• 2023.03.01
  • 一般企業法務

取締役会の議事録

小松﨑 柊

執筆者情報

小松﨑 柊Shu Komatsuzaki

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

取締役会議事録の作成

取締役会議事録とは、取締役会での決議事項や、その決議の結果などが記載された書面または電磁的記録のことです。
取締役会の議事については、議事録を作成し出席した取締役及び監査役はこれに署名又は記名押印しなければなりません(会社法369条3項)。

署名または記名押印を拒否された場合

取締役が署名又は記名押印を拒否した場合は難しいケースとなりますが、拒否した当該取締役の氏名を記した上、少なくとも出席取締役の過半数の署名した議事録を作成するか(取締役会は出席取締役の過半数(定款をもって決議の要件を加重した場合にはその加重された数以上)で決議がされるため、)、あるいは当該取締役の記名押印を受けられない事情を議事録に記載する等の方法が考えられます。

取締役会議事録の作成方法

取締役会議事録は、書面または電磁的記録をもって作成しなければなりません(会社法369条3項、4項、会社法施行規則101条2項)。「電磁的記録」とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるもの」(同法26条2項かっこ書)を言います。

法務省令(この場合は会社法施行規則)では、「磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの」とされています(同施行規則224条)。電磁的記録によって議事録を作成した場合は、電子署名をします(同法369条4項、同施行規則225条1項6号)。

オンライン取締役会時の議事録の作成方法

取締役会はオンラインで開催することも可能ですが、その場合は、実際に取締役が集まるわけではないため、電磁的記録で議事録を作成し電子署名をするのが一般的です。オンライン取締役会を開催した場合の議事録の記載事項については後述します。

取締役会議事録の記載事項

必要的記載事項

取締役会議事録の必要的記載事項としては以下になります。

  1. 開催日時・開催場所(会社法施行規則101条3項1号)

    取締役会の開催日時や開催場所については記載することが必須となります。オンラインでの取締役会が開催された場合でも開催場所についての記載は必要です。この場合は、代表取締役が会議に参加する場所を開催場所として記載することが多いです。

    また、会社法施行規則101条3項1号かっこ書で「当該場所に存しない取締役が取締役会に出席をした場合における当該出席の方法を含む」と規定されているため、テレビ会議等、オンラインでの参加をした取締役がいた場合には、その出席方法を記載することとなります。

  2. 特別取締役による取締役会であるときはその旨(会社法373条2項)

    指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社が、取締役の数が6人以上、うち1人以上が社外取締役である場合には、取締役会決議中の重要な財産の譲受家と多額の借財については、取締役会があらかじめ選んだ3人以上の特別取締役のうち議決に加わることのできる者の過半数が出席し、その過半数をもって決議できる旨を定めることができます(会社法373条1項)。この場合、通常の取締役会と決議要件や定足数が異なりますので、その旨を議事録へ記載する必要があります。もっとも特別取締役の制度はほとんど使われていないので、実務上は一般的ではありません。

  3. 招集権者以外のものによる取締役会である場合はその旨(規則101条3項3号)

    招集権者である取締役以外の取締役、株主、監査役などの請求を受けて招集権者が招集した場合にはその旨、または招集請求をした者が自ら取締役会を招集した場合には、その旨を記載する必要があります。

  4. 議事の経過の要領及び決議の結果(規則101条3項4号)

    議事録に記載する内容の中心となります。経過の要領とは、開会から、提案、報告、説明、議論の内容・要旨、決議の方法、閉会までの大まかな流れ、になります。決議事項や報告事項については、通常、その内容の記載された資料があらかじめ配布されることが多いので、これを議事録に綴り込んだり、記録することによって、説明等の詳細な記載を省略することができ、これには説明の内容がより明確に伝わるというメリットもあります。

    もっとも、多くの企業においては、取締役会の開催の前に経営会議などで実質的に議論をした上で、取締役会に臨むというような体制がとられています。そのため議論の内容自体は記載が少ないことも多々あります。

  5. 特別利害関係人がいる場合はその氏名

    ある決議事項について「特別の利害関係」を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法369条2項)。議決に加わることができないというのは、議決権の行使ができないほか、そもそも定足数に含まれず、また当該議題において議長を務めることもできません(議長は決議の進行に強い影響力を持つためです)。
    決議において、特別利害関係人の有無は結果に重大な影響をもたらします。そのため、特別利害関係人である取締役が存在する場合には、その存在と、決議に参加していないことを明確にするために、当該取締役の氏名を議事録上明記することが必要とされています。
    ただ、議題毎によって、取締役が特別利害関係人に該当するか否かは変わるため、議事録への氏名の記載も議題毎にされます(出席者の記載はまとめて行うことが通例であるのと対照的です。)。

