• 2021.10.15
  • 一般企業法務

株式譲渡制限のある会社の株式譲渡

株式の譲渡制限とは

株式の譲渡制限とは、取締役会や株主総会の承認がないと株式の譲渡ができないことを言います。譲渡制限があるかどうかは、定款に定めがなされ、商業登記簿に記載されることで開示されます。株式に譲渡制限がある会社のことを非公開会社といいます。

株式譲渡自由の原則

株式会社の株式は自由に譲渡できるのが原則です。株券発行会社の場合は、株券を交付して譲渡します。株券発行会社では、株券の交付が効力要件となっていますので、株券発行会社における株券の交付のない株式譲渡は無効となります。株式の譲渡人が株券の発行を受けていない場合、会社に対して株券の発行を請求し、株券の交付を受けたうえで株式の譲渡を行う必要があります。これに対して株券不発行会社の場合は、株式譲渡を行うために株券の交付を行う必要はありませんので、当事者間の合意によって効力が生じます。株券発行会社であるかどうかは、実際に株券が発行されているかどうかではなく、定款の記載により株券発行会社とされているかどうかによります。

株主名簿の名義書換請求

株券発行会社も株券不発行会社もいずれであっても、株式の譲渡が行われた場合、会社に対して株主名簿の名義書換請求を行い、株主名簿に株主として登録をしてもらう必要があります。株式の譲受人は、株主名簿の書換がなされていないと会社に対して株式を取得したこと(株主としての権利)を主張できません。

非公開会社(株式の譲渡制限のある会社)の株式譲渡承認請求

株式の譲渡制限のある会社の株式を譲渡する場合、株式を譲渡した株主又は株式を譲り受けた者は、譲渡しようとする株式の数、譲受人の氏名、譲渡承認請求を承認しない場合は、会社又は指定買取人が株式を取得すべきことを記載した株式譲渡承認請求書を会社に提出します(会社法136条、137条)。取締役会の設置されている会社において株式の譲渡承認請求があった場合、会社は取締役会において譲渡承認をするかどうかの決議を行うことができます(会社法139条)。取締役会の設置されていない会社において株式の譲渡承認請求があった場合、会社は株主総会において承認するかどうかの決議を行います。

非公開会社における株式の譲渡承認

会社は、株主総会や取締役会において株式譲渡を承認するか否かの決定をした後、譲渡承認請求を行った者に対し、その決定内容を通知しなければなりません。会社が、株式譲渡承認請求の日から、原則2週間以内に承認するか否かの決定を通知しなかった場合、株式譲渡の承認決定をしたものとみなされます。

株式譲渡承認請求に対して、株式譲渡承認がなされた場合、会社は株主名簿の書換を行い、株式の譲受人が株主名簿に株主として記載されます。多くのM&Aの事例においては、株式譲渡の基本契約の中で、株式の譲渡承認がなされることがクロージングの条件として記載されることになります。一般的には、株式譲渡契約書を締結する段階で会社から譲渡承認についての事前の了解を得ておくことになると思われます。クロージングの段階では、代金の支払いと引き換えに、売主(譲渡人)が作成した株式の譲渡承認請求書、会社の譲渡承認決議書の議事録の写し、会社の印鑑証明書が交付されることになります。

株式会社又は指定買取人による買取り

株式会社が譲渡承認請求を承認しない場合であって譲渡承認請求を行った者が会社又は指定買取人による買取を請求しているときは、会社は株主総会決議により会社が当該株式を買い取るか、指定買取人を指定するかを決定しなければなりません(会社法140条1項、2項)。会社が譲渡制限株式を買い取る場合は株主総会の決議を要します。指定買取人を指定する場合も株主総会の決議を要するのが原則ですが、取締役会設置会社においては取締役会決議で足りるとされています(会社法140条4項)。会社や指定買取人は、譲渡承認請求を行った者に対して当該株式を買い取ることを通知します。その際、会社又は指定買取人は、譲渡承認請求にかかる株式数に、一株当たりの純資産価格を乗じた金額を供託しなければなりません(会社法141条2項、142条2項)。譲渡承認請求を行った者も、その株式を供託しなければなりません(会社法141条3項、142条3項)。株式の譲渡価格については、会社または指定買取人と、株式譲渡承認請求を行った者との間における協議によって定められますが、協議か整わない場合は裁判所に請求し、裁判所が売買価格をいくらにするかを決定します。なお、会社や指定買取人が、譲渡承認請求を行った者に対して会社法で定める通知期間内(会社による買取りの場合、株式譲渡を承認しない旨の通知をしたときから原則40日以内、指定買取人による買取の場合、株式譲渡を承認しない旨の通知をしたときから原則10日以内)に当該株式を買い取ることを通知しなかった場合、会社は株式譲渡承認請求の承認決定をしたものとみなされます。

会社による株式取得と財源規制

株主からの譲渡承認請求に応じて会社が株式を取得する場合、会社にある剰余金の分配可能額の範囲内で行わなければなりません(会社法461条1項1号)。会社に分配可能な財源がない場合は会社が買い取ることはできませんので、指定買取人の指定を行うことになります。指定買取人が買い取る場合、財源規制は適用になりませんので、会社に分配可能財産がない場合であっても指定買取人による買取は可能となります。

株主と会社との合意による株式取得

会社が株主との合意によって株主から株式を取得する場合は、会社法156条以下の規定(株主との合意による株式取得)が適用になります。

全ての株主からの株式取得

会社が一定の条件により申し出のあった全ての株主から株式を取得する場合、株主総会の決議により、①取得する株式の数、②株式の取得と引き換えに交付する金銭等の内容及び総額、③株式を取得することができる期間を定めなければなりません。株主総会の決議に基づき、会社が株主から株式を取得する旨の通知を株主に対して行い、これに対して株主から譲渡の申し込みがあった場合には、会社とその株主との間で株式の譲渡が成立します。但し、取得する総数を上回る応募があった場合は、案分となります。

特定の株主からの株式取得

会社が特定の株主のみから株式を取得しようとする場合は、定款に別段の定めのある場合を除き、いわゆるミニ公開買い付けと言われる手続きをとることになります(会社法160条以下)。会社が特定の株主のみから株式を取得しようとする場合、会社は、他の株主に対して、自分の株も買取の対象となることを株主総会の議案とすることができることを通知しなければならないとされています(会社法160条2項、3項)。会社は、当初考えていた株主の株式と自分の株式も買取の対象とすることを請求してきた株主の株式を買い取ることについて株主総会の決議を行います。株主総会の決議が得られた場合、会社は、特定の株主や買取を申し出た株主の有する株式を買い取ることができます。

当事務所では、譲渡制限株式の株式譲渡契約書の作成・レビューや、株主総会・取締役会の議事録レビュー等も行っております。お困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

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