• 2024.02.29
  • 一般企業法務

株主総会決議の効力を争う方法

近久憲太

執筆者情報

近久憲太Kenta Chikahisa

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

はじめに

会社内において経営権争いが生じている場合や、株主間で対立が生じている場合等には、現経営陣や株主等によって、対立する取締役や株主を不当に手続から除外する形で、株主総会手続が実施されることがあります。そのような場合には、不当な手続によって株主総会が開催されることを防ぐため、株主総会の実施前において、株主総会の開催や決議の禁止に関する仮処分命令を取得することが考えられます。また、すでに、不当な手続や内容によって株主総会決議が実施されている場合には、株主総会の手続や決議内容に関する瑕疵を訴訟で争うことにより、株主総会決議の取消しや無効に関する判決を取得することが考えられます。

本コラムでは、株主総会決議「前」に取りうる手段と、株主総会決議「後」に取りうる手段について、各手段を取りうる場合や、仮処分・判決等を得た場合の効力等を記載しております。

株主総会決議前に取りうる手段

株主総会の実施前において、不当な手続や内容によって株主総会決議がなされることを防ぐための手段としては、「仮の地位を定める仮処分」の申立てを行うことが考えられます。

仮処分とは、民事保全手続の1つに分類される手続のことをいいます。訴訟の提起から判決の取得までの間には、通常1~2年程度の時間を要することになります。その間において、不当な株主総会決議を前提とした手続が積み重ねられてしまっている場合、仮に勝訴判決を得たとしても、そこから回復を図ることが現実的には困難な場合があります。そこで、判決に先立って、債務者の財産の保全や暫定的な措置を定める手続のことを、民事保全手続といいます。

そして、仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について、裁判所に対し、暫定的な措置を命ずることを求める仮処分のことをいいます。株主総会に関する「仮の地位を定める仮処分」としては、株主総会開催禁止の仮処分、株主総会決議禁止の仮処分、議決権行使禁止の仮処分等があります。以下では、各仮処分の内容や効力等について記載しております。

株主総会開催禁止の仮処分

開催禁止の仮処分とは

株主総会開催禁止の仮処分とは、裁判所に対して、特定の日に開催されることが予定されている株主総会の開催を禁止するように求める仮処分のことをいいます。

株主総会開催禁止の仮処分に関する申立ては、本案訴訟について原告適格を有する者に認められています。取締役による違法な招集手続等の差止請求権を被保全権利(保全すべき権利または権利関係)とする場合には、6か月前から引き続き株式を有する株主(非公開会社の場合は、単に株主)や監査役等が、仮処分の申立権を有することになります。仮処分の申立権者は、株主総会を違法に招集しようとしている者を債務書(相手方)として、仮処分の申立てを行うことになります。債務者に会社が含まれるかについては争いがありますが、通常含まれないと解されています。

株主総会開催禁止の仮処分における申立ての趣旨(申立人が相手方に求める仮処分の内容)としては、「債務者は、令和○年○月○日を会日とする別紙目録記載の事項を会議の目的たる事項とする○○株式会社(本店所在地・東京都○○区)の臨時株主総会を開催してはならない。」といった内容が考えられます。

開催禁止の仮処分の要件

仮処分が認められるためには、①被保全権利(保全すべき権利または権利関係)が存在していること、②保全の必要性があることを疎明する必要があります。

株主総会開催禁止の仮処分においては、①被保全権利として、取締役による違法な招集手続等の差止請求権(会社法360条)や、招集権限を有する代表取締役の妨害排除請求権等を疎明することになります。

株主総会開催禁止の仮処分(仮の地位を定める仮処分)においては、②保全の必要性として、争いがある権利関係について申立人に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるために仮処分命令が必要であることを疎明する必要があります。

