• 2023.10.05
  • 一般企業法務

会社分割の手続き・活用方法

会社分割とは

会社分割の概要

会社分割とは、ある会社がその事業に関して有する権利義務の全て又は一部を他の会社に譲渡させることをいいます。譲渡する側の会社を「分割会社」といいます。
会社法上、会社分割は、会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させる「吸収分割」(会社法2条29号)と、1又は2以上の会社が事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させる「新設分割」(会社法2条30号)の2種類に分けられています。「吸収分割」は既存の会社(承継会社)が分割会社の権利義務を承継し、「新設分割」は会社分割により新たに設立される会社が分割会社の権利義務を承継することになります。
会社法制定前は会社分割で承継できる対象は分割会社の「営業の全部又は一部」でなければなりませんでしたが、現行法では「権利義務の全部又は一部」と定められていますから、“営業”や“事業”といえるような規模感のものでなくとも会社分割の対象とすることが可能です。
なお、会社分割を行う際は、独占禁止法に違反しないよう注意が必要です。具体的には、①一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合、②不公正な取引方法による場合は、共同新設分割(会社が他の会社と共同してする新設分割)又は吸収分割が禁止されています(独占禁止法15条の2第1項各号)。これに違反した場合、公正取引委員会が排除措置命令を発することができるとされています(独占禁止法17条の2第1項)。特に①は、大企業が行う会社分割で問題になり易いです。どのような会社分割が①に該当するかは、公正取引委員会が公表している運用指針(いわゆる“企業結合ガイドライン”)が参考になります(企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp))。

会社分割の効果

吸収分割は吸収分割契約(※吸収分割契約や新設分割計画について、詳しくは後述します。)で定めた効力発生日(会社法758条7号)に、新設分割は新しく設立された会社の設立登記(会社法924条)による会社設立の日(会社法49条、764条1項)に、それぞれ会社分割の効力が発生します。
これにより、承継会社や設立会社は、吸収分割契約・新設分割計画で定められている分割会社の権利義務の全部又は一部を承継します。承継の際に、債権者や契約の相手方等第三者の承諾は不要です(労働者との雇用契約は除きます。詳細は後述します。)。これにより、会社分割を円滑に進められるようになります。しかし、他方で、承諾が不要な点を悪用して濫用的に会社分割が行われ債権者が害されるケースもあり得るため、会社分割では他の組織再編よりも厳格な債権者保護手続が課されています。
なお、会社分割は「一般承継」と表現されることがありますが、この点は争いがありうるところです。例えば、特許権が承継される場合、その承継方法が「相続その他の一般承継」に該当する場合は、登録は不要で事後的な届出のみで良いことになります(特許法98条1項1号、2項)。この点に関し、特許庁は、特許を受ける権利に関する特許法34条4項の解釈においては、会社分割が「相続その他の一般承継」に該当するとして運用しているようです。会社分割を行う当事会社としては、特許権についても、特許権の登録が不要となるよう会社分割=一般承継と解釈したいところです。しかし、神戸地方裁判所平成26年3月27日判決は、特許法98条1項1号を準用する商標法35条につき、会社分割は「相続その他の一般承継」に含まれないと判断しました。この裁判例は商標法の解釈を示したものであるため他の知的財産権や権利も同様であるとは断定できませんが、会社分割において権利を承継する場合は、会社分割が一般承継ではないと裁判所等に判断されてしまうことを想定し、各種権利の取扱いを検討する必要があります。

