株式譲渡制限のある会社の株式譲渡
株式譲渡自由の原則
株式会社の株式は自由に譲渡できるのが原則です(会社法127条)。株券発行会社の場合は、株券を交付して譲渡します。株券発行会社では、株券の交付が効力要件となっていますので、株券発行会社における株券の交付のない株式譲渡は無効となります。株式の譲渡人が株券の発行を受けていない場合、会社に対して株券の発行を請求し、株券の交付を受けたうえで株式の譲渡を行う必要があります。これに対して株券不発行会社の場合は、株式譲渡を行うために株券の交付を行う必要はありませんので、当事者間の合意(株式譲渡契約)によって効力が生じます。株券発行会社であるかどうかは、実際に株券が発行されているかどうかではなく、定款の記載により株券発行会社とされているかどうかによります(117条7項)。定款に記載がない場合は株券不発行会社とみなされます。
株主名簿の名義書換請求
株券発行会社も株券不発行会社もいずれであっても、株式の譲渡が行われた場合、会社に対して株主名簿の名義書換請求を行い、株主名簿に株主として登録をしてもらう必要があります。請求は、原則として株式を取得した者と株主名簿に記載されている株主または相続人などの一般承継人と共同して行わなければなりません(会社法133条2項)。株式の譲受人は、株主名簿の書換がなされていないと会社に対して株式を取得したこと(株主としての権利)を主張できません。
非公開会社(株式の譲渡制限のある会社)の株式譲渡承認請求
株式に譲渡制限がある会社のことを非公開会社といいます。株式の譲渡制限とは、取締役会や株主総会の承認がないと株式の譲渡ができないことを言います。譲渡制限があるかどうかは、定款に定めがなされ、商業登記簿に記載されることで開示されます。一般に、閉鎖的な会社では信頼関係のある者に株主を限定したいとの要請が大きいため、上場会社以外のほとんどの会社は譲渡制限のある会社となっています。株式の譲渡制限のある会社の株式を譲渡する場合、株式を譲渡した株主又は株式を譲り受けた者は、譲渡しようとする株式の数、譲受人の氏名、譲渡承認請求を承認しない場合は、会社又は指定買取人が株式を取得すべきことを記載した株式譲渡承認請求書を会社に提出します(会社法136条、137条)。取締役会の設置されている会社において株式の譲渡承認請求があった場合、会社は取締役会において譲渡承認をするかどうかの決議を行うことができます(会社法139条)。取締役会の設置されていない会社において株式の譲渡承認請求があった場合、会社は株主総会において承認するかどうかの決議を行います。
なお、この株主総会決議では、譲渡制限株式を譲り渡そうとする株主は特別利害関係人になると解されています(会社法831条1項3号)。また、この取締役会決議では、譲渡制限株式の譲渡当事者である取締役は特別利害関係人になりますので、議決に加わることはできません(会社法369条2項)。
非公開会社における株式の譲渡承認
会社は、株主総会や取締役会において株式譲渡を承認するか否かの決定をした後、譲渡承認請求を行った者に対し、その決定内容を通知しなければなりません。会社が、株式譲渡承認請求の日から、原則2週間以内に承認するか否かの決定を通知しなかった場合、株式譲渡の承認決定をしたものとみなされます(会社法145条1項1号)。
株式譲渡承認請求に対して株式譲渡承認がなされた場合、会社は株主名簿の書換えを行い、株式の譲受人が株主名簿に株主として記載されます。多くのM&Aの事例においては、株式譲渡の基本契約の中で、株式の譲渡承認がなされることがクロージングの前提条件として記載されることになります。一般的には、株式譲渡契約書を締結する段階で会社から譲渡承認についての事前の了解を得ておくことになると思われます。クロージングの段階では、代金の支払いと引き換えに、売主(譲渡人)が作成した株式の譲渡承認請求書、会社の譲渡承認決議書の議事録の写し、会社の印鑑証明書が交付されることになります。
会社の承認のない譲渡制限株式の会社に対する効力
売主と買主との間の株式譲渡契約が有効に成立していたとしても、会社が譲渡承認していない以上、会社との関係では当該株式譲渡は効力を生じません。もっとも、一人会社(株主が一人しかいない会社)や他の株主が全員同意している場合には、他の株主の利益を保護する必要性がないことから、会社に対する関係でも当該株式譲渡は有効となります。さらに、前述および後述のみなし規定が適用される場合には有効となりえます。