株主総会開催禁止の仮処分における保全の必要性については、開催予定の株主総会における決議内容の重要性、手続の瑕疵の重大性、仮処分を認めるべき緊急性の有無等を総合的に考慮した上で、裁判所により厳格に必要性の有無が判断されることになります。例えば、申立人(債権者)の解任という重要な決議事項を含む株主総会である場合や、多くの株主に招集通知が発せられていないなど手続の瑕疵が著しい場合で、予定されている株主総会の開催を禁止したとしても当該会社が重大な損害を被るといった事情がない場合には、保全の必要性が認められやすいと考えられます。

裁判例(東京高裁令和2年11月2日決定)においては、申立人(債権者)主張の瑕疵(債務者である少数株主が利益の供与を表明することにより、一定数の株主の議決権行使に不当な影響が与えられている点)が株主総会決議に影響を与えるものであるか否かが不明確であること、株主総会の手続的瑕疵については決議の取消しの訴えによって事後的に是正を求めることが可能であること、株主総会の開催禁止が債務者である少数株主の権利行使の機会を一方的に奪うことになるという不利益が重大であること等が総合的に考慮された結果、株主総会が開催されることにより申立人に著しい損害または急迫の危険が生じるとはいえないとして、保全の必要性が否定された事例があります。

開催禁止の仮処分の効力

裁判所によって株主総会開催禁止の仮処分決定が下された場合、当該債務書(相手方)は、株主総会を開催することが禁止されることになります。しかし、株主総会の開催を禁止する旨の仮処分決定が下されたにもかかわらず、債務書(相手方)が当該決定に反して株主総会を開催し、決議がなされる場合があります。

そのような仮処分決定に反してなされた決議については、決議自体には瑕疵がないとする見解や、決議は不存在とする見解、決議の効力については事後的な訴訟によって争うべきとする見解等が存在しておりますが、裁判例(浦和地裁平成11年8月6日判決)においては、株主総会開催禁止の仮処分決定に反してなされた決議の効力について、「法律上不存在であると評価されるべきものである。」との判断がなされております。

株主総会決議禁止の仮処分

決議禁止の仮処分とは

株主総会決議禁止の仮処分とは、裁判所に対して、特定の日に開催されることが予定されている株主総会の特定の決議事項に違法性がある場合において、当該議題に関する決議を禁止することを求める仮処分のことをいいます。株主総会決議禁止の仮処分については、株主総会の開催自体に違法性(株主総会の手続全体に関する違法性)はない一方で、一部の議題については違法性が認められる場合に取られる手段となります。

具体的には、少数株主が裁判所の許可を得た上で株主総会を開催している(開催自体に違法性はない)一方で、裁判所の許可を受けていない議題についても決議事項としている場合等には、株主総会決議禁止の仮処分に関する申立てを行うことが考えられます。

少数株主による株主総会の招集手続の詳細については、当事務所のコラム「株主総会の権限と招集手続き」・「株主総会招集許可請求(経営支配権紛争)」をご参照ください。

株主総会決議禁止の仮処分における申立ての趣旨(申立人が相手方に求める仮処分の内容)としては、「債務者は、令和○年○月○日を会日とする別紙目録記載の事項を会議の目的たる事項とする○○株式会社(本店所在地・東京都○○区)の臨時株主総会の会議の目的である事項のうち、『○○の件』との事項の決議をさせてはならない。」といった内容が考えられます。

決議禁止の仮処分の要件

決議禁止の仮処分においても、①被保全権利(保全すべき権利または権利関係)が存在していること、②保全の必要性があることを疎明する必要があります。

①被保全権利については、招集者である株主等に対する違法行為差止請求権(会社法360条類推適用)や、招集権限を有する代表取締役の妨害排除請求権等を疎明することになります。

②保全の必要性については、株主総会開催禁止の仮処分と同様に、開催予定の株主総会における決議内容の重要性、手続の瑕疵の重大性、仮処分を認めるべき緊急性の有無等を総合的に考慮した上で、裁判所により必要性の有無が判断されることになります。

