• 2024.09.11
  • 一般企業法務

請負契約に関する平成29年民法改正の要点

令和2年4月1日から、平成29年改正民法が施行されています。この改正により、請負契約に関するルールにも変更点があります。どのような違いが生じたのでしょうか。本コラムでは、民法改正における請負契約の変更点についてご説明いたします。なお、本コラムでは、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正を単に「改正」といいます。

請負契約とは

請負契約とは、当事者の一方(請負人)が「仕事を完成すること」を約し、相手方(注文者)が「仕事の結果に対してその報酬を支払うこと」を約することで成立する契約です(民法第632条)。請負契約は、民法第632条に規定されている典型契約で、成果物等の引き渡しなどを要することなく、当事者の合意のみによって成立する諾成契約です。また、契約の当事者双方が互いに対価的な経済的負担を負い、債務を負担する双務・有償契約としての性質を有しています。

たとえば、建築業者が建物の建築を約し、これに対し注文者が報酬を支払うという内容の合意がなされる工事請負契約や、成果物のない運送請負契約など様々な請負契約があります。似たものとして、(準)委任契約や業務委託契約というものがあります。これらと請負契約との区別が問題となることもあります。ただ、仕事の結果とそれに対する報酬が合意されていれば、契約書の題名にかかわらず、請負契約に関する民法のルールが適用されます。また、有償契約ですので、民法第559条により、売買契約における民法のルール(555条以下)が準用されることになります。したがって、請負契約をレビューするにあたっては、請負の規定がまとめられている民法第632条から第642条までに加え、民法第555条以下の売買契約の条文にも注意が必要です。

平成29年民法改正における請負契約の改正点

平成29年民法改正の影響を受ける請負契約のルールは何点かあります。まず、請負人は、仕事が完成していなくても、進捗状況に応じて一定の報酬を請求できることが明文化されました。他方で、本改正により、注文者は請求できる権利の選択肢と請求できる損害の範囲が広がりました。また、注文者が権利を行使できる期間制限についても緩やかになりました。さらに、全体的に見て、本改正は注文者にとって有利なものとなっています。以下、これらの具体的内容についてご説明いたします。

改正民法における請負契約の注意点4選

改正において請負契約で注意すべき点は大きく分けて、以下の4点です。それぞれに分けてみていきます。

注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の請求

請負契約は、仕事の結果に対して、報酬を支払うことを内容とする契約です。したがって、請負人は仕事を完成させていなければ、報酬を請求することができないのが原則です。もっとも、仕事が完成していなければ報酬の支払いを一切請求できないと解すると、あまりに請負人の負担が大きくなり、不合理です。しかしながら、改正前においては、注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の請求に関する民法上のルールはありませんでした。そこで、仕事の進捗状況および仕事を完成することができなくなった事情に応じて一定の報酬請求権を請負人に認めるべきであるという指摘がありました。

以上のような問題点に対して、改正民法は、仕事完成前の請負人につき、仕事の進捗に応じた報酬請求権を明文で認めました(新634条)。

たとえば、建物を建築するという内容の請負契約において、工事中何らかの事情でそれ以上工事をすることができなくなったとします。このような場合原則として請負人は報酬を請求できないのですが、改正により、請負人は一定の条件のもとで一定の報酬を請求できるというルールが新たに設けられた、ということになります。

新634条の要件

では、どのような場合に請負人の報酬請求権が認められるのでしょうか。新634条において、報酬請求権が成立するための要件は、①注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったこと(1号 帰責事由の不存在)または請負が仕事の完成前に解除されたこと(2号 契約の解除)、②請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けること(可分性・利益性)、の2つです。

【新634条】
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

新634条の効果

まず、未完成の部分につき「仕事の完成とみな」されます。すなわち、仕事の完成が擬制されるということになります。

次に、注文者が受ける利益の割合に応じて、請負人は注文者に報酬の支払いを請求することができます。割合的報酬の具体的な算定方法については、完成が擬制される部分の全体に対する割合を評価し、これを全体の請負報酬額に乗じる方法などが考えられます。

