閉鎖会社における少数株主の権利行使
少数株主権
少数株主とは
株式会社の発行済株式総数のうち過半数以下の株式を所有している株主のことを少数株主といいます。少数株主の中には、所有株式が発行済株式総数の1%に満たない株主もいれば、30%以上の割合を保有し、株主総会決議で決定力を持つ議決権数を有する株主もいます。
少数株主になる場合
複数の者で出資し、会社を設立した場合が典型です。また、元々は過半数の株式を有していたけれど、合併等の企業再編によって持ち株が過半数以下になったという場合や、遺産相続によって被相続人の有する株式が相続人間で分割され、各自の保有割合が小さくなり、少数株主となる場合もあります。
少数株主の権利
原則として、会社の方針は株主総会における多数決により決定されます。株主は、株主平等原則によって株式1株について平等に議決権を有しているため、所有株式の数が多い株主ほど会社の運営に対して強い決定力を持ちます。非公開会社では、過半数の議決権を有する支配株主が会社経営を意のままに行っている場合があります。会社の利益が役員の報酬や退職慰労金に使われて株主に還元されない、剰余金配当の株主総会決議が支配株主により否決され、少数株主に対する配当が行われないなど、非公開会社の少数株主はその利益が大きく害されるおそれがあります。
そこで、会社法上、会社の適切な経営や株主の利益を保護するために必要な一定の権利については、議決権総数や発行済株式総数の一定以上の株式を保有していれば行使できることが定められています。これを少数株主権といいます。少数株主権を行使することによって、少数株主であっても、会社経営が適切かチェックし、取締役の行為を監督することができます。
株主の権利の種類
自益権と共益権
株主が行使することができる権利には自益権と共益権の2種類があります。剰余金配当請求や株式買取請求など、株主が個人の利益になることについて主張することができる権利を自益権といいます。株主総会における議決権行使や、会計帳簿の閲覧謄写請求など、株主全体の利益になることについて主張することができる権利を共益権といいます。
単独株主権
株主が行使できる権利には、少数株主権と単独株主権があります。議決権数や発行済株式に対して一定の割合の株式の保有が権利行使の要件となる少数株主権に対して、1株でも株式を保有していれば行使することができる権利を単独株主権といいます。
たとえば、剰余金配当請求権・残余財産分配請求権・株主総会議決権が挙げられます。株主は、株式会社から剰余金の配当を受ける権利、会社を清算した後の残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権を有しています(会社法105条)。これらの権利は全ての株主に認められる単独株主権です。
帳簿・名簿・議事録等の閲覧謄写請求
会社が正しく運営されているか確認し、取締役の違法行為を差し止めたり役員の責任を追及したりするためには、会社の財産や株主等の情報入手が不可欠です。そこで、会社法では少数株主に会計帳簿や名簿、議事録等の閲覧請求権が認められています。
定款の閲覧謄写請求権
株主は、会社の営業時間内はいつでも、会社に対し定款の閲覧・謄写を請求することができます(会社法31条1項)。この権利は全ての株主に認められる単独株主権です。
〈定款とは〉
定款とは、会社の組織や運営についての根本規則を定めたものです。会社の憲法と呼ばれることもあります。会社の商号や事業の目的、本店所在地、発行可能株式総数、広告の方法、株式の譲渡制限の有無などが記載されています。
〈定款閲覧の必要性〉
定款を見ることによって、会社の基本的事項を確認したり、会社の事業目的外の業務が行われていないかチェックしたりすることができます。後述する取締役会決議の議事録閲覧請求のように、会社の機関設計により請求の手続きが異なる場合もあります。また、定款に違反する株主総会の招集手続きや決議内容が定款に違反する場合には、株主総会の取消訴訟を提起することができます(会社法831条1項)。
株主名簿の閲覧謄写請求権
株式会社は、株主名簿を本店に備え置くことを義務付けられています(会社法125条1項)。株主は、株主名簿の閲覧・謄写を請求することができます(会社法125条2項)。この権利は全ての株主に認められる単独株主権です。
〈請求の要件〉
株式会社の営業時間内はいつでも請求できます。請求の際には、請求の理由を明らかにしなければなりません。株主名簿の記載の正確性の確認や、少数株主権の行使や株主総会における議決権数確保のための協力者を探す、といった理由が挙げられます。
〈会社による株主名簿閲覧謄写請求の拒絶〉
会社は、一定の場合には閲覧請求を拒絶することができます。株主としての権利行使に関する調査以外の目的で閲覧請求をしたり、会社の業務を妨害したりするような場合、第三者に対して会社の情報を漏らすことが考えられる場合などです(会社法125条3項)。