  6. 監査役、会計参与、監査等委員、株主の発言があるときはその内容(規則101条3項6号)

    監査役や会計参与、監査等委員などは会社法に基づき、法令や定款違反があった場合や、計算書類についての意見を述べることができます(会社法356条2項、376条1項、382条、383条1項、399条の4、406条)。

    また、株主の請求を受けて招集権者が取締役会を招集した場合や、株主が自ら取締役会を招集した場合には、その株主は意見を言うことができます(会社法367条4項)。
    これらの意見や発言がされた場合には、取締役会議事録にその旨を記載する必要があります。

  7. 出席した取締役、監査役、会計参与、会計監査人、株主等の指名(規則101条3項7号)

    取締役会の出席者に関して、出席した執行役、会計参与、会計監査人、株主等の氏名を記載することが会社法施行規則に定められています。

    ところで出席した取締役や監査役の氏名の記載は求められていませんが、これは取締役会に際して、別に署名押印を求められていることが理由と思われます(会社法369条4項)。
    もっとも実務においては署名とは別に出席した取締役・監査役の氏名も記載することが一般的であり、出席した監査役・取締役の氏名を取締役会議事録の記載事項として取締役会規則で定めておくことも有効であると考えられます。
    上記のように、会社法施行規則101条3項1号かっこ書で「当該場所に存しない取締役が取締役会に出席をした場合における当該出席の方法を含む」と規定されているため、テレビ会議等、オンラインでの参加をした取締役がいた場合には、その出席方法を記載することとなりますが、こちらは出席した取締役・監査役の氏名を記載する場合には、出席の欄の例外事項として記載する方がわかりやすいということも考えられます。

  8. 議長がいるときはその氏名(会社法施行規則101条3項)。

    会社法上、議長について定めた規定はなく、議長を設けるか否かもその会社の任意です。

    しかし、取締役会の会議という形式上、議事進行を務める人物は必要であるため、定款や取締役会規則で議長の存否や選任方法を定めている会社が一般的です。そして、取締役会に議長がいる場合、議長の氏名を取締役会議事録に記載することが必要です。

その他の記載事項

取締役会議事録の必要的記載事項については上記のとおりとなりますが、その他にも取締役会に関係し記載することが合理的と思われる事項については議事録の内容として記載することが可能です。

例えば、議事録に異議をとどめないものはその決議に賛成したものと推定されるため(会社法369条5項)、取締役が決議に反対したことを記録したい場合に反対したことの記載などがあります。

みなし決議(書面決議)の場合の議事録の記載内容

取締役が提案した決議事項について、提案事項の議決に参加できる取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合は、事前にその旨を定款で定めていれば取締役会の決議を省略することができます(会社法370条)。これをみなし決議または書面決議といいます。

この場合の議事録には、①取締役会決議があったものとみなされた事項の内容②上記①の事項の提案をした取締役の氏名③取締役会の決議があったものとみなされた日④議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載します(会社法施行規則101条4項1号)。

みなし決議の場合、取締役会の出席者がいないので議事録に出席した取締役・監査役の署名・記名押印は必要ありません。

報告の省略をした場合の議事録の記載内容

取締役会に報告すべき事項(会社法365条2項、382条等)について、取締役全員に対する通知に代えることで取締役会を開かずに報告を行った場合(同法372条1項)、議事録には①取締役会への報告を要しないものとされた事項の内容②取締役会への報告を要しないものとされた日③議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載することとなります(会社法施行規則101条4項2号)。

なおあくまで報告であり、取締役会の決議を求めるものではないため取締役の返信等は不要です。

また、業務執行状況の報告については3ヶ月に1回以上行うことが必要であり、取締役全員への報告による省略はできません。

取締役会議事録の備置き

取締役会設置会社においては、取締役会の日から10年間、取締役会議事録を本店に備え置かなければならないとされています(会社法371条1項)。株主総会の議事録とは異なり支店での備置きは必要ありません。

この備置きは取締役の義務であり、違反した取締役には100万円以下の過料が課されます(法976条8号)。

みなし決議(書面決議)の場合の備置き

前述のようにみなし決議が行われた場合にも取締役会の議事録の作成は必要です。
そしてこの場合の議事録については、議事録記載の取締役会が行われたものとみなされた日から10年間の備置きが必要です。

また、みなし決議の場合には取締役全員の同意書面または電磁的記録についても備置きが必要であり、こちらも当該決議があったものとみなされた日から10年間の備置きが必要となります(法371条)。

株主による閲覧謄写請求

会社の所有者である株主にとって取締役会決議の内容は重大な関心事と言えます。そのため株主は、その権利行使に必要な場合は、株式会社の営業時間内はいつでも、議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができるのが原則です(会社法371条2項)。