具体的事例

上記では、報酬請求権の成立要件とその効果についてご説明いたしました。以下では、具体的にどのような場合に成立するのか、事例とともにご紹介いたします。

新634条1号の適用場面

新634条1号による報酬請求権の成立が認められるためには、まず、新634条1号に該当することが必要です。すなわち「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった」場合でなければなりません。「責めに帰することができない事由によって」とは、簡単に言うと、落ち度がなかったということを意味します。これは、法律的に言うと「契約その他債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らし」て判断されます。つまり、契約書での合意内容や一般的な取引慣行などを考慮しつつ、請負人が仕事を完成させることができなくなったことについて、注文者に落ち度がなければ、新634条1号に該当すると認められることになります。

反対に、注文者の不当な行動のせいで、請負人が仕事を中断せざるを得なくなったというような場合はどうでしょうか。この場合は、注文者の責めに帰することができる事由によって仕事を完成することができなくなった、ということになり新634条1号に該当しないということになります。この場合は、新民法第526条2項により、請負人は報酬の全額を請求できると考えられます。

ここで、新634条1号による報酬請求権の成立が認められるの具体的にどのような場合でしょうか。以下、事例とともにご説明いたします。

【事例1】
Aが、建築業者Bに対し、建物の建築を報酬額5,000万円で注文し、請負契約を締結したところ、建物が完成する前に地震により建設予定地が一部陥没し、建築工事を完成することができなくなった。Aは未完成建物を倉庫として利用している。

結論から申し上げますと、この場合は新634条1号によって、請負人は一定割合の報酬を請求することができると考えられます。

先ほど、新634条1号にいう報酬請求権が認められるには、「注文者の責めに帰することができない事由」が認められる必要があるとご説明しました。これには、当事者双方に落ち度がないのにもかかわらず仕事を完成することができなくなった場合と、請負人のみに落ち度があり仕事を完成することができなくなった場合の2パターンが考えられます。

【事例1】では、Bは地震という天変地異によって、仕事を完成させることができなくなっています。地震の発生や被害はAやBにコントロールできるものではなく、当事者双方に落ち度がないといえるでしょう。したがって、注文者Aの「責めに帰することができない事由によって」建築工事を完成することができなくなったといえます。

事案をやや変えて、仮に建築中の建物が、請負人のたばこの不始末により焼失し、改築も不可能になった場合について考えてみます。この場合は、注文者Aに落ち度はなく、請負人のみに落ち度があり仕事を完成することができなくなったといえます。したがって、建築工事を完成することができなくなったことにつき注文者Aの「責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった」ということになり、新634条1号の要件が充足されます。

最後に、「責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった」と認められない場合についても検討します。建築中の建物が、注文者のたばこの不始末により焼失し、改築も不可能という場合はどうでしょうか。たばこの不始末は注文者に落ち度がありますから、この場合はまさに注文者の責めに帰することができる事由によって仕事を完成することができなくなったということになります。したがって、「注文者の責めに帰することができない事由により仕事を完成することができなくなった」とはいえず、新634条1号の要件を満たさないこととなります。なお、改正前も改正後も、この点に関する請負独自のルールはなく、新536条2項(危険負担の問題)により、処理されると考えられています。これによると、請負人は原則として報酬全額を請求できると考えられます。

以上より、【事例1】では、新634条1号該当性が認められそうです。しかし、新634条1号に該当するだけでは、請負人の割合的報酬請求権は成立しません。2つ目の要件である、「請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けること」という要件を満たす必要があります。この点についても検討します。

「可分な部分の給付」とは、仕事は完成していないものの、未完成部分を割合的に評価できる場合であって、これが注文者に提供されていることを指すと考えられます。また、これ「によって注文者が利益を受ける」とは、当該未完成部分の提供と注文者に生じた経済的利益が社会通念上の因果関係を有していることを指すと考えられます。つまり、未完成の仕事であっても注文者が請負人から提供された成果物等を何らかの形で利用等できる状態であれば「請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けること」といえることになります。

