• 2023.04.18
  • 一般企業法務

株主総会、取締役会等の議事録の閲覧請求

株主総会議事録の作成

株主総会の議事については省令に従って議事録を作成しなければならないと定められており(会社法318条1項、会則72条)、そのようにして作成された議事録は本店に10年間、写しは支店に5年間備え置かなければならないとされ。株主や会社債権者、会社の親会社の社員の閲覧に供されることとなります(同条2項3項4項5項)。この備置きは取締役の義務であり、違反した取締役には100万円以下の過料が課されることになります(法976条8号)。
株主総会の議事録には通常、株主総会が開催された日時や場所、株主総会の議事の経過の要領及びその結果、監査役等の発言内容、株主総会に出席した役員等の指名の記載が必要となります。

株主による株主総会議事録の閲覧謄写請求

会社の株主は、会社の株主総会に参加する権利があり、株主総会に参加することで株主総会の内容を知ることができるので、株主総会議事録の閲覧請求も当然に認められることになります。また、株主や会社の債権者が株主総会を監視し取締役等の行為を是正することを通じて、間接的に会社の利益を保護するという目的もあります。そのような理由により、会社法の規定においても株主および債権者は、会社の営業時間内はいつでも、株主総会議事録の閲覧・謄写の請求をすることができると定められています(会社法318条4項)。そして、閲覧謄写請求に関する制約は会社の営業時間内であること以外は原則としてありません。また、正当な理由がないにもかかわらず会社が株主による閲覧謄写請求を拒絶した場合には、100万円以下の過料の制裁が科せられる可能性があります(会社法976条4号)。

会社が株主総会の議事録の閲覧謄写請求を拒否できる場合

株主が会社の株主総会議事録の閲覧謄写請求をした際には、会社は原則として請求を拒絶することはできません。しかし、株主総会議事録の閲覧謄写請求が認められる理由は会社や株主の利益の保護であるため、会社の営業を妨害する目的で閲覧・謄写請求がなされた場合には、権利濫用として、閲覧謄写請求を拒否することができると考えられています。裁判例でも、株主による株主総会議事録等の閲覧謄写請求について権利濫用に該当するとし、裁判所が閲覧謄写請求を認めなかった事例があります。(東京地判昭和49年10月1日)。

会社の債権者や親会社の社員による株主総会議事録の閲覧謄写請求

会社の債権者による株主総会議事録の閲覧謄写請求は、株主による閲覧謄写請求の場合と異なるところがなく会社の営業時間の請求であれば原則として認められることとなります(会社法318条4項)。他方で親会社の社員による株主総会議事録の閲覧謄写請求は、裁判所の許可が必要となります(同法318条5項)。

取締役会議事録の作成

取締役会議事録とは、取締役会での決議事項や、その決議の結果などが記載された書面または電磁的記録のことです。
取締役会の議事については、議事録を作成し出席した取締役及び監査役はこれに署名又は記名押印しなければなりません(会社法369条3項)。
取締役会設置会社においては、取締役会の日から10年間、取締役会議事録を本店に備え置かなければならないとされています(会社法371条1項)。株主総会の議事録とは異なり支店での備置きは必要ありません。
この備置きは取締役の義務であり、違反した取締役には100万円以下の過料が課されます(法976条8号)。

株主による取締役会議事録の閲覧謄写請求

会社の所有者である株主にとって取締役会決議の内容は重大な関心事と言えます。そのため株主は、その権利行使に必要な場合は、株式会社の営業時間内はいつでも、議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができるのが原則です(会社法371条2項)。

取締役会議事録の閲覧謄写請求には持ち株要件はなく、1株でも持っていれば閲覧謄写請求が可能です。
閲覧謄写請求の方法についても制限はなく理由の明示も必要ありません。

但し、監査役設置会社や監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社については、取締役会議事録の閲覧謄写については、事前に裁判所の許可を得る必要があります(会社法371条3項)。これは監査役設置会社等においては取締役の違法行為については第一次的には、監査役などが監視を行うべきと考えられるからです。

会社の債権者による取締役会議事録の閲覧謄写請求

取締役会設置会社の債権者は、役員または執行役の責任を追及するために必要な時は、裁判所の許可を得て、取締役会議事録の閲覧・謄写を請求することができるとされています(会社法371条4項)。また、会社の親会社の社員もその権利の行使のため必要があるときは会社の債権者と同様に閲覧謄写請求をすることができます(同5項)。

会社による取締役会議事録の閲覧等の拒否

会社は法定の要件を満たした取締役会議事録の閲覧謄写請求が行われた場合、請求者に対し、議事録の閲覧謄写をさせなければなりません。
会社が不当に取締役会議事録の閲覧謄写を拒んだ場合、閲覧謄写を請求する仮処分の申立て、または訴訟の提起が閲覧謄写の方法として考えられます。

また、会社が正当な理由なく取締役会議事録の閲覧等の請求を拒んだ場合、取締役等は100万円以下の科料に処せられることになります(会社法976条4号)。

監査役会、各委員会の議事録閲覧謄写請求

監査役会や、指名委員会、監査等委員会などの各委員会の議事録も取締役会議事録同様に会議の日から10年間本店に備え置かなければならないと定められています(会社法394条1項、399条の11第1項、413条1項)。これらの議事録についても株主や会社の債権者等は裁判所の許可を得て、閲覧謄写請求を行うことができます。

議事録の種類や請求者によって閲覧謄写の条件が異なる理由

株主総会の議事録について

株主総会の議事は総会の場で株主に既に開示されています。また取締役等は株主共同の利益を著しく害する場合には、株主総会において株主から説明を求められても説明を拒否することができ、企業秘密に関する事項についても説明を拒否することができると考えられます(会社法318条4項)。したがって、株主総会議事録に企業秘密等が記載されていることはあまり考えられず、裁判所の許可等による保護を設ける必要性は低いと考えられています。

