• 2022.03.30
  • 一般企業法務

合同会社の設立と運営

合同会社とは

会社法で認められた法人の組織形態の一つであり、その社員(出資者)の全員が有限責任を負う持分会社です(会社法576条4項)。ここで言う社員とは、会社の従業員のことではなく、会社の出資者のことを意味しています。合同会社の出資者である社員は、有限責任のみを負うことから、会社の債権者に対して出資の範囲内においてのみ責任を負うことになります。債権者の側からすれば、合名会社や合資会社と異なり、出資者である社員が、会社の債務について個人的責任を負わないことから、会社の社員が個別に連帯保証をしたような場合を除き、会社の財産のみがその債権の引当となることを意味します。

合名会社・合資会社との違い

合同会社は、合名会社や合資会社と同じく、持分会社に該当し、出資者である社員が直接会社の経営を行うことが予定されています。この点で、合同会社は、所有と経営の分離が原則である株式会社と異なります。一方、合同会社は、同じ持分会社である合名会社や合資会社と異なり、社員の有限責任が原則です。すなわち、会社の社員が債権者に対して連帯保証を行うなど特別の事由がない限り、会社の債権者は、合同会社の社員に対して債務の支払いを請求することができません。出資者が自らの出資額の範囲内においてのみ会社の債権者に対して責任を負うという出資者の有限責任が定められている点では、株式会社と同じです。

合同会社に向いている会社

合同会社は、所有と経営が未分離であり、出資者である社員が自ら会社の経営を行うことを想定しています。また、合同会社は、設立手続きが簡単であり、会社の運営面でも自由度が高いことから、家族形態で事業を行うことを検討している会社や、資産家が個人の資産管理を目的として設立する会社などに適している会社と言えます。総務省の統計によれば、2020年度に設立された会社のうち、株式会社が8万5688件であるのに対し、合同会社は3万3236件となっており、有限責任会社全体の4分の1強が合同会社として設立されています。合同会社の設立される件数や割合は毎年増加していると言えます。合同会社は、アメリカのLLC(Limited Liability Company)を参考に制度が設けられた会社ですので、海外の投資家にとってはなじみのある制度かもしれません。実際にもアップルジャパンやアマゾンジャパンは合同会社の形式で会社が設立されています。

役員の任期がないこと

株式会社の場合、取締役や監査役については任期の定めがあり、任期が満了した取締役や監査役については、株主総会を開催して改選や重任の決議を行う必要があります。また、取締役や監査役の選任については、登記事項とされていますので、取締役や監査役の改選や重任の決議がなされた場合には、法務局に申請して登記を行う必要があります。これに対して合同会社の場合は、社員、業務執行社員などについて任期の定めはありませんので、役員の改選手続きは必要ありません。その結果、手続き的な負担は大幅に軽減されることになります。

決算公告が必要ないこと

株式会社の場合、毎年必ず決算公告を行う必要があるとされ、官報に掲載するか、日刊新聞紙に掲載するか、電子公告を行うかを選択しなければなりません。官報に決算公告を掲載する場合は、約6万円の必要が必要となり、日刊紙に掲載する場合は、それ以上の費用が掛かると考えられます。電子公告の方法によって決算内容を開示する場合には、費用面での節約効果はありますが、インターネットの検索で、会社の財務内容が容易に外部に分かってしまうというデメリットがあります。これに対し、合同会社の場合は、決算公告自体が不要となりますので、決算公告に要する費用を節約することができると同時に、会社の財務内容が外部に知られることを防ぐことができます。

剰余金の分配を自由に行うことができること

株式会社の場合、剰余金の分配を行うには、株主総会で剰余金の分配に関する決議を行う必要があります。また、剰余金の分配は各株主の出資比率に応じて行われることになります。これに対して、合同会社の場合は、定款に定めがある場合には、定款の定めに従って剰余金の分配を行うことができますので、株主総会のような決議を必要としません。また、株式会社の場合と異なり、社員の出資比率とは関係なく、剰余金の分配方法を定めることができます。例えば、資本金の額が1000万円の合同会社があり、Aが600万円を出資し、Bが300万円を出資し、Cが100万円を出資している場合であっても、定款で定めがある場合には、A、B、Cに対して出資額とは関係なく、同額の配当をするという事も可能です。但し、会社法では、損益分配の割合について定款の定めのない時は、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定めるとされていますので(会社法622条1項)、定款の定めのない場合には、出資割合に応じて配当がなされることになります。

資金調達

株式会社の場合は、間接金融として金融機関から資金の借り入れを行うほか、直接金融として株式を発行して資金の調達を行うことが可能です。これに対し、合同会社では、新株の発行ができませんので、直接金融を行うことができず、資金調達の方法が制限されることになります。また、株式会社の場合と異なり、株式上場による資金調達を行うこともできません。その結果、合同会社における資金調達は、社員からの借り入れや社員からの出資、金融機関その他の第三者からの借入などに限られることになります。