決議禁止の仮処分の効力

株主総会開催禁止の仮処分と同様に、仮処分決定に反してなされた決議については、決議自体には瑕疵がないとする見解や、決議は不存在とする見解、決議の効力については事後的な訴訟によって争うべきとする見解等が存在しております。

議決権行使禁止の仮処分

議決権行使禁止の仮処分とは

議決権行使禁止の仮処分とは、株式の帰属に争いがある場合や、株式の存否に争いがある場合、株主の議決権の有無について争いがある場合において、株主名簿上の株主を相手方として、争いがある株式に基づく議決権の行使を禁止するように求める仮処分のことをいいます。

議決権行使禁止の仮処分の要件

議決権行使禁止の仮処分においても、①被保全権利(保全すべき権利または権利関係)が存在していること、②保全の必要性があることを疎明する必要があります。

①被保全権利については、株式の帰属について争いがある場合には、債権者の株主権に基づく妨害排除請求権、株式の存否について争いがある場合には、新株発行の無効請求権、新株発行の不存在確認請求権等を疎明することになります。

②保全の必要性については、株主総会開催禁止の仮処分と同様に、開催予定の株主総会における決議内容の重要性、手続の瑕疵の重大性、仮処分を認めるべき緊急性の有無等を総合的に考慮した上で、裁判所により必要性の有無が判断されることになります。

具体的には、開催予定の株主総会における決議内容が、会社の経営権に変動を生じさせるものである場合(e.g. 取締役の選任・解任等)や、会社経営において特に重要な事項である場合(事業譲渡、解散、合併等)には、原則として保全の必要性が肯定され、それ以外の場合に特段の事情がない限り、保全の必要性は否定されることになります。

議決権行使禁止の仮処分の効力

議決権行使禁止の仮処分命令が発令された場合、債務者(仮処分の被申立人)は、開催予定の株主総会において議決権を行使することが禁止されることになります。

議決権行使禁止の仮処分命令に違反して当該議決権が行使された場合における当該株主総会決議の効力については、株主総会決議の取消事由に該当するという見解と、取消事由には該当しないという見解が対立しています。裁判例(横浜地裁昭和38年7月4日決定)においては、会社が仮処分の当事者ではないことを踏まえて、仮処分命令の効力は会社には及ばないとし、議決権行使禁止の仮処分命令に違反して当該議決権が行使されたことは、株主総会の取消事由に該当しないと判断された事例も存在しています。

また、債務者(仮処分の被申立人)の議決権行使が禁止されることに伴って、債権者(仮処分の申立人)の議決権行使が認められるかという点については、係争中の法律関係を暫定的に定めるという仮処分の目的を踏まえ、議決権行使禁止の仮処分命令には、債権者(仮処分の申立人)による議決権行使を認める効果はないと解されています(通説)。

なお、議決権行使禁止の仮処分命令によって議決権行使が禁止された株式については、開催予定の株主総会において、定足数算定の基礎となる発行済株式数に算入しないと解されています(通説)。

株主総会に関する仮処分手続の比較

  開催禁止の仮処分 決議禁止の仮処分 議決権行使禁止の仮処分
目的 裁判所に対して、特定の日に開催されることが予定されている株主総会の開催を禁止するように求める仮処分 特定の日に開催されることが予定されている株主総会の特定の決議事項に違法性がある場合において、当該議題に関する決議を禁止することを求める仮処分 株式の帰属に争いがある場合や、株式の存否に争いがある場合、株主の議決権の有無について争いがある場合において、株主名簿上の株主を相手方として、争いがある株式に基づく議決権の行使を禁止するように求める仮処分
要件 ① 被保全権利(保全すべき権利または権利関係)が存在していること
② 保全の必要性
効果 開催予定であった株主総会を開催することが禁止される 開催予定の株主総会において、当該議題に関する決議を行うことが禁止される 債務者(相手方)は、開催予定の株主総会において議決権を行使することが禁止される