【事例1】でいうと、Aは未完成建物を倉庫として利用している以上、その利用価値を享受していますから、請負人Bの未完成の仕事によって、注文者Aが利益を受けるといえることになります。したがって、【事例1】では、倉庫としての利用価値を評価したうえで、BはAが受けた利益を報酬として請求できることになります。

他にも最近の事例では、ソフトウェア開発契約において、いまだHTMLやCSSを用いて作成されるウェブページの構造や文字を含めた表示方法等に関する機能が組み込まれていない段階で、サイトのトップページのデザインを作成していた点や、ロゴアニメーションを作成していた点につき可分な部分の給付として注文者に利益を与えるものと認めた裁判例(東京地判令和5年3月14日LEX/DB25608643)があります。

新634条2号の適用場面

改正前の判例(最判昭和56年2月17日判時996号61頁)では、仕事の完成前の解除につき一部解除という構成をとっていましたが、新634条2号は、契約全体の解除を認めつつ、一定の場合に請負人に割合的な報酬請求権を認めるという構成をとることを明文化しました。新634条2号の典型的な適用場面としては、請負人の履行遅滞による注文者側からの解除の場面が考えられます。

【事例2】
Cが、建築業者Dに対し、建物の建築を報酬額5,000万円で注文し、請負契約を締結した。Dは途中まで工事を行ったものの未完成のまま放置しており、CがDに対し工事の再開を求めたのにもかかわらず、応じないため、Cは民法第541条に基づき契約を解除した。その後Cは別の建築業者Eに残りの工事を行ってもらい、完成した建物に居住している。

この場合には新634条2号によって、請負人は一定割合の報酬を請求することができると考えられます。

【事例2】では、請負人が工事を途中で放棄しており、注文者の催告(工事を完成するよう求めること)にもかかわらず、請負人としての債務を履行していません。そのため、民法第541条の要件を満たし、同条に基づく解除がなされています。したがって、新634条2号の要件を充足します。また、Cは別の建築業者Eに残りの工事を行ってもらい、完成した建物に居住しています。CはDが途中まで建築した建物を利用して、これを完成させたということですから、「請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受け」たという点にも問題はありません。したがって、【事例2】では、未完成建物の価値を評価したうえで、DはCが受けた利益を報酬として請求できます。

なお、請負契約においては、注文者には、請負人が仕事を完成するまでの間、民法第641条に基づく法定解除権が認められていますが、新634条2号とはあまり関係がないと考えられています。民法第641条に基づく解除は、「(請負人に生じる)損害を賠償して」しなければなりません。すなわち、請負人には、仕事結果の可分性・利益性を問わず、全額の報酬を含む損害賠償請求が認められる可能性があることになります。したがって、あえて要件が厳しく、割合的な報酬請求権にとどまる新634条を使用する実益は乏しいと考えられています。

請負契約における請負人の担保責任

売買に関する民法改正と同様、請負人の責任が「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと変わりました。繰り返しになりますが、「瑕疵」という言葉は「契約の内容に適合しない」という文言に変更されています。もっとも、これは文言の変更にとどまるものではありません。本改正により、請負人が完成させた仕事に対して負う責任の範囲が広がりました。裏を返せば、注文者は、請求可能な権利の選択肢が増え、請求できる損害の範囲が広がったということになります。

「契約の内容に適合しない」か否かは、請負契約の仕事の結果について種類、品質または数量に関する注文者と請負人との間の合意の内容に照らして判断されます。

改正前においては請負人の担保責任については、請負独自の規律が設けられていました(旧634条、635条、638条から640条)が、これら請負契約独自の条文は改正により削除されています。そこで、改正後は民法第559条により、売買の規定が準用されることになります。したがって、請負人の担保責任を検討するうえでは、同条により準用される新561条から572条の規定が重要になると考えられます。

