取締役を解任する手続
はじめに
代表取締役との間で経営方針の不一致が生じている場合や、会社の事業縮小に伴い役員数を削減する必要がある場合、取締役が不祥事を起こして会社に損害を与えた場合など、会社としては、多くの場合に取締役の解任について検討されると思います。そこで、本稿では、実際に取締役を解任することができるのはどのような場合か、解任する場合にはどのような手続を行えばいいのか、解任手続を行った場合のリスクはないのか、ということなどについて解説いたします。
辞任・退任との違い
取締役の「解任」とは、取締役の意思に関係なく、株主総会決議によって会社が、任期途中の取締役を辞めさせることをいいます。一方で、「辞任」とは、取締役が、自らの意思で、任期の途中に取締役を辞めることをいいます。また、「退任」とは、取締役が任期を最後まで満了して取締役を辞めることをいいます。このように、会社が、取締役の意思に関係なく、任期途中で取締役を辞めさせたい場合、解任手続をとる必要があります。
取締役を解任した場合、会社の登記簿において解任の事実が記載されます。金融機関や取引先に対し、話し合いで解決できない揉め事を抱えている会社であるとの不安を抱かせてしまうおそれがあります。そこで、解任を行う前に、まずは、当該取締役と話し合いを行う場を設けて、辞任という形でやめてもらうように交渉することが望ましいと考えられます。
取締役を解任することができる場合
取締役の解任は、理由を問わず、いつでも、株主総会決議によって行うことが可能です(会社法339条1項)。取締役と会社との間の契約関係は、委任に関する規定に従うと定められており(会社法330条)、委任契約は各当事者がいつでも解除することができるとされています(民法651条)。また、取締役は、会社と委任関係にありますので、労働者にも当たらず、取締役の解任において労働関係法令は適用されません。ただし、後述(「5.1 解任した取締役からの損害賠償請求」)のとおり、取締役の解任には会社法上の規律が存在しますのでこの点には注意が必要です。
取締役を解任するための手続
取締役を解任する方法としては、株主総会における解任決議による方法と解任の訴えによる方法があります。以下では、それぞれの手続についてご説明します。
株主総会における解任決議による方法
① 取締役会における株主総会の招集決議
取締役会設置会社においては、取締役会を招集し、解任決議を行うための株主総会を招集することを決議する必要があります。取締役会決議は、定款で別段の定めをした場合を除き、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数による賛成をもって行うことができます(369条1項)。そして、取締役会決議を行った後は、取締役会議事録を作成する必要があります(会社法369条3項・同4項)。なお、解任予定の取締役を上記手続から除外することはできませんのでご注意ください。
② 株主総会における取締役の解任決議
次に、取締役は、解任決議を行うための株主総会を招集します。招集手続は、原則として取締役が行います(会社法299条1項)。招集手続は、会社の類型(公開・非公開、取締役会設置・非設置)によって手続が異なります。また、会社の定款で異なる内容の招集手続を定めている場合はその手続に従う必要があります。招集手続に瑕疵があった場合、具体的には、招集期限を過ぎてしまっていたり、招集通知漏れがあったり、招集通知の記載に誤りがあったりした場合は、株主総会の招集手続に瑕疵があったものとして、決議が無効になってしまうおそれがあります。
株主総会を開催したら取締役の解任決議を行う必要があります。取締役の解任決議は、定款に別段の定めがない限り、議決権の過半数を有する株主が出席し(会社法341条)、出席した株主の議決権の過半数の賛成をもって行うことができます(会社法339条1項、309条1項)。また、株主総会についても株主総会後に株主総会議事録を作成する必要があります(318条1項)。株主総会議事録は、後述(「6.1 解任の登記」)のとおり取締役の解任登記をする際に必要な書類となりますので、法定の記載事項(会社法施行規則72条3項)を守って正確に作成する必要があります。
解任の訴えによる方法
取締役を解任するもう一つの方法は、株主が、裁判所に対し、取締役の解任の訴えを起こし、裁判に勝訴することで取締役を解任する方法です(会社法854条)。この訴えは、取締役の職務執行について、不正行為、法令・定款違反の行為があったにもかかわらず、取締役の解任議案が株主総会で否決された場合において、株主総会の日から30日以内に提起することができます。この訴えを提起できる株主は、総議決権又は発行済株式総数の3%以上にあたる株式を、訴え提起の6ヶ月前から保有している株主に限られます(非公開会社の場合、保有期間は要件になりません)。
この訴えは、不正行為等を行った取締役の解任決議が多数派株主によって否決され続け、不正行為が放置されることで少数株主の権利が害されることを防ぐために、少数株主に認められた権利です。
解任の訴えにおいては、解任対象の取締役だけではなく、会社も被告になります(会社法855条)。会社としては、裁判に負けた場合、取締役を解任されてしまいますので、対応する必要があります。
取締役を解任する場合のリスク
解任した取締役からの損害賠償請求
前述のとおり、会社は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます。ただし、その解任について「正当な理由」がなかった場合、解任された取締役は、会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法339条2項)。原則として、残存する任期中に得られるはずであった報酬相当額について請求することができるとされています(大阪高判昭和56年1月30日)。
