• 2024.02.07
  • M&A・事業承継

M&Aにおける独占禁止法の届出(企業結合規制)

M&Aにおける独占禁止法の規制の概要

独占禁止法とは

独占禁止法とは、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」の略称です。この法律の目的は、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法を排除し、公正かつ自由な競争を促進し、事業者の事業活動を盛んにすることにあります(独占禁止法1条)。

M&Aにおける独占禁止法の規制

企業買収や合併などのM&Aは、他の会社を買収したり、他の会社と合併することを目的としています。その結果、M&Aが行われると会社の規模が拡大され、市場における占有率も上昇することになります。例えば、市場占有率50%の企業と市場占有率30%の企業が合併した場合には、合併会社は80%の市場占有率を獲得することになりますので、圧倒的な価格形成力を取得することになります。その結果、事業者間での自由な競争が阻害され、商品やサービスの価格は高止まりすることになって、消費者が不利益を被ることになります。そこで、独占禁止法は、一定規模以上のM&Aが行われる場合には、事前に、独占禁止法の運用機関である公正取引委員会に届け出を出させて、競争の実質的制限が生じないかどうかを審査することとしています。

M&A担当者の留意点

M&Aの担当者は、当該M&Aが独占禁止法で規定する事前届け出の対象となっているかどうかを常に確認しておく必要があります。また、事前届け出が必要な場合、公正取引委員会による審査期間中は、M&Aの取引を行うことができないとされています。従って、事前届け出が必要な場合には、M&Aの担当者としては、独占禁止法に定めた審査の期間を考慮したスケジュールを作成する必要があります。

M&Aにおける株式取得の規制

独占禁止法第4章では、9条から18条までにおいて、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる株式の保有、役員の兼任、合併、分割、株式移転及び事業の譲受を禁止しています。

M&Aにおける企業結合規制の概要

会社による株式の取得(10条)、役員の兼任(13条)、合併(15条)、会社分割(15条の2)、株式移転(15条の3)、事業譲渡(16条)などM&Aのスキームごとに規制の内容が異なっています。従って、スキームごとに、どのような条件で、どのような規制がなされているのかを確認していく必要があります。

会社による株式の取得・所有の規制

独占禁止法10条1項では、「会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはならず、及び不公正な取引方法により他の会社の株式を取得し、又は所有してはならない。」と規定されています。また、10条1項の規定に違反して、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」株式の取得を行う場合は、公正取引委員会は、株式の処分や事業の一部譲渡など、法令に違反する行為を排除するために必要な措置を命じることができるとされています(独占禁止法17条の2)。このように、株式取得に関しては、10条2項以下で事前届け出が要求されていますが、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」には、届け出の有無とは関係なしに、株式の取得を禁止していることになります。

「一定の取引分野」の考え方

「一定の取引分野」とは、商品やサービスの市場のことです。例えば段ボール紙の市場とか、食料品の卸売業としての市場などが考えられます。但し、実際には、市場の捉え方によって競争の実質的制限があるかどうかが異なってきます。例えば、精密機械の製造業において、全ての精密機械を一つの市場と考えた場合には、マーケット占有率は1%に過ぎない場合であっても、市場をより狭く解釈し、半導体の検査装置の市場というように限定して考えた場合には、市場占有率が30%を超えることになるということもあり得ます。そこで、公正取引委員会は、市場とは、「企業結合により競争が制限されることになるか否かを判断するための範囲であり、需要者からみた代替性の観点から判断される」ことを基本とすることを明らかにしています。また、需要者からみた代替性があるかどうかについては、「ある商品をある地域で独占して供給している事業者の存在を仮定し、当該事業者が利潤最大化を図る目的で、小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引き上げ(目安として5%から10%程度)をした場合に、需要者が当該商品の購入を他の商品又は地域に振り替える程度を考慮して判断するとしています。需要者(消費者)が代替性のある他の商品を購入したり、他の地域から購入したりするなどの代替措置を取りえないような場合には、一定の取引分野における競争が制限されたと判断されることになります。

