支払催促と任意交渉
企業法務における債権回収の重要性
貸金・売掛金の回収業務
会社の経営において売掛金の回収は重要な業務になります。売掛金が発生しただけでは現金化されたことにはならず、現実の回収ができて初めて利益が確定することになります。また、資金繰りなど取引先の都合で債権の回収が図られない場合、貴社の取締役は株主に対して善管注意義務違反と主張される恐れもあります。会社の経営者としては、未回収の売掛債権をそのまま放置しておくことはできません。貸付金又は売掛金の回収は、当事務所の顧問先、その他の依頼者から頻繁に相談を受ける事項の1つです。栗林総合法律事務所の債権回収業務には次のようなものがあります。
・取引先が、手元に現金が不足するとして、売掛代金の支払いを行ってくれない
・取引先が倒産したので、連帯保証人に対して支払いを請求したい
・取引先が成果物にクレームをつけて代金の支払いに応じてくれない
・裁判で和解をしたのに合意した金額の支払いが行われない
・取引先から購入した商品の瑕疵で多額の損害を被ったので損害賠償請求をしたい
債権を回収する方法は、状況に応じて様々な方法がありますが、大きな流れとしては、まず電話やメール、普通郵便で手紙を送るなどして支払いを促すことになります。それでも支払いがない場合には、次の手段として、内容証明郵便を送る方法が考えられます。内容証明郵便には法的な拘束力はありませんが、心理的なプレッシャーを与える意味で効果があります。債権回収については、できるだけ任意の支払いを促すよう裁判外での交渉を重視します。しかしながら、任意の交渉でうまくいかない場合には、裁判手続きに移っていくことになり、最終的には裁判で確定判決を得て強制執行により債権の回収を行います。
債務者の財産調査
債権回収において債務者の財産調査は重要です。商業登記簿、不動産登記簿謄本、会社の四季報など公開されている資料の他、帝国データバンクの調査報告書など、調査会社の情報を入手することもあります。また、債務者の会社を訪問し、現地で情報を確認するとともに、債務者がどのような性格の人であるかなど、債務者の雰囲気などニュアンス的な情報も把握しておきます。最近では、ツイッターやフェイスブック、その他インターネット記事等から情報を取得することも多くなっています。裁判所における財産調査期日での質問によって財産の所在を明らかにすることもあります。
内容証明郵便とは
たとえば取引先が商品の代金を支払ってくれない場合、請求書や手紙を送ったり担当者に電話をかけたりして支払いを促しますが、それでも払ってくれないときには、内容証明郵便を送って取引先に支払いを促す方法があります。内容証明郵便とは、郵便局がその内容の文書を送ったこと、送付年月日、文書の差出人、宛先などを証明してくれる郵便です。このような内容証明は「催告書」というタイトルで出すことが多く、相手方の債務の内容、根拠となる契約、弁済の期限、もし弁済の期限が過ぎていたら速やかに支払うこと、支払いに応じなかった場合には法的手段も辞さないという内容を記載します。普通の郵便と違い、A4の紙5枚以内にまとめる、使用できる文字に制限があるなどのルールがあります。郵便局で出すこともできますが、オンライン(電子内容証明郵便)を使うと24時間出すことができます。内容証明郵便を発送すると、相手方には郵便局の証明付きの原本が届き、差出人には同じ内容の謄本が届きます。また、郵送時のオプションで、相手方に配達されたことを示す配達証明を付すことも可能です。
内容証明郵便のメリット
内容証明郵便を発送したからといって、差出人の債権の存在が証明されることにはなりませんが、内容証明郵便には次のような効果があります。
① 内容証明郵便を受け取る相手方に対してプレッシャーを与えることができます。特に弁護士が債権者の代理人として送った内容証明郵便を受け取った相手方は裁判になると大変だと思って、債務を弁済したり、分割での返済を求めてくるなど、債権回収が進むことがよくあります。
② 債権には一定期間権利を行使しないとその権利が消滅してしまう「消滅時効」があり、通常の商取引では5年間とされています。消滅時効が間近に迫った債権について内容証明を出して催告を行うと、6カ月時効の完成を猶予させることができます。なお、内容証明により時効の完成を猶予した場合には、6カ月以内に裁判上の請求(支払督促や訴訟など)をしなければならず、またこの方法は1度しか使えないので注意が必要です。
③ 内容証明郵便には文書の内容や送付年月日について郵便局による証明文がついていますので、後に裁判手続に進んだ場合に、裁判で証拠として使用することができます。支払督促の場面では、きちんと支払いを求めた経緯の証明にもなります。また、弁済期日を設けていない債権の場合には、内容証明郵便に支払期限を書くことによって債務の弁済の確定日付となり、債務不履行の主張をすることができるようになります。
債務承諾弁済契約書の作成、公正証書の作成
債務者が一括で弁済することが難しい場合でも分割なら支払うといってくることもあります。債務者が支払いの意思を示した場合には、それを書面に残しておくことが有益です。債務者が債権者に対して有する債務の金額を確認し、債務の弁済を約束する契約書を「債務承認弁済契約書」といいます。債務承認弁済契約書には、債務者の残債務の金額と債務者に支払い義務があることを認める内容、支払いの方法(一括か分割か)、支払いの期限、不払いの場合には期限の利益の喪失をして残金を一括払いするする条項を入れます。支払いを担保するために、代表者の個人保証を入れることも必要です。額が大きい場合には、債務承諾弁済契約書を公正証書にしておくと債権者に有利になります。公正証書にすると、債務者が債務を支払わない場合に、裁判をせずに強制執行することができます。また、裁判手続においても証明力が高い証拠になります。内容証明郵便を介して時効の完成を猶予することは、一度しかできませんが、債務者が債務を一部でも承認することは時効の更新事由にあたるため、時効を振り出しに戻すという効果もあります。
第三者弁済
債務者との交渉の中で、債務者の親会社や債務者の親戚が、債務者に代わって弁済すると申し出ることがあります。債務者以外の第三者が債務者に代わって債務者の債務を弁済することを第三者弁済といい、民法では、原則第三者弁済が認められています。第三者弁済は、債務の性質上できない弁済には認められません。また、債務を弁済することについて正当な利益を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることが認められません。「正当な利益を有する第三者」とは、保証人や連帯保証人、自分が所有する建物に他人のために抵当権を設定している物上保証人などをいいます。債務の弁済について正当な利益を有しない第三者による弁済は、債務者の意思に反してすると無効になりますが、債権者が債務者の意思に反する弁済であることを知らなかったときは有効であると規定されています。これは、債権者が、その弁済が債務者の意思に反する弁済であることを知らなかった場合には、正当な利益を有しない第三者の弁済を受けて債権を回収できたと考えるところ、後からその弁済が債務者の意思に反するものであったとして第三者から返還を求められると、債権者にとって不利益が大きくなるからです。さらに、正当な利益を有しない第三者による弁済は、債権者の意思に反してすることもできません。ただし、債務者が第三者に弁済を依頼し、そのことを債権者も知っていた場合には、債権者の意思に反していても弁済は有効です。第三者弁済をするときは、第三者から債務者に代位して弁済することの確認書を取っておくほうが賢明です。また、第三者弁済があった場合には、第三者が債権者に代位することになり、債権者は、債権に関する証書など担保物を第三者に引渡します。
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