会社分割の手続き

吸収分割契約の締結・新設分割計画の作成

まずは、会社分割の基礎となるべき吸収分割契約又は新設分割計画を準備します。
吸収分割契約で定める必要のある事項は、①当事会社の商号及び住所、②会社分割の対価の種類及び内容、③資本金や準備金に関する事項、④効力発生日、⑤新株予約権の取扱いに関する事項(消滅会社等が新株予約権を発行している場合のみ)、⑥分割会社から承継する権利義務に関する事項、⑦会社分割の対価を分割会社の株主に対して交付する場合(いわゆる“人的分割”を行う場合)はその旨の規定です(会社法758条1項)。
新設分割計画で定める必要のある事項は、①会社分割の対価の種類及び内容、②資本金や準備金に関する事項、③新株予約権の取扱いに関する事項(消滅会社等が新株予約権を発行している場合のみ)、④分割会社から承継する権利義務に関する事項、⑤会社分割の対価を分割会社の株主に対して交付する場合(いわゆる“人的分割”を行う場合)はその旨の規定です(会社法758条1項)。新設分割の場合、権利義務を承継する会社を新たに設立することになり新設分割計画作成の時点で承継会社は存在しないため設立会社の商号及び住所は不要です。また、新たに設立された会社の設立登記による会社設立の日に会社分割の効力が生じることが法律で決まっている(会社法49条、764条1項)ため、効力発生日も不要です。
上記事項は必ず吸収分割契約又は新設分割計画で定めなければならず、これを怠った場合は会社分割が無効原因となってしまうおそれがあります(会社法828条1項8号、9号参照)から、漏れのないように注意しましょう。
会社分割に限らず、どの組織再編(合併、事業譲渡等)においても特に重要な事項は、組織再編の対価に関する事項です。対価の額や内容が適切でないと、いずれかの当事会社で株主総会の承認決議が経られなかったり、多くの反対株主から株式買取請求権を行使されてしまいスケジュールどおりに組織再編を進められなくなったりする可能性があります。また、判例は、組織再編の対価が不公正であることそれ自体は組織再編の無効原因とならないとしていますが(東京高裁平成2年1月31日判決・最高裁判決平成5年10月5日(上告棄却))、株主総会の決議の際に当事会社の取締役等が株主に対して対価が公正であるかのように偽った場合は、決議が違法又は著しく不公正として承認決議の取消事由になるおそれはあります(会社法831条1項1号)。

会社分割に関する情報の事前開示

会社分割を行う当事会社は、「備置開始日」から吸収分割の効果発生日から6カ月を経過する日又は新設分割により新会社が設立された日から6カ月を経過する日までの期間にわたり、会社分割に関する所定の事項を記載した書面または電磁的記録を会社本店に備え置く方法によって株主及び債権者が閲覧できるようにしなければなりません(会社法794条、803条)。事前開示の目的は、会社分割に関する情報を提供し、株主に対しては会社分割を株主総会で承認するか、反対株主として株式買取請求権(会社法785条5項、797条、806条)を行使するか、会社分割の差止請求権(会社法784条の2、796条の2、805条の2)を行使するか、新株予約権者に対しては新株予約権(会社法787条1項2号イ、808条1項2号イ)を行使するか、債権者に対しては会社分割につき異議を述べるか(会社法789条、810条)、それぞれ判断するための機会を保障することにあります。事前開示すべき事項は法令で決められており、概要、①吸収分割契約又は新設分割計画の内容、②分割対価の相当性に関する事項、③新株予約権に関する定めがある場合はその相当性に関する事項、④当事会社の計算書類等に関する事項、⑤当事会社の債務の履行の見込みに関する事項を記載する必要があります(会社法782条1項、794条1項、803条1項、会社計算規則182条~184条、191条~193条、204条~206条)。②分割対価の相当性については、何をもって相当とするのか法定されていませんが、株価算定機関に意見を出してもらったうえで条件を決定したことを記載する会社が多いです。
「備置開始日」がいつになるかは、それぞれの会社分割の方法やステークホルダーの有無によって、株主総会の2週間前や債権者異議のための公告又は催告のいずれか早い日など、いくつかパターンがあります(794条2項、会社法803条2項)。