その他の議事録について

監査役設置会社でも監査等委員会設置会社でも指名委員会等設置会社でもない会社の株主は、会社の経営者として直接的に業務監査を行う権限があり、かかる権限から、このような会社においては、取締委役会議事録についても裁判所の許可なしで閲覧謄写請求ができると考えられています。

他方で、監査役設置会社や指名委員会等設置会社における取締役会や監査役会、各委員会については、通常、株主が出席することはありません。加えて、取締役会や監査役会、各委員会では企業の重要な業務執行の決定や監査がされ、その内容に多くの企業秘密が含まれることがあるため、議事録にも当然企業秘密が含まれることとなります。したがって、監査役設置会社や監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社における取締役会や監査役会、各委員会の各議事録の閲覧謄写請求については一定の保護が必要となり、裁判所の許可が必要となると考えられています。

親会社の社員による閲覧謄写請求について

親会社の社員による各議事録の閲覧謄写請求はいずれの場合であっても、裁判所の許可が必要とされています。これは親会社の社員は、あくまで親会社の社員であって、その会社の社員ではないため、企業秘密が問題となる場面が生じやすいと考えられていることが理由となります。

各議事録等閲覧謄写許可の申立

株主総会、取締役会、監査役会、各委員会の議事録の閲覧謄写請求に際して裁判所の許可が必要な場合、その許可は非訟事件手続によってすることになります(会社法868条)。議事録の閲覧謄写請求の許可を求める対象の裁判所は、当該議事録を作成した会社の本店所在地を管轄する地方裁判所となります。

申立の際、株主等は議事録の閲覧請求が権利行使のために必要であることや役員の責任追及のために必要であることを疎明する必要があります(会社法869条)。申立書の記載も抽象的に「権利行使のため」と書くのでは不十分であり、具体的にどのような権利行使の必要があるのかを明記する必要があります。

また、閲覧等の許可の申立に際し、会社側も陳述をすることができ(会社法870条2項1号)、会社側が閲覧謄写等をさせたくない場合には、①閲覧謄写の必要がないこと、②閲覧謄写によって会社に著しい損害が発生すること等について会社側から立証する必要があります。場合によっては一部のみ閲覧謄写を拒絶するという対応をすることも考えられます。

裁判所の許可の判断基準

株主総会議事録について

株主総会議事録の閲覧謄写許可申立が行われ、申立の理由は必要性について疎明が行われた場合、裁判所は原則として許可をする方向で審理を行うため、会社側が閲覧謄写を拒絶することは困難です。もっとも、「株主の権利を行使するため必要であるとき」に該当しない場合や閲覧謄写請求が権利濫用に該当する場合には、裁判所は閲覧謄写の許可をしないこととなります。

取締役会や監査役会、各委員会の議事録について

裁判所は、株主等から取締役会、監査役会、各委員会の議事録の閲覧謄写請求の閲覧謄写の請求があった場合においても、その請求による閲覧謄写を認めることで、会社またはその親会社や子会社に著しい損害が及ぶと認められる場合は、その許可をすることができないとされています(会社法371条6項)。そのため会社の取締役会、監査役会、各委員会の議事録閲覧謄写請求においては、「著しい損害」を及ぼすおそれがあるか否かをめぐって争われることになります。裁判になった場合の「著しい損害」の主張立証責任は会社側にありますが、この場合の「著しい損害」とは会社毎に相対的なものであり、閲覧によって株主や債権者が得られる利益に比べて会社が被る損害がどれほどのものかという比較衡量的な視点が重視されます。

著しい損害の具体例

著しい損害の典型的な例としては、例えば議事録に企業秘密等が含まれており、これが公開された場合に会社が大きな損害を被る可能性がある場合などが考えられます。取締役会や監査役会、各委員会では企業の重要な業務執行の決定や監査がされ、その内容に多くの企業秘密が含まれることが多いため、「著しい損害」を及ぼすおそれがあるとして、裁判所が閲覧謄写の許可を出すことはあまりありません。

もっとも過去の裁判例では、株主の閲覧謄写請求について、請求を行った対象が議事録の一部であること、議事録を正当な理由なく外部に公表しない旨の誓約書が提出されたこと、権利行使の必要性があることを理由に閲覧謄写請求を認めた事例も存在します(大阪高決平成25年11月8日)。この裁判例を見るに議事録を正当な理由なく外部に公表しない旨の誓約書が有効な場合があると考えられます。

閲覧等請求訴訟

株主には株主総会や取締役会等の議事録について、閲覧謄写請求をする権利があり、会社は法定の要件を満たした各議事録の閲覧謄写請求が行われた場合、請求者に対し、議事録の閲覧謄写をさせなければなりません。しかし、株主に権利がある場合であっても、会社が任意に閲覧謄写請求に応じない場合があります。このような場合、株主は、会社を被告として、各種議事録の閲覧等請求訴訟を提起することができます。ただし、閲覧謄写請求に裁判所の許可が必要な場合で、許可手続きを経ずに直接閲覧謄写請求訴訟を提起しても、その訴えは不適法として却下されることとなります(大阪高判昭和59年3月29日)。

当事務所で行うことができるサービス

当事務所では、皆様の各議事録の閲覧謄写請求をサポートいたします。会社に対し直接閲覧謄写請求を行う場合の書面作成の他、会社との交渉、裁判所に閲覧謄写の許可を求める際の申立手続、閲覧謄写請求訴訟の提起等、幅広いサポートに対応することができます。

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