法定相続人と相続分
大切なご家族が亡くなった場合、被相続人が遺された財産を相続人で引き継ぎ、分配する「遺産相続」が行われます。
この際に、相続人が気になるのは、まず「誰が相続人なのか」「誰がどの割合を相続するのか」といった点ではないでしょうか。
このようなポイントを把握し、相続をスムーズに進めることで、相続人間の紛争を未然に防ぐことができる可能性があります。
本コラムでは、このような疑問を解決すべく、法定相続人と相続分についてご説明いたします。
- 1 法定相続人について
- 2 法定相続分について
- 2.1 法定相続分とは
- 2.2 法定相続分と遺留分の違い
- 2.3 具体的な法定相続分について
- 2.3.1 妻Aと子供2人(B、C)がいる場合
- 2.3.2 妻Aと子供3人(B、C、D)がいるものの、Dが相続放棄している場合
- 2.3.3 妻Aと子供3人(B,C、D)がいるものの、Bが被相続人を殺害した場合
- 2.3.4 妻AとAとの間の子3人(B、C、D)、内縁の妻Eと、Eとの間の子Fがいる場合
- 2.3.5 妻A、子B、養子Cがいる場合
- 2.3.6 妻A、子供2人(B、C)のほか、養子に出した子Dがいる場合
- 2.3.7 妻A、子供3人(B、C、D)がいたものの、Bがすでに死亡しており、Bの子(被相続人の孫)E、Fがいた場合
- 2.3.8 妻Aとの間に子供がいない場合
- 2.3.9 すでに被相続人の妻が死亡しており、子A、B、Cのみがいる場合
- 2.3.10 死亡した妻との間に子A、B、Cがいるほか、妻の連れ子Dがいる場合
- 2.3.11 兄弟A、Bのほか、腹違いの兄弟Cがいる場合
- 3 寄与分
- 4 特別受益
- 5 相続人がいない場合
- 6 まとめ
法定相続人について
法定相続人とは
民法上、遺産相続において被相続人の遺産を相続できる者は定められており、これを法定相続人といいます。
まず、相続とは、被相続人の権利義務の一切を相続人が引き継ぐことをいいます(896条)。
相続は被相続人の死亡によって開始される(882条)ところ、この相続において被相続人の遺産を相続する当事者として民法上定められているのが法定相続人です。
法定相続人以外の者が被相続人の遺産を相続することはできません。
法定相続人の範囲
民法上、法定相続人として被相続人の配偶者、子ども、直系尊属、兄弟姉妹が挙げられています。以下、順にみていきます。
まず、被相続人の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。
次に、①被相続人の子がいる場合には、その子も同順位の法定相続人となります(887条1項)。
①被相続人の子がいない場合には、②被相続人の直系尊属(888条1項1号)、③被相続人の兄弟姉妹(同項2号)の順で相続権を取得し、上記配偶者と同順位の相続人となります。このとき、先順位の人がいる場合には後順位の相続権はないことに注意する必要があります。例えば、被相続人の両親がいる場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続権を取得することはありません。
法定相続人は以上の者に限定されるため、内縁関係にあるパートナーや離婚した元配偶者、再婚相手の連れ子や被相続人が認知していない子といった者が法定相続人となることはありません。
一方で、被相続人の子であれば、胎児であっても、相続については既に生まれたものとみなされる(886条1項)ことから、出生を条件に相続が認められます。
代襲相続により法定相続人となる場合
原則として、法定相続人は上述の者に限定されることから、通常は被相続人の孫が法定相続人となることはありません。しかし、代襲相続が起こった場合には孫が法定相続人となることも考えられます。
代襲相続とは、相続人が相続開始以前に死亡した場合または欠格・廃除により相続権を失った場合に、相続人の子(被相続人の孫)が相続人に代わって相続できる、というものです(887条2項)。
このような代襲相続については、直系卑属が相続人となる場合には、孫・玄孫など直系卑属が現存する限り代襲することが可能となります。一方で、兄弟姉妹が相続人となる場合には、代襲相続は兄弟姉妹の子である被相続人の甥姪までと範囲が限定されている点で異なっており、注意が必要です。