労働者の承継手続き

会社分割によって譲渡される権利義務の中には、労働者との雇用契約も含まれます。そのため、会社分割の譲渡対象である事業に従事している労働者は自動的に就労先が変更されることになります。しかし、それでは労働者の保護に欠けるので、「会社分割に伴う労働契約労働契約の承継等に関する法律」(以下では単に「承継法」といいます。)をはじめとした法令により、労働者保護のための手続きが必要とされています。
まず、分割会社は、会社分割を行うに際しては雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める義務があります(承継法7条。いわゆる“7条措置”)。これは、譲渡対象の事業に従事する労働者のみならず、全ての事業場において労働者の過半数で組織される労働組合や労働者の過半数代表者との協議等の実施が要求されます(承継法施行規則4条)。必ずしも労働者側との合意を得なければならないものではありませんが、会社側には誠実な対応が求められます。
次に、分割会社は、労働者と個別に協議等をしなければなりません(商法等改正法附則5条。いわゆる“5条協議”)。5条協議の対象となる「労働者」が誰を指すのかは、労働契約承継に関する指針に定められています。すなわち、承継される事業に従事している労働者及び承継される事業には従事していないが吸収分割契約・新設分割計画においてその労働契約を承継会社等が承継すると定められている労働者が、5条協議の対象となります。7条措置と5条協議は、いずれも労働者側と協議を行う点で共通しますが、7条措置は努力義務であるのに対し、5条措置は法的義務として厳格に義務付けられています。また、協議の相手方も、7条措置では労働組合または労働者の過半数代表者となっているのに対し、5条協議では労働者「個々人」との協議が義務付けられています。そのため、分割会社は、7条措置と5条協議を別個の手続として実施しなければなりません。
続いて、分割会社は、労働者に対し、会社分割によって承継される事業に主として従事する労働者及びその他の会社分割において承継対象とされている労働者に対して、会社分割に基づく労働契約の承継に係る事項を書面で通知する義務があります(承継法2条1項)。加えて、労働組合と労働協約を締結している場合は、労働組合に対しても当該会社分割に関する事項を書面で通知しなければなりません(承継法2条2項)。厚生労働省のホームページに、会社分割の際に用いる通知書の書式が掲載されていますのでこれを参考にするとよいでしょう(通知書・異議申出書の様式例 (mhlw.go.jp))。
なお、上記通知を受けた労働者のうち、会社分割による承継対象事業に主として従事しているにもかかわらず労働者本人の意思に反して承継対象から外された労働者は、分割会社との間で締結されている労働契約が承継されないことについて異議を述べることができます(承継法4条)。また、上記の労働者とは逆に、承継対象事業に主として従事していないにもかかわらず承継対象に含められた労働者は、分割会社との間で締結されている労働契約が承継されることについて異議を述べることができます(承継法5条)。労働者から異議が出された場合、吸収分割契約・新設分割計画の記載にかかわらず異議が認められますから、会社分割を進めるに当たっては注意が必要です。

株主総会の承認決議

会社分割は、吸収分割であっても新設分割であっても会社の基礎に大きな変更をもたらす行為であり、当事会社の株主の利害に重大な影響をおよぼします。
そこで、原則として、株主総会の特別決議による承認を得る必要があります(会社法783条1項、795条1項、804条)。
例外的に、①簡易組織再編または②略式組織再編に該当する場合は、株主総会決議は不要です。①は、吸収分割において、承継会社が会社分割の対価として交付する額が総資産額の2割以下の場合(会社法796条2項)と分割会社が承継会社又は新設会社に承継させる資産の額が2割以下である場合(会社法784条2項、805条)をいいます。もっとも、①のうち前者では、差損が発生する場合(会社法796条2項ただし書、795条2項)又は一定期間内に反対の意思を通知した株主が一定割合に達した場合(会社法796条3項)は株主総会決議を経る必要があります。②は、吸収分割において、当事会社の一方が他方当事会社の議決権の9割以上を有する場合をいいます(会社法784条1項、796条1項)。

反対株主による株式買取請求権

会社分割は、会社そのものに本質的かつ重大な変更を生じさせる行為です。会社分割それ自体は株主の多数決(株主総会決議)で行えますが、当事会社の従前の株主の中には、会社分割に反対している少数派の株主もいるかもしれません。
そこで、組織再編に反対する株主に対しては、保有している株式を公正な価格で会社に買い取ってもらい会社から退出する機会を確保・保障するために、株式買取請求権が認められています(会社法785条1項、797条1項、806条1項。組織再編における株式買取請求権の趣旨につき、最高裁決定平成23年4月19日)。
もっとも、例外的に、簡易組織再編に該当する場合は、株主には株式買取請求権が認められていません(会社法785条1項2号、797条1項ただし書、806条1項2号、)。会社分割の当事会社の規模からみると株主に与える影響が軽微であるためです。