株主総会決議後に取りうる手段

不当な手続や内容によって、すでに株主総会決議がなされている場合には、株主総会の手続や決議内容に関する瑕疵を訴訟で争うことが考えられます。株主総会決議「後」において、その決議の効力を争う訴訟手続としては、株主総会決議取消しの訴え、株主総会決議無効確認の訴え、株主総会決議不存在確認の訴えの3つが用意されています。以下では、各訴訟手続の内容や効力等について記載しております。

株主総会決議取消しの訴え

株主総会決議取消しの訴えとは

株主総会決議取消しの訴えとは、①株主総会の招集手続または決議の方法が法令・定款に違反している場合、②株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不公正である場合、③株主総会の決議内容が定款に違反している場合、または④株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使した結果著しく不当な決議がなされた場合において、株主総会決議の取消しを求めて提起する訴訟手続になります(会社法831条1項)。

決議取消しの訴えの訴訟要件

訴訟要件とは、裁判所に対して訴えを提起する上で具備しなければならない要件のことをいいます。訴訟要件が具備されていない場合には、不適法な訴えとして却下判決がなされることになります。却下判決がなされた場合、本案の審理(株主総会決議を取り消すべきか否かに関する審理)は行われないことになります。

株主総会決議取消しの訴えの訴訟要件は、①株主総会決議がされたこと、②原告が訴訟の提訴権を有していること(原告適格)、③提訴期間内(①の決議から3か月以内)に訴訟を提起したこと、④訴えの利益があること、の4つになります。

 

① 株主総会決議がされたこと

取消しの訴えを提起する前提として、取り消す対象の株主総会決議がなされていることが必要となります。ただし、否決された決議については、株主総会決議取消しの訴えの対象となる決議には含まれないとされています(最高裁平成28年3月4日判決)。

② 原告が訴訟の提訴権を有していること(原告適格)
原告適格とは、原告が訴訟の提訴権を有していることをいいます。株主総会決議取消しの訴えにおいては、株主や取締役等に原告適格があるとされています(会社法828 条2項1号)。株主については、議決権を有していれば原告適格を有するとされており、当該会社の議決権を有していれば、自己の利益を害されていない株主も原告適格を有するとされています(最高裁昭和42年9月28日判決)。また、取消しの対象となる株主総会決議後に株主になった者や、当該株主総会によって株主の地位を失った者についても原告適格を有するとされています。

③ 提訴期間内(①の決議から3か月以内)に訴訟を提起したこと
株主総会決議取消しの訴えは、株主総会決議のあった日から3か月以内に提起する必要があります(会社法831条1項)。株主総会決議取消しの訴えを提起した後に取消事由を変更または追加主張する場合においても、株主総会決議の日から3か月以内に取消事由の変更または追加主張を行う必要があります(最高裁昭和51年12月24日判決)。

④ 訴えの利益があること
株主総会決議取消しの訴えにおいては、原告適格が認められる場合、原則として、訴えの利益は認められるとされています。ただし、株主総会決議取消しの訴えを求める「実益」が消滅した場合には、原告適格が認められる場合においても、訴えの利益は否定されることになります。具体的には、以下のような場合には、株主総会決議取消しの訴えを求める「実益」が消滅したとして、訴えの利益が否定される可能性があります。

  • 取消しを求める株主総会決議と同一内容の決議が、取消しを求める株主総会決議に代わってその効力を生じる形で、改めて適法に決議された場合(最高裁平成4年10月29日判決)
  • 取消しを求める株主総会決議に基づいて選任された役員が任期満了により退任した場合(最高裁昭和45年4月2日判決)
  • 株主総会決議に基づく新株発行が行われた場合(最高裁昭和37年1月19日判決)
    この場合、取消しの訴えではなく、新株発行無効の訴えによって争うことになります。
  • 株主総会決議に基づく合併等の効力が発生した場合(通説)
    この場合、取消しの訴えではなく、合併無効の訴えによって争うことになります。