また、改正前における請負人の担保責任の追及手段は、旧634条による修補請求・損害賠償請求と、旧635条による契約の解除のみでした。しかし、改正により以下で見るように手段が追加されました。

契約不適合の種類と具体例

「契約の内容に適合しない」ということの中身については、次の3つの類型が法定されています。すなわち、①種類に関して契約の内容に適合しないものであるとき、②品質に関して契約の内容に適合しないものであるとき、③数量に関して契約の内容に適合しないときの3類型です(民法第562条1項参照)。以下、それぞれについての具体例を挙げてご説明いたします。

種類に関して契約の内容に適合しないものであるとき

【事例3】
Fが、製品甲100個の製造をGに注文し、製造請負契約が成立したのにもかかわらず、納品されたのは製品甲50個および製品乙50個であった。

本来は製品甲を製造して引渡すという請負契約であったのに対して、別製品である製品乙が製品甲に混ざって納品されています。このような場合は種類に関して契約の内容に適合しないといえます。

品質に関して契約の内容に適合しないものであるとき

【事例4:品質に関する不適合】
Hが、ソフトウェア丙の開発をIに注文し、ソフトウェア開発に関する請負契約が成立した。しかし、納品されたソフトウェア丙は、合意により定められた仕様書通り稼働しなかった。

品質とは、契約により合意された目的物の性質や性能のことです。【事例4】では、仕様書通りに稼働することは合意されて契約の内容となっていますから、仕様書通りに稼働しないソフトウェアは契約により合意されたソフトウェアの性能に達していないということになります。したがって、【事例4】は、品質に関して契約の内容に適合しないといえます。

数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき

【事例5:数量に関する不適合】
Jが、製品丁100個の製造をKに注文し、製造請負契約が成立したのにもかかわらず、納品されたのは90個であった場合。

数量とは、契約により合意された目的物の量的内容を指します。これには、動産の個数のみならず、不動産の面積や物体の重量、長さなどを含みます。【事例5】では、契約により製品丁100個の製造請負が合意されていますが、納品されたのは90個であり、個数が不足しています。したがって、【事例5】は、数量に関して契約の内容に適合しないといえます。

注文者が選択できる責任追及手段

責任追及手段が拡大された、と先にご説明しました。改正民法下で注文者が取ることができる手段は次の4つです。すなわち、①追完請求(新632条、559条、562条)、②報酬減額請求(新632条、559条、563条)、③損害賠償請求(新632条、559条、564条、415条)、④契約の解除(新632条、559条、564条、541条・542条)へと拡大されました。

追完請求権

追完請求とは、注文者が、不十分な債務の履行をする請負人に対し、目的物の修補・代替物の引渡しはまたは不足分の引渡しを求めることによって、不十分な債務の履行を十分なものにしてもらうよう求めることをいいます。ここで、具体例として【事例3】(再掲)をご紹介します。

【事例3】
Fが、製品甲100個の製造をGに注文し、製造請負契約が成立したのにもかかわらず、納品されたのは製品甲50個および製品乙50個であった。

【事例3】でいうと、製品乙50個に変えて、製品甲50個を引渡せ、という請求をすることになります。なお、履行の追完が、契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能な場合には、本請求はできません(新412条の2第1項)。

報酬減額請求権

報酬減額請求とは、注文者が、不十分な債務の履行をする請負人に対し、その不十分の程度に応じて報酬額の減額を求めることをいいます。これは、履行の追完を求めても履行の追完がないとき、または、履行の追完が不能である場合等に行うことができます。ここで、具体例として【事例5】(再掲)をご紹介します。

【事例5:数量に関する不適合】
Jが、製品丁100個の製造をKに注文し、製造請負契約が成立したのにもかかわらず、納品されたのは90個であった場合。

【事例5】でいうと、不足分である10個分相当の報酬について減額を求めることがこれに当たります。

損害賠償請求権

損害賠償請求とは、請負人が債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときに、これによって注文者に生じた損害の賠償を求めることをいいます。債務の本旨は、契約によって定まります。請負人の仕事が契約で合意された水準に達しない場合は基本的に「債務の本旨に従った履行をしないとき」にあたります。ここで、具体例として【事例4】(再掲)をご紹介します。