債権者保護手続き

会社分割では、吸収分割契約や新設分割計画に基づいて分割会社の権利義務の全部または一部が承継会社または新設会社に移転します(会社法759条1項、764条1項)。
詳しくは後述しますが、会社分割のこのような性質が悪用されると、債権者に大きな不利益をおよぼすおそれがあります。
そこで、会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる者(会社法789条1項2号、810条1項2号)、分割会社が分割対価である承継会社や設立会社の株式を株主に分配する場合の分割会社の債権者(会社法789条1項2号かっこ書、810条1項2号かっこ書)、承継会社の債権者(会社法799条1項2号)は、会社分割を行うことに対して異議を述べることができます。
当事会社は、債権者が異議を述べる機会を確保するため、会社分割に対して異議を述べることができる旨を官報に公告し、加えて、知れている債権者に対しては各別に催告しなければなりません(会社法789条2項、799条2項、810条2項、会社法施行規則188条、199条、208条)。公告を官報に加えて定款に定められている日刊新聞または電子公告にて行った場合、各別の催告は省略できますが(会社法789条3項、799条3項、810条3項)、分割会社の不法行為債権者が異議を述べられる場合は、当該不法行為債権者に対する各別の催告は省略できません(会社法789条3項かっこ書、810条3項かっこ書)。債権者から異議を述べられた場合、会社は異議を述べた債権者に対し弁済、担保の提供、弁済目的での信託会社等への財産の信託のいずれかの措置を講じる必要があります。もっとも、会社分割が債権者を害するおそれがない場合は、この必要はありません(会社法789条5項、799条3項、810条5項)。
また、債権者を害する詐害的会社分割が行われた場合、債権者は当事会社に対して承継した財産の価額を限度に債務の履行を請求できます(会社法759条4項、764条4項)。詐害的会社分割について、詳しくは後述します。

登記・対抗要件具備

前述のとおり、吸収分割の場合は吸収分割契約で効力発生日と定めた日に、新設分割の場合は設立会社の成立の日に会社分割の効力が発生します。
吸収分割を行った場合、効力発生から2週間以内に吸収分割の登記をしなければなりません(会社法923条)。新設分割の場合も、一定の期間内に、新設分割する会社については変更の登記、新設分割により設立する会社については設立の登記が必要です(会社法924条1項)
また、会社分割の効力発生により吸収分割契約や新設分割計画で定められた権利義務は承継されますが、承継したことを第三者に対抗するためには権利の性質に応じて各々の対抗要件(ex民法177条、178条、467条等)を備える必要があります。会社法にて対抗要件の具備を義務付ける規定はありませんが、登記を行ったのみでは権利を承継したことを第三者に対抗できず不測のトラブルを招きかねず、最悪の場合は権利を失ってしまいますから、必ず対抗要件具備の手続きを行いましょう。例えば、吸収分割契約において承継会社が分割会社から承継するとされている不動産を、会社分割の後に分割会社が第三者に譲渡した場合、当該不動産は二重譲渡されたことになり、承継会社と当該第三者のどちらが当該不動産を取得するかは、当該不動産についての対抗要件(所有権移転登記)をどちらが先に具備したかによって決まります(民法177条)。

事後開示

会社分割の効力発生日から6カ月間、当事会社は共同して、会社分割により承継した権利義務に関する事項等を記載した書面または電磁的記録を作成し、これを各当事会社の本店に備えおく必要があります(会社法791条1項1号、801条2項、811条1項1号、会社法施行規則189条等)。
なお、会社分割においては、債権者ではない者も影響を受けるため、「株主及び債権者」のみならず「利害関係人」も事後開示に係る書面の閲覧謄写が可能となっています(会社法791条3項、801条5項、811条3項)。会社は、利害関係人から事後開示に係る書面の閲覧謄写を請求された場合は、これに対応しなければなりません。

その他の手続き

以上が主な手続きですが、会社の規模感によってはさらに別途の手続きが必要になる場合があります。
まず、独占禁止法15条の2第2項及び3項に定める基準を満たす会社分割(共同新設分割及び吸収分割に限ります。)については、事前に公正取引委員会に対する届出が必要になります。この届出基準は独占禁止法、独占禁止法施行令や企業結合ガイドラインに細かく規定されているためここでは詳細は割愛しますが、国内売上高合計額(独占禁止法10条2項(当該会社の国内売上高+当該会社が属する企業結合集団の国内売上高))が30億円以上になってくると、独占禁止法上の届出義務が必要になる場合があります。届出基準に該当する場合、届出受理から30日を経過するまでは共同新設分割や吸収分割を行えません(独占禁止法15条の2第4項、10条8項)。
上場会社が会社分割を行う場合は、有価証券上場規程に従い適時開示を行う必要があります。開示内容は、各証券取引所が発行するガイドブックに記載されています。ガイドブックや過去の開示例を参照しながら、適時開示の準備を進めていくことになります。また、吸収分割の分割会社・承継会社、新設分割の場合の分割会社が金融商品取引法上の継続開示義務を負っている場合、原則として臨時報告書の提出が必要です(金融商品取引法24条の5第4項)。加えて、会社分割の手法が人的分割(会社分割の対価を分割会社の株主に対して交付する場合)であれば、有価証券届出書の提出が必要になる場合があります(金融商品取引法4条1項2号等)。
このように、会社分割の当事会社の規模が大きかったり上場会社であったりする場合は、会社法上の手続に加えて別途の手続を行わなければなりません。