 

決議取消しの訴えの取消事由

株主総会決議取消しの訴えが認められるためには、当該決議の「取消事由」が存在している必要があります。株主総会決議取消しの訴えにおける取消事由については、①株主総会の招集手続または決議の方法が法令・定款に違反している場合、②株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不公正である場合、③株主総会の決議内容が定款に違反している場合、④株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使した結果著しく不当な決議がなされた場合、のいずれかに該当する場合に認められることになります。

ただし、例外的に上記①の場合については、「その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさない」と認められる場合には、裁判所が、その裁量によって、株主総会決議取消しの訴えを棄却することができるとされています(会社法831条2項)。これを「裁量棄却」といいます。裁量棄却が認められる場合の具体例としては、一部の株主への招集通知が会社法299条1項に定める招集通知期間を遵守していなかった場合において、株主総会当日には全株主が出席し、全員が議決権を行使できた場合等が考えられます。

① 株主総会の招集手続または決議の方法が法令・定款に違反している場合
株主総会の招集手続が法令に違反している場合の具体例としては、次のような場合が考えられます。

  • 会社法299条4項に定める必要的記載事項を招集通知に記載していなかった場合(最高裁平成7年3月9日判決)
  • 会社法299条1項に定める招集通知期間を遵守していない場合(最高裁昭和44年12月18日判決等)
  • 代表取締役の職務代行者が、裁判所の許可を得ずに株主総会を招集した場合(最高裁昭和39年5月21日判決)
  • 招集通知の添付書類の送付に不備があった場合(東京地裁平成27年10月28日判決)
  • 取締役会設置会社において、取締役会決議を経ないで、代表取締役が株主総会を招集した場合(最高裁昭和46年8月20日判決)
  • 本店所在地以外の場所で株主総会を開催した場合(最高裁平成5年9月9日判決)

 

株主総会決議の方法が法令に違反している場合の具体例としては、次のような場合が考えられます。

  • 会社法314条に基づく説明義務に違反した場合(東京地裁昭和63年1月28日判決)
  • 定足数に不足があった場合(最高裁昭和35年3月15日判決)
  • 取締役会設置会社において、招集通知に記載されていない事項を決議した場合(最高裁昭和31年11月15日判決)
  • 株主に対して利益供与を行った場合(東京地裁平成19年12月6日判決)
  • 賛成・反対の投票数の認定を誤った場合(東京地裁平成19年12月6日判決)
  • 株主による議案提案や動議を正当な理由なく不採用とした場合(通説)

 

株主総会決議の方法が定款に違反している場合の具体例としては、次のような場合が考えられます。

  • 定款で議決権行使の代理人資格を株主に限定している会社において、非株主である弁護士に議決権行使をさせた場合(宮崎地裁平成14年4月25日判決)

 

② 株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不公正である場合
株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不公正である場合の具体例としては、次のような場合が考えられます。

  • 株主による出席が事実上困難である日時・場所において株主総会を招集した場合(大阪高裁昭和30年2月24日判決)
  • 従業員株主の発言等によって一般株主の質問機会が設けられなかった場合(大阪地裁平成10年3月18日判決)
  • 取締役会非設置会社において、一部の株主にのみ議題を告知しなかった場合

 

③ 株主総会の決議内容が定款に違反している場合
株主総会の決議内容が定款に違反している場合の具体例としては、「定款に定める員数を超えて取締役を選任した場合」等が考えられます。

④ 株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使した結果著しく不当な決議がなされた場合
「特別の利害関係を有する者」とは、当該議案の成立により他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、または不利益を免れる株主をいうとされています。株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使した結果著しく不当な決議がなされた場合の具体例としては、次のような場合が考えられます。

  • 株主兼取締役である者が、当該取締役の会社に対する責任の全部または一部を免除する内容の株主総会決議において議決権を行使した場合
  • 株主兼取締役であった者が死亡した後、その者の相続人が議決権を行使し、多くの会社財産を当該相続人に譲渡する旨の株主総会決議が行われた場合