また、胎児は、相続について既に生まれたものとみなされる(886条1項)結果、代襲相続もすることができます。
法定相続人が相続権を失う場合
相続欠格
相続欠格とは、法定相続人が遺産を手に入れるために不正な行為をするなど、相続人としてふさわしくないものと認められた場合、相続人となることはできないとするものです。
相続欠格事由は891条に列挙されており、以下の事由に該当する場合には相続権が自動的に失われることになります。
- 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者(1号)
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者(2号)
ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者(3号)
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者(4号)
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者(5号)
廃除
被相続人は、推定相続人について、一定の要件を満たしている場合に、その相続権を遺留分も含めて完全に剥奪することができます。これを相続人廃除といいます。廃除事由は以下の通りです(892条)。
- 被相続人に対して虐待をした
- 被相続人に重大な侮辱を加えた
- その他の著しい非行をした
これらに該当する場合には、生前に被相続人が家庭裁判所に廃除請求するか、相続開始後、遺言を通じて遺言執行者が家庭裁判所に廃除請求をすることで、審判により廃除するかどうかが決定されます(893条)。
法定相続分について
法定相続分とは
相続分には、大きく分けて、指定相続分と、法定相続分の2つがあります。
指定相続分とは、被相続人が、どの相続人がどのくらいの遺産を相続するのかを遺言により決めた割合のことをいいます。
法定相続分とは、被相続人が亡くなった後の相続において、各相続人の遺産の取り分として法律上定められた割合のことをいいます。
法定相続分は、法律で定められた割合であるとはいえ、必ずその割合に従って遺産を分けなければならないという拘束力を有するものではありません。
しかしながら、被相続人が遺言による相続分の指定を行っていなかった場合や、相続人全員で被相続人の相続分の指定に従わない旨合意したような場合には、法定相続分が遺産を分けるための目安として重要な意義を有することになります。
法定相続分と遺留分の違い
配偶者や被相続人の子など、一定の相続人に法律上確保されている遺産の最低限の取り分のことを遺留分と呼びます(1042条)。
法定相続分も、遺留分も、前述の通り民法上一定の割合が定められている点では共通しています。
しかしながら、これら2つの制度は、拘束力という点で大きく異なっています。
前述の通り、法定相続分はあくまで遺産分割の目安となる割合であり、これに従わず自由に分割割合を定めることも可能です。
一方で、遺留分については、その趣旨が相続人の生活の保障にあることから、遺言によってもこの権利を奪うことは認められません。その点で、遺留分には法的な拘束力があり、また、この権利が侵害された場合には遺留分侵害額請求も認められるという点で、法定相続分とは異なる性質のものと言えます。
具体的な法定相続分について
以下、具体的な法定相続分について900条に従い検討します。
妻Aと子供2人(B、C)がいる場合
900条1号によれば、子及び配偶者が相続人である場合には、子の相続分及び配偶者の相続分は各2分の1となります。
子は、2分の1の相続分をさらに2人で等分(同条4号)するため、子1人あたりの相続分は4分の1ずつとなります。
以上によれば、配偶者A、子供B、Cの相続分はそれぞれ2分の1、4分の1、4分の1となります。
妻Aと子供3人(B、C、D)がいるものの、Dが相続放棄している場合
上記と同様に、配偶者の相続分と子の相続分はそれぞれ2分の1ずつになります。