会社分割の活用方法

M&Aとして

ここまで解説してきたとおり、会社分割は、会社を“分割”してその一部を切り出し、他の会社に承継させる行為です。М&Aを行うに際し、対象会社の全てではなくある一部分だけ取得したいor売却したいと考えた場合に、株式譲渡や合併ではこのようなニーズに応えられません。そこで、会社の一部分のみを承継させることのできる会社分割はM&Aの有効なストラクチャーとなります。
事業の一部分を切り出すという性質は事業譲渡にも共通しますが、事業譲渡の場合は原則として事業譲渡につき各契約の相手方の同意が必要になります。実務的には、承継させる権利義務関係の数や複雑さ、従業員の多寡等を考慮して会社分割と事業譲渡の どちらが適切なストラクチャーか検討することになります。

グループ企業内でグループ全体の組織体制を整理する

会社分割は、既存の会社が有している権利義務の全部または一部をそのまま引き継ぎつつ、合併と異なり既存の会社も存続させられるため、グループ企業間で事業の統廃合を行いグループ全体の組織体制を整理するために活用されます。事業が大きくなるにつれて経営の機動性が失われやすくなりますから、事業を細分化し、既存の他のグループ会社や新しく設立したグループ会社に承継させることで、経営のスリム化を図ることもできます。
特に、持株会社(ホールディングス)では、子会社が行っている事業を整理して組織を整理するために、会社分割が用いられることが多いです。事業ごとに会社を分ける、複数のグループ会社が行っている同種の事業を1つの会社にまとめる等、様々な活用方法が考えられます。

不採算部門を切り離し経営再建を図る

会社の一部分を切り出すという会社分割の特性を利用して、自社の不採算部門のみを切り出し別会社に承継させ優良な資産や事業のみを自社に存続させ営業を続ける(または、不採算部門のみを既存会社に残し、優良部門のみを承継させる)ことも可能です。これにより、自社の収支を改善し経営再建に繋げられるでしょう。不採算部門を承継させた別会社(また不採算部門のみを残した分割会社)は、倒産させるケースが多いです。
平成16年の商法改正により債権者に対する各別の催告を省略できるようになったことや、その後の会社法制定に際しては事前開示の事項として義務付けられていた事項のうち、債務の「履行の見込みがあることおよびその理由」が不要とされたこと等、会社分割に関する規制緩和が進められた結果、会社分割の自由度が向上し、円滑な事業買収や経営再建が会社分割により実現できるようになりました。
しかし、自由度が向上した結果、債権者を害する形での会社分割が多発するようになってしまいました。例えば、収支が悪化し債務超過に陥った分割会社が、優良部門のみを切り出し新設分割により新設会社に優良部門を承継させたうえで、分割会社の経営者や株主が新設会社から株式の発行を受けることで実質的には分割会社で行っていた従前の事業と同一の事業を継続する一方で、新設会社に承継されなかった債権者(残存債権者)は、不採算部門のみが残り見るべき資産が失われ抜け殻となった分割会社に取り残される、といった手法での会社分割です。不採算部門しか残っていないとはいえ分割会社は存続していますから、残存債権者は分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる者(会社法789条1項2号、810条1項2号)に該当しないため会社分割につき異議を述べることもできません。そこで、このような残存債権者を「害する」会社分割(詐害的会社分割)が行われた場合、残存債権者は当事会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を求めることができるとされています(会社法759条4項、764条4項)。何をもって「害する」と判断するのか、詳細は法令に記載されておらず解釈に委ねられていますが、会社分割の前後で残存債権者が履行を受けられると期待できる弁済額が減少した否かで判断するべきと考える学説があります。加えて、残存債権者は、上記の会社法上の履行請求権のみならず、民法424条以下の詐害行為取消請求権も有することになります。また、会社分割の個別事情次第では信義則(民法1条2項)を用いて債権者の保護が図られることもあります(最高裁決定平成29年12月19日民集71巻10号2592頁)。
いずれにせよ、会社分割を行う場合は、詐害的会社分割にならないよう注意が必要です。特に、経営再建目的での会社分割は、一歩間違えると残存債権者を「害する」として詐害的会社分割になるリスクが大きいです。当事会社の収支や契約関係を詳細に検討し、適切かつ合理的に会社分割を行いましょう。

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