外国子会社の清算
- 1 経営破綻に瀕した子会社に対する融資の継続と、親会社取締役の善管注意義務違反
- 2 福岡高裁昭和55年10月8日判決
- 3 東京地裁平成7年10月26日判決
- 4 親会社による債権放棄、債務負担行為についての寄付金課税の可能性
- 5 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金として損金算入が認められる場合
- 6 貸倒れ損失として損金算入できる場合(法人税法基本通達9-6-1)
- 7 回収不能の金銭債権の貸倒れ(法人税法基本通達9-6-2)
- 8 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ(法人税法基本通達9-6-3)
- 9 残余財産の分配(日本の親会社における税務上の処理)
- 10 子会社の解散が、重要事実(金融商品取引法166条2項5号へ)に該当するか
- 11 子会社の解散について、インサイダー取引が問題とされた事例
経営破綻に瀕した子会社に対する融資の継続と、親会社取締役の善管注意義務違反
経営破綻した子会社に対して融資を行う場合、親会社の役員が親会社の善管注意義務に違反したとして損害賠償責任を負う場合があります。親会社の役員の責任を判断するについては、経営判断の原則が適用になります。経営判断が適切であったかどうかは、次の基準に基づき判断されます。
1 経営判断の事項について取締役が利害関係をもっていないこと
2 経営判断の事項について、当該状況の下で、適切であると合理的に取締役が信じる範囲で十分に情報を得ていること
3 当該経営判断は会社の利益になると取締役が理性的に信じたこと
4 法令違反の経営判断ではないこと
福岡高裁昭和55年10月8日判決
「企業は本来自己の責任と危険においてその経営を維持しなければならないものであるから、親会社の取締役が新たな融資を与えることなくそのまま推移すれば倒産必至の経営不振に陥つた子会社に、危険ではあるが事業の好転を期待できるとして新たな融資を継続した場合において、たとえ会社再建が失敗に終りその結果融資を与えた大部分の債権を回収できなかつたとしても、右取締役の行為が親会社の利益を計るために出たものであり、かつ、融資の継続か打切りかを決断するに当り企業人としての合理的な選択の範囲を外れたものでない限り、これをもつて直ちに忠実義務に違反するものとはいえない」として、取締役の善管注意義務違反を否定。裁判所は、①破綻に瀕した子会社に対して倒産を招くことを承知の上で直ちに融資を打ち切るか、多少の危険しても漁期までのつなぎ資金を融資することによって経営の好転を期す機会を待つかどうかの選択を迫られたこと、②会社内部の意見を徴して積極策を選択したこと、③子会社に対する管理を強化するとともに、担保権を確保するための努力を講じたことをもとに善管注意義務を否定したと考えられます。
東京地裁平成7年10月26日判決
「ケイアンドモリタニは、昭和54年度以降、毎期、損失を計上する等その経営状態が悪化し、昭和56年ころからは、融通手形による資金調達も図らざるを得ない状況であったこと、昭和57年4月以降は、銀座バースの占用許可の更新が行われなかったため、営業の基盤の危うい状態に至っていたと認められる。このように倒産に至ることも十分予見可能な状況にあったケイアンドモリタニに対し、従来の貸付金も殆ど返済されていないのに、新たに多額の金銭の貸付や保証を行うことは、観光汽船の取締役として差し控えるべきであり、仮に、貸付等をするとしても、ケイアンドモリタニが倒産する事態に備えて確実な担保を取得するなどの十分な債権保全措置を講ずるべきであった。」として、取締役の善管注意義務違反を肯定。裁判所は、①役員及び株主の人的構成の面において密接な関係があり、事業運営の面でも密接な関係があり、体外的にグループ企業と見られる状態にあったこと、②ケイアンドモリタニに対して、観光汽船が自らの経営上、特段の負担とならない限度において金銭的な支援をすることは、相互に資本関係がなく、また、担保を徴しない貸付であったとしても、それが回収不能となる危険が具体的に予見できる状況でない限り、ケイアンドモリタニの倒産等によって観光汽船の対外的信用が損なわれる事態を避けるための一応の合理性のある行為であったというべきであること、③しかし、本件においては、ケイアンドモリタニが経営の悪化により、倒産の可能性が高い状態にあったこと、従前の貸付につき殆ど返済がないこと、新たな貸付に際して何らの債権保全措置が講じられていないこと、貸付金額が高額であることを重視して取締役の責任を認定しています。
親会社による債権放棄、債務負担行為についての寄付金課税の可能性
経済的利益を供与することについて、経済合理性が存する場合には、その供与した経済的利益の額は寄付金には該当しないものとして扱う。再建支援等事案における損失負担等の額の損金算入が認められる経済合理性とは、経済的利益を供与する側からみて、再建支援等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることが明らかな場合や子会社等の倒産を回避するためにやむを得ず行うもので合理的な再建計画に基づく場合などその再建支援等を行うことに相当な理由があると認められる場合をいう。
子会社等を整理又は再建する場合の損失負担等が経済合理性を有しているかどうかの判断基準(国税庁HP「子会社を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」Q2参照)
1 損失負担等を受ける者は、「子会社等」に該当するか。
2 子会社等は経営危機に陥っているか(倒産の危機にあるか)。
3 損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当な理由はあるか)。
4 損失負担等の額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)。