取締役会議事録の閲覧謄写請求には持ち株要件はなく、1株でも持っていれば閲覧謄写請求が可能です。
閲覧謄写請求の方法についても制限はなく理由の明示も必要ありません。

但し、監査役設置会社や監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社については、取締役会議事録の閲覧謄写については、事前に裁判所の許可を得る必要があります(会社法371条3項)。これは監査役設置会社等においては取締役の違法行為については第一次的には、監査役などが監視を行うべきと考えられるからです。

会社の債権者による閲覧謄写請求

取締役会設置会社の債権者は、役員または執行役の責任を追及するために必要な時は、裁判所の許可を得て、取締役会議事録の閲覧・謄写を請求することができるとされています(会社法371条4項)。また、会社の親会社の社員もその権利の行使のため必要があるときは会社の債権者と同様に閲覧謄写請求をすることができます(同5項)。

取締役会議事録の閲覧謄写請求に対する裁判所による許可

裁判所は、株主や債権者から取締役会議事録の閲覧謄写の請求があった場合においても、その請求による閲覧謄写を認めることで、会社またはその親会社や子会社に著しい損害が及ぶと認められる場合は、その許可をすることができないとされています(会社法371条6項)。

そのため会社の議事録閲覧謄写請求においては、「著しい損害」を及ぼすおそれがあるか否かをめぐって争われることになると思われます。
裁判になった場合の「著しい損害」の主張立証責任は会社側にありますが、この場合の「著しい損害」とは会社毎に相対的なものであり、閲覧によって株主や債権者が得られる利益に比べて会社が被る損害がどれほどのものかという比較衡量的な視点が重視されます。

著しい損害の具体例

著しい損害の典型的な例としては、例えば議事録に企業秘密等が含まれており、これが公開された場合に会社が大きな損害を被る可能性がある場合などが考えられます。取締役会では企業の重要な業務執行の決定がされ、その内容に多くの企業秘密が含まれることが多いため、「著しい損害」を及ぼすおそれがあるとして、裁判所が閲覧謄写の許可を出すことはあまりありません。

もっとも過去の裁判例では、株主の閲覧謄写請求について、請求を行った対象が議事録の一部であること、議事録を正当な理由なく外部に公表しない旨の誓約書が提出されたこと、権利行使の必要性があることを理由に閲覧謄写請求を認めた事例も存在します(大阪高決平成25年11月8日)。
この裁判例を見るに議事録を正当な理由なく外部に公表しない旨の誓約書が有効な場合があると考えられます。

会社による取締役会議事録の閲覧等の拒否

会社は法定の要件を満たした取締役会議事録の閲覧謄写請求が行われた場合、請求者に対し、議事録の閲覧謄写をさせなければなりません。

会社が不当に取締役会議事録の閲覧謄写を拒んだ場合、閲覧謄写を請求する仮処分の申立て、または訴訟の提起が閲覧謄写の方法として考えられます。

なお前述の閲覧謄写に裁判所の許可が必要な場合には、事前に裁判所の許可を得た上で仮処分の申し立てをしなければ、不適法として却下されることとなります。

また、会社が正当な理由なく取締役会議事録の閲覧等の請求を拒んだ場合、取締役等は100万円以下の科料に処せられることになります(会社法976条4号)。

取締役会議事録の機能

取締役会議事録は取締役会で適正な手続きの有無を判断をする際や、取締役や監査役に任務懈怠請求を追求する際の有力な証拠となります。取締役会議事録には出席した取締役や監査役の署名押印義務があり、また議事録に異議をとどめないものはその決議に賛成したものと推定されるため(会社法369条5項)、議事録の閲覧により決議に賛成した取締役を確認することができ、決議の内容が不当ならば賛成した取締役に対する損害賠償請求をすることが考えられます。
さらに利益相反取引の際にはそれによって任務懈怠の推定もされることとなります(同法423条3項3号)。

他方で会社や取締役側からも議事の内容について詳細に記録をしておくことで謂れのない責任追及等から逃れるということも考えらます。特に取締役が決議に反対したことを記録したいのであれば、その旨を議事録に記載するよう要求する必要があります。

当事務所が行えるサービス

取締役会議事録作成のサポート

当事務所においては、議事録の作成について、法律上記載が必要な事項や記載が望ましい事項について、各会社の個別的な事情を踏まえながら助言を行い、また議事録の具体的な書き方についてもアドバイスをすることによって、必要十分な記載のされた議事録の作成をすることをサポートいたします。

閲覧謄写請求がされた場合の対応

当事務所においては、会社に敵対的な株主や債権者、親会社の社員等から取締役会議事録の閲覧謄写請求がされた場合において、その「著しい損害」について裁判でどのような判断がされるか予測を立てながら、裁判を行い、企業秘密を守るサポートをすることが可能です。

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