事項について変更が生じた場合は、変更が生じたときから2週間以内にその旨の登記申請を行う義務はありますので、その点には注意が必要となります。

また、特例有限会社においては、特別清算に関する会社法の規定(会社法第二編第九章第二節)について、その適用が除外されています(整備法35条)。したがって、経営状態の悪化等によって廃業したい特例有限会社については、破産手続を申し立てるか、又は、株式会社に商号変更したうえで、特別清算を行う必要があります。

特例有限会社の組織再編行為に関する制限・適用除外

特例有限会社においては、吸収合併存続会社(会社法749条1項)、又は、吸収分割承継会社(会社法757条)になることが禁止されています(整備法37条)。

また、特例有限会社においては、会社法上の株式交換、株式移転、及び株式交付の手続に係る会社法の規定について、その適用が除外されています(整備法38条)。

したがって、特例有限会社が、吸収合併存続会社又は吸収分割承継会社となって吸収合併又は吸収分割の手続を行いたい場合や、株式交換、株式移転、及び株式交付の手続を行いたい場合は、株式会社に商号変更したうえで手続を行う必要があります。

特例有限会社の登記に関する特則

株式会社における役員変更登記の場合、取締役の「氏名」、代表取締役の「住所、氏名」が登記事項になります。一方で、特例有限会社における役員変更登記の場合は、取締役の「住所、氏名」、代表取締役の「氏名」が登記事項となります(整備法43条)。

また、特例有限会社においては、会社を代表しない取締役が存在する場合に限って代表取締役の登記を行います。したがって、会社を代表しない取締役が存在しなくなった場合(取締役が1人になった場合等)には、代表取締役として登記されている者について抹消登記手続を行う必要があります(整備法43条)。

特例有限会社を株式会社に変更する方法

特例有限会社は、定款を変更して、その商号中に株式会社という文字を用いる商号の変更を行うことができます(整備法45条)。そして、定款の変更は、特例有限会社の通常の株式会社への移行の登記を行うことによって、その効力を生ずることになります(整備法45条、46条)。

特例有限会社を株式会社に変更する手続としては、まず、特例有限会社が商号中に株式会社という文字を用いる商号の変更を行う旨の株主総会の特別決議(総株主の半数以上で、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成)を行います(整備法46条)。

次に、株主総会決議から2週間以内に、その本店の所在地の法務局に対し、「特例有限会社の商号変更による解散登記申請書」及び「特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書」等を提出し、当該特例有限会社の解散登記及び株式会社の設立登記を同時に行う必要があります(整備法46条)。

株式会社への移行に伴って、目的、役員、発行可能株式総数、株式の譲渡制限に関する規定等に変更が生じる場合には、上記の登記申請と合わせて、定款変更の登記申請を行う必要があります。

株式会社への移行に伴って、各役員については、設立登記時又は設立後の就任時から起算して任期が計算されることになります。設立登記時又は設立後の就任時から計算される在任期間が定款規定の任期を超えている場合、当該役員は任期満了により退任する必要があります。したがって、当該役員が継続して役員を務める場合は、商号の変更を行う旨の株主総会を行う際に、合わせて当該役員の選任手続を行う必要があります。

特例有限会社における株式の譲渡

上記2.4のとおり、特例有限会社において、株主間で株式の譲渡を行う場合は、当該株主間で株式譲渡契約を締結すれば株式譲渡を有効に行うことができ、当該株式譲渡について株主総会による譲渡承認決議を行う必要はありません。

一方で、株主ではない者が特例有限会社の株式について譲渡を受ける場合、株主間の株式譲渡に関する会社のみなし承認規定(整備法9条1項)は適用されませんので、当該株式譲渡については会社の承認が必要となります。株式の買受けを希望する者が株主から株式の譲渡を受けるためには、株式譲渡契約の締結に加えて、株主総会の普通決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成による決議)による承認を得る必要があります(会社法139条1項本文)。

したがって、特例有限会社について株式譲渡による事業承継を行われる場合、株式の譲渡対象者が株主であるか否かによって、必要な手続が変わってきますので注意が必要となります。株式の譲渡対象者が当該特例有限会社の株主である場合には、株式譲渡契約の締結をすれば足りることになります。一方で、株主でない者に対して株式の譲渡を行う場合は株式譲渡契約の締結に加えて、株主総会の普通決議による承認を得る必要があります。

特例有限会社における取締役の選任及び解任

特例有限会社における取締役の選任

特例有限会社における取締役は、株主総会における普通決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成による決議)によって選任することとなります。

特例有限会社における取締役の解任

特例有限会社においては、定款に別段の定めがない限り、株主総会における普通決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成による決議)によって、取締役を解任することができます。

株主総会の招集手続は、取締役が行う必要がありますので、株主が総株主の10分の1以上の議決権を有する場合、株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会を開催するよう請求することができます(整備法14条1項)。取締役が上記請求に応じず株主総会を招集しない場合、株主は裁判所に申立てを行い、許可を受けることで株主総会を開催することができるようになります(同条2項)。

また、特例有限会社は1人以上の取締役を置かなければなりませんので、在任している取締役が解任対象の取締役のみである場合は、解任と同時に新たな取締役を選任する必要があります。

通常の株式会社においては、その解任について「正当な理由」がなかった場合、解任された取締役は、会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるとされています(会社法339条2項)。また、現在廃止された有限会社法22条が準用していた旧商法257条では、「任期の定めがある」取締役を正当の事由なく解任した場合、当該取締役は、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求できる、と規定されていました。

そこで、特例有限会社において正当な理由なく取締役を解任した場合についても、当該取締役から解任によって生じた損害の賠償を請求されるリスクがあるかが懸念されますが、この点については、多くの裁判例において、特例有限会社における「任期の定めのない」取締役が解任されたとしても、当該取締役は、解任の正当な理由の有無にかかわらず、少なくとも会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることはできないとされています。

ただし、任期の定めのない取締役についても、不利な時期に解任されたような場合には、民法651条2項(「当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。」)に基づいて、解任によって被った損害の賠償を請求されるリスクは、なお存在すると考えられます。「相手方に不利な時期」とは、事務処理自体との関連において相手方に不利な時期をいいます(東京高判昭和63年5月31日)。具体的には、取締役がその委任事務を自ら処理したり他人に処理させたりすることができないような時期に解除する場合が該当します。

当事務所が提供できるサービス

特例有限会社においては、上記のとおり、通常の株式会社と異なる規律がなされている事項が多く存在します。そこで、特例有限会社において手続を行う際には、会社法と異なる規律がなされている事項に注意しながら手続を行っていく必要があります。

当事務所では、特例有限会社における株式会社への変更手続、株式譲渡手続、事業承継手続、取締役の選任及び解任手続、その他特例有限会社に関する手続についてサポートを行っております。

特例有限会社における手続等でお困りの際は、お電話(03-5357-1750)か、メールinfo@kslaw.jp)にて、お気軽にお問い合わせ下さい。

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