 

決議取消しの訴えの効力

裁判所によって株主総会決議取消しの訴えが認容された場合、取消し対象の株主総会決議は初めから決議がなされなかったものとして扱われます(会社法839条反対解釈)。これを判決の「遡及効」といいます。

また、株主総会決議取消しの訴えが認容された場合、判決の効力は、訴訟当事者以外の第三者にも及ぶことになります(会社法838条)。これを判決の「対世効」といいます。

株主総会決議無効確認の訴え

株主総会決議無効確認の訴えとは

株主総会決議無効確認の訴えとは、株主総会決議の内容が法令に違反する場合において、株主総会の決議が無効であることの確認を求めて提起する訴訟手続になります(会社法830条2項)。

決議無効確認の訴えの訴訟要件

株主総会決議無効確認の訴えの訴訟要件は、①株主総会決議がされたこと、②訴えの利益があること、の2つになります。

株主総会決議無効確認の訴えにおいても、訴訟要件として、訴えの利益(確認の利益)が必要となります。株主総会決議取消しの訴えにおいて原告適格が認められる者(株主や取締役等)については、株主総会決議無効確認の訴えにおいても、原則として、訴えの利益(確認の利益)が認められるとされています。

一方で、株主総会決議無効確認の訴えにおいては、株主総会決議取消しの訴えと異なり、原告適格や出訴期間について、会社法上の制限はありません。すなわち、株主総会決議無効確認の訴えにおいては、いつでも・だれでも、訴えを提起することができます。

また、株主総会決議無効確認の訴えを提起した場合において、原告の主張する無効原因が決議の取消事由にすぎないことが事後的に判明する場合があります。株主総会決議取消しの訴えにおいては、株主総会決議の日から3か月以内に取消事由の変更または追加主張を行う必要があるとされていますので、原告の主張する無効原因が決議の取消事由にすぎないことが判明した時点で株主総会決議の日からすでに3か月を経過していた場合、原告は、原則として、株主総会決議取消しの訴えを改めて提起することはできないことになります。

判例(最高裁昭和54年11月16日判決)においては、株主総会決議無効確認の訴えが株主総会決議の日から3か月以内に提起されていた場合には、当該原告により提起された株主総会決議取消しの訴えは、株主総会決議無効確認の訴えが提起された時に提起されたものとして扱われるとしたものがあります。しかしながら、必ずしもそのように取り扱われるとは限りませんので、株主総会無効確認の訴えを提起する際には、予備的に、株主総会決議取消しの訴えを提起することも検討しておく必要があります。

決議無効確認の訴えの無効事由

株主総会決議無効確認の訴えが認められるためには、当該決議の「無効事由」(株主総会決議の内容が法令に違反していること)が存在している必要があります。株主総会決議無効確認の訴えにおける無効事由の具体例としては、次のような場合が考えられます。

  • 違法な内容の計算書類(会社法502条に違反する残余財産の分配を行ったことを内容とする決算報告書)について承認決議がなされた場合(東京地裁平成27年9月27日判決)
  • 取締役または監査役の欠格事由に該当する者(会社法331条1項)を取締役または監査役に選任する決議がなされた場合
  • 配当可能利益(剰余金)が存在しないにもかかわらず剰余金配当決議がなされた場合
  • 一部の株主に限って利益を提供する内容の株主優待制度を設ける等、株主平等原則(会社法109条1項)に違反する内容の決議がなされた場合

 

決議無効確認の訴えの効力

裁判所によって株主総会決議無効確認の訴えが認容された場合、確認対象の株主総会決議は初めから無効であったものとして扱われます(遡及効:会社法839条反対解釈)。また、株主総会決議無効確認の訴えが認容された場合、判決の効力は、訴訟当事者以外の第三者にも及ぶことになります(対世効:会社法838条)。

