• 2022.08.03
  • 一般企業法務

取締役の違法行為を差し止める方法

取締役の責任

取締役は、会社との委任契約に基づき、業務執行について会社に対する善管注意義務・忠実義務を負っています。法令や定款に違反するような行為や会社に損害をもたらすような業務執行を行った場合には、会社や株主は取締役の責任を追及することができます。また、取締役がこのような行為を行わないよう会社は取締役を監督する必要があり、このような行為が現に行われている、又は行われるおそれがある場合には会社や株主はその差止めを請求することができます。

取締役会による監督

取締役会は、取締役の職務の執行を監督する義務があります(会社法362条2項2号)。したがって、取締役が法令や定款に違反するような行為を行おうとしているような場合は、取締役会が当該取締役の違法行為を是正するよう指導していくことが義務付けられています。また、取締役会を構成する各取締役も、互いの業務について監視・監督する義務があります。ある取締役が違法行為をした場合には、他の取締役に対しても監視・監督義務違反の責任追及をすることができます。

監査役による監督

監査役による監査義務

監査役は、監査、すなわち取締役の職務執行の状況を調査し、必要がある場合には是正する義務を負っています(会社法381条1項)。監査等委員会など、委員会が設置されている会社を除き、取締役会が設置せれている会社には監査役の設置が義務付けられています。取締役が法令・定款に違反する行為や不正な行為を行うおそれがある場合には、遅滞なく取締役や取締役会に報告しなければなりません。また、取締役会に出席して意見を述べ、必要がある場合には取締役会を自ら招集します。

監査役による違法行為差止請求権

監査役は、取締役が法令や定款に違反する行為をし、又はそのおそれがある場合であって、当該行為によって会社に著しい損害が生じるおそれがあるときは、当該取締役に対して当該行為をやめることを請求することができます(会社法385条1項)。

監査役による損害賠償請求

取締役が違法な行為を行った場合や不適切な業務執行を行った場合に会社は取締役に対して損害賠償請求をすることができます(会社法423条1項)。監査役を設置している会社では監査役が会社を代表して訴えを提起します(会社法386条1項)。

株主による違法行為差止請求

株主は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為や法令・定款に違反する行為をし、又はそのような行為をするおそれがある場合であって、当該行為によって株式会社に損害が生じるおそれがあるときは、当該取締役に対して当該行為をやめることを請求することができます(会社法360条1項)。

違法行為差止請求権の意義

株主による役員の監督を可能とする権利として、会社に代わって役員の責任を追及する株主代表訴訟が挙げられます。しかし、株主代表訴訟はすでに行われた違法行為等について損害賠償という形で事後的に責任を追及することしかできません。これに対して、取締役の違法行為差止請求権は、現に行われているか、もしくは行われようとしている違法行為等について、株主が会社に代わって事前に差し止めることができる権利です。会社に損害が生じる前に取締役の違法行為を是正することができます。

監査役又は委員会を設置している会社における株主による違法行為差止請求権

監査役又は委員会を設置していない会社では取締役の違法行為等によって株式会社に「損害が生じるおそれがあるとき」に請求が可能であるのに対し、監査役又は委員会を設置している会社では会社に「回復不能の損害が生じるおそれがあるとき」でなければ請求ができません(会社法360条3項)。監査役又は委員会が設置されている会社では、監査役又は監査委員も違法行為差止請求権を有し、監査役や監査委員によって取締役の職務執行が監査されることから、株主による取締役の監督は限定的なものとなっています。

対象となる行為

法令や定款に違反する行為に対して差止請求が可能です。法令違反としては、会社法356条1項に反して会社の損害のもとで取締役個人の利益になるような利益相反取引を行った場合や会社法156条に規定された株主総会決議を経ずに自己株式の取得を行った場合など個別の規定に違反した場合が考えられます。定款違反としては、会社の目的の範囲外の行為を行った場合などが考えられます。
また、個別の規定に限らず、一般的な善管注意義務・忠実義務違反の場合にも差止請求が可能です。

取締役の経営判断

取締役は、会社に損害を与えないよう善良な管理者の注意をもって経営判断をする義務を負っています。これを善管注意義務といいます。しかし、事業の経営は必然的にリスクを伴っているため、会社に損害が発生した場合に直ちに取締役の責任追及が可能となってしまうと、取締役の経営判断を委縮させてしまうおそれがあります。
したがって、取締役の経営判断については、取締役に広い裁量が認められるべきであって、その判断の過程、内容に著しく不合理な点が無い限り、取締役としての善管注意義務に違反しないとされています。また、著しく不合理かどうかの審査は、経営判断がされた当時における、当該会社の属する業界の通常の経営者の有すべき知見・経験を基準に、これを著しく下回っているかどうかによって判断すべきであって、その後に得られた知見に基づく審査をしてはならないとされています。