そして、子B、C、Dそれぞれの相続分については、相続放棄したDについて、はじめから相続人とならなかったものとみなす(939条)ことから、子供は2人分で計算することになります。
したがって、子B、Cの相続分はそれぞれ4分の1となり、配偶者A、子B、Cの相続分は2分の1、4分の1、4分の1(、Dの相続分なし)となります。
妻Aと子供3人(B,C、D)がいるものの、Bが被相続人を殺害した場合
上記同様に、妻Aの相続分は2分の1となります。
次に、子について、Bが「故意に被相続人…を死亡するに至らせ、…刑に処せられた者」(891条1号)にあたれば、相続欠格として自動的にその相続権が失われます。
子Bは相続人に含まれない結果、子C、Dの相続分は2分の1を2人の人数分で割った4分の1ずつになります。(Bは相続分を有しません。)
妻AとAとの間の子3人(B、C、D)、内縁の妻Eと、Eとの間の子Fがいる場合
内縁の妻Eについては、婚姻届を提出していない以上、法定相続分は認められません。しかし、妻Aは法定相続人にあたることから、900条1号「子及び配偶者が相続人であるとき」に該当します。妻Aの相続分は2分の1となります。
一方で、子供については、B、C、Dはもちろん、Fについても、被相続人に生前認知されている限り同様に相続分を有します。B、C、D、Fは2分の1の相続分を人数分(4)で割る結果、それぞれ8分の1の相続分を有することになります。
子Fが生前の被相続人に認知されていなかった場合には注意が必要です。子Fが被相続人の法定相続人として認められるためには、被相続人の死後3年以内に認知の訴え(787条)を提起する必要があります。これが認められなければ子Fは被相続人との関係で親子関係が認められないため、法定相続分を取得しません。認知の訴えは子のほか、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人も提起することができます。
子供が嫡出子か否かによる法定相続分の差
前述の例では法定相続分について子供を嫡出子と非嫡出子で区別しませんでしたが、子供が嫡出子であるか否かによって法定相続分に変化はあるでしょうか。*非嫡出子:法律上の婚姻関係にない男女間の子供(婚外子)
結論として、法定相続分に変化はありません。
以前は、嫡出子と非嫡出子の法定相続分について、非嫡出子は嫡出子の2分の1とするとの規定がありました。
しかしながら、最高裁平成25年9月4日決定で、このような規定は合理的な理由を欠く差別に当たるとして違憲無効となりました。その後の法改正により、現在は、法定相続分について、嫡出子も非嫡出子も同じ割合とされています。
妻A、子B、養子Cがいる場合
上記同様、本件も「子及び配偶者が相続人であるとき」にあたることから、妻Aは2分の1の相続分を取得します。
そして、子、特に養子Cについては、809条において「養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。」と定められていることから、被相続人と血縁関係があるのと同じ扱いとなります。したがって、子Bと養子Cは2人で残り2分の1の相続分を折半することになります。
以上によれば、妻A、子B、養子Cの法定相続分はそれぞれ2分の1、4分の1、4分の1となります。
妻A、子供2人(B、C)のほか、養子に出した子Dがいる場合
妻Aの相続分については、前述同様2分の1となります。
養子に出した子Dについては、被相続人の実子である以上、その血縁関係・親子関係がなくなるものではありません。したがって、子B、Cと残りの相続分2分の1を3等分し、子B、Cと養子に出した子Dはそれぞれ6分の1ずつの相続分を有することになります。
一方で、特別養子縁組によりCが養子に出された場合には、実方の血族との親族関係が終了します(817条の2第1項)。その結果、例外的にDは被相続人との関係では相続分を有しないこととなります。この場合には、子B、Cの相続分はそれぞれ4分の1ずつとなります。
妻A、子供3人(B、C、D)がいたものの、Bがすでに死亡しており、Bの子(被相続人の孫)E、Fがいた場合
本件も、「子及び配偶者が相続人であるとき」に該当することから、妻Aの相続分は2分の1となります。