5 整理・再建管理はなされているか(その後の子会社等の立ち直り状況に応じて支援額を見直すこととされているか)。
6 損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか(特定の債権者等が意図的に加わっていないなどの恣意性がないか)。
7 損失負担等の額の割合は合理的であるか(特定の債権者だけが不当に負担を重くし又は免れていないか)。
個別評価金銭債権に係る貸倒引当金として損金算入が認められる場合
①当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき、債務超過の状態が相当期間(法人税法基本通達11-2-6により、おおむね1年以上)継続し、かつその営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事由の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、当該個別評価金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められる場合、当該一部の金額に相当する金額(法法52条1項、法令96条1項2号)
②当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき次に掲げる事由が生じている場合、当該個別評価金銭債権の額の100分の50に相当する金額(当該個別評価金銭債権の額のうち、当該債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権と見られない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く)(法法52条1項、法令96条1項3号)
イ 会社更生法・・・の規定による更生手続開始の申立て
ロ 民事再生法の規定による再生手続開始の申立て
ハ 破産法の規定による破産手続開始の申立て
二 会社法の規定による特別清算開始の申立て
ホ イから二までに掲げる事由に準ずるものとして財務省令で定める事由
貸倒れ損失として損金算入できる場合(法人税法基本通達9-6-1)
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
1 会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例に関する法律の規定による更生認可決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
2 会社法の規定による特別清算に係る協定の認可の決定のあった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
3 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
4 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
回収不能の金銭債権の貸倒れ(法人税法基本通達9-6-2)
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。
一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ(法人税法基本通達9-6-3)
債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、これを認める。
1 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
2 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
残余財産の分配(日本の親会社における税務上の処理)
日本親会社が受取る海外子会社からの配当等のうち95%を益金不算入とするもので、対象となるのは、日本親会社の出資比率が25%以上の海外子会社(株式保有期間6ヶ月以上)で、2009年4月1日以後開始の事業年度に受ける配当金から適用(法法23条の2)。剰余金の配当等の額には、みなし配当も含まれる。租税条約の二重課税排除条項において、25%未満の保有割合が定められている場合には、その割合以上で適用要件の判定が行われる。例えば、日米租税条約においては、その割合は、議決権のある株式の10%以上であるので、米国子会社に対する議決権株式保有割合が10%以上の場合には、外国子会社に該当する。
なお、この配当金について課税された外国源泉所得税は、日本サイドで損金に算入されず、外国税額控除の対象にもならないので留意が必要。
新税制下においては、過去に比較的高い時価で買収した海外子会社を清算する場合、税務上は株式譲渡損のみが認識されるケースが多くなると思われる。
子会社の解散が、重要事実(金融商品取引法166条2項5号へ)に該当するか
有価証券の取引等の規制に関する内閣府令において、子会社の解散についても、新たに軽微基準が設けられている(「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」52条1項5の2号)。
子会社の解散について、インサイダー取引が問題とされた事例
平成19年3月9日、証券取引等監視委員会は、株式会社小松製作所の執行役員が、同社の子会社であるオランダコマツファイナンス有限会社が解散を行うことについての決定した事実を、その職務に関して知り、当該事実が公表される平成17年7月13日以前の同月4日から同月13日の間に、株式会社小松製作所の計算において、株券131万6000株を11億7746万1000円で買い付けたとして、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金4378万円を課するよう勧告を行った。
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