株式会社又は指定買取人による買取り
株式会社が譲渡承認請求を承認しない場合であって譲渡承認請求を行った者が会社又は指定買取人による買取を請求しているときは、会社は株主総会決議により会社が当該株式を買い取るか、指定買取人を指定するかを決定しなければなりません(会社法140条1項、2項)。
株式会社による買取り
会社が譲渡制限株式を買い取る場合、対象株式を買い取る旨及び買い取る対象株式の種類・数を定め、株主総会の決議によって決定することを要します(会社法140条1項・2項、309条2項1号)。また、株主総会決議で決定した事項を譲渡承認請求者に通知する必要があります(会社法141条1項)。この通知についても、譲渡を承認しない旨を通知した日から40日以内(定款でこれを下回る期間を定めた場合にはその期間内)に通知をしなかった場合には、譲渡を承認する旨の決定がなされたものとみなされますので(会社法145条1項2号)、この期間内に決定の通知ができるように株主総会を開催する必要があります。
指定買取人による買取り
指定買取人を指定する場合も株主総会の決議を要するのが原則ですが、取締役会設置会社においては取締役会決議で足りるとされています(会社法140条4項)。もっとも指定買取人は予め定款で定めておくこともできます(会社法140条5項但し書き)。
指定買取人は、指定を受けたときは、譲渡承認請求者に対して、指定買取人として指定を受けた旨及び買い取る対象株式の種類・数を通知する必要があります(会社法142条1項)。譲渡を承認しない旨を通知した日から10日以内(定款でこれを下回る期間を定めた場合にはその期間内)に通知しなかった場合には、譲渡を承認する旨の決定がなされたものみなされます(会社法145条1項2号)。この点、会社による買取りの場合と比較して通知期間が短くなっていますので、注意が必要です。
株式会社又は指定買取人による供託手続
会社又は指定買取人は、譲渡承認請求にかかる株式数に、一株当たりの純資産価格を乗じた金額を供託し、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければなりません(会社法141条2項、142条2項)。また、譲渡承認請求を行った者も、その株式を供託しなければなりません(会社法141条3項、142条3項)。この1株当たりの純資産額は会社が独自に決められるものではなく、会社法施行規則25条に定める基準に従って算定する必要があります。
株券の供託
会社が株券発行会社の場合、株式譲渡承認請求者は、会社から会社が自己株式の取得を行う旨の通知を受け、暫定的な株式譲渡代金の供託を称する書面の交付を受けた場合、1週間以内に、株券を法務局(実際には日本銀行になることが多い)に供託し、その旨を会社又は指定買取人に通知する必要があります(141条3項、142条3項)。
株式売買価格の決定
株式の譲渡価格については、会社または指定買取人と、株式譲渡承認請求を行った者との間における協議によって定められます(会社法144条1項)。協議が整わない場合、譲渡承認請求者は、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることが可能です(会社法144条2項)。裁判所への申立ては、株式買取りの通知から20日以内に行わなければなりません。当事者間の協議がまとまらず、また期間内に裁判の申立てもしない場合には、供託した額がそのまま株式の売買価格となります(会社法144条5項)。
東京の場合は、商事部である東京地裁民事8部が扱うことになります。価格決定については申出人と相手方(指定買取人の場合は、当事者参加人)がそれぞれ株式の価格についての鑑定評価書を取得し、金額について相違がある場合は、裁判所が独自に鑑定書を取得したうえで、会社の資産状況やその他の一切の事情を勘案しながら裁判所が妥当な買取金額を決定することになります。裁判所の決定に不服がある場合は、抗告を行って上級審で争うこともできます。鑑定価格については、類似企業比較法(マーケットアプローチ)、純資産価格法(ネットアセットアプローチ)、配当還元法(インカムアプローチ)、DCF法(インカムアプローチ)などの方法のうち、一つ又は二つの方法により算出された価格の平均値を基礎として算出されることが多いと思われます。