「商品の範囲」、「地理的範囲」について

公正取引委員会は、「商品の範囲」や「地理的範囲」の考え方についても指針を出しており、「需要者からみた商品の代替性」の有無や程度に応じて判断することを明らかにしています。

M&Aにおける事前届出制度

どのような場合に事前届け出が必要であるかについては、株式取得、合併、会社分割、共同株式移転、事業の譲受けなど、取引ごとに基準が定められています(独占禁止法10条、15条、15条の2、15条の3、16条)。ここでは、株式取得について詳しく検討していくこととします。

事前届出が必要な株式取得

株式譲渡の方法によるM&Aについては、独占禁止法10条の規定が適用になります。独占禁止法10条2項では、下記の①に該当する会社が、下記の②に該当する会社の株式を取得しようとする場合において、下記の③に該当することとなった場合には、事前届出が必要とされています。

  1. 株式を取得しようとする会社及び当該会社の属する企業結合集団に属する当該会社以外の会社等の国内売上高の合計額が200億円を超える場合
  2. 株式発行会社及びその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える場合
  3. 株式発行会社の株式を取得しようとする場合において、株式発行会社の総株主の議決権の数に占める届出会社が取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権の数と届出会社の属する企業結合集団に属する当該届出会社以外の会社等が所有する当該株式発行会社の株式に係る議決権の数とを合計した議決権の数の割合(議決権保有割合)が新たに20%又は50%を超えることとなる場合

独占禁止法の条文については理解が難しいですが、大雑把に言えば、グループ全体で200億円以上の売上がある会社が、50億円以上の売上のある会社の株式を取得する場合で、株式取得後の株式保有割合が20%または50%を超えることになる場合は、事前届け出をしなさいということになります。

企業結合集団とは

独占禁止法10条2項の「企業結合集団」とは、会社及び当該会社の子会社並びに当該会社の最終親会社(親会社であって他の会社の子会社でないものをいいます。)及び当該最終親会社の子会社(当該会社及び当該会社の子会社を除きます。)から成る集団をいいます。ただし、当該会社に親会社がない場合には、当該会社が最終親会社となりますので、当該会社とその子会社から成る集団が企業結合集団となります。

国内総売上高とは

「国内売上高合計額」とは、会社の属する企業結合集団に属する会社等の国内売上高をそれぞれ合計したものをいいます。上記の図で言えば、A、D、X、B、E、C、Fの会社の国内売上高を合計したものを意味します。届出会社(A)に国内売上高がない場合であっても、企業結合集団全体の売上高の合計が200億円を超える場合は、この要件に該当することになります。

株式発行会社及びその子会社の国内売上高の合計額

「株式発行会社及びその子会社の国内売上高の合計額」とは、株式発行会社及びその子会社の国内売上高をそれぞれ合計したものをいいます。株式発行会社は買収の対象となる会社です。株式発行会社の国内売上高がない場合であっても、その子会社の売上が50億円を超える場合には、上記②の要件を満たし、届出が必要となる場合があります。

「子会社」及び「親会社」の定義

「子会社」とは、会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等をいいます。「親会社」とは、会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該会社をいいます。

株式取得の際に届出に必要な書類

M&Aにより他の会社を買収する際の独占禁止法10条2項による届出書は、様式第4号「法第10条第2項の規定による株式取得に関する計画届出書」になります。また、株式取得に関する事前届出を提出する際には、事前届け出書の添付書類として、次の各書類を添付する必要があります(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条から第16条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則(以下「届出規則」と言います。)第2条の6)。

  1. 株式取得に関する計画届出書株式の取得に関する契約書の写し又は意思決定を証するに足りる書類
  2. 届出会社の最近1事業年度の事業報告、貸借対照表及び損益計算書
  3. 株式の取得に関し株主総会の決議又は総社員の同意があったときには、その決議又は同意の記録の写し
  4. 届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

 

届出前相談(任意)