拒絶が認められた例として、株式会社から定期購読と称して金員を支払わせていた総会屋が定期購読を打ち切られた後、会社に対して株主名簿の閲覧謄写請求をし、会社が拒絶した事例があります。株主としての権利の確保ではなく、購読料名目下の金員の支払いを再開させるための嫌がらせあるいは報復が目的であるとして、閲覧請求は認められませんでした。
株主総会議事録の閲覧謄写請求権
株式会社は、株主総会の議事録を作成し、本店において原本を株主総会の日から10年間、支店において議事録の写しを5年間備え置くことを義務付けられています(会社法318条1項・2項・3項)。株主は、株式会社の営業時間内はいつでも、株主総会の議事録の閲覧・謄写を株式会社に対して請求することができます(318条4項)。この権利は全ての株主に認められる単独株主権です。株主総会の議事録を確認することにより、決議の方法や内容に違法または不当な点が無いか確認することができます。株主総会の決議方法が定款や法令に違反していたり、決議の内容が定款に違反していたり、決議の内容について特別の利害関係を有する者が決議に参加した結果著しく不当な結果になった場合には株主総会取消訴訟を、決議の内容が法令に違反する場合には株主総会無効確認の訴えを提起することができます。
取締役会議事録の閲覧謄写請求権
取締役会を置いている株式会社は、取締役会の日から10年間、取締役会の議事録を本店に備え置くことを義務付けられています(会社法371条1項)。株主は、取締役会議事録の閲覧・謄写を株式会社に対して請求することができます(会社法371条2項)。この権利は、全ての株主に認められる単独株主権です。請求に必要な手続きは、監査役や委員会を置いている会社と監査役を置いていない会社で異なります。
〈監査役又は委員会を設置していない会社〉
株式会社の営業時間内はいつでも請求が可能です(会社法371条2項)。
〈監査役又は委員会を設置している会社〉
監査役や委員会を設置している会社では裁判所の許可が必要です(会社法371条3項)。ただし、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある非公開会社は除きます。
裁判所の許可を得るためには、会社の登記事項証明書や証明書類を用意し、裁判所に書面を提出することによって申立てをする必要があります。申立てにおいては、取締役会議事録の閲覧・謄写の必要性を疎明する必要があります。また、当該議事録の閲覧・謄写を認めることによって著しい損害が生じるおそれがある場合には申立ては認められません(会社法371条6項)。
計算書類の閲覧請求権
株主は、会社に対して、株式会社の営業時間内はいつでも、計算書類や事業報告、それらの付属明細書についての閲覧を請求することができます(会社法442条3項)。計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表をいいます。臨時決算日における貸借対照表等の臨時計算書類も閲覧を請求することができます。
請求を会社が拒絶した場合に、訴訟を提起して確定判決を待っていたのでは閲覧請求の目的を達することができないおそれがある場合には、著しい損害又は急迫の危険を避けるためという要件を満たせば、仮処分の申立てをすることができます。
会計帳簿閲覧謄写請求権
株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、会計帳簿又はこれに関する資料を閲覧又は謄写することを請求することができます(会社法433条1項)。総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は自己株式を除いた発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主が請求することができます。
〈会計帳簿とは〉
会計帳簿とは、計算書類やその付属明細書の作成の基礎となる帳簿をいいます。総勘定元帳、現金出納帳、仕訳帳などが会計帳簿に当たります。これに関する資料とは、会計帳簿作成の材料となった資料や会計帳簿を実質的に補充する資料をいい、伝票、受取証、契約書、信書等を指します。
〈請求の要件〉
請求の際には、請求の理由を明らかにする必要があります。請求の理由としては、後述する取締役の違法行為差止請求や取締役をはじめとする役員等の責任追及の訴えの提起などの役員の監督を目的とする権利の行使が考えられます。
〈会社による会計帳簿閲覧謄写の拒絶〉
会計帳簿閲覧請求には、株主名簿の閲覧謄写請求と同様に、法定の拒絶事由があります。株主としての権利の確保・行使に関する調査以外の目的で閲覧請求をしたり、会社の業務を妨害したりするような場合、第三者に対して会社の情報を漏らすことが考えられる場合には会社は請求を拒絶することができます(433条2項)。
また、株主名簿の閲覧謄写請求の場合とは異なり、会社と実質的に競業関係にある者が閲覧謄写請求をする場合も会社は閲覧謄写請求を拒絶することができます(433条2項)。 楽天株式会社の完全子会社がTBSの会計帳簿の閲覧を求めた事案では、請求者の事業と請求された会社の事業が競争関係にある場合でなくても、請求者がその親会社と一体的に事業を営んでいると評価できるような場合には、請求者と会社が実質的に競業関係にあるものと認められ、請求を認めませんでした。