会社が自己株式を取得する場合の留意点
会社による株式取得と財源規制
株主からの譲渡承認請求に応じて会社が株式を取得する場合、会社にある剰余金の分配可能額の範囲内で行わなければなりません(会社法461条1項1号)。これは、自己株式の取得は、会社の資産を流出させることとなり会社の債権者を害することになるためです。会社に分配可能な財源がない場合は会社が買い取ることはできませんので、指定買取人の指定を行うことになります。指定買取人が買い取る場合、財源規制は適用になりませんので、会社に分配可能財産がない場合であっても指定買取人による買取は可能となります。
分配可能額規制違反の効果
財源規制に違反して、会社が譲渡制限株式の買取りをした場合、①金銭等の交付を受けた株主、②財源規制に違反した自己株式取得を行った業務執行者、③自己株式取得が株主総会決議に基づいて行われた場合における当該株主総会において自己株式取得の議題を提案した取締役、④自己株式取得を決定する取締役会において自己株式取得の議題を提案した取締役は、連帯して、当該金銭等の帳簿価格に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法462条1項)。
事後の欠損填補責任
分配可能額は、最終事業年度の計算書類の金額を基準として計算します。しかしながら、当該事業年度において多額の損失が生じている又は生じることが見込まれているにもかかわらず、最終事業年度の計算書類上の分配可能額を超えないということで自己株式の取得がおこなわれてしまうと、会社財産の流失を防ぎ債権者を保護するという財源規制の趣旨が没却されてしまいます。
そのため、最終事業年度の計算書類上の分配可能額に収まっていて財源規制に違反しない場合においても、自己株式取得を行った事業年度の計算書類において欠損が生じた場合には、自己株式取得に関する職務を行った業務執行者は、連帯して、欠損の額を会社に支払う義務を負うとされています(会社法465条1項)。ただし、業務執行者がその職務について注意を怠らなかったことを証明した場合は、責任を免れます(会社法465条1項但し書き)。
譲渡制限のある株式の現金化
株式の譲渡制限のある会社において少数株主が株式を現金化するためには、会社指定買受人に株式を買い取ってもらうか、株式を第三者に譲渡するしか方法がありません。しかし、第三者に譲渡する場合にも、会社の承認がないと譲渡できないという事であれば、会社の同意がない限り、現金化の道が閉ざされてしまうことになります。このような場合、少数株主としては、株式の譲渡承認請求をする際に、会社や指定買取人による買取の申し出を行うことで、少なくとも会社か指定買取人が買い取らなければならない状況を作り出すことができます。その後は、買取価格の交渉になりますが、会社又は指定買取人は少なくとも一株当たりの純資産価格に買い取り対象株式数を乗じた金額を供託しなければなりませんので、少数株主からすれば現金化がより現実となってくることになります。
栗林総合法律事務所のサービス内容
栗林総合法律事務所では、株式の現金化を考えている少数株主を代理して、会社との株式の買い取り交渉を行います。また、買取交渉による合意ができない場合には、会社に対する譲渡承認請求を行い、会社が譲渡を承認しない場合には、会社又は指定買取人との間で買取価格についての交渉を行います。任意の交渉により買取価格の合意ができない場合には、裁判所に対して株式売買価格決定の申出を行います。また、栗林総合法律事務所には、譲渡制限のある会社の側から、株式買取についての交渉を依頼されることも多くあります。当法律事務所は、少数株主との交渉により株式の買取を行った経験を多く有しています。譲渡制限のある会社の株式の譲渡または現金化をお考えの少数株主の皆様や、少数株主から株式の買取をご検討されている会社の担当者様は、是非栗林総合法律事務所までお問い合わせください。
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