取締役の経営判断の違法性が問題となった事案

取締役の経営判断について違法行為差止請求がされた事案をご紹介します。
三菱重工の代表取締役が、経営不振に陥っているグループ会社の三菱自動車を支援するために三菱自動車の優先株400億円を三菱重工が引き受ける旨の決定をしたことについて、善管注意義務違反であるとして株主が株式の引き受けを差し止める仮処分の申立てをした事案です。
裁判所は、経営不振に陥った企業に対し支援を行うか否か、支援の時期、規模、内容の判断については当該企業との関係、支援を必要とするにいたった原因や、支援を必要とする企業が置かれている状況、再建策の合理性などを踏まえる必要があるとして、その判断の過程と内容に著しく不合理な点が無いかという点から善管注意義務違反か判断する必要があるとしました。
そして、三菱自動車が経営不振に陥っていることは明らかであること、三菱重工と三菱自動車はグループ会社であること、三菱重工が三菱自動車の株2億4000万株余りを保有していて、両社の間では年間400億円規模の取引があることなどから、支援を行うこと自体の合理性を肯定しました。
また、支援決定の時期、規模、内容についても、三菱重工の破綻を防ぐためには支援を緊急に行うことが必要であること、その時点での客観的な情勢についての分析・検討に不注意な誤りがなく、その結果に基づいた判断であることから、本件優先株の引受けを決めたことが明らかに不合理な判断であるとはいえないとして、善管注意義務違反を認めませんでした。

株主による違法行為差止仮処分の申立て

訴訟を提起した場合、確定判決が出るまでには時間がかかることがあるため、確定判決が出る前に差し止めたい取締役の行為を実行されてしまうことが考えられます。そこで、判決が出る前にすぐに取締役の行為をやめさせるため、取締役の違法行為の差止めを求める仮処分の申立てをすることもできます(民事保全法23条2項)。
仮処分が認められるためには被保全権利の存在と保全の必要性について疎明する必要があります。被保全権利とは仮処分がされることによって守られる権利をいいます。違法行為差止請求においては、①取締役が、会社の目的の範囲外の行為、その他法令・定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがあるときで、②その行為によって会社に「著しい損害」、監査役又は委員会が設置されている会社の場合には「回復することができない損害」が生じるおそれがあることが要件になります。
保全の必要性とは、今仮処分をしなければ会社に著しい損害を生じる差し迫った明白な危険性をいいます。
仮処分の申立てでは、裁判と異なり要件の証明までは不要で、疎明で足ります。証人尋問は不要で、被保全権利の存在と保全の必要性という要件について、即時に取り調べることができる証拠の優越により、裁判所がたしからしいと判断すれば申立てが認められます。

株主代表訴訟による責任追及

株主代表訴訟とは、取締役等の役員等が行った職務によって会社に損害が生じた場合に株主が会社に代わって役員に対して責任追及の提起する訴えのことをいいます。
取締役等の役員等が行った職務によって損害が生じた場合、株式会社は当該役員に対して損害賠償を請求する訴えを提起し、責任追及をすることができます(会社法423条1項)。株主は、役員に対して直接損害賠償請求の訴えを提起することは原則としてできませんが、会社に対して訴えを提起するよう請求することができます(会社法847条1項)。公開会社においては、請求をする株主は6か月前から株式を保有している必要があります。株主が請求をした日から60日以内に会社が役員に対する責任追及の訴えを提起しない場合には、当該請求をした株主は、会社に代わって役員に対して責任追及の訴えを提起することができます(会社法847条3項)。株主代表訴訟は、不公正な払込金額で株式を引き受けた者に対する責任追及や株式会社による違法な利益供与が行われた場合の利益の返還を求める訴えについても提起が可能です。

取締役の解任

株主総会決議による解任

違法行為差止請求や責任追及をしたとしても、取締役の地位にいる限り、違法行為が再度繰り返されるおそれがあります。その防止のために、取締役を解任することもできます。
取締役は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条)。可決のためには、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席と、出席した当該株主の議決権の過半数が必要です(会社法341)。

訴えの提起による解任の請求

また、役員(取締役、会計参与及び監査役)の職務の執行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えを提起することによって当該役員の解任を請求することができます(会社法854条1項)。総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を6か月前から有する株主は、この権利を行使することができます(会社法854条1項)。非公開会社では6か月前からの保有の要件は不要です(会社法854条2項)。

会社を適切に運営していくためには、取締役の違法行為を是正する必要があります。そのためには、会社の実態を把握し、訴訟や申立てなど適切な法的措置や、株主総会決議や会社内部の各機関を正しく機能させることが求められます。栗林総合法律事務所は、的確な法的助言を行い、手続をサポートします。どうぞお気軽にご相談ください。