出資金の払い戻し

株式会社では、会社が解散する場合を除いて出資金の払い戻しを請求することはできません(会社が減資手続きにより資本金の一部の払い戻しを行うことは可能です)。従って、株式会社の株主は、株式を他の者に売却して、資金の回収を行うほかありません。これに対し、合同会社では、会社の定款に定めた方法により、出資金の払い戻しを受けることができるとされています。

個人事業主が合同会社を設立するメリット

個人事業主が会社を設立し、法人成りをする場合、合同会社は有効な選択肢の一つであると考えられます。上記のように、株式会社と比較して設立費用を安く抑えられるうえに、株主総会や取締役会などの煩瑣な手続きが必要ないからです。また、個人事業主が法人成りすることで、税務上様々なメリットを受けることが可能となります。例えば、法人成りすることで、個人事業主の場合と比較して経費として認められる範囲が広くなります。また、個人事業主の場合は事業所得に対して累進課税が適用になり、高額の所得のある事業主にとっては高額の所得税・住民税の支払が必要となりますが、法人成りすることで、法人税が適用になります。中小企業の場合、法人税の特例が適用になりますので、個人事業主の場合よりも低い税率が適用になる可能性が高いと思われます。また、会社を設立する場合、一定条件を満たせば設立後2年間は消費税が免除されますので、消費税が免税となる効果は非常に大きいと言えます。また、個人事業主の場合、赤字の繰り越しは原則として3年間に限定されますが、法人成りをすることで、最大9年間、赤字の繰り越しを行うことが可能となります。

合同会社の設立手続き

合同会社を設立するのは、定款を作成し、出資金の払い込みを行い、法務局で登記を申請することで設立することができます。以下、合同会社の設立手続きについて説明したいと思います。

(1) 定款の作成

合同会社の定款には、目的、商号(会社の名称)、本店所在地、社員の氏名・名称・住所、全ての社員が有限責任社員であること、社員の出資の価額などを記載します。株式会社の場合、定款認証が必要とされていますので、公証役場で定款の認証を行う必要があります(定款認証に係る公証役場の手数料は令和4年1月1日以降は、資本金の額に応じて3万円から5万円とされています)。合同会社の場合、定款認証が必要ありませんので、公証役場に手数料を支払う必要はありません。

(2)出資金の払い込み

定款が作成されたら、各社員は定款で定められた資本金の払い込みを行うことが必要となります。資本金の払い込み段階では、まだ会社が設立されていませんので、会社の銀行口座を開設することができません。そこで資本金の払い込みは出資者個人の口座に対して行うことになります。出資者である社員が通常使用している銀行口座を払い込み先とすることもできますが、その口座に対して資本金に相当する金額が実際に振り込まれたことを記録に残しておく必要があります。登記の申請の際には、資本金の払い込みを証明する書類を添付する必要がありますが、払い込みがなされたことが記録されている銀行通帳の写しを添付することで大丈夫です。但し、合同会社の場合は、資本金を現金で受領することもできますので、代表社員が資本金の払込金に相当する現金を受領し、その領収書を添付する方法も可能です。

(3)法務局での登記申請

出資金の払い込みが完了したら、法務局に登記の申請を行います。登記の申請は、登記申請書に必要な事項を記載して、書類または電磁的記録媒体(CDやDVD)により、法務局に提出することになります。登記申請書には代表社員全員の印鑑登録証明書を添付することが必要となります。登記すべき事項としては、「商号」、「本店の所在地」、「公告方法」、「目的」、「資本金の額」、「業務執行社員の氏名」、「代表社員の氏名及び住所」などがあります。代表社員を法人とすることもできます。この場合は、職務執行者を定めて、その氏名及び住所を登記することが必要となります。株式会社の場合は、登記申請の際に登録免許税として資本金の1000分の7(但し、最低金額は15万円)の収入印紙を添付して申請することが必要となります。これに対して合同会社の場合は、登録免許税の最低金額は6万円とされていますので、株式会社の場合と比較して9万円安く会社を設立することができます。法務局に対して登記申請を行ってから1週間から10日程度で登記が完了することになります。

合同会社の運営について

合同会社には、株式会社でいう取締役、取締役会、株主総会の制度はありません。そのため、出資者である社員が自ら会社の業務を運営するのが原則です。社員が一人の場合は、その社員が自ら会社の業務を執行することになります。一方、社員が2人以上の場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数をもって決定するとされています。例えば社員が2人の場合は、1人では過半数になりませんので、2人の社員の同意により業務を執行することになります。2人の社員のうち、1人でも反対をした場合は、当該業務の執行を行うことはできません。また、社員が3人の場合は、2人または3人の同意によって業務の執行が行われます。1人の社員が反対した場合でも、残りの2人が同意している場合は、過半数の社員が同意したことになりますので、当該業務を執行することができます。但し、日常の常務については、他の社員が異議を述べた場合を除き、各社員が単独で行うことができます。