次に、被相続人の子は3人いるものの、そのうち一人は相続より前にすでに死亡しています。このような場合、1.3で挙げたような代襲相続が発生します。孫E、Fは原則として相続人にならないものの、今回は例外的にBの代わりに相続人たる地位を取得することになります。
その結果、C、Dの相続分は、2分の1をB、C、Dの人数分(3)で割った6分の1ずつになり、E、Fの相続分はBが相続するはずであった6分の1をさらにE、Fの人数分(2)で割った12分の1ずつとなります。
妻Aとの間に子供がいない場合
子がいない場合、900条1号は適用されません。2号、3号の適用を考えていきます。
被相続人の両親B、Cがいる場合
被相続人の直系尊属たる両親B、Cがいる場合には、「配偶者及び直系尊属が相続人であるとき」として、同条2号が適用されます。配偶者Aの相続分は3分の2となります。
また、両親B、Cの相続分は、3分の1を2人の人数分で割った6分の1ずつとなります。
被相続人の両親はすでに死亡しているものの、被相続人の兄弟B、Cがいる場合
この場合、「配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるとき」として、900条3号が適用され、妻Aの相続分は4分の3となります。
被相続人の兄弟B、Cについては、4分の1を2人の人数分で割った8分の1ずつとなります。
すでに被相続人の妻が死亡しており、子A、B、Cのみがいる場合
配偶者がいない場合、子と同順位の相続人はいないことから、900条の適用は受けません。
子A、B、Cはそれぞれ3分の1ずつの法定相続分を有することになります。
死亡した妻との間に子A、B、Cがいるほか、妻の連れ子Dがいる場合
本件も配偶者がいないことから、900条の適用を受けません。
そして、連れ子については、養子縁組等をしないかぎり、被相続人との関係で相続権は認められません。
したがって、子A,B,Cが各3分の1の相続分を取得し、妻の連れ子は相続分を有しないことになります。
兄弟A、Bのほか、腹違いの兄弟Cがいる場合
本件では、複数の兄弟姉妹による相続であることから、900条4号の適用が問題となります。
腹違いであってもCは被相続人の兄弟姉妹といえることから、相続順位としてはA、Bと同順位となります。もっとも、同号ただし書によれば、「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹」すなわち本件における腹違いの兄弟Cの相続分は、「父母の双方を同じくする兄弟姉妹」すなわち本件のA、Bがそれぞれ取得する相続分の2分の1に限定されます。
したがって、兄弟A、Bはそれぞれ5分の2の相続分を取得し、腹違いの兄弟Cは5分の1の相続分を取得することになります。
寄与分
ここまで、法定相続分の計算方法について検討してきました。しかしながら、生前の被相続人との具体的な関係等に照らすと、法定相続分の計算のみでは、適切な財産の分配方法といえないおそれがあります。このような場合の対象方法の1つとして考えられるのが、寄与分です。
寄与分とは
寄与分とは、生前の被相続人の財産について、その維持・増加にかかる一定の貢献をした相続人がいる場合に、その相続人の貢献度に応じて、相続人が取得できる遺産を増やす制度です。
たとえば、兄が長年にわたって被相続人の介護等につき貢献していたにもかかわらず、そのような貢献を全く行っていなかった妹と同じ相続分であるとすれば必ずしも適切な遺産の分配方法とはいえないことになります。このような不合理を解消するのが寄与分の制度です。
寄与分が認められる対象者
寄与分の対象者について、904条の2第1項は「共同相続人」のみに限定しています。
つまり、その相続で実際に相続人となる人のみが寄与分を受けることができ、後順位の法定相続人、相続欠格・相続人廃除・相続放棄などにより相続権を失った人などは寄与分を受けることはできません。
寄与分が認められるための要件
904条の2第1項は、寄与分を認めるための要件として、①「特別の寄与」と評価できること、②「被相続人の財産の維持又は増加」があること、③財産の維持又は増加と因果関係があること、という3つを挙げています。