定款・会計帳簿・株主名簿・取締役会議事録等の閲覧請求の方法
〈請求の方法〉
内容証明郵便によって閲覧請求をすることが有効です。請求に応じない場合には法的措置をとる旨を記載することによって会社が閲覧・謄写を認めるよう促し、訴訟に発展させずに株主名簿の閲覧・謄写をすることが可能になります。
〈会社が閲覧・謄写を拒絶した場合〉
会社が株主名簿の閲覧を拒絶した場合には、会社を被告として閲覧等請求訴訟を提起し、確定判決を得ることによって、会社に閲覧謄写を認めるよう義務付けることができます。その際には、自己が株主であること、会計帳簿や株主名簿のように請求の理由を要する場合には、閲覧謄写の理由を主張する必要があります。そして、拒絶事由が法定されている請求の場合には、拒絶事由があるか会社と争うことになります。また、確定判決が出るまでには時間がかかる場合も多いため、判決が出るまで待つことができない緊急性がある場合には、仮処分の申立てをする必要があります。
株主総会における少数株主の権利
株主総会招集請求権
株主は、株主総会を開くことを取締役に対して請求することができます。総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主はこの権利を行使することができます(会社法297条1項・2項)。
〈株主による株主総会招集請求の必要性〉
株主総会の招集は原則として、取締役会設置会社においては取締役会の決定が招集を決定して代表取締役が招集を行い、取締役を設置していない会社では取締役が招集の決定及び招集を行います。しかし、役員の選解任や剰余金の配当などの決定について、取締役や取締役会が株主総会を招集せず、株主が不利益を被る場合があります。そこで、株主が取締役に対して株主総会の招集を取締役に求める権利が認められています。
〈取締役が請求に従わず、株主総会を招集しなかった場合〉
請求の後に遅滞なく招集の手続きが行われない場合、請求があった日から8週間以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は、裁判所に申立てをし、裁判所の許可を得て株主総会を招集することができます‘(会社法297条4項)。株主総会を招集する場合には、株主総会の日時・場所や議題、書面投票の可否等を定め(会社法298条1項)、これを記載した通知を株主総会の日の1週間前までに株主に対して発する必要があります(会社法299条1項)。
株主総会の議題提案権
株主は、取締役に対して、一定の事項について株主総会の目的とすることを請求することができます(会社法303条1項)。取締役会が設置されていない会社ではすべての株主が請求可能ですが、取締役会が設置されている会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を有する株主のみ、請求をすることができます(会社法303条2項・3項)。
株主総会の議案通知請求権
株主は、取締役に対し、株主総会の8週間前までに、株主総会の議題について当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができます。取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を有する株主のみ、この権利を行使することができます(会社法305条1項・2項)。
株主総会の招集手続等に関する検査役選任請求権
株主は、株主総会の招集手続及び決議の方法を調査させるために、当該株主総会に先立って裁判所に対して、検査役の選任の申立てをすることができます。総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、この権利を行使することができます(会社法306条1項)。検査役選任の申立てがあった場合、裁判所は、申立てを不適法として却下する場合を除いて、検査役を選任しなければなりません(会社法306条3項)。
株主総会取消決議の訴えの提起
株主は、株主総会の招集手続や決議方法が法令・定款に違反するときや、株主総会決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使することによって著しく不当な決議がされたときは、株主総会決議の取消しの訴えを提起することができます(会社法831条1項)。この権利は、訴え提起の時点における全ての株主に認められます。また、株主総会決議によって株式を失った人であっても、訴えを提起し当該決議が取り消されることによって株主となることができる場合には、訴えの提起が可能です。訴えの提起は株主総会の決議の日から3か月以内に行う必要があります。
取締役会における少数株主の権利
取締役会招集請求権