「正当な理由」が認められた例としては、心身の障害により職務遂行ができなくなった事例(最判昭和57年1月21日)、法令や定款に反する行為を行っていた事例(東京地判平成30年3月29日)、代表取締役が独断専行の経営を行って社内を混乱させた事例(大阪地判平成10年1月28日)、取締役の経営能力の欠如が明らかであった事例(横浜地判平成24年7月20日)などがあります。
一方で、「正当な理由」が否定された例としては、他の取締役と折り合いが合わなくなったことにより取締役が近年実績を上げていなかった事例(東京地判昭和57年12月23日)、大株主の信頼を失った事例(東京地判平成27年6月22日)などがあります。
上記の裁判例をふまえると、「正当な理由」が認められるか否かは、当該取締役に職務の執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情が存在し、そのような客観的な事情が当該取締役によって引き起こされているといえるかどうかか判断基準になると考えられます。取締役の解任を検討される場合、解任理由が「正当な理由」に当たるかは、解任される取締役からの損害賠償請求に関するリスクを回避する上で重要なポイントになります。
解任する取締役からの対抗策
解任されそうな取締役としては、他の取締役に対して株主総会を招集する取締役会決議に賛成しないように働きかけたり、株主に対して解任決議において賛成しないように働きかけて議決権行使に関する委任状を取り付けたりしてくることが予想されます。そこで、会社としては、取締役が株主から委任状を取り付けて多数派工作を図ってくることが予想される場合には、株主から事前に議決権行使に関する委任状を集めておく必要があります。
取締役を解任した後の手続
解任の登記
取締役の解任決議が成立した場合、解任後2週間以内に、役員変更に関する登記申請を行う必要があります。取締役の解任に関する登記申請においては、①役員変更の登記申請書、②株主総会議事録、③株主リスト、④委任状(代理人が申請する場合)が必要になります。
また、後任の役員の就任登記も同時に行う場合には、上記書類と合わせて、①役員変更の登記申請書、②株主総会議事録(選任決議)、③株主リスト、④就任承諾書、⑤委任状、⑥本人確認証明書(取締役会設置会社の場合)が必要になります。
申請期間に変更登記を行わなかった場合、代表取締役に対して過料という制裁が科される場合もありますので、変更登記手続は必ず行う必要があります。ただし、上述のとおり、申請に際して提出が必要な書類は多く、提出書類に細かい不備があった場合においても登記申請は受け付けてもらえません。
解任の通知
取締役を解任した場合、当該取締役に対して、解任通知を行う必要があります。解任通知は、当該取締役の解任が決定したことを本人に知らせるものです。法律上、解任通知を行うことは義務付けられていませんが、解任された取締役が解任後も会社において取締役として行動することを避けるためにも解任通知は行ったほうがよいと考えられます。
解任した取締役への退職慰労金(退職金)
退職慰労金が支給されるためには、定款に別段の定めがない場合、株主総会決議が必要となります(会社法361条1項)。したがって、会社が、過去の株主総会において取締役の退職慰労金を支払うことを決議していなければ、解任された取締役に対して退職慰労金を支払う義務はありません。
ただし、株主総会決議がなかった場合においても、取締役に退職慰労金を支給する慣行がある場合、取締役との間で退職慰労金を支給する旨の合意していた場合、取締役に対する退職慰労金の支払いを定款で定めていた場合などについては、会社は取締役に対して退職慰労金の支払わなかった場合、損害賠償責任を負う可能性がありますのでご注意ください。
解任した取締役が有する株式の買い取り
解任した取締役が会社の株式を有している場合、解任後も株主として権利を行使されてしまい、会社運営に支障を来たすことになる可能性もあります。そこで、解任された取締役から株式の買い取りを行うことが考えられます。株式の買い取りにあたっては、買取価格等について取締役と交渉を行うことになります。
また、交渉が成立し、株式を譲渡される際には、後々のトラブルを防止するため、株式譲渡契約書を作成されることが望ましいと考えられます。株式譲渡契約書の作成に当たっては、譲渡制限の有無や株券発行の有無などに注意するとともに、記載すべき事項を漏らさないようにする必要があります。
当事務所が提供できるサービス
当事務所では、解任前の段階における相談、解任手続に関するサポート、解任後の手続に関するサポートなどを行うことができます。
解任前の段階における相談においては、解任を行った場合における取締役からの損害賠償請求に備えて、解任に至る経緯等をお聞きし、解任に「正当な理由」があるといえるかなどについて検討を行います。解任に「正当な理由」がないと判断された場合、会社は原則として残存する任期中に得られるはずであった報酬相当額を賠償する責任を負ってしまいますので、解任に際しては、事前に相談されることをおすすめいたします。
解任手続においては、取締役会議事録の作成や、株主総会における招集手続のサポート、株主総会の運営に関するサポート、株主総会への弁護士の同席、株主総会議事録の作成等、手続全般に関するサポートを行います。
解任後の手続においては、解任に関する登記手続や、退職慰労金に関する手続、取締役からの株式買取手続のサポートを行います。
取締役の解任などでお困りの際は、TEL:03-5357-1750(受付時間9:00~18:00)にお電話いただくか、メールフォーム(「https://kslaw.jp/contact/」)にて、お気軽にお問い合わせ下さい。
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