①「特別の寄与」の評価については、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の貢献があったかどうかについて判断されます。夫婦間の扶助義務の範囲内であったり、親族間の扶養義務の範囲内であったりした場合には、特別の貢献があったとは認められません。
②財産の維持又は増加については、被相続人の営む個人事業に従事する、被相続人に対する金銭的援助を行う、被相続人の療養看護に従事するなどの行為によって、被相続人の財産の減少を防げた・財産を増やすことができたといえる必要があります。
③因果関係の判断については、相続人の行為が財産の維持・増加につながっているかどうかが基準となります。被相続人の見舞いに行くなど、単に精神的な満足を与えたにすぎないような場合には因果関係は認められません。
寄与分の計算
寄与分の計算について、以下、具体例を用いてご説明します。
遺産額が6500万円、相続人が子A、Bの2人、Aについて寄与分500万円が認められる場合、まず、寄与分の500万円をいったん遺産総額から控除し、その残額について遺産分割を行います。本件では、(6500万円-500万円)÷2=3000万円がそれぞれに分配されます。
最後に控除した金額を寄与分の認められる相続人Aの金額に上乗せします。最終的に、Aの相続分は3000万円+500万円=3500万円、Bの相続分は3000万円になります。
特別受益
寄与分同様、相続人間の被相続人の遺産の分配を適切なものにするための手段として、特別受益という制度があります。
特別受益とは
特別受益とは、相続人が被相続人から生前贈与・遺贈・死因贈与などで特別に受けた利益がある場合に、その利益のことを指します。
一部の相続人が、生前の被相続人から財産を得ていたにもかかわらず、これを加味せずに相続人間で機械的に法定相続分による遺産分割を行うと、実質的に相続人間における不公平が生じることになります。このような不公平を解消するのが特別受益の制度です。
特別受益者
上記の特別受益があった人のことを「特別受益者」と呼びます。特別受益者となる人の範囲は、被相続人との関係に照らして一定の範囲に限定されています。
主な特別受益者としては、推定相続人、代襲者などが挙げられます。
前述の通り、特別受益の制度は共同相続人間の遺産分割の公平を図る制度であるため、原則として相続人の配偶者や親族が特別受益者になることはありません。しかし、名義上被相続人から相続人の配偶者・親族に贈与が行われているものの、実質的に相続人がその利益を受けていたといえるような場合には、これを相続人への贈与とみなして特別受益が考慮される可能性があることに留意する必要があります。
特別受益の対象となる贈与
特別受益の対象となる贈与について、903条1項では、①遺贈、②婚姻のための贈与、③養子縁組のための贈与、④生計の資本としての贈与の4つが挙げられています。
②の婚姻費用については、基本的に、遺産の前渡しとみなされる金額が対象とされています。金額が大きくない場合には、扶養義務の範囲内とみなされるため、特別受益にあたる可能性は低いものと考えられます。
③の養子縁組のための費用について、2.3.6で述べた通り、普通養子縁組において養子に出された子はなお実親の相続人たる地位を有しています。このような理由から、実親が当該相続人を養子に出す際に、遺産の前渡しの意図で高額な生前贈与を行っていた場合には、これが特別受益と判断される可能性は高いと考えられます。
このほかにも、高額な財産である不動産やその購入資金を贈与した場合、一般的な相場を超える金銭・有価証券・金銭債権等を贈与した場合、相続人に対して借地権を設定・承継した場合、大学や留学の費用を贈与した場合や、遺産を無償利用していた場合などには、特別受益に該当する可能性があります。
一方で、生命保険金や死亡退職金といったものは、原則として特別受益にはあたりません。
贈与が特別受益にあたるかどうかの具体的判断は、被相続人の収入や社会的地位といった経済状況、あるいは社会情勢などさまざまな条件により分かれるため、微妙なケースについては専門家の意見を参考にする必要があるでしょう。
特別受益の計算