【事例4】
Hが、ソフトウェア丙の開発をIに注文し、ソフトウェア開発に関する請負契約が成立した。しかし、納品されたソフトウェア丙は、合意により定められた仕様書通り稼働しなかった。

【事例4】でいうと、システム導入失敗による逸失利益を請求することがこれに当たります。

契約の解除

契約の解除とは、相手方に対する意思表示により、契約の効力をさかのぼって消滅させることを言います(民法第540条1項)。これにより、注文者と請負人はそれぞれ原状回復義務を負うことになります(民法第545条1項)。原状回復義務とは、当事者双方の財産状況を契約締結前に復させることを言います。ここで、具体例として【事例4】(再掲)をご紹介します。

【事例3】
Fが、製品甲100個の製造をGに注文し、製造請負契約が成立したのにもかかわらず、納品されたのは製品甲50個および製品乙50個であった。

【事例3】でいうと、注文者による解除の意思表示により、注文者は納品された製品乙を請負人に返還し、他方で請負人が前金や報酬等を受け取っている場合にはこれを注文者に返還することになります。

請負人の担保責任の存続期間

改正以前から、請負人に対して担保責任を追及できる期間は制限され、注文者の権利保全期間につきルールが定められていました。その趣旨は、仕事の成果物を提供し、債務の履行が終了したという請負人の期待を保護する点にあります。もっとも、改正により瑕疵担保責任が契約不適合責任へと改められたことで、旧637条に定められていたルールにも変更が加えられました。

改正前は、原則として、引渡し時から一年以内に権利行使をする必要がありました。例外的に建物等の建築請負では期間制限が緩和されていましたが、建物等の建築請負でも引渡しから5年以内、その建物等が石造、金属造等の場合でも引渡しから10年以内に権利行使をする必要がありました。しかしながら、請負契約の仕事の目的物の瑕疵に気づくことは必ずしも容易ではありません。瑕疵に気づかずに期間を経過してしまうおそれがあり、制限期間内に権利行使をすることまで求めるのは注文者にとって負担が重すぎるとして、注文者保護の観点から問題があるとの指摘がありました(法務省HP 民法(債権関係)の改正に関する説明資料―主な改正事項―63頁)。

そこで、改正により、新637条において注文者は、契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨の通知をすれば足りることとされました(ただし、不適合を知った時から5年又は引渡しの時から10年までの間に権利行使をしない場合、消滅時効にかかります)。また、建物等の例外的取扱いは廃止されています。

新637条1項の要件

  1. 仕事の目的物に種類又は品質に関する契約不適合があること
  2. 注文者が⑴の契約不適合を知ったときから1年以内にその旨を請負人に通知しないこと

各要件の意義

―仕事の目的物に種類又は品質に関する契約不適合があること

契約不適合については、3.3で述べたとおりです。なお、売買契約の契約不適合における責任制限と同様の理由に基づき、本条の適用対象は、種類又は品質に関する契約不適合に限定されています。したがって、数量に関する契約不適合については、本条の適用外です。

―注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないこと

新637条1項の要件を充足するためには、契約不適合が認められることに加え、注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しない場合であることが必要です。

もっとも、「知った時」とは、注文者がどのような事実を認識した時点を指すのでしょうか。この点については、売買の担保責任に関する規定の解釈が参考になると考えられています。判例は、民法第564条の「知った時」の意義について、買主が売主に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したことを要すると解するのが相当であると判断しています(最判平成13年2月22日判時1745号85頁)。

これを請負に当てはめるならば、注文者が請負人に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識した時点が「知った時」に当たると考えられます。先ほどの【事例4】でいうと、ソフトウェアを実施し、適切に稼働しなかったことをHが認識した時点が「知った時」に当たるということになります。

