• 2021.09.15
  • 一般企業法務

民法改正~瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い~

令和2年4月1日から改正民法が施行されました。売買・請負に関しては、売主・請負人の責任が「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと変わりました。これにより、どのような違いが生じたのでしょうか。本コラムでは、「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の違いについてご説明いたします。

全体像

「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと変わったことにより、買主・注文者は、請求可能な権利の選択肢が増え、請求できる損害の範囲が拡張され、権利行使期間の負担が軽減されるなどしました。そのため、本改正は、買主・注文者にとってはメリットであると思われますが、他方で、売主・請負人にとっては責任が重くなる内容となりましたので、デメリットであると考えられます。以下、売買と請負それぞれについて、「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の違いを具体的にご説明いたします。

売買に関する瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い

売買の「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の違いについて表にまとめると次の通りとなります。

  瑕疵担保責任 契約不適合責任
適用対象 特定物(当事者がその物の個性に着目して指定した物)で「隠れた」瑕疵があるもの 契約の内容に適合しないものであるかぎり対象となる目的物の制限はない
買主の請求可能な権利 契約の解除、損害賠償請求 契約の解除、損害賠償請求 履行の追完請求 代金減額請求
損害賠償の売主の帰責事由の要否 不要 必要
損害賠償の範囲 信頼利益(契約が有効だと信じて費やし、結果的に無駄となった費用(契約締結前の状態に買主を戻す費用)) 履行利益(契約が履行されたならば買主が得られたであろう利益)
責任追及の権利行使期間 買主が瑕疵を知った時から1年以内に行使(責任追及をする旨の意思表示)しなければならない 買主が不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知すればよい

以下、上記表の内容について項目ごとにご説明いたします。

対象

瑕疵担保責任の対象となる売買の目的物は、特定物(当事者がその物の個性に着目して指定した物 住宅、芸術作品など)で「隠れた」瑕疵(契約締結時において、目的物の品質に瑕疵があることについて買主が知らなかったこと、あるいは知らなかったことに過失がないこと)があるものとされておりました。これに対し、契約不適合責任の対象となる売買の目的物にはそのような制限はなくなりました。そのため、改正法下では、買主が目的物の契約不適合について知っている場合であっても、責任追及を行うことが認められる可能性があります。
改正法の下では、特定物、不特定物(当事者が物の個性に着目しないで指定した物 ペットボトルの飲料水など)にかかわらず、当事者の合意に、履行された目的物が適合するか否かという共通の基準により、契約不適合責任の有無が決定されることとなります。旧法下の判例においても、土地の売買契約において土壌にふっ素が含まれていた事案において、契約当時フッ素が有害物質と認識されておらず、当事者間においてもそのような認識はなかったこと、及び当事者間においてふっ素が含まれていないこと、その他人の健康に係る被害を生ずるおそれがある一切の物質が含まれていないことについて特段の合意がないことから、土壌にふっ素が含まれていたとしても「瑕疵」に当たらないとして、買主の損害賠償請求を否定されています(最判平成22年6月1日)。本判例は、旧法下における「瑕疵」について当事者の認識、及び合意の内容という、当事者の主観を重視するものであり、改正後の契約不適合責任と親和性の高い判断と言えます。そのため、改正後においても当事者間の合意、特に契約書の内容等をもとに契約不適合責任が判断されることとなります。

買主の請求可能な権利

瑕疵担保責任では、買主は、売主に対し、原則として契約の解除又は損害賠償請求のみが可能でした。これに対し、契約不適合責任では、契約の解除・損害賠償請求に加えて、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完請求、代金減額請求が可能となりました。

追完請求権(民法562条)

買主は、売主から「種類」、「品質」、「数量」に関して契約の内容に適合しない目的物の給付を受けた場合、当該不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものである場合を除き、契約に適合した物の引き渡しを求めることができます。追完の方法として、民法は、「目的物の修補」、「代替物の引き渡し」、「不足分の引渡し」の3種類を定めています。例えば、機械部品を100個売買する旨の合意がなされたにもかかわらず、95個しか納品されなかった場合、機械部品が合意した規格と異なる場合、耐久性に問題がある場合にそれぞれ売主に対して追完請求をすることができます。
追完の方法については、原則として買主に選択をする権利が与えられています。ただし、買主に不相当な負担を課するものではない場合、売主は買主の請求した方法と異なるによる履行の追完ができます。