特別受益は被相続人の遺産を減少させるものと考えられるため、寄与分とはその計算の方法が異なります。特別受益がある場合、相続分を計算する際には、特別受益の額を被相続人の遺産の総額に持ち戻して相続分を算出することになります(903条1項)。以下、具体例を用いてご説明いたします。
相続開始時の財産が8000万円、相続人が子A、Bの2人、特別受益として、Aについて生前の不動産購入資金贈与4000万円(①)、Bについて遺贈1000万円(②)が認められるとします。
まず、相続開始時の財産の総額に特別受益分の額を足して、「みなし相続財産」を算出します。本件では、8000万円+4000万円(①)=1億2000万円となります。遺贈の場合、対象となる財産が相続開始時の財産に含まれていることから、みなし相続財産の計算において別途加算する必要はありません。したがって、上記の計算では②の1000万円を加算していません。
次に、法定相続分による分割を行います。相続人は子A、Bの2人のみであることから、それぞれの法定相続分は1億2000万円÷2=6000万円となります。
最後に、特別受益分を控除して各自の具体的な相続分を算出します。子Aについては、6000万円(法定相続分)-4000万円(①の特別控除分)=2000万円となります。子Bについては、6000万円(法定相続分)+1000万円(②の遺贈)-1000万円(②の特別控除分)=6000万円となります。各自の相続分を合算すると相続開始時の財産8000万円と一致することが確認できます。
相続人がいない場合
ここまで、相続人に対する遺産の分配について検討してきました。しかしながら、少子高齢化の現代においては、被相続人に妻や子といった法定相続人が全くいないという事例も考えられます。また、相続人全員が相続放棄を行った、相続人が欠格事由に該当した、相続廃除に該当したといった事例も考えられます。このような理由で相続人が一人もいない(相続人不在)場合に、被相続人の遺産はどのようになるのでしょうか。
相続人不在の場合、その遺産は最終的に国庫に帰属することになります(959条)。
国庫に帰属することを防ぐためには、生前贈与や遺贈(964条)による遺産の処分をあらかじめ検討するとよいでしょう。
また、これらの方策を生前の被相続人がとっていなかった場合にも、特別縁故者に対する相続財産分与という方法により相続人以外の者が遺産を取得することができる場合があります。
特別縁故者に対する相続財産分与
特別縁故者とは、被相続人に相続人がいない場合に、生前被相続人と縁の深かった人物として、相続財産の全部または一部の分与を受けることができる者をいいます。
958条の2第1項には、特別縁故者として、被相続人と生計を同じくしていた者などが挙げられています。
被相続人と生前親密な交流があった等の場合、このような者に財産を分与することが被相続人の生前の意思にかなうとの趣旨から設けられた制度ですが、一方で、この制度では家庭裁判所の審査を経る必要があり、決定によって申し立てた全額の財産分与を受けられるとは限られません。また、特別縁故者が相続財産の分与を申し立てる際には、まず相続財産清算人の選任を申し立てることが必要であるという点も注意点として挙げられます。
まとめ
遺産分割については、通常、法定相続人がその法定相続分に従った相続を行うことになります。
しかしながら、被相続人には相続人それぞれとの間で異なる関係性があり、このような関係性から被相続人はそれぞれに異なる相続分を分配することを望む場合も多いことが考えられます。このような被相続人の意思を遺産の相続分という形でより正確に反映させるためには、遺言(902条1項)を残すことがきわめて重要であるといえるでしょう。
もっとも、法定相続分はこのような遺言がない場合に遺産分割の目安・指標として大きな役割を有することから、法定相続人たる地位やその法定相続分について理解することはなお重要な意義を有します。また、寄与分や特別受益といった関連する制度を理解することは、相続人間のより公平な遺産分割の実現につながります。
相続は多くの利害関係者が存在する複雑な問題です。また、相続には様々な制度が存在します。亡くなった被相続人の意思に沿った公平な遺産分割実現のため、少しでも疑問点が生じた場合にはお早めに弁護士までご相談ください。