株主は、取締役が会社の目的の範囲外の行為や法令・定款に違反する行為をしたとき、又はそのような行為をするおそれがある場合には、取締役会の招集を請求することができます(会社法367条1項)。この権利は、全ての株主に認められる単独株主権です。請求の際は、取締役に対して、取締役会の目的である事項を示す必要があります(会社法367条2項)。請求をした株主は、当該請求に基づいて招集された取締役会に出席し、意見を述べることができます(会社法367条4項)。請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は、取締役会を招集することができます(会社法367条3項)。この場合も、請求をした株主は取締役会に出席し、意見を述べることができます。
役員の責任追及における少数株主の権利
取締役の違法行為差止請求権
株主は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為や法令・定款に違反する行為をし、又はそのような行為をするおそれがある場合であって、当該行為によって株式会社に損害が生じるおそれがあるときは、当該取締役に対して当該行為をやめることを請求することができます(会社法360条1項)。この権利は、全ての株主に認められる単独株主権です。差止請求権を認める判決が出る前にすぐに取締役の行為をやめさせるため、取締役の違法行為の差止めを求める仮処分の申立てをすることもできます(民事保全法23条2項)。
〈取締役の違法行為差止請求権の意味〉
株主による役員の監督を可能とする権利として、会社に代わって役員の責任を追及する株主代表訴訟が挙げられます。しかし、株主代表訴訟はすでに行われた違法行為等について損害賠償という形で事後的に責任を追及することしかできません。これに対して、取締役の違法行為差止請求権は、現に行われているか、もしくは行われようとしている違法行為等について、株主が会社に代わって事前に差し止めることができる権利です。会社に損害が生じる前に取締役の違法行為を是正できる点で、非常に重要な権利です。
〈監査役又は委員会を設置している会社〉
監査役又は委員会を設置していない会社では取締役の違法行為等によって株式会社に「損害が生じるおそれがあるとき」に請求が可能であるのに対し、監査役又は委員会を設置している会社では会社に「回復不能の損害が生じるおそれがあるとき」でなければ請求ができません(会社法360条3項)。監査役又は委員会が設置されている会社では、監査役又は監査委員も違法行為差止請求権を有するなど、監査役や監査委員によって取締役の職務執行が監査されることから、株主による取締役の監督は限定的なものとなっています。
株主代表訴訟の提起
株主代表訴訟とは、取締役等の役員等が行った職務によって会社に損害が生じた場合に株主が会社に代わって役員に対して責任追及の提起する訴えのことをいいます。
取締役等の役員等が行った職務によって損害が生じた場合、株式会社は当該役員に対して損害賠償を請求する訴えを提起し、責任追及をすることができます(会社法423条1項)。株主は、役員に対して直接損害賠償請求の訴えを提起することは原則としてできませんが、会社に対して訴えを提起するよう請求することができます(会社法847条1項)。
株主が請求をした日から60日以内に会社が役員に対する責任追及の訴えを提起しない場合には、当該請求をした株主は、会社に代わって役員に対して責任追及の訴えを提起することができます(会社法847条3項)。株主代表訴訟は、不公正な払込金額で株式を引き受けた者に対する責任追及や株式会社による違法な利益供与が行われた場合の利益の返還を求める訴えについても提起が可能です。
役員(取締役、会計参与及び監査役)の解任請求権
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条)。可決のためには、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席と、出席した当該株主の議決権の過半数が必要です(会社法341条)。したがって、支配株主の意向により少数株主の意思に反して役員の解任が認められないことが考えられます。役員解任請求権はこのような事態を避けるために少数株主に認められています。株主は、役員(取締役、会計参与及び監査役)の職務の執行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、当該株主総会の日から30日以内に、訴えを提起することによって当該役員の解任を請求することができます(会社法854条1項)。総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、この権利を行使することができます(会社法854条1項・2項)。
このように、少数株主には、会社経営への意思の反映のために多くの権利が認められています。しかし、その権利を実際に実行に移すためには、多くの法律上の問題点や、内容証明郵便の作成、訴訟、申立てなど手続きに関する法的知識を要します。栗林総合法律事務所は、少数株主の皆様の権利を守るべく的確なサポートを提供します。どうぞお気軽にご相談ください。
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