代金減額請求権(民法563条)

相当な期間を定めて上記追完請求を行ったにもかかわらず、その期間内に履行の追完がない場合、買主は、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます。例えば、上記の例において、売主が追完に応じない場合、現実に履行された機械部品の代金相当額に減額することを求めることができます。

契約の解除、損害賠償請求権(民法564条、541条、542条、415条)

改正法下では、上記のように買主に新たな権利が認められました。もっとも、これらの権利は、解除権の行使、損害賠償請求権の行使を妨げるものではありません。そのため、上記権利を行使せずに契約を解除する、追完請求権に加えて、債務不履行により生じた損害賠償請求を行うことが可能です。
このように、買主の請求可能な選択肢が広がりましたので、この点において、買主にはメリットがあると考えられます。

損害賠償の売主の帰責事由の要否(民法415条ただし書)

瑕疵担保責任では、売主が無過失の場合も損害賠償責任を負うとされていました。これに対し、契約不適合責任では、「債務者の責めに帰することができない事由」が存在する場合には損害賠償義務が免れるとして、無過失責任が否定されました。そのため、売主は、「債務者の責めに帰することができない事由」が存在することを主張立証することにより、責任を免れることができます。そして、「債務者の責めに帰することができない事由」が存在するか否かは、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」、すなわち当事者間の契約内容を基礎として判断されることになります。
もっとも、契約不適合責任においては、「債務者の責めに帰することができない事由」が存在する場合であっても、履行の追完請求、代金減額請求、契約の解除には応じる必要があります。そのため、売主が無過失の場合に損害賠償責任を負わないこととなったという点は、買主にとってのデメリット(売主にとってのメリット)とは考えられないように思われます。

損害賠償の範囲

瑕疵担保責任では、損害賠償の範囲は信頼利益(契約が有効だと信じて費やし、結果的に無駄となった費用(契約締結前の状態に買主を戻す費用、例えば、契約締結のための書面作成費用など))のみに限定されていました。これに対し、契約不適合責任では、損害賠償の範囲には信頼利益のみならず、履行利益(契約が履行されたならば買主が得られたであろう利益(土地の転売目的で売買契約を締結したが、契約不適合により転売が不可能になった場合の転売利益等))も含まれることとなりました。契約不適合責任に変わったことにより、売主が買主に対して負う損害賠償請求の範囲は広がることとなりましたので、この点において、買主にはメリットが、売主にはデメリットがあると考えられます。

責任追及の権利行使期間(民法566条)

瑕疵担保責任では、その請求は買主が瑕疵を知った時から1年以内に行使(責任追及の請求をする旨の意思表示)しなければならないとされておりました。これに対し、契約不適合責任では、買主が「種類又は品質」に関する不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知した場合には、その後になってから責任追及の具体的請求をすることも可能とされました。
例えば、機械部品の引き渡し後、売主がその規格が契約の内容と異なることを知った場合、旧法下では当該不適合を知った時から1年以内に損害賠償請求などの責任追及を行わなければならないのに対して、改正法下では、1年以内に不適合の内容を通知すれば、不適合を知った後1年を経過したとしても追完請求などの責任追及が可能となります。(ただし、その責任追及の権利行使については不適合を知った時から5年又は引渡しの時から10年までの間にしない場合、消滅時効にかかります)。また、売主が、目的物を買主に引き渡した時に、不適合について悪意、重過失の場合には上記期間制限が適用されません(566条ただし書)。なお、「数量」に関する契約不適合の場合には上記1年間という期間制限が適用されません。
契約不適合責任に変わったことにより、買主が責任追及を可能とするための負担が軽減されたと考えられますので、この点において、買主にはメリットが、売主にはデメリットがあると考えられます。
なお、会社間など商人同士の取引では、上記にかかわらず、買主は目的物を受け取った後遅滞なくその物を検査しなければなりません(商法526条)。そして、検査により目的物が契約に適合しないことを発見した場合、直ちにその旨を通知しなければ、追完請求権、代金減額請求権、契約の解除、損害賠償請求権が不可能となりますので注意が必要です。