株主総会決議不存在確認の訴え

株主総会決議不存在確認の訴えとは

株主総会決議不存在確認の訴えとは、株主総会決議が存在しない場合や、株主総会における手続的瑕疵が著しい場合において、株主総会決議が不存在であることの確認を求めて提起する訴訟手続になります(会社法830条1項)。

不存在確認の訴えの訴訟要件

株主総会決議不存在確認の訴えの訴訟要件は、①訴えの利益があることになります。

株主総会決議不存在確認の訴えにおいても、訴訟要件として、訴えの利益(確認の利益)が必要となります。株主総会決議取消しの訴えにおいて原告適格が認められる者(株主や取締役等)については、株主総会決議不存在確認の訴えにおいても、原則として、訴えの利益(確認の利益)が認められるとされています。

一方で、株主総会決議不存在確認の訴えにおいては、株主総会決議取消しの訴えと異なり、原告適格や出訴期間について、会社法上の制限はありません。すなわち、株主総会決議不存在確認の訴えにおいては、いつでも・だれでも、訴えを提起することができます。

不存在確認の訴えの不存在事由

株主総会決議不存在確認の訴えが認められるためには、当該決議の「不存在事由」が存在している必要があります。株主総会決議不存在確認の訴えにおける不存在事由の具体例としては、次のような場合が考えられます。

  • 取締役会設置会社において、取締役会決議を経ないで、招集権者ではない者が株主総会を招集した場合(最高裁昭和45年8月20日判決)。
  • 取締役会決議を経た上で、招集権者ではない者が株主総会を招集した場合については、取消事由・不存在事由のいずれとすべきかについて見解が分かれておりますが、裁判例(高松高裁昭和40年10月2日判決)においては、不存在事由に当たると判断した事例があります。
  • 招集通知漏れが著しい場合(最高裁昭和33年10月3日判決)
  • 株主の地位にない者によって決議がなされた場合(東京地裁平成27年7月8日判決)
  • 一部の株主が勝手に会合して決議した場合(東京地裁昭和30年7月8日判決)
  • 株主総会決議が物理的に存在していない場合(総会が客観的に不存在である場合)

 

不存在確認の訴えの効力

裁判所によって株主総会決議不存在確認の訴えが認容された場合、確認対象の株主総会決議は初めから決議がなされなかったものとして扱われます(遡及効:会社法839条反対解釈)。また、株主総会決議不存在確認の訴えが認容された場合、判決の効力は、訴訟当事者以外の第三者にも及ぶことになります(対世効:会社法838条)。

株主総会決議に関する訴訟手続の比較

  取消しの訴え 無効確認の訴え 不存在確認の訴え
訴訟要件 ①決議の存在
②原告適格
③3か月以内の提起
④訴えの利益
①決議の存在
②訴えの利益
①訴えの利益
※ 原告適格や出訴期間について制限なし
取消事由
無効事由
不存在事由
①招集手続・決議方法が法令・定款に違反している場合
②招集手続・決議方法が著しく不公正である場合
③決議内容が定款に違反している場合
④決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使した結果著しく不当な決議がなされた場合
決議の内容が法令に違反する場合 ①決議が存在しない場合
②株主総会における手続的瑕疵が著しい場合
判決の効果 ①の場合は、裁量棄却の可能性あり    
対世効:あり / 遡及効:あり

 

当事務所が提供できるサービス

当事務所は、株主総会手続に関する法律相談、株主総会決議前の手続(仮処分手続等)、株主総会決議後の手続(訴訟手続等)に関するご相談に対応しております。ご相談いただいた際には、開催される予定の株主総会に関する手続状況や、会社の機関設計・株主構成等をお聞きした上で、会社に対して取りうる手段や、それらの手段の実効性・リスク等について検討を行い、適切な手段をご提案させていただきます。株主総会の手続や決議等でお悩みの際は、是非、当事務所にご相談ください。

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