出資割合と業務執行の関係

上記の通り、合同会社の業務については、社員の過半数をもって決定するのが原則です。出資の割合は関係ありません。例えば、資本金の額が1000万円の合同会社があり、Aが600万円を出資し、Bが300万円を出資し、Cが100万円を出資したとします。この場合、株式会社であれば、Aは株主総会で過半数の議決権を行使することができますので、株主総会における通常の決議については、Aの賛否によって決定されることになります。これに対して合同会社の業務執行は、社員の頭数によって決定されることになります。従って、Aが反対しても、BとCが賛成する場合には、社員の過半数が賛成したことになりますので、当該業務を執行することができることになります。

業務執行社員を定めた場合

合同会社の定款において業務執行社員を定めた場合は、その業務執行社員が合同会社の業務を行うことになります。業務執行社員が1名の場合は、その1名の業務執行社員が単独で決定し、業務を執行することになります。合同会社の定款において業務を執行する社員を2人以上定めた場合は、定款に別段の定めのある場合を除き、業務を執行する社員の過半数をもって決定することになります。例えば、合同会社の業務執行社員が2名の場合は、両方の業務執行社員が同意しない限り業務を執行することができません。また、合同会社の業務執行社員が3名の場合は、2人の業務執行社員の同意によって業務が行われることになります。例えば、業務執行社員が3人いる合同会社で、業務執行社員のうち2人が事業譲渡に賛成した場合は、残りの1人の業務執行社員が事業譲渡に反対する場合であっても、業務執行社員2人の同意によって事業の譲渡を行うことができることになります。上記の通り、過半数かどうかは、業務執行社員の頭数によって決定されますので、出資金の多寡は関係ないことになります。例えば、出資金の60%を出資している業務執行社員が反対している場合であっても、残り2人の業務執行社員が賛成する場合は、事業譲渡を行うことができることになります。但し、定款において、「事業譲渡については業務執行社員全員の同意が必要」といった別段の定めがある場合には、その定めに従うことになります。もし、過半数の資本金を出資している社員が多数決で負ける可能性がある場合には、全社員の同意がない限りできない事項を定款に定めることで、他の社員が勝手に業務執行を行うことを阻止することができることになります。定款の作成の際には、このような状況が出現する可能性についても十分に検討しておくことが重要です。

業務執行社員の解任

業務を執行する社員を定款で定めた場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、正当な事由がある場合には他の社員の一致によって解任することができるとされています(会社法591条5項)。従って、3人の業務執行社員のうち1人の業務執行社員を業務執行社員から解任しようとする場合は、残りの2人の業務執行社員が賛成することで解任することができることになります。ここでも、出資の金額は関係ないことになりますので、例えば、資本金の額が1000万円の合同会社があり、Aが600万円を出資し、Bが300万円を出資し、Cが100万円を出資している場合、BとCが同意することで、Aを業務執行社員から解任することができることになります。もちろん、業務執行社員の解任については、正当な事由が必要とされていますので、BとCがAを解任した場合には、Aは裁判所に対して解任決議の無効確認と業務執行社員であることの確認を求める訴訟を提起してくることになると考えられますので、Aの解任の可否は、最終的には裁判所によって決定されることになります。

業務執行社員の責任

業務執行社員は、会社に対して善管注意義務、忠実義務を負い、競業禁止、利益相反取引禁止、任務懈怠による損害賠償責任を負うことなど、株式会社の取締役と同様の責任を負うことになっています。上記の通り、業務執行社員を解任するためには、他の社員全員の一致によってはじめて行うことができることになります。そこで、他の社員のうち一人でも反対を行う社員がいる場合は、その業務執行社員を解任することはできないことになります。この場合、業務執行社員に対する責任追及の方法としては、損害賠償責任の追及の方法によらざるを得ないことになります。なお、業務執行社員が、業務の執行をするにあたって不正の行為をし、または業務を執行する権利がないのに業務の執行に関与した場合は、持分会社の社員の除名事由にあたることになります(会社法859条)。この場合、当該社員以外の社員の過半数の決議により、訴えをもって当該社員の除名を請求することができます。

合同会社の解散

合同会社の解散は、会社法上、次の事由によりなされることとなっております(会社法641条)。

  1. 定款で定めた存続期間の満了
  2. 定款で定めた解散の事由の発生
  3. 総社員の同意
  4. 社員が欠けたこと
  5. 合併
  6. 破産手続き開始の決定
  7. 会社の解散を命ずる裁判

合同会社の破産申し立て

破産の申立ては、業務執行社員であれば可能であり(破産法19条1項3号)、原則として業務執行社員全員の同意が必要です。但し、破産手続開始の原因となる事実を疎明することにより全員の同意がなくとも破産の申立ては可能と考えられます(破産法19条3項)。

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