株式取得に関する事前届出を提出しようとする当事者は、事前届け出書の提出前に任意で公正取引委員会に相談をすることができます。公正取引委員会の円滑な審査を行うためには、株式取得を検討している当事者は、できるだけ届出前の任意の事前相談を行うことが好ましいと考えられます。

公正取引委員会の審査

株式取得の禁止期間及び同期間の短縮

会社は、株式取得の届出受理の日から30日を経過するまでは、株式を取得することができません(独占禁止法10条8項)。但し、公正取引委員会は、その必要があると認める場合には、30日間の株式取得の禁止期間を短縮することができることになっています(独占禁止法10条8項但書)。当事会社から株式取得禁止期間の短縮の申出があった場合、公正取引委員会は以下の2つの要件を満たすときは、株式取得禁止期間を短縮することとしています。

(1) 当該事案が独占禁止法上問題がないことが明らかな場合
(2) 株式取得禁止期間を短縮することについて届出会社が書面で申し出た場合

公正取引委員会による第1次審査

公正取引委員会は、届出書の受理日の翌日から起算して30日以内に、独占禁止法上問題がない企業結合であるか、詳細調査を実施する必要がある企業結合であるかを判断します。第1次審査の結果、独占禁止法上問題がないと判断された場合には、公正取引委員会は届出会社に対して排除措置命令を行わない旨の通知を行います(届出規則9条)。これにより独占禁止法の手続は終了しますので、その後は自由に株式取得を行うことができることになります。

公正取引委員会による第2次審査

公正取引委員会による第1次審査において、より詳細な審査が必要であると判断した場合、第2次審査に進むことになります。第2次審査に移行するケースは全体の1%程度と言われています。第2次審査に進む場合、公正取引委員会は、30日の禁止期間内に、公正取引委員会規則で定めた報告、情報又は資料の提出を求めることができます。この場合、公正取引委員会は、届出書の受理をした日から120日を経過した日と、全ての報告等を受理した日から90日を経過した日のいずれか遅い日までに、独占禁止法上問題がないとして、排除措置命令を行わない旨の通知をするか、独占禁止法50条1項の規定に基づき意見聴取をすることを通知する必要があります(独占禁止法10条9項)。

届出会社による問題解消措置

第2次審査の結果、当該株式取得によって、一定の取引分野における競争が実質的に制限され、企業結合規制に抵触すると判断される場合でも、届出会社は、公正取引委員会に対して、「疑いの理由となった行為を排除するために必要な措置を自ら策定し、実施しようとする」ことを提案することができます。このような計画を「排除措置計画」といい、公正取引委員会の認定を受けて実施することになります(独占禁止法48条の3)。排除措置計画は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することがないようにするための措置であり、排除措置計画の実施がなされる場合には、企業結合規制に抵触することがなくなりますので、公正取引委員会による排除措置命令は行われないことになります。排除措置計画の内容としては、競争制限的となる事業について、第三者に対して事業譲渡を行い、マーケットにおける占有率を下げることなどが考えられます。

公正取引委員会による排除措置命令

審査の結果、当該株式の取得によって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなると判断される場合には、公正取引委員会は、株式を取得しようとするものに対して排除措置命令を命じることになります(独占禁止法17条の2第1項、10条第1項)。排除措置命令では、事業者に対して、株式の全部又は一部の処分、事業の一部の譲渡、その他企業結合規制に違反する行為を排除するために必要な措置を命じます。

独占禁止法に違反した場合の制裁

事前届出書を提出しなかった場合

独占禁止法10条2項で定める事前届け出の規定に違反し、事前届出書を提出しなかったり、届出書に虚偽の記載をした場合には、200万円以下の罰金に処せられることになります(独占禁止法91条の2第1項3号)。

禁止期間中の株式の取得

30日の禁止期間中に、審査手続きが終了していないにもかかわらず株式の取得をした場合にも同様に、200万円以下の罰金に処せられることになります(独占禁止法91条の2第1項4号)。

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