• 2023.04.18
  • 一般企業法務

取締役等の職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分、仮取締役の選任

取締役等の職務執行停止の仮処分が必要な場合

株式会社の取締役等の職務執行停止・職務代行者選任の仮処分は、現在、会社の業務を遂行している取締役等の職務執行を停止して、職務代行者を選任する仮処分です。

ある会社の取締役が会社の資産を私的に流用している場合や、会社の運営を恣意的に行っている場合、株主は株主提案権(会社法303条他)により株主総会で、その取締役の解任の議案を提案することができます。そして、その議案が否決された場合であっても、一定の要件を満たした株主は取締役の取締役解任の訴えを提起することができます(会社法854条1項)。また、ある取締役を選任する旨の株主総会決議に瑕疵がある場合、株主総会決議取消訴訟や株主総会決議無効確認訴訟、株主総会決議不存在確認訴訟を提起し、その取締役の地位を争うことができます。しかし、取締役解任の訴えや株主総会決議取消訴訟、株主総会決議無効確認訴訟、株主総会決議不存在確認訴訟を提起した場合、訴訟提起から判決までに一定の時間がかかり、提訴だけでは取締役は職務執行権限を失うことはないため、その取締役が業務を行うことが適切でない場合、訴訟を行っている間に会社が損害を被る可能性が否定できません。そこで、その取締役の取締役としての権限を一時的に停止させ、その間の会社業務を行わせる職務代行者を選任する必要が出てきます。このような場合に使われるのが職務執行停止の仮処分です。職務執行停止の仮処分の申立てが認められた場合、その旨の登記がされ、職務を停止された取締役は職務執行が一切できなくなります(会社法917条1号、民事保全法56条)。また、仮処分に違反して職務執行行為を行ったとしても、当該行為は絶対的に無効となるため、会社の損害が生じることを回避することができます。なお、仮処分が後に取り消されても、職務執行停止中になされた行為が、取消し後に遡及的に有効とはなりません(最判昭和39年5月21日)。

取締役等の職務執行停止の仮処分の手続

取締役等の職務執行停止の仮処分は保全の手続であるため、民事保全法が適用されます。そして同処分は、一時的に取締役の権限を停止する処分であるため、仮の地位を定める仮処分に該当します(民事保全法23条2項)。仮処分(保全命令)の申立てには、被保全権利と保全の必要性を明らかにし、疎明しなければなりません(民事保全法13条1項、2項)。

被保全権利

仮処分はあくまで本案訴訟の提起を前提とした処分であり、「被保全権利」とは本案訴訟において、保全の対象、つまり守られるべき実体的な権利関係のことで、仮の地位を定める仮処分においては、争いがある権利関係のことを指します(民事保全法23条2項)。取締役の職務執行停止の仮処分がされる場合には、本案訴訟としては取締役解任の訴えや取締役が選任された株主総会決議の効力を争う各訴訟が考えられ、それらの訴訟で争われているのは取締役の地位であるため、被保全権利も取締役の地位に関する権利関係を指すことになります。

保全の必要性

保全の必要性とは、本案訴訟の確定判決がなされるまでに仮処分がなされなければ、被保全権利の実現が困難になってしまうような事情があることをいいます。民事保全法は、取締役の職務執行停止の仮処分のような仮の地位を定める仮処分命令について、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる」と定めています(民事保全法23条2項)。取締役の職務執行停止の仮処分の場合には、取締役が職務執行を行うと、債権者に「著しい損害または急迫の危険」が生じるために、これを避ける必要性がある場合には、保全の必要性が認められることになります。
取締役の職務執行停止の仮処分の場合、「債権者」とは、会社を指し、会社に著しい損害や急迫の危険が発生することが必要と解しています。
次に、「著しい損害」や「急迫の危険」とは、事後的には回復できない経済的な損害を意味し、①現在の取締役では会社の信用が失墜するおそれがある場合、②現在の取締役に経営能力がない場合、③現在の取締役が会社の重要な財産を自身の利益のために処分しようとしている場合等が挙げられます(門口正人編『新・裁判実務大系(11)会社訴訟・商事仮処分・商事非訟』(青林書院、2001)243頁)。

当事者

職務執行停止等の仮処分の申立人となるのは、本案訴訟つまり、取締役解任の訴えや取締役が選任された株主総会決議の効力を争う各訴訟の原告となり得る者です。具体的には、会社の株主や取締役、監査役が含まれます。会社の債権者は当事者にはなれません。