請負に関して

請負の「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の違いについて表にまとめると次の通りとなります。

  瑕疵担保責任 契約不適合責任
契約解除の制限 あり なし
代金減額請求権の有無 なし あり
責任追及の権利行使期間 原則として仕事の目的物を引き渡した時から1年以内に担保責任の請求をしなければならない(例外:建物その他の工作物は5年、構造の工作物は10年) 注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を通知すればよい

以下、上記表の内容について項目ごとにご説明いたします。

契約解除の制限

瑕疵担保責任では、建物その他の土地の工作物については契約の解除をすることができないとされておりました。これに対し、契約不適合責任では、そのような契約解除の制限はなくなりました。注文者は、売買契約の場合と同様に請負人の仕事の目的物が契約内容に適合しない場合、解除権を行使することができます(民法559条、564条、541条、542条)。

代金減額請求権の有無

瑕疵担保責任では、瑕疵修補請求、損害賠償請求、契約の解除は規定上認められておりましたが、代金減額請求の規定はありませんでした。これに対し、契約不適合責任では、上記売買契約の場合と同様に目的物の修補等の履行の追完請求・損害賠償請求・契約の解除に加えて、代金減額請求についても規定されました(559条による売買契約の規定の準用)。これにより、例えば、居住用建物の建築を内容とする請負契約において、完成した建物に雨漏りなどの不具合が存在する場合、注文者は、追完請求をしたうえで追完がなされないときは代金減額請求を行うことができます。このように、注文者の請求可能な権利の選択肢が広がることとなりましたので、この点において、注文者にはメリットがあると考えられます。
なお、目的物の「種類」、「品質」に関する不適合が、注文者の与えた指図によって生じた場合には、契約不適合を理由として上記請求をすることができないため、注意が必要です(636条)。例えば、注文者の指示した企画書、設計書の通り目的物を製造した場合などがこれに当たります。

責任追及の権利行使期間(民法637条)

瑕疵担保責任では、その請求は注文者が目的物の引き渡しを受けた時から1年以内に行使(責任追及をする旨の意思表示)しなければならないとされておりました。これに対し、契約不適合責任では、注文者が「種類」又は「品質」に関する不適合を知った時から1年以内に不適合である旨を通知した場合には、その後になってから責任追及の具体的請求をすることも可能とされました(ただし、その責任追及の権利行使については不適合を知った時から5年又は引渡しの時から10年までの間にしない場合、消滅時効にかかります)。また、請負人が、仕事の目的物を注文者に引き渡した時に、不適合について悪意、重過失の場合には上記期間制限が適用されません。契約不適合責任に変わったことにより、注文者が責任追及を可能とするための負担が軽減されたと考えられますので、この点において、注文者にはメリットが、請負人にはデメリットがあると考えられます。

法律上の規定と任意で定める契約の規定

上述のように、契約不適合責任へと変わったことにより、買主・注文者にとってはメリットが、売主・請負人にとってはデメリットが生じることとなったと考えられますが、これは民法上の規定が適用される場合に生じるものです。売主・請負人の立場になった場合には、契約当事者間で、別途、民法の規定の適用を排除し、民法と異なる権利義務の規定を定めることにより、売主・請負人にとってのデメリットを減らす対応をとることは可能です。また、買主・注文者の立場であったとしても、契約当事者間で、別途、民法の規定の適用を排除し、民法と異なる権利義務の規定を定めることにより、民法上の規定より有利な内容の契約とすることも可能です。このように責任の範囲を免除あるいは限定する場合には、当事者間で責任の範囲についてどのような合意が形成されたかを明確に書面等で確認することが重要となります。
もっとも、契約不適合責任を負わない旨を当事者間で合意したとしても、契約不適合があることを売主、請負人が知っていた場合には、契約不適合責任を免れることができません(民法572条前段)。また、消費者契約法8条2項や宅地建物取引業法40条による規制が存在します。

以上のように、改正法下においては、当事者間の合意内容によって同じ類型の取引であったとしても、その合意の内容により契約不適合責任の有無が異なることとなります。そのため、契約締結時の合意内容をよく確認し、自らが負うこととなるリスクをしっかりと把握することが大切となります。

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