また、「通知」の意義については、商法第526条2項の「通知」と同様に解釈するのが合理的であると考えられています。同項の「通知」は、売主に善後策を講ずる機会を与えるためのものであり、瑕疵・数量不足があったことだけを通知したのでは不十分ですが、瑕疵・数量不足の種類とその大体の範囲を通知すればよく、その細目は通知する必要がないと理解されています(大判大正11年4月1日民集1巻155頁)。 仮に詳細な通知を要求すれば、迅速な通知の妨げとなり、買主に過大な負担を課すことになるからです。

なお、下級審において、合板の売買に関し、不良製品の正確な枚数を明示していなくても同項の「通知」として欠けるところはないと判断された事例(東京地判昭和56年8月19日判時1035号123頁)や、ゴルフネットの売買に関し、買主が売主に対し品質に多少問題があるようである旨の話をしたことが、同項の「通知」としては不十分であると判断された事例(東京地判昭和54年 9月25日判時959号119頁)も参考になります。【事例4】でいうと、少なくともソフトウェアが適切に稼働しなかった旨をGに対して伝えていれば「通知」として認められると考えられます。

新637条1項の効果と同条2項

注文者は、同条所定の期間の経過とともに、当該不適合を理由とする担保責任の追及に関する諸権利を行使することができなくなります。上記各事例において、注文者が不適合を知った時から1年が経過すれば、注文者は権利行使ができなくなるということです。もっとも、裁判では、新637条の適用により権利が行使できなくなったという事実は、請負人側が立証しなければなりません。

また、新637条2項では、「仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったとき」は新637条1項の期間制限の規定は適用されないとされています。すなわち、請負人が当該契約不適合について知りながら注文者に対して成果物等の引渡しなどをした場合、または容易に契約不適合について知りえたのにもかかわらず、著しい不注意によりこれを知らなかった場合には、1年間という期間制限は適用されないということになります。この場合、不適合を知った時から5年又は引渡しの時から10年までの間に権利行使をしない場合の消滅時効だけが問題となります。

注文者についての破産手続の開始による解除

旧642条1項前段の規律を改め、注文者が破産手続開始の決定を受けた場合に請負人が契約の解除をすることができるのは、請負人が仕事を完成しない間に限ることとされました(新642条1項ただし書き)。また、旧642条1項後段を新642条2項に移すという形式的な変更が加えられています。

なお、破産管財人の解除権については現状を変更していません。注文者が破産手続開始 の決定を受けた場合における破産管財人の解除権については、民法第642条が破産法第53条の特則であり、民法第642条のみが適用されると解されていることから、改正法の規律と破産法第53条の関係も同様に解されることになると考えられています。

まとめ

本法改正により、注文者にとってはメリットが、請負人にとってはデメリットが生じることとなったと考えられますが、これは民法上の規定が適用される場合に生じるものです。請負人の立場になった場合には、契約当事者間で、別途、民法の規定の適用を排除し、民法と異なる権利義務の規定を定めることにより、請負人にとってのデメリットを減らす対応をとることは可能です。また、注文者の立場であったとしても、契約当事者間で、別途、民法の規定の適用を排除し、民法と異なる権利義務の規定を定めることにより、民法上の規定より有利な内容の契約とすることも可能です。このように責任の範囲を免除あるいは限定する場合には、当事者間で責任の範囲についてどのような合意が形成されたかを明確に書面等で確認することが重要となります。

もっとも、契約不適合責任を負わない旨を当事者間で合意したとしても、契約不適合があることを請負人が知っていた場合には、契約不適合責任を免れることができません(民法572条前段)。また、消費者契約法8条2項や宅地建物取引業法40条による規制が存在します。

以上のように、改正法下においては、当事者間の合意内容によって同じ類型の取引であったとしても、その合意の内容により契約不適合責任の有無が異なることとなります。そのため、契約締結時の合意内容をよく確認し、自らが負うこととなるリスクをしっかりと把握することが大切となります。

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