職務執行停止等の仮処分の相手方となるのは、職務執行を停止される取締役となります。

職務代行者選任の仮処分

取締役の職務執行の仮処分を行った場合、当該仮処分を受けた取締役は業務執行ができなくなるため、実質的に会社から取締役が一人減ることになります。そこで、職務執行停止の仮処分によって取締役の職務執行が停止されることで、会社の業務に支障が生じるおそれがある場合には、職務執行の仮処分に併せて、職務代行者選任の仮処分がされることになります。特に会社の代表取締役に対して職務執行停止の仮処分がされたときは、場合によっては会社から代表がいなくなることになりかねないため、職務代行者が選任されることが多くなります。

職務代行者の権限

職務代行者は、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟等の判決が確定するまでの間、会社の業務を臨時的に行う代行者です。
職務代行者は裁判所によって選ばれ(弁護士がなることが多いです)、会社と委任関係にはなく、本案訴訟の終結により紛争の解決がされるまでの間、中立的な立場で会社にとって、必要最低限の職務執行を行います。
職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の「常務」に属する範囲に限られ、これ以外の行為を行う場合には、裁判所の許可が必要となります(会社法352条1項)。「常務」とは、会社として日常的に行われるべき通常の業務をいいます。例えば、仕入れや、生産、販売等、会社が通常行う日常的な業務執行が挙げられます。職務代行者が、仮処分命令に別段の定めがなく、裁判所の許可もないのに、「常務」以外の業務執行をした場合には、その行為は無効となります(会社法352条2項本文)。ただし、取引の安全の観点から、善意の第三者には、行為の無効は主張できないとされています(同項ただし書)。職務代行者の地位は、仮処分の効力が消滅する時に失われ、代行者の在任中に職務失効停止中の取締役の後任が選任されても、当該選任によっては代行者の地位は失効しないほか(最判昭和45年11月6日)、職務代行者がした行為は、後に仮処分が取り消された場合にも遡って無効となることはありません(大判昭和6年2月3日)。

仮取締役等の選任

職務代行者と似た制度として仮取締役の制度があります。仮取締役の制度と職務代行者選任の仮処分は、裁判所が一時的に会社の取締役を選任するという点で共通しています。

会社法において、会社の役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができると規定されています(会社法346条2項)。この規定により裁判所から選任されるのが仮取締役です。

なお、取締役だけでなく他の役員にも同様に仮の役員を選任する制度があるため、会社によっては仮監査役、仮代表取締役(会社法351条2項)等が選任されることもあります。

仮取締役等の選任手続

仮取締役等を選任するには、(1)取締役等が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合に当たり、(2)仮取締役等を選任する必要があると認められることの二つの要件が必要になります(会社法346条2項)。
具体的には一名しかいない取締役が死亡してしまった場合等が挙げられます。
また、権利義務取締役等(会社法346条1項)が存在する場合や、取締役等が一時的に病気になった場合、取締役等の選任のための株主総会の開催が可能な場合には、上記の2要件を充足しないと考えられています。
なお、代表取締役が不在となった場合で、代表取締役選任のための取締役会の開催が可能な場合、代表取締役選任のための取締役会を直ちに開催できないが、後任取締役選任のための株主総会の開催が可能な場合には、会社内で代表取締役の選任ができるため、上記の2要件を充足せず、仮代表取締役を選任することはできないとされています。

なお、仮取締役等選任申立を行う裁判所は、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所であり、申立人適格を有するのは、仮取締役の選任につき利害関係を有する者、具体的には、会社の株主、取締役、監査役、会社債権者等となります。

職務代行者と仮取締役の権限の違い

仮取締役(会社法346条)については、通常も取締役と同じ権限を有し、原則としてその権限に制約はありません。他方で、職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の「常務」に属する範囲に限られ、これ以外の行為を行う場合には、裁判所の許可が必要となる(会社法352条1項)という制約があります。

当事務所で行うことができるサービス

会社の適切な経営の確保及び職務執行停止の仮処分等のサポート

当事務所では、会社で適切でない取締役が業務を行っている場合や取締役を選任した株主委総会決議に瑕疵がある場合に、各種訴訟によって取締役の地位を争うことをサポートいたします。また、上記訴訟を提起する際に、職務執行停止の仮処分も併せて申し立てることで、会社に損害が生じることを避けつつ、会社の適切な経営を確保することができます。

仮取締役等を選任する際のサポート

会社において今まで業務を担ってきた取締役や代表取締役が突然業務をすることができなくなった場合、会社内で大きな混乱が生じることが考えられます。当事務所では、仮取締役等の選任申立や、後任取締役の選任をするための株主総会の開催等の手段を講じ、会社に不測の事態が起きた場合に、一日でも早く混乱を収め、通常の業務に戻